※現地開催のみで、オンライン(ライブ配信、オンデマンド配信)開催はございません。
09:35 ~ 10:00 | 限局型慢性歯周炎を伴う咬合崩壊症例 【猪狩 寛晶/福島県開業 いがり歯科医院】 |
10:00 ~ 10:25 | 口腔機能回復処置を再考する一症例(仮) 【三宅 宏之/宮城県開業 三宅歯科医院】 |
10:25 ~ 11:00 | 左側全身麻痺患者に対し、包括的歯周治療を行った一症例(仮) 【吉田 彩乃/宮城県勤務 くにみ野さいとう歯科医院】 |
11:00 ~ 15:30 | 「時間を味方につけた歯周治療」を実践するためのチームアプローチ 【石川 亮/兵庫県尼崎市、石川齒科醫院 院長】 【福原(与那覇)あゆみ/兵庫県尼崎市、石川齒科醫院 勤務】 |
【略歴】
1991年朝日大学歯学部卒業
2000年兵庫県西宮市で開業
2015年兵庫県尼崎市に移転開業
【所属学会】
日本歯周病学会 指導医・歯周病専門医
日本臨床歯周病学会認定医
日本臨床歯周病学会歯周インプラント認定医
日本歯内療法学会 会員
EAED(European Academy of Esthetic Dentistry) Affiliate member
【所属スタディーグループ】
5-D Japan ペリオ・インプラントファンダメンタルコース インストラクター
5-D Japan エンド・修復ファンダメンタルコース インストラクター
5-D Japan アドバンスコース インストラクター
5-D Kansai Study Group
【略歴】
2006年3月 新大阪歯科衛生士専門学校卒業
2006年4月 石川歯科医院勤務
2015年6月 兵庫県尼崎市に移転
現在に至る
【所属学会】
2011年 日本臨床歯周病学会認定衛生士
2014年 日本歯周病学会認定衛生士
所属スタディーグループ
5-D Japan DHコースインストラクター
私たちが、日々の臨床で治療する歯周病は、口腔マイクロバイオームがバランスを崩すことをきっかけに生じる慢性炎症性疾患である。ひとたび侵襲された歯周組織は、歯周組織再生療法をもってしても完全には回復しないため、疾患として厳密な意味での治癒は望めず、生涯にわたって寛解と制御を目指すことにとどまる。その治療において、患者は、セルフケアを改善して習慣化することに始まり、歯周外科、インプラント、矯正や咬合補綴など、どの様な治療を受けるのか選択しなければならない。負担を強いられることが避けられない。一方、われわれ医療者は、患者に強いた負担が治療結果に結びつくことを目指して、病因論やエビデンスに関する知識と、治療を確実に遂行する技量をアップデートし続けることが務めとなる。現代の医療は治療選択にあたり、患者の価値観に基づく意思決定をサポートすることが求められており、当然ながら歯周治療も例外ではない。われわれは、歯周治療の特徴は、患者のセルフケアが改善し習慣化するまでの時間、歯肉が治療に反応し慢性炎症が改善するまでの時間、患者が自身の将来のために納得のいく治療選択を下すまでの時間など、多くの時間を要するものばかりであるだけでなく、実際にそれに要する時間が、患者ごとに全く異なるものであると考えている。エビデンスは、歯周病が「切れば治る」疾患ではなく、歯科医師だけで治療は成功しないことを示している。そのため、治療に携わる歯科医師、歯科衛生士の連携が重要であるのは当然のこと、ときには受付・助手も含めたチームアプローチが求められると考えている。本講演は、われわれの時間を味方に付けた歯周治療の例を供覧しながら、チームアプローチの実践についてご紹介し、皆様のご批判とご意見を仰ぎたいと考えている。
※ライブ配信のみで、現地開催、オンデマンド配信はございません。
※現地開催のみで、オンライン(ライブ配信、オンデマンド配信)開催はございません。
10:05 ~ 10:25 | 歯牙移動を認める広汎型重度慢性歯周炎の患者に対して歯周組織再生療法を行った一症例 【佐々木宏志郎/宮城県開業】 |
10:25 ~ 11:00 | 健康寿命向上のため口腔機能の獲得を目指した包括歯科診療の実践 【佐藤 奨/岩手県開業】 |
11:00 ~ 11:35 | 歯周治療によって掌蹠膿疱症の皮膚症状が改善した1例 【村井 治/岩手医科大学歯学部 歯科保存学講座歯周療法学分野】 |
11:35 ~ 12:40 | 東北大学大学院歯学研究科・歯内歯周治療学分野における研究について -歯周病の分子病態研究からせまる新たなる診断・治療への展望- 【山田 聡教授/東北大学】 |
12:40 ~ 13:00 | 東北大学病院歯周病科の最近の歯周疾患症例から 【根本 英二/東北大学】 |
14:10 ~ 15:15 | 重度歯周炎(StageⅣ)患者に対する歯周治療を考える 【高橋 慶壮教授/奥羽大学歯学部歯科保存学講座歯周病学分野】 |
15:15 ~ 15:35 | 広汎型重度慢性歯周炎患者に対してリスク管理下で歯周組織再生療法を行った5年経過症例 【山崎 厚作/奥羽大学歯学部歯科保存学講座歯周病学分野】 |
【略歴】
2015 年 岩手医科大学歯学部歯学科卒業
2016 年 埼玉県医療法人爽美会藤田歯科医院勤務
2020 年 大手町歯科医院開業
【所属学会】
日本歯周病学会
日本臨床歯周病学会 東北支部理事
日本顎咬合学会
日本インプラント学会
【諸言】
重度歯周炎は,歯を喪失する大きなリスクファクターである.また歯牙の動揺や欠損により,
咀嚼機能障害や審美障害がある場合は,歯周状態に配慮した補綴治療を行う必要がある.今
回は,全身的疾患を抱えながら,病的歯牙移動(PTM)を認める多数歯欠損の患者に対して,
歯周組織再生療法,スプリットクレストを伴うインプラント治療,上顎総義歯補綴治療を行
い良好な経過を得た症例を報告する.
【症例】
患者:71歳女性 主訴:下の歯がぐらつく.
全身的既往歴:高血圧 三叉神経痛
歯科的既往歴:20 年前の 50 歳のとき奥歯がぐらつくことを主訴に当院へ来院した.当時は
残存歯数 18本,EichnerB3 であった.左上の電撃痛認め,20 年程顔を洗う,歯磨きをするこ
とが難しくなった.義歯を使用しており,なにか不具合があれば通院し,主訴が解決すると
通院をやめることを繰り返していた.最近歯の動揺がひどくなり来院.
口腔内所見:空隙歯列,咬合平面の乱れ,浮腫性の歯肉,顎関節のクリック(右側+)下顎
前歯部のフレアアウトを認める.
上顎義歯にレストがないクラスプ,下顎に短い床形態の部分床義歯を認める.32 は歯肉退縮
を認める.残存歯牙歯数 10本,咬合支持数1箇所, EichnerB4.
【診断】
広汎型重度慢性歯周炎 ステージⅣグレードB
【治療経過】
長期服用における歯肉増殖の可能性がある Ca 拮抗薬を利尿薬へ変更,13,32 を抜歯,上顎
義歯を増歯,下顎前歯部を暫間補綴,歯周基本治療を開始した.再評価後,歯周ポケットが
残存している 41,42,43,44 に歯周外科治療を行った.再評価後,16,13,23,26,36,45,46 相当
部にインプラント補綴による口腔機能回復治療を行う計画であったが,患者の体調の変化
により,36,45,46 相当部にインプラント補綴,上顎は総義歯にて口腔機能回復治療を行った.
現在ポケットはすべて 3 ㎜以内で安定している.
【考察】
本症例では,病的歯牙移動を認める患者において,歯周基本治療から歯周外科を含む徹底的
な歯周治療により,患者固有の歯列となり,補綴処置もすべて生活歯のまま治療を終えるこ
とが出来,衛生士を含めたチームにおける歯周治療の重要性を再考できた.これからも SPT
にて観察していきたい.
【経歴】
1997年 岩手医科大学歯学部卒業
1997年 東北大学歯学部補綴学第2講座入局
2000年 東北大学歯学研究科顎顔面外科学講座口腔機能解析学分野大学院研究生
岩手医科大学歯学部矯正学講座研修生
2001年 中央歯科クリニック開院
2009年 東北大学歯学研究科大学院博士課程修了
【資格】
2001年 日本顎咬合学会認定医
2006年 日本臨床歯周病学会認定医
2009年 日本口腔インプラント学会専修医
2011年 日本歯周病学会専門医
2013年 日本補綴歯科学会専門医
2024年 日本口腔インプラント学会専門医
地方における我々のようなかかりつけ歯科医は,地域に密着した診療を行っているため,患者層は幼児から高齢者まで広範囲に及ぶ,つまりファミリーデンティストとして総合的歯科治療技術が要求されている.しかし広範囲にわたる治療内容を一人でカバーするのは非現実的で治療の質の低下につながる危険性もある.そこで,専門医によるグループプラクティスという発想が出てくるが,我々の場合,地域がらこの専門医によるチーム医療は難しいのが現実であり,どうしても一人で多くの知識や技術を要求されている.さらに日本人の歯の喪失理由の第一位が歯周病であることを踏まえれば,これに対する対策や予防は私たちには急務でもあった. 開業後,私自身も天然歯を1本でも多く残したい,そんな想いで2002年に当学会に入会させて頂いた.日常臨床の90%は基礎治療の積み重ねであり,高度な技術や材料を駆使する前に,緻密な基本治療を身につけて臨床のベースをつくっていきたいと30代の時には特にそう考え研鑽してきた.初期(基本)治療という概念は 1960 年代にすでにアメリカのゴールドマンによって提唱されたものだが,次の8 通りの専門的項目から成る①Documentation②口腔清掃指導③スケーリング,ルートプレーニング④齲蝕治療,根管処置⑤保存不可能な歯の抜歯⑥矯正治療⑦暫間固定⑧咬合調整である.当学会を通じて諸先輩方から学ばせて頂いた事は歯周基本治療の精度やそのこだわりでもあった.人生100年時代を迎え,健康寿命の延伸は今や国策ともなっている.近年,歯の本数と全身の健康状態、歯周病と全身疾患との関係等のエビデンスが次第に明らかになってきている.つまり,健康寿命を延ばすためには歯を含めた口腔内の健康維持が重要で,ライフステージに応じた切れ目のない継続管理や重症化予防のための包括的歯科診療の提供が欠かせない. 今後は,さらに従来型の歯の形態回復に特化した治療だけではなく,機能回復や疾患等の予防に対する需要が増加することが予想される.そのため,「8020運動」などに代表される歯の本数を維持する目標のみではなく,「オーラルフレイル対策」など健康寿命向上を目的に口腔機能を獲得することがより大切になる.地域住民の生涯に渡る口腔機能の維持・向上を目指し,地域医療の一翼を担う者としてその役割と責任を全うしていきたいと考えている.
【略歴】
1996 年 岩手医科大学歯学部卒業
岩手医科大学歯科保存学講座歯周療法学分野 講師
特定非営利活動法人 日本歯周病学会 評議員 歯周病専門医・指導医
【緒言】
掌蹠膿疱症(以下 PPP)・掌蹠膿疱症性骨関節炎(以下 PAO)有病者に対する歯科治療は
主に金属除去・置換療法が行われてきた。一方 PPP のリスク因子で金属アレルギ-が占め
る割合はわずか 5%程度であり,口腔内や扁桃など生体中に生じた病巣炎症がリスク因子
の 60%近くを占めるとの報告や,歯性病巣治療によって 70%近くの患者で PPP 症状が改善
したとの報告もある。
金属アレルギ-と診断された PPP 患者に対して,歯周病治療によって PPP の皮膚症状が実
際に改善した症例を経験したので報告する。
【初診時所見】
患者:歯科初診時年齢 61 歳 女性,主訴:掌蹠膿疱症に関連する歯科治療希望
全身的既往歴: 42歳 逆流性食道炎,57 歳 掌蹠膿疱症
歯科的既往歴: 抜歯(+)麻酔(+)アレルギ-F(-)・D(-)
金属パッチテスト 塩化亜鉛・インジウム(+)
初診時歯周病診断:広範型慢性歯周炎, Stage Ⅲ Grade B
【症例の概要】患者は当科初診から 4 年前に手掌部に皮疹,落屑を伴う炎症を発症した。
近医皮膚科で PPP と診断され投薬治療を行ったが症状は改善しなかった。このため他の皮
膚科を受診したが投薬治療で皮膚症状が改善しなかったため,金属パッチテスト及び口腔
内金属冠の成分分析が行われ,金属アレルギーと診断された。その後,金属冠除去を勧め
られたが,口腔内金属冠の成分と金属パッチテストの結果が一致しなかったことから,当
時の皮膚科主治医に不信感を抱きセカンドオピニオン取得目的で当科を受診した。
口腔内診査の結果,広範型慢性歯周炎,11,27,37部根尖性歯周炎等の歯性病巣の存在を
確認し,それらの治療を優先した。その後コロナ感染拡大に伴い皮膚科受診が困難となり,
当科での歯科治療のみが継続された。歯周基本治療により歯周炎症改善後から手掌症状が
改善傾向を示した。歯周外科処置終了後に金属冠による口腔機能回復治療を実施したが,
手掌部の皮疹等の症状を認めなかった。再評価後 SPT に移行し口腔内状況は良好に維持さ
れ,皮膚科受診は現在も中断しているが,PPP症状は再発することなく改善した状態が現在
まで経過している。
【考察・まとめ】近年 PPP の発症には IL8,IL17 等の炎症性サイトカインの関与が強く示
唆されており,抗 IL17,坑 IL23 等,生体内の IL17 軸をターゲットとした生物学的製剤が
PPP 患者の症状改善に成果を上げている。しかし生物学的製剤は一時的な症状改善には有
効であっても,PPPの原因そのものを除去するわけではない。
2022 年に発表された日本皮膚科学会 PPP・PAO の治療指針では,歯周病・根尖病巣などの歯
性病巣が PPP のリスクであることが示され,歯科金属除去よりも歯性病巣治療が優先され
ることが推奨されている。しかし現時点で歯科領域では,この治療指針は十分に周知され
てはおらず,また治療指針自体も、「どのレベルまで歯周治療するのか」、「どの歯科治療を
優先するのか」など明確には記載されていない。より具体的なガイドライン充実が今後は
必要であろう。
【略歴】
1991 年 大阪大学歯学部卒業
1995 年 大阪大学大学院歯学研究科修了 博士(歯学)
1995 年 米国国立衛生研究所(NIH)研究員
1996 年 日本学術振興会海外特別研究員
1999 年 日本学術振興会特別研究員
2002 年 大阪大学大学院歯学研究科 助手
2004 年 大阪大学歯学部附属病院 講師
2017 年 東北大学大学院歯学研究科 教授
2022 年 東北大学病院歯科衛生室長
東北大学大学院歯学研究科副研究科長
東北大学病院臨床研究推進センター副センター長
東北大学大学院歯学研究科歯内歯周治療学分野は、歯内療法および歯周治療において革新
的な治療法の開発と普及を目指し、歯髄生物学および歯周病学に関する幅広い基礎研究お
よび臨床研究を展開しています。また、東北大学病院においては、歯周病科として歯周治
療、歯内療法、修復治療のいわゆる保存系診療を担当し、特に歯周治療の専門科として、大
学病院の使命となる安心・安全、高度な専門的歯周治療を実践しています。我々はこれま
でに、歯周組織の中でも組織恒常性の維持や修復・再生に最も重要な組織である歯根膜に
着目し、世界に先駆けてその分子遺伝子レベルでの詳細な機能を解明してきました。さら
に、歯周病における分子病態生理の解明について、免疫細胞を中心に研究を進め、歯周病
病態における新たなる細胞メカニズムを明らかとしています。これら研究知見をもとに歯
周病の早期遺伝子診断や再生分野における新たな治療戦略を構築し、歯周組織再生に必要
な微小環境の調整や、免疫・感染制御技術による革新的な新規治療薬の開発に焦点を当て
た歯周病研究に取り組みを続けています。
本講演では、これまでに得られた最新の研究知見について具体的に報告し、臨床応用への
可能性について考察します。東北大学は、国内で最初の国際卓越研究大学として認定され
ました。東北大学歯学研究科は、今後、日本だけではなく世界をリードする卓越した研究
知見に基づく革新的な歯科医療技術の開発や実践が求められており、我々もその一翼を担
うべく日々行っている研究・臨床活動を紹介したいと思います。
【略歴】
1989 年 東北大学卒業
同年 東邦歯科診療所(仙台市)勤務医
1993 年 南カリフォルニア大学医学部免疫学講座客員研究員
1997 年 東北大学大学院歯学系博士課程修了
同年 東北大学歯学部文部教官助手
2004 年 ワシントン大学歯学部歯周療法学講座客員研究員
2011 年 東北大学大学院歯学研究科准教授
【資格】
日本歯周病学会歯周病専門医
日本歯科保存学会歯科保存治療専門医
歯科医師臨床研修指導歯科医
【抄録】
当診療科は地域連携医療システムに基づき、主に宮城県内の多くの地域医療機関から患者
様の紹介を受け、年間約 350 名の新患を迎えている。患者様の多くは重度の歯周炎症例で
あるが、同時に粘膜疾患を主訴とする患者様も多く来院される。
重度歯周炎に関しては、グレーシーキュレットを用いた歯周基本治療の徹底から始まり、
多くの症例において安定した状態に導くことが可能であるとは言え、当然ながら限界点も
存在する。限界と判断した場合においては歯周組織再生療法の出番となる。当診療科では、
その後、一定期間の SPT を設け、歯周組織や口腔機能の安定が確認できた時点で地域医療
機関に逆紹介をさせていただいている。本演題発表では SRP による治療でどこまで歯周炎
が改善できるのか、その限界について実際の症例を通じて報告させていただく。
また、炎症性腸疾患と歯周炎の関連について、スイス・チューリッヒ大学病院の Stephan R
Vavricka 氏らによる 2013 年の症例対照研究で明らかにされている。特にクローン病は,若
年者に好発する原因不明の 肉芽腫性炎症性疾患であり、消化器症状(下痢,腹痛)や全身
症状(発熱,体重減少)を引き起こすほか,口腔から肛門までの消化管の各部位に病変が発
生する疾患である。本演題発表ではクローン病に関する歯周疾患の一症例を報告させてい
ただく。
【略歴】
1988 年 岡山大学歯学部歯学科卒業
1992 年 岡山大学大学院歯学研究科修了 博士(歯学)
1993 年 英国グラスゴー大学歯学部博士研究員(Denis F. Kinane 教授に師事)
1996 年 岡山大学歯学部助手
1999 年 明海大学歯学部講師
2006 年 明海大学歯学部助教授
2007 年 松本歯科大学, 総合歯科医学研究所 硬組織疾患 制御再建学部門教授
口腔インプラント科 科長(兼任)
2007 年 奥羽大学歯学部歯科保存学講座歯周病学分野教授 現在に至る
ResearchMap 高橋慶壮 (https://researchmap.jp/kazuokeiso2021)
日本歯周病学会 理事
日本歯科保存学会 理事
日本顎咬合学会 指導医
日本顕微鏡歯科学会 評議員
日本歯内療法学会 会員
米国歯周病学会(AAP)国際会員
2017 年にAAP・EFP 共催ワークショップが開催され,歯周炎の新分類が報告された。広汎
型重度歯周炎は StageⅢあるいはⅣに分類された。StageⅣでは残存歯数が 20 本以下にな
るため感染源の除去に加えて口腔機能回復治療(歯周補綴、インプラント補綴)が不可欠
になる。患者の希望に加えて歯周炎に罹患した残存歯の状態によっても選択基準が変わり,
治療費も高額で個別対応になるため、現状では具体的な治療指針やエビデンスは乏しく、
治療決定には「shared decision making (SDM)」が推奨されている。
1964 年にMorton Amsterdam によって「Periodontal prosthesis」が報告され,2000 年に
は口腔インプラント治療の加わった続報が報告された。日本では欠損補綴を考える際,残
存歯の数や部位に加えて下顎位の安定や咬合歯数を評価するため「Cummer の分類」 ,
「Eichner の分類」および「宮地の咬合三角」が利用されている。しかし,いずれも歯周炎
の重症度やリスク度を勘案した分類ではない。古典的なクロスアーチブリッジに加えて、
現状では、テレスコープクラウン、口腔インプラント治療およびこれらのコンビネーショ
ンが行われている。
演者らは歯周炎患者に対して,歯周治療およびインプラント治療を実施した 89 名の患者に
ついて後ろ向き疫学研究を行い,StageⅣ,骨増大術,8本以上のインプラント体埋入およ
びインプラントブランドがインプラント周囲炎に関わることを報告した(Yamazaki M. et
al. J Pers Med 2022, 1723)。感染防御および低侵襲性治療の観点からは,インプラント
周囲疾患のリスクを勘案して必要最小限のインプラント治療を選択することが推奨される。
歯周治療の予知性を評価する際、過去の論文からは「Well maintained」「Downhill」
「Extremely down hill」群の存在が報告されており、歯科医師と患者側の各種因子によっ
て結果は大きく異なる。医療者側の患者教育による患者の行動変容が最も重要であるが、
両者間のコミュニケーションを促進させる方略に関するエビデンスは乏しい。
本講演では,演者が広汎型重度歯周炎患者に対する歯周治療から得た診断および治療結果
を提示し,重度歯周炎患者の個別化医療についての見解を提示します。
【略歴】
2014 年 奥羽大学歯学部 卒 業
2015 年 奥羽大学歯学部 助 手 任用
2016 年 奥羽大学歯学部 助 教 昇任
2018 年 日本歯周病学会 認定医 取得
2024 年 奥羽大学歯学部 講 師 昇任
日本歯周病学会 専門医 取得
【緒言】
広汎型重度慢性歯周炎患者に対して,複数のリスクを管理して全顎的に歯周組織再生療法
を適応し,良好な予後を得ている症例の詳細を報告する。
【初診時所見】
患者:42歳 男性
初診:2016 年 4月
主訴:31歯肉の疼痛および排膿
全身的既往歴:なし
歯科的既往歴:2年前から 31 周囲歯肉の腫脹を繰り返していた。6 か月前に近医を受診し,
SRP や抗菌薬の局所投与を繰り返し受けたが改善しなかった。26は1 年前に
上行性歯髄炎の診断を受け,上記医院で抜髄処置を受けた。その他の修復物,
補綴物に関しては 5年以上前に治療を受けた。
初診時診断: 広汎型慢性歯周炎(Stage Ⅲ Grade B)
【症例の概要】
歯周組織検査所見:全顎的に深い歯周ポケットを認めた(4-5mm: 17.7%, 6mm 以上: 22.4%)。
BOP 陽性率:67.7% 31:11mm の歯周ポケットおよび早期接触あり。26:10mm の歯周ポケッ
トと偏心運動時の咬頭干渉あり。エックス線所見:全顎的に水平および
垂直性骨吸収,31 および 26 に根尖に達する骨吸収像を認めた。患者は日中のクレンチング
および夜間のブラキシズムを自覚していた。40 本/日,12 年間喫煙していた。治療経過:
1.歯周基本治療:TBI,縁上 SC,SRP,18,28,38,48 抜歯,暫間固定,26 感染根管治療,悪
習癖の除去(認知行動療法,ナイトガード使用) 2.再評価 3.歯周外科治療:25,26,27,
31,32,36,37,41,42,43 エムドゲインⓇを用いた歯周組織再生療法,26
トライセクション 4.再評価 5.口腔機能回復治療:26,27 連結冠装着 6.SPT※SPT 中に26
歯根破折したため抜歯,25~27Br 装着。
【考察・まとめ】
本症例では喫煙およびパラファンクションを主とした複数のリスク因子によって全顎的に
歯周炎が増悪したと考えた。患者教育とリスク管理が奏功し,エムドゲインⓇを用いた
歯周組織再生療法を適応した部位全てで良好な治療結果を得た。
※現地開催のみで、オンライン(ライブ配信、オンデマンド配信)開催はございません。
09:35 ~ 10:05 | 限局型慢性歯周炎ステージⅡグレードBに対しブルーラジカルP-01を使用した一症例 【永田智大/山形県開業 永田歯科医院】 |
10:05 ~ 10:25 | 重度慢性歯周炎患者に対して歯周外科を行った一症例 【加藤 浩/宮城県開業 桜ヶ丘歯科医院】 |
10:25 ~ 10:45 | 重度慢性歯周炎患者への包括的治療によりアドヒアランスが向上した一症例 【西山 奈々/宮城県勤務 ルミエールデンタルクリニック】 |
11:00 ~ 15:30 | 歯周補綴を再考する -歯周補綴の変遷と現在- 【梅原一浩/医療法人審美会 梅原歯科医院】 |
<略歴>
2015年 東北大学歯学部卒業 45回生
東北大学病院勤務
イェテボリ大学補綴科短期研修
2016年 山形市緑町斎藤歯科医院勤務
2019年 永田歯科医院勤務
【緒言】
重度歯周炎の治療において歯周外科治療は無くてはならない治療法である.歯周基本治療で改善しなかった歯周炎には歯周外科治療が提案されることが多い.しかし歯周外科治療は患者,歯科医師双方にとってハードルの高い治療法である.歯肉を切るということに恐怖を覚え抵抗感を抱く患者は多い.また,歯周外科治療は歯科医師側にとっても技術的心理的抵抗の高い治療である.
今年2月に発売された「ブルーラジカルP-01」は東北大学の菅野教授らのグループが18年の歳月をかけて開発し,厚生労働省の医療機器認定において「歯周治療・歯周炎・歯周ポケットの殺菌・スケーリング」と明記された初めての歯周病治療器である.
今回は衛生士による歯周基本治療後も6mmのポケットが残存した重度歯周炎の歯に対しブルーラジカルP-01を使用し改善した症例を提示する.
【初診時所見】
患者: 63歳 性別 女性
初診: 2024年 2月
主訴:定期検診希望 右下奥歯部の歯肉がたまに腫れる
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:う蝕治療
初診時診断: 限局型慢性歯周炎Stage Ⅱ Grade B
【症例の概要】
初診時の歯周精密検査ではPD4mm≧13.5% BOP 陽性率38.3% PCR 52.8%であった.
#46はFMC不適合,頬側分岐部病変Ⅱ度,遠心頬側根遠心に深さ4mm幅1.3mmの垂直的骨欠損が認められた.
歯科衛生士による歯周基本治療を行った結果PD4mm≧5.6%,BOP 陽性率13.6%,PCR 5.6%と全体的に歯周炎の状況は改善したが,#17,46,47には遠心に6mmのポケットが残存した.#47は埋伏智歯の影響によるものと診断し患者が埋伏智歯の抜歯を拒否したためSPTで経過観察とした.#17,46については歯周外科治療を提案したが患者が難色を示したためブルーラジカルP-01を応用した非外科治療を提案し患者はこれを承諾した.
#17,46に対しブルーラジカルP-01でラジカル殺菌を各5分間行い術後#46不適合FMCの形態修正を行った.
術後2か月での再評価にて#17,46遠心のポケットは2mmまで改善しBOP陰性であった.
#46分岐部については炎症の改善は見られたもののアタッチメントゲインは見られなかったためより清掃性を改善した形のプロビショナルレストレーションを仮着した.
術後3か月での再評価で歯周組織の安定が見られたため,今後清掃性を考慮した最終補綴を装着予定である.
【考察・まとめ】
歯科衛生士による歯周基本治療では改善しなかった重度歯周炎に対しブルーラジカルP-01を応用することで術前6mmあったポケットが3mmまで改善した.この結果はブルーラジカルP-01を使用することで,これまで歯周外科治療を行わないと改善することの難しかった重度歯周炎を非外科治療により改善できる可能性を示唆している.
分岐部病変に対し今回の症例ではBOPの改善はあったものの,明らかなアタッチメントゲインは見られなかった.分岐部病変に関してはブルーラジカルP-01に併せて補綴装置や歯冠形態の修正などを積極的に行いながら管理する必要があると考えられる.
今回の結果はごく短期間の結果であり垂直性骨欠損のある#46遠心については長い上皮性の付着であることが考えられるためメインテナンスのなかで厳格なプラークコントロールを維持できるよう慎重に経過を見守る必要がある.
ブルーラジカルP-01は発売間もない段階で各種メディアに大きく取り上げられたことにより機材自体や長期予後についてデータがあまり多くない中,やや話題が先行してしまっている感が否めない.
しっかりとした歯周治療の知識を持った先生方が情報を発信することにより,正しいエビデンス形成がなされることを期待する.
<略歴>
2010年 徳島大学歯学部歯学科卒業
2011年 岩手医科大学卒後臨床研修センター修了
2012年 岩手医科大学有床義歯学分野常任研究員として入局
2013年 福島県、宮城県内開業医に勤務
2018年 桜ヶ丘歯科医院を開業
【緒言】
歯科疾患実態調査によると、歯の喪失の最も多い原因は、歯周疾患であるとされているが、その割合は年々減少しているように見える。平均的な歯の残存歯数は年々増加傾向にあり、高齢でも残存歯が多く存在する患者さんは増えていると実感する。口腔内の環境から、患者さんが辿ってきた治療の遍歴、職業的背景や歯科に対する価値観を垣間見る事がある。今回、そのような症例に対して歯周外科治療を伴う歯周治療を行なったので、その経過について報告する。
【初診時所見】
患者: 52歳 性別 男性
初診: 2022年 10月
主訴:下の前歯がぐらぐらする
全身的既往歴:喫煙歴32年(20本/日)
現病歴:2年前まで他院にて歯周病の治療をしていたが、主治医との意見が合わず、通院
をやめてしまった。その際に義歯を作製したが、使用感に慣れることができず、
今は全く使用していない。
初診時診断: 広範型重度慢性歯周炎 Stage IV Grade C
【症例の概要】
全顎的に水平性骨吸収を伴う慢性歯周炎患者が来院した。複数歯において動揺が認められたが、患者さんの希望を考慮してできる限り歯の保存を試みることとした。歯周基本治療を行った後、確実に根面の滑沢化する為に歯周外科治療を行い、可及的に歯の喪失や、再治療の時期を遅らせることを目標に治療計画を立案した。その治療を行なった経過について報告する。
【考察・まとめ】
患者さんは2年前に通院を断念したが、PCRが悪化せずに維持されていた事から、もともと治療に対する意識が高かったのではないかと推測する。職業的に定期的な通院が困難だった事から、歯周病に対する積極的な介入が行われず、これまでの病態に至ったと推測する。良好なプラークコントロールが維持された環境下で、術野を明示して徹底した根面の滑沢化を行う事ができ、歯周組織の改善ができた。これまで積極的に歯周外科治療を行なってこなかった自分の技量、術式によってどこまで改善させることができるか不安であったが、根気強く治療に付き合ってくれた患者さんのおかげで歯周組織の改善に寄与する事ができたと考える。今後も安定した状態を維持すべく、注意深くSPTを行なっていきたい。
<略歴>
2000年 宮城高等歯科衛生士学院卒業
2000年 仙台市内歯科医院勤務
2019年 都内歯科医院勤務
2020年 ルミエールデンタルクリニック勤務 現在に至る
【緒言】本症例は、多忙な働く女性の初診時からの治療経過とアドヒアランスの変化について報告する。患者は歯科に対して苦手意識があり、病識もあまりなかった。しかし歯周基本治療後、包括的治療に同意し、歯周外科、矯正治療を行った。矯正専門医での治療期間も担当歯科衛生士が口腔衛生の維持に注力した。矯正による前歯部の審美障害の回復により治療の意欲が高まり、良好な治療の連携によりインプラントを希望し、口腔機能回復処置を行った。現在当院でのメンテナンスも継続している。
長期的包括治療では、患者の気持ちに寄り添い、精神的伴走とメンテナンスへのモチベーション維持を支援が重要である。本症例では良好な結果を得たので報告する。
【初診時所見】
患者:42歳女性
初診:2018年4月
主訴:上顎前歯動揺と歯肉疼痛
全身的既往歴: 特記事項なし
歯科的既往歴:15年歯科未受診
初診時診断:広汎型慢性歯周炎StageⅢGradeC、♯16:C2、歯列不正、左側顎関節症
【症例の概要】
歯周基本治療後、歯周外科について同意が得られず再SRPを継続した。その後改善が困難な左右上顎臼歯部について同意が得られ、2019年9月から歯周外科を行った。
歯周組織状態安定後、矯正専門医を紹介し、2020年5月矯正治療を開始した。矯正治療中は、矯正専門医でのPMTCを希望した。
2022年9月矯正治療が終了し、再初診で来院した。矯正歯科で提案を受けた♯47のインプラントによる口腔機能回復処置を本人が希望し、2022年12月埋入した。その後口腔衛生状態も再度改善が認められ、2023年8月からメンテナンスに移行した。
【考察・まとめ】
女性の活躍が広がる中で、職種や環境により激務となり、意図せずに歯科未受診の場合がある。その間う蝕や歯周病に対する病識を持たずに長期経過する場合が多い。病気を自覚していただくことからはじめる歯科治療は、モチベーションをあげることのみならず、維持することも困難である。しかし本症例にて、歯科医療従事者が患者の背景をより深く理解し、信頼関係を構築した上で、長期間にわたってサポートし、治療への意欲が変化したと思われる。患者に寄り添うことがきわめて重要であることを再度確認した。
【略歴】
1988年 東京歯科大学卒業
1993年 同 大学院 修了(歯学博士)
1993〜1994年 ペンシルベニア大学歯学部歯周補綴学講座留学
1994年〜 医療法人審美会 梅原歯科医院 勤務
1995〜2000年 東京歯科大学第二専修科(歯科保存学第2講座)修了
2002年〜 東京歯科大学クラウンブリッジ補綴学講座 非常勤講師
2014年〜 慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科学教室 非常勤講師
2015年〜 岩手医科大学歯学部補綴・インプラント学講座 非常勤講師
日本口腔インプラント学会 指導医・専門医
日本補綴歯科学会 指導医・専門医
日本歯周病学会 専門医
ITI Fellow
1993年に米国ペンシルベニア大学歯周補綴学講座に留学し、1994年に帰国してからすでに30年が経過した。帰国当時は、たった一年の留学では「英語を理解」することなどできるはずもなく、自己嫌悪に追いやられていたことを思い出す。そんな時、日本で最初のAAP Diplomateを取得した東京都開業の西堀雅一先生や、僕の後に留学された大阪府開業の赤野弘明先生に後押しされ、1995年から毎年ペンシルベニア大学を訪れ、名誉教授だった故(以下省略)Dr.Amsterdamnに沢山のことを直々に教えていただいたことに深く感謝している。
ペンシルベニア大学で教わった歯周補綴は、「補綴主導型ペリオ」という考えとは全く異なり、「二次性咬合性外傷が原因で、臼歯部咬合崩壊が起こった口腔内をどのように咬合再構成して立て直すか?」という考え方であった。その治療方法は、Dr.Amsterdamの報告では50年の長期経過があり、我々一般開業医にとって理想的な治療法の一つとして注目された。臨床経験が少なく、資料の揃っていない状況から、見よう見まねで歯周補綴を行いながら、まともな症例ができたのは1999年のことで、当時、Dr.Amsterdamの家で症例発表した後、自分の進むべき道を提示していただいたことは一生忘れられない。自分の臨床が、当時と現在とで変わっているかといえば、ベースは全く変わっていないと思っている。ペリオの診査・診断、初期治療、歯周外科処置を行って、顎位を模索しながら臼歯部咬合支持を確立し、必要であれば歯周矯正を行って咬合再構成するという歯周補綴の考え方は当時のままであるが、この診査・診断を、デジタル化を応用してどのように立証するかが現在の到達目標である。デジタル化が進む中、沢山のことが変化し、これからさらに変わっていくことは間違いない。今回は、歯周補綴の変遷と現在進行形の考え方について再考したい。
09:40 ~ 10:40 | ケースから学ぶ“治癒の病理” そうだ!下野正基先生に聞いてみよう Part1 歯周治療編 歯周治療の素朴な疑問 【西東聖子/医療法人社団みかみ歯科・矯正歯科医院】 |
10:50 ~ 11:50 | 令和の歯周治療はどのように変わるのか?Part1 【下野正基/東京歯科大学名誉教授】 |
12:50 ~ 13:50 | ケースから学ぶ“治癒の病理” そうだ下野正基先生に聞いてみよう Part2 インプラント治療編 インプラント治療の素朴な疑問 【三上格/北海道支部 医療法人社団みかみ歯科・矯正歯科医院】 |
14:00 ~ 15:00 | 令和の歯周治療はどのように変わるのか?Part2 【下野正基/東京歯科大学名誉教授】 |
[略歴]
1979年3月:鶴見大学女子短期大学部保健科(現:歯科衛生科)卒業
1979年4月~1986年3月:東海大学湘南校舎保健管理センター勤務
1992年4月~2003年3月:苫小牧市立総合病院栄養管理科勤務
2003年4月~:医療法人社団 みかみ歯科・矯正歯科医院勤務
現在に至る
2010年4月~:北海道ハイテクノロジー専門学校(非常勤講師) 現:札幌看護医療専門学校
NPO日本歯周病学会認定歯科衛生士
公益社団法人日本口腔インプラント学会専門歯科衛生士
養護教諭2級普通免許 中学校教諭2級普通免許(保健)
一般社団法人北海道形成歯科研究会:歯科衛生士部 部長
ITI所属
私たち歯科衛生士は日常的に、経験から得られた臨床感を頼りに歯周基本治療、さらには歯周安定期治療(SPT)を行っていますが、その時に歯周組織ではどのような変化が起こっているのでしょうか?幸運なことに、月刊デンタルハイジーン(医歯薬出版)2024年1月号からの連載で、下野正基先生に歯周治療の症例を通して、臨床的な疑問を病理的な基礎知識で解説していただく機会に恵まれました。その連載から、歯科衛生士の立場からの素朴な疑問を下野先生に質問をします。
1.歯周治療における歯肉の変化
1)「濡れた歯肉と」と「乾いた歯肉」
スケーリングやルートプレーニングのタイミングを試行したケース
2)歯の移動
歯肉の炎症の改善により歯が水平的移動したケース
3)歯肉のクリーピング
適切なブラッシングなどにより退縮した辺縁歯肉がクリーピングしたケース
などの症例を通して歯科衛生士が臨床で遭遇するさまざまな症例の背景にある病理的な知識を解説していただき、臨床を深めるためのアドバイスとなれば幸いです。
2.SPT期にかかわるリスクファクター
歯周治療には「治癒はあっても完治はない」という面があるため“再発の可能性”を考慮し
病状の安定を維持する必要があります。SPT期は、基本的には炎症がコントロールされているという前提で進められますが、「歯周病を増悪させる外傷力」のサインを見逃さない心構えが肝要であり、口腔内の“取扱説明”についてもお話しさせて頂きます。
[略歴]
1970年3月 東京歯科大学卒業
1974年10月 ミラノ大学医学部薬理学研究所客員研究員
1976年 9月 学位受領(歯学博士)東京歯科大学
1990年 4月 日本病理学会認定口腔病理医(第30号)
1991年 4月 東京歯科大学病理学講座主任教授
1998年 6月 東京歯科大学学監
2000年 4月 IADR(国際歯科研究学会) Pulp Biology Group会長
2000年10月 IAOP(国際口腔病理学会)理事
2005年 8月 FDI(世界歯科連盟)理事
2011年 4月 東京歯科大学名誉教授
2012年 1月 日本歯科医学会会長賞受賞
主な著書(近刊)
下野正基:やさしい治癒のしくみとはたらき,医歯薬出版,2013年.
下野正基:下野先生に聞いてみた①ペリオ・インプラントの疑問に答える、
指針がわかる.クインテッセンス出版,2017年.
下野正基:下野先生に聞いてみた②エンドの疑問に答える、指針がわかる,
クインテッセンス出版,2019年.
下野正基・編著:成人矯正に必須の歯周治療.適切な矯正歯科治療を行なうために,医歯薬出版,2019年.
下野正基・編著:肉芽の科学と臨床,クインテッセンス出版,2021年.
下野正基:決定版 治癒の病理,臨床の疑問に基礎が答える,医歯薬出版,2022年.
歯科医師および歯科衛生士から寄せられる臨床の疑問に基礎が答えます。
①2017年のAAP/EFPによる新分類から何がみえてくるか?
②臨床的に健康な歯周組織とは?
③ポケットデプスよりBOPが重要であるわけは?
④歯周ポケット内では何が起こっているのか?⑤濡れた歯肉、乾いた歯肉、の病理学的意味は?
⑥炎症と歯の移動の関係は?
⑦歯周組織はどのように再生するのか?
⑧上皮性付着は結合組織性付着に置換されるか?
⑨歯周基本治療のみで付着が回復するという臨床的エビデンスはあるのか?
⑩肉芽組織は残すべきか掻爬すべきか?
⑪リグロス(FGF-2)再生療法を成功させるコツは?
⑫組織再生に必須の因子は何?
⑬補綴物マージンの考え方が変わるってどういうこと?
⑭筋線維芽細胞の臨床的意義は何?
⑮クリーピングアタッチメントが起こる機序は?
⑯インプラント周囲骨はどのようにリモデリングされるか?
⑰オッセオインテグレーションとは?
⑱インプラントではなぜ丼状の骨欠損が生じるのか?
⑲インプラントが排除されないのはなぜか?
⑳ジルコニアインプラントの特徴は?
などについて最新情報を解説します。
[略歴]
1983年 日本歯科大学新潟歯学部卒業 同大学歯周治療学教室入局
1990年 日本歯科大学博士号取得(歯周治療学)
1990年 日本歯科大学新潟歯学部歯周治療学教室講師
1991年 みかみ歯科医院開業
日本歯科大学新潟歯学部非常勤講師
1996年 みかみ歯科矯正歯科医院移転開設
2005年 医療法人社団 みかみ歯科矯正歯科医院理事長、現在に至る
(NPO)日本歯周病学会認定医 厚労省認定歯周病専門医
(社)日本口腔インプラント学会認定 インプラント専門医・指導医
(社)日本顎咬合学会認定医
(社) 日本口腔インプラント学会認定委員会副委員長
ITI (International Team for Implantology) fellow
北海道形成歯科研究会監事
演者は、下野正基先生に心酔しており会員の皆さまに“病理・基礎知識の面白さ”をお伝えしたく、講師の組み合わせを企画いたしました。特に“肉芽の科学”は面白く、“肉芽”を制することが歯科臨床のレベル向上につながると考えています。下野先生は、東京歯科大学の名誉教授に成られてから私ども臨床家のさまざまな疑問に対して基礎が答えるという立ち位置で積極的に講演をされ、そこで得られた情報を元に精力的に数冊の本にまとめられました。その集大成が「決定版 治癒の病理、臨床の疑問に基礎が答える」(医歯薬出版、2022年)と「肉芽の科学と臨床 ペリオ・抜歯・エンド・GBR・インプラント周囲炎での対応」(クインテッセンス出版、2021年)です。私は「決定版治癒の病理」ではインプラント周囲炎の症例提示や「肉芽の科学と臨床」では分筆させてもらい、沢山の新しい知識を教えて頂きました。今回は、臨床症例を通して歯周炎とインプラント周囲炎について素朴な疑問を下野先生に質問をします。
1.歯周炎と肉芽
1)歯周組織再生剤 FGF-2(リグロス🄬)を用いた歯周外科手術の再生機序
2.インプラント周囲炎と肉芽
1)オッセオインテグレーションによる骨再生機序
2)インプラント周囲骨のリモデリング
3)リモデリング機序の破綻から引き起こされるインプラント周囲炎
など外科手術症例を提示し病理的基礎知識を深めると共に、歯周炎とインプラント周囲炎の外科手術の対応法についても解説いたします。
[略歴]
1970年3月 東京歯科大学卒業
1974年10月 ミラノ大学医学部薬理学研究所客員研究員
1976年 9月 学位受領(歯学博士)東京歯科大学
1990年 4月 日本病理学会認定口腔病理医(第30号)
1991年 4月 東京歯科大学病理学講座主任教授
1998年 6月 東京歯科大学学監
2000年 4月 IADR(国際歯科研究学会) Pulp Biology Group会長
2000年10月 IAOP(国際口腔病理学会)理事
2005年 8月 FDI(世界歯科連盟)理事
2011年 4月 東京歯科大学名誉教授
2012年 1月 日本歯科医学会会長賞受賞
主な著書(近刊)
下野正基:やさしい治癒のしくみとはたらき,医歯薬出版,2013年.
下野正基:下野先生に聞いてみた①ペリオ・インプラントの疑問に答える、
指針がわかる.クインテッセンス出版,2017年.
下野正基:下野先生に聞いてみた②エンドの疑問に答える、指針がわかる,
クインテッセンス出版,2019年.
下野正基・編著:成人矯正に必須の歯周治療.適切な矯正歯科治療を行なうために,医歯薬出版,2019年.
下野正基・編著:肉芽の科学と臨床,クインテッセンス出版,2021年.
下野正基:決定版 治癒の病理,臨床の疑問に基礎が答える,医歯薬出版,2022年.
歯科医師および歯科衛生士から寄せられる臨床の疑問に基礎が答えます。
①2017年のAAP/EFPによる新分類から何がみえてくるか?
②臨床的に健康な歯周組織とは?
③ポケットデプスよりBOPが重要であるわけは?
④歯周ポケット内では何が起こっているのか?⑤濡れた歯肉、乾いた歯肉、の病理学的意味は?
⑥炎症と歯の移動の関係は?
⑦歯周組織はどのように再生するのか?
⑧上皮性付着は結合組織性付着に置換されるか?
⑨歯周基本治療のみで付着が回復するという臨床的エビデンスはあるのか?
⑩肉芽組織は残すべきか掻爬すべきか?
⑪リグロス(FGF-2)再生療法を成功させるコツは?
⑫組織再生に必須の因子は何?
⑬補綴物マージンの考え方が変わるってどういうこと?
⑭筋線維芽細胞の臨床的意義は何?
⑮クリーピングアタッチメントが起こる機序は?
⑯インプラント周囲骨はどのようにリモデリングされるか?
⑰オッセオインテグレーションとは?
⑱インプラントではなぜ丼状の骨欠損が生じるのか?
⑲インプラントが排除されないのはなぜか?
⑳ジルコニアインプラントの特徴は?
などについて最新情報を解説します。
09:35 ~ 10:00 | 根分岐部病変を伴う広汎型重度慢性歯周炎患者に対して包括的治療を行った一症例 【山田 康友/福島県開業 山田歯科】 |
10:00 ~ 10:25 | 根面被覆術におけるフラップ弁の位置付け 【丹治 栄展/福島県開業 たんじデンタルクリニック】 |
10:35 ~ 11:45 | 歯周治療の現在とこれから part.1 【和泉 雄一/総合南東北病院オーラルケア・ペリオセンター長 東京医科歯科大学名誉教授、福島県立医科大学特任教授】 |
11:45 ~ 12:55 | 歯周治療の現在とこれから part.2 |
【略歴】
2009年 東北大学歯学部歯学科卒業
2014年 東北大学大学院歯学研究科 咬合機能再建学分野博士課程 修了
2014年 宮城県開業医勤務
2022年 日本歯周病学会専門医取得
2022年 山田歯科開業
【所属学会】
日本臨床歯周病学会会員
1、諸言
根分岐部病変を伴う重度歯周炎は,歯を喪失する大きなリスクファクターである.また歯牙の動揺や欠損により,咀嚼機能障害や審美障害がある場合は,歯周状態に配慮した補綴治療を行う必要がある.今回は,これらに配慮して治療を行い良好な経過を得た症例を報告する.
2、症例
患者:65歳女性 主訴:歯周病を完全に治したい
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:歯科を受診するようになったのは,30歳代になってからという.う蝕治療が中心であったようで,疼痛があった場合に歯科を受診し,修復・補綴治療が終わると通院をやめるということが続いた.これまでの抜歯原因は覚えていない.最近,歯の動揺やブラッシング時の出血などの症状から,自身が歯周病ではないかと感じていたが,かかりつけ医院では満足のいく説明および対応をされなかったため,転院を決意し当院へ来院された.これまで歯周病について説明および治療は受けたことはないとのこと.
口腔内所見:臼歯部を中心に,歯肉の発赤および退縮を認めた.24はう蝕により残根状態であった.25に歯根破折線を認めた.37は前医による治療途中で仮封状態であった.24・37に動揺を認めた.大臼歯による咬合が右側しか存在せず,咀嚼障害を生じていた.両側とも犬歯誘導が存在し,側方運動時の咬合干渉は認めなかった.
3、診断
広汎型重度慢性歯周炎 ステージⅢ グレードC
歯牙の動揺および欠損に起因する咀嚼機能障害・審美障害
4,治療経過
根管治療および保存不可能歯の抜歯と並行して,歯周基本治療を行った.欠損部に対しては暫間補綴装置を装着し,咀嚼機能の回復を図った.再評価検査で,大臼歯部に,根分岐部病変と深い歯周ポケットが残存したため歯周外科治療を行うこととした.ヘミセクションやルートセパレーション,トンネリング等を含めた歯周外科治療を行い歯周ポケットは改善が認められた.下顎左側臼歯部の天然歯台の暫間ブリッジの動揺が残存してしまったため,後方歯を抜歯しインプラントによる補綴治療を行った.現在,治療後約7年になるが良好に経過している.
5、考察
本症例では,歯周外科を含む徹底的な歯周治療により感染除去を行い,ブリッジやインプラントを用いて口腔機能回復治療を行った.現在,SPT移行後, 約7年が経過するが,歯周組織およびインプラント周囲組織は安定している.感染除去と咬合状態を考慮することで,根分岐部病変を伴う重度歯周炎に罹患した歯牙であっても保存できる可能性が示唆された.
【略歴】
2001年 鶴見大学歯学部歯学科卒業
2005年 たんじデンタルクリニック設立
2021年 日本臨床歯周病学会認定医取得
【所属学会】
日本臨床歯周病学会会員
1、諸言
日本人の歯肉退縮の有病率は76%と非常に高い. 実際に日々の臨床の現場で目にしない日はないと言っていいだろう. 歯肉退縮は炎症性と非炎症性とに大別されるが, これはプラークコントロールが悪い患者にも良好な患者にも起こりうる疾患であることを意味している. この事も患者数の多さに関連があるだろう. 歯肉退縮への対応法は種々存在するが, その中の一つとして根面被覆術は実施頻度, 効果, 共に高いものと思われる. ひと口に根面被覆術といっても複数の種類が存在し, その選択には苦慮する事も多い. 切開, 剥離, 縫合をそれぞれどの方法を用いるかで術式名が決定する. 今回は縫合の段階においてフラップ弁の位置を考慮した症例を報告する.
2、症例
患者:72歳女性 主訴:歯がしみる
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:9年前より当院にて歯周治療, 補綴治療を含む全顎的な歯科治療を行い, メインテナンスを継続している.
口腔内所見:一部深いポケットが存在するものの, PCRも安定しており急性所見などは認めない. 42,43には以前より歯肉退縮を確認していたが, 症状もなく患者も治療を望まなかったので, 経過観察を継続していた. 今回のメインテナンス時に「歯がしみる」との訴えがあった.
3、診断
42, 43歯肉退縮 Millerの分類class3 Cairoの分類RT3
4,治療経過
メインテナンス中でありPCRも不良とは言えないが, 不適切及び過度のブラッシングをしている可能性があったため, 再度口腔衛生指導を行った.
その後に口蓋から採取した結合組織を用いた歯肉弁歯冠側移動による根面被覆術を行った. 術後もメインテナンスを継続し, 治療結果も良好に推移している.
5、考察
根面被覆術を行う際の歯肉弁歯冠側移動は, フラップ弁の位置付けをどの位置に設定するのかによって, 結果が大きく左右される. 根面被覆術は, 術式の選択, 既存歯肉の厚み, 移植する結合組織の質と量など考えるべき事項が多いが, その中でもフラップ弁の位置付けは重要ではないかと考えている.
【略歴】
1979年 東京医科歯科大学歯学部 卒業
1983年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科修了 歯学博士
1987年 ジュネーブ大学医学部歯学科 講師(〜1989年 9月)
1992年 鹿児島大学歯学部 助教授(歯科保存学講座2)
1999年 鹿児島大学歯学部 教授(歯科保存学講座2)
2003年 鹿児島大学歯学部附属病院 副病院長
2007年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 教授(歯周病学分野)
2008年 東京医科歯科大学歯学部附属病院 病院長補佐
2009年 昭和大学歯学部 客員教授 (現在に至る)
2014年 東京医科歯科大学 副理事
2015年 日本歯周病学会 理事長
2018年 東京医科歯科大学 名誉教授 (現在に至る)
2019年 総合南東北病院オーラルケア・ペリオセンター長 (現在に至る)
2021年 福島県立医科大学 特任教授 (現在に至る)
(主な所属学会)
日本歯周病学会(名誉会員、歯周病専門医・指導医、元理事長)、日本歯科保存学会(名誉会員、歯科保存治療専門医・指導医)、WCOI Japan 理事、口腔病学会名誉会員、American Academy of Periodontology (International Member、Editorial Advisory Board)、Asian Pacific Society of Periodontology (Councilor)、International Team for Implantology (Fellow)
(主な受賞)
2009年 R. Earl Robinson Periodontal Regeneration Award, AAP
2012年 William J. Gies Award Clinical Research Category, IADR / AADR
2018年 日本歯科医学会会長賞、日本歯周病学会学会賞、日本歯科保存学会学会賞
歯周治療を的確に進めることによって、probing depthの減少やprobing attachment levelでの付着の獲得が得られますが、破壊された歯周組織を完全に復元することは不可能です。近年の再生治療の進歩により、炎症によって破壊された歯周組織を元の健康な状態に回復させるという目標に近づきつつあります。さらに、検査技術の進歩、抗菌治療やレーザーの応用が加わり、多彩な歯周治療が可能となりました。また、歯周治療の知識と技術は、インプラント治療の最大の合併症であるインプラント周囲疾患の予防と治療に大きな力を発揮します。今後の歯科治療を進める上で、歯周治療の知識と技術の習得が不可欠です。
歯周炎は慢性歯周炎と侵襲性歯周炎に分けられていましたが、2017年AAP・EFP World Workshop 以来、歯周炎に統一されました。これまでの慢性歯周炎は生活習慣に大きく影響を受けますが、侵襲性歯周炎は遺伝的要因が深く関わってくると考えられています。近年、歯周病に対する遺伝的アプローチが積極的に行われ、いくつかの関連遺伝子が明らかとなりました。また、歯周病の最大の局所的病原因子であるプラーク細菌について、非特異細菌説、特異細菌説、さらに、レッドコンプレックスの時代からディスバイオーシスの時代へと変遷を続けています。
口腔と全身との関連性が科学的に追求され、歯周病が全身疾患に密接に関係していることが次第に明らかにされています。心血管疾患の病態の本質は、血管内皮に生じた傷害に対する炎症反応であり、慢性炎症を惹起する細菌に感染すると、末梢血管が直接傷害され動脈硬化の発症につながります。歯周病原細菌の感染によって血管壁に炎症が起こり、その結果新生内膜の肥厚や心筋虚血後の修復機転に異常をきたす可能性が示唆されています。糖尿病は、歯周病の修飾因子であり、糖尿病の重症化が歯周病の病態に悪影響を与えることが広く知られています。糖尿病患者は、歯周病原細菌に対する易感染性により歯周病に罹患しやすく、治癒しにくいと考えられています。最近の研究では、重症な歯周病患者は歯周局所で炎症性サイトカインが持続的に産生され、インスリンの作用を阻害するため、糖尿病が重症化しやすいと考えられています。また、2型糖尿病患者では、抗菌薬の局所投与を併用した歯周治療により、血糖コントロールが改善(血中HbA1c値が低下)することが報告され、注目を集めています。また、妊娠過程において妊婦が重症な歯周病に罹患していると、早産や低体重児出産の危険率が増加します。
周術期の歯周治療を中心とする口腔機能管理が手術後の誤嚥性肺炎等の予防や合併症予防、さらにはがんにおける化学療法や放射線治療による口腔内の疾病を軽減する支持療法であることが医療関係者の中で知られるようになりました。
これからの歯科医療は単なる局所的な治療の提供ではなく、全身の健康へ大きく貢献しなければなりません。超高齢社会において健康長寿社会を実現するためには、歯周病を予防し歯周治療を積極的に行うことにより、口腔の健康管理を通した全身の健康増進に寄与することが必須です。
09:35 ~ 10:00 | ブラキシズムを伴う広汎型慢性歯周炎に包括的治療を行なった一症例 【伊藤準/福島県勤務】 |
10:00 ~ 10:25 | 根面被覆術におけるフラップ弁の位置付け 【丹治栄展/福島県開業】 |
10:25 ~ 10:50 | 狭小な支持骨の歯を有する広汎型慢性歯周炎患者に対して包括的治療を行った一症例 【杉山豊/宮城県開業】 |
11:00 ~ 16:00 | 補綴治療と歯周病・気道との関わり 【今井俊広/鳥取県開業】 【今井真弓/中国四国支部】 |
Ⅰ.はじめに
歯周組織の破壊を増悪する因子としてブラキシズムがある.ブラキシズムを伴う歯周炎の治療には,炎症のコントロールだけでなく,歯周組織に外傷性因子が作用しないように配慮しなければならない.今回,ブラキシズムにより歯周炎が増悪したと考えられる患者に歯周治療およびインプラント治療を行なったので報告する.
Ⅱ.症例の概要
患者:58歳,男性. 初診:2018年5月
主訴:左下の被せ物が外れた,右上の被せ物がこわれ咬んだ時に違和感がある,左上がしみる,左顎の音がなる.
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:2年前まで被せ物や虫歯の治療で通院
診査所見:PCR:76.04%,PPD4mm以上:84.03%,BOP(+):56.25%.全顎的に咬耗,補綴物の不適,前歯部歯間離開を認めた.X線所見から,17,27,24,46に垂直性骨吸収,全顎的に歯根膜腔の拡大を認めた.
Ⅲ.診断名
広汎型慢性歯周炎(ステージⅣグレードB)
Ⅳ.治療計画
①歯周基本治療/②再評価/③歯周外科処置/④再評価/⑤口腔機能回復処置/⑥SPT
Ⅴ.治療経過
歯周基本治療は,TBI,SC,RP,咬合調整(斬間義歯,テンポラリークラウン),禁煙の指導を行い,保存不可能な17,27,46の抜歯を行なった.再評価後,歯周外科処置とインプラントの埋入処置を並行して行なった.歯周外科処置は24にトラフェルミンを使用した再生療法を行なった.再評価後にプロビジョナルレストレーションによる咬合,顎機能の状態を確認し最終補綴を装着した.また,治療期間中はナイトガードを着用し,SPT移行後も使用を継続している.
Ⅵ.まとめおよび考察
本症例は,ブラキシズムにより咬合高径が低下し,全顎的に歯周炎が進行したと考えられる.歯周治療,インプラント治療および補綴治療によりバーティカルストップを確立し,臼歯部をディスクルージョンするようガイドを付与,ナイトガードを使用してブラキシズムに対する力のコントロールを行った.今後も定期的にメインテナンスを行い咬合の確認をすることが必要である.
2001年 鶴見大学歯学部歯学科卒業
2005年 たんじデンタルクリニック設立
2021年 日本臨床歯周病学会認定医取得
1、諸言
日本人の歯肉退縮の有病率は76%と非常に高い. 実際に日々の臨床の現場で目にしない日はないと言っていいだろう. 歯肉退縮は炎症性と非炎症性とに大別されるが, これはプラークコントロールが悪い患者にも良好な患者にも起こりうる疾患であることを意味している. この事も患者数の多さに関連があるだろう. 歯肉退縮への対応法は種々存在するが, その中の一つとして根面被覆術は実施頻度, 効果, 共に高いものと思われる. ひと口に根面被覆術といっても複数の種類が存在し, その選択には苦慮する事も多い. 切開, 剥離, 縫合をそれぞれどの方法を用いるかで術式名が決定する. 今回は縫合の段階においてフラップ弁の位置を考慮した症例を報告する.
2、症例
患者:72歳女性 主訴:歯がしみる
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:9年前より当院にて歯周治療, 補綴治療を含む全顎的な歯科治療を行い, メインテナンスを継続している.
口腔内所見:一部深いポケットが存在するものの, PCRも安定しており急性所見などは認めない. 42,43には以前より歯肉退縮を確認していたが, 症状もなく患者も治療を望まなかったので, 経過観察を継続していた. 今回のメインテナンス時に「歯がしみる」との訴えがあった.
3、診断
42, 43歯肉退縮 Millerの分類class3 Cairoの分類RT3
4,治療経過
メインテナンス中でありPCRも不良とは言えないが, 不適切及び過度のブラッシングをしている可能性があったため, 再度口腔衛生指導を行った.
その後に口蓋から採取した結合組織を用いた歯肉弁歯冠側移動による根面被覆術を行った. 術後もメインテナンスを継続し, 治療結果も良好に推移している.
5、考察
根面被覆術を行う際の歯肉弁歯冠側移動は, フラップ弁の位置付けをどの位置に設定するのかによって, 結果が大きく左右される. 根面被覆術は, 術式の選択, 既存歯肉の厚み, 移植する結合組織の質と量など考えるべき事項が多いが, その中でもフラップ弁の位置付けは重要ではないかと考えている.
1988年 岩手医科大学歯学部卒業
岩手医科大学歯学部歯科補綴学第1講座入局
1993年 杉山歯科医院勤務
2000年 日本臨床歯周病学会入会
2006年 東北大学歯学部大学院卒業
現在に至る
【はじめに】狭小な支持骨の歯を有する広汎型慢性歯周炎患者に対して,大臼歯部にインプラントを埋入後M.T.M.を行いプロビジョナル・レストレーションにて経過観察,反対側はスプリット・クレストを用いたインプラント埋入を行った.適切な臼歯離開獲得のため,矯正治療によるV字型歯列弓の改善ならびに咬合平面の修正,適切なガイドの付与により左側方運動が可能になり,良好な予後が得られたので報告する.
【初診】2012年11月
【患者】54歳・女性
【主訴】しっかりと噛めるようにインプラントで治してほしい,前歯のかぶりが欲しい.
【現病歴】歯周治療を中心に治療をしていたが,インプラント治療を希望されたので通院していた歯科医院より紹介され来院.
【診査・検査所見】PSは12%と良好だが,B.O.P.陽性率40%,4mm以上のポケット29%であった.左下5番は支持骨が狭小で極度の近心傾斜を呈していた.また右下臼歯欠損部歯槽頂の骨幅は3mm弱であった.さらに、下顎を左側に動かすことが不可能であった.
【診断】広汎型慢性歯周炎ステージⅡグレードA、下顎臼歯部欠損
【治療計画】1)歯周基本治療 2)再評価 3)インプラント埋入,プロビジョナル・レストレーション 4)矯正治療 5)再評価 6)口腔機能回復治療 7)再評価 8)メインテナンス
【考察・まとめ】狭小な支持骨の傾斜歯に対して遠心にインプラントを埋入後M.T.M.を行いプロビジョナル・レストレーションにて咬合機能を付与し、経過を観察した.狭小な顎提に対してスプリット・クレストを伴うインプラント埋入により咬合支持を獲得できた.さらに咬合治療により不能であった左側方運動も可能となった。プラーク・コントロールは安定しているので分岐部病変を有する右下7番を中心にメインテナンスで経過を追っていきたい。
1979年 東北歯科大学(現・奥羽大学歯学部)卒業
1979年 原宿デンタルオフィス勤務
山崎長郎先生に師事
1984年 米国L.A.にてRaymond.L.Kim先生に師事
その間 University of Southen California
にて卒後研修コース受講
1987年 鳥取県米子市にて今井歯科クリニック開業
現在に至る
東京SJCD会員
日本臨床歯科医学会指導医
SJCD研修コースインストラクター
日本顎咬合学会会員、指導医
硬組織再生生物学会会員
書籍
臨床咬合補綴治療の理論と実践
臨床咬合補綴治療
さわる咬合さわらない咬合
新版 臨床咬合補綴治療
実践!「効果のあがる」スプリント治療の進め方
1979年 東北歯科大学(現・奥羽大学歯学部)卒業
1979年 原宿デンタルオフィス勤務
山崎長郎先生に師事
1984年 米国L.A.にてRaymond.L.Kim先生に師事
その間 University of Southen California
にて卒後研修コース受講
1987年 鳥取県米子市にて今井歯科クリニック開業
現在に至る
東京SJCD会員
日本臨床歯科医学会指導医
SJCD研修コースインストラクター
日本顎咬合学会会員
書籍
臨床咬合補綴治療の理論と実践
臨床咬合補綴治療
さわる咬合さわらない咬合
新版 臨床咬合補綴治療
実践!「効果のあがる」スプリント治療の進め方
現在はペリオのコントロールがされていない歯の補綴治療は長期健康維持は困難、ということは周知となっています。Perio-Prosthodontics、私共が歯科医になった40年前は、日本ではまだペリオと補綴治療の連携は重要視されていませんでした。
健全な歯であれば、ピーナッツをカリカリ噛み砕くことができます。それを口腔外、例えばまな板の上にピーナッツを置いて飲み込める位の状態まで粉砕しようとしたら、金槌が必要かもしれませんし、腕の筋肉もけっこう使うでしょう。かなりの力であることがわかります。歯と歯は容易に粉砕していますが、そのためには顎口腔系で咀嚼筋と顎関節が健全に連動し動き、歯周組織が歯を支えることが出来る状態であることでなされています。動くことで機能し、力が生じますが、咀嚼は生命維持に必要な荷重ですから、正常な組織では耐久可能なはずです。そしてまた、生理的で適正な荷重は、生体はそれなりに必要ともされています。
適性な荷重を越えた力が加われば、生体には負荷(バイオメカニカルストレス)となり、顎口腔系の組織が破壊される可能性があります。メカニカルストレスにより顎関節、咀嚼筋に影響したり、歯が欠けたり、歯周組織に影響したり・・・と。しかし、この力(咬合)と歯周組織への影響に関しては、グローバルに見ても長く咬合による歯周組織への影響否定論の方が多いことは認識しています。
私共は、一般臨床家(GP)です。歯周病の専門医ではありませんが、歯周病は日々の臨床で切り離すことが出来ません。また、クラウンの調整にしても咬合とも関わっています。GPは顎口腔系の様々な組織全般に関わらざるおえないのです。
歯周病と咬合について、40年を越えた臨床医としての経験から話させていただきたい思っています。
10:45 ~ 12:30 | (1/3)歯周治療と歩んできた歯科医師33年生 -歯肉剝離搔爬術、Emdogain®そしてインプラント治療の見解- 【木村英隆/九州支部 医療法人木村歯科】 |
13:00 ~ 14:00 | (2/3)歯周治療と歩んできた歯科医師33年生 -歯肉剝離搔爬術、Emdogain®そしてインプラント治療の見解- |
14:00 ~ 15:00 | (3/3)歯周治療と歩んできた歯科医師33年生 -歯肉剝離搔爬術、Emdogain®そしてインプラント治療の見解- |
【略歴】
1990年3月 九州大学歯学部 卒業
1990年4月 船越歯科歯周病研究所 (―1999年1月)
1999年2月 木村歯科歯周研究所 開業
2011年3月 医療法人木村歯科 法人成り
【所属学会・指導機関】
九州大学歯学部臨床教授、日本歯周病学会理事・歯周病専門医・指導医
日本臨床歯周病学会副理事長・指導医・歯周インプラント指導医、日本顎咬合学会認定医
ITI Fellow、九州大学歯学部歯科医師臨床研修指導歯科医、船越歯周病学研修会インストラクター
木村歯科歯周治療研修会 主宰
歯周治療は原因となるデンタルプラークおよび歯石等の炎症性因子の除去に始まりますが、診査・診断を基に歯周基本治療・歯周外科手術・メインテナンスの流れに沿って進められます。歯周基本治療では原因除去を主とした“機械的アプローチ” とりわけスケーリング・ルートプレーニングが基本となります。歯肉炎または軽度歯周炎では歯周基本治療で十分に治癒しますが、深い歯周ポケットを呈する中程度歯周炎以上では歯周基本治療のみでは病態の治癒は困難となります。歯周基本治療後の再評価でプロービング深さが4mm以上は“歯肉剝離掻爬術”の適応症です。さて皆さんは4mm以上の歯周ポケットに対してどのように対応しているでしょうか。何らかの歯周外科手術をしていますか? 現状はほとんどの場合、メインテナンスに移行しているのでないでしょうか。ある日気が付けば骨吸収がさらに悪化していたという経験はありませんか?
歯周治療の理想的な目標は、失われた歯周組織を再生することです。すなわち再生療法によって歯周ポケットを減少し歯槽骨を再生することです。再生療法は、1960年代初頭から現在に至るまでの半世紀の間に目覚しい進歩を遂げ、長い歴史的変遷の中でその概念および術式は確立され、歯周治療には欠かせない手技となりました。またインプラント治療も咬合機能を再構築するための必須オプションになっています。高い予知性に裏付けられたインプラント治療は全顎無歯顎患者はもちろん、天然歯が混在する部分欠損および単独歯欠損にまで適応されるようになりました。欠損部分の歯槽骨量は様々ですが、インプラントを埋入するためには歯槽骨の十分な幅と深さが必要です。安心安全なインプラント治療のためは十分な歯槽骨を再生することが大切です。
そこで今回、日々の臨床で遭遇する歯周病罹患者に対し、歯周治療の流れを理解し歯周外科手術、再生療法そしてインプラント治療を行うための見解および手技について解説したいと思います。
10:10 ~ 10:40 | 認定歯科衛生士取得セミナー 【千葉直子 指導衛生士/東北支部】 |
10:40 ~ 11:10 | 会員発表1 【森 みな美 歯科衛生士/東北支部 永田歯科医院】 |
11:10 ~ 11:40 | 会員発表2 【田村 藍里 歯科衛生士/東北支部 くにみ野さいとう歯科】 |
認定歯科衛生士取得セミナーはこれから日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士を取得予定の衛生士向けの講演会となります。参加資格は東北支部所属歯科衛生士のみとなります。認定歯科衛生士を目指しているならば、ぜひご参加してください。合格のポイントと質疑応答の対策など、具体的に説明いたします。今回の研修会でケースプレゼンテーションをされると、認定資料提出の症例数が減ります。本来5症例提出のところ、2症例免除の3症例提出になります。認定試験時には必ずプレゼンテーションをしなくてはなりませんので、本番の練習も兼ねて発表することをお勧めいたします。アドバイスが欲しい方もご相談ください。
未定
未定
10:00 ~ 10:30 | 認定歯科衛生士取得セミナー 【千葉直子 指導衛生士/東北支部】 |
認定歯科衛生士取得セミナーはこれから日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士を取得予定の衛生士向けの講演会となります。認定歯科衛生士を目指しているならば、ぜひご参加してください。合格のポイントと質疑応答の対策など、具体的に説明いたします。