10:05 ~ 10:15 | 新支部長就任のご挨拶 【神山剛史/JACP関東支部・支部長】 |
10:15 ~ 10:35 | 患者のライフステージや生活背景を考慮した限局型歯周炎の一症例 【橋本奈美/歯科衛生士/メイ・ロイヤル歯科医院】 |
10:35 ~ 10:55 | 再生療法後に矯正歯科治療を行った一症例 【楠 侑香子/東京医科歯科大学歯科総合診療科】 |
11:05 ~ 11:30 | 患者の生活背景からアプローチした広汎型侵襲性歯周炎の一例 【髙野 真/高野歯科クリニック】 【奥平美香/歯科衛生士】 |
11:30 ~ 11:55 | 臼歯部咬合崩壊症例に対して、患者年齢と個体差を考慮し対応した一症例 【安藤正明/安藤デンタルクリニック】 【渡邉真由美/歯科衛生士】 |
11:55 ~ 12:20 | 総合ディスカッション |
13:30 ~ 14:10 | 若年層のライフステージにおける歯周治療の文献レビュー 【工藤 求/JACP関東支部・文献委員会委員長】 |
14:30 ~ 16:50 | ライフステージを考慮した歯周治療〜若年期~ 【宮本泰和先生 (Dr. Yasukazu Miyamoto) /JACP関西支部・元JACP理事長】 |
2020年1月に始まった日本での新型コロナウイルス感染拡大。
誰が今の生活を想像できたでしょうか。さまざまなイベントは中止、もしくは延期となり、密を避けた行動は人と人との距離感を変えました。
そのような中、日本臨床歯周病学会関東支部では、いち早くWeb講演会を開催し多くの革新的な取り組みを行いました。前支部長の清水宏康先生におかれましては、コロナ禍の難しい状況の中での舵取り、本当にお疲れ様でした。
新執行部では「現地の熱量を感じ取れるリアル開催」と、「歯科医師、歯科衛生士が共に学べる医院丸ごと参加」にこだわりたいと思います。
昨今、「人生100年時代」という言葉をあらゆる分野で耳にします。
そんな超高齢社会において、患者のQOL向上に貢献することが我々歯科医療従事者の使命ではないでしょうか。
そこで今期の関東支部教育研修会の大テーマを「ライフステージを考慮した歯周治療」と称して、
2年間①若年期②中年期③高齢期④老年期・フレイル期
という順にシリーズ化して各年代へのアプローチを掘り下げていきたいと考えております。
さまざまな垣根を越えた、患者ありきの熱いディスカッションを大切にし、会場を熱気で包み込みます。ぜひご参加いただき、体感していただければ幸いです。
2年間、ご理解ご協力の程よろしくお願いいたします。
平成19年横浜歯科医療専門学校卒業
平成27年医療法人メイ・ロイヤル在籍中
令和2年日本歯周病学会認定歯科衛生士取得
代生会
JIPI
ASC
日本歯周病学会
日本臨床歯周病学会
女性のライフステージには、結婚や妊娠、出産、育児と、様々な状況を過ごす期間がある。その期間には患者自身での口腔内の健康を維持するのが困難であり、時にはその後の口腔内の状況を悪くしたり、残すべき歯を失ったりする症例もしばしば見られる。私も自身の出産、育児を経験した母親として、その時期の患者に寄り添い話を聞き、歯科衛生士という立場から口腔内を健康に保つ為のサポートをしている。今回はそのような患者のライフステージを考慮し患者に寄り添い、歯周病治療を行い、SPTへ移行するまでの記録を発表する。
2007年鶴見大学歯学部卒業
2010年東京医科歯科大学大学院歯周病学分野大学院研究生
2019年東京医科歯科大学歯学部附属病院歯科総合診療部医員
2019年日本歯周病学会認定専門医
2023年東京医科歯科大学病院歯科総合診療科非常勤講師
兵庫県楠歯科医院勤務医
はじめに
若年期は生活環境に大きな変化が起こりやすいライフステージである。そのような時期に広汎型侵襲性歯周炎(ステージⅣグレードC)に罹患した20歳の大学生の治療には、何十年後の人生も見据え、寄り添った治療が必要である。回復力が高い時期でもあるため、積極的な介入(歯周組織再生療法及び矯正治療)を行なった。病状安定期に移行して短期間であるが、経過が安定しているためここに報告する。
症例概要
患者:20歳女性初診:2017年3月
主訴:前歯が動いて歯並びが悪くなってきた
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:3ヶ月前から歯の動揺を自覚し、近医でスーパーボンドによる暫間固定を行うも脱離を繰り返した。歯肉の腫脹が強くなり近医より大学病院での歯周病の専門的な治療を勧められた
家族歴:母親が45歳で部分床義歯を使用している。17歳の妹はブラッシング時に出血が度々ある。
診断名広汎型侵襲性歯周炎ステージⅣグレードC
治療計画
①歯周基本治療(プラークコントロール、う蝕治療、SRP)
②再評価検査
③歯周外科治療
④再評価検査
⑤口腔機能回復治療(矯正治療、補綴治療)
⑥再評価検査
⑦SPT
治療経過
就職活動中で通院頻度に制約があったため、歯周基本治療後、FMD(Full-mouthdisinfection)を行なった。歯周ポケット及び垂直性欠損が残存した12に関してはリグロスを使用した歯周組織再生療法を行った。再評価検査後、矯正治療を行なった。矯正治療終了後に26の最終補綴治療を行い、SPTへ移行した。考察及びまとめ初診時のエックス線上で12は予後不良と思われたが、原因を見極め忠実に基本治療を行うことで保存への道筋が得られた。また患者の真面目な性格や高い回復力に助けられ、再生療法が奏功し、保存可能となったと考える。再生療法後の歯列矯正が完了して経過が短いため、安定した状態を長期に渡り維持できるように努めたいと思う。
キーワード:FMD 再生療法矯正治療
高野歯科クリニック院長
1987年昭和大学歯学部卒業
1991年高野歯科クリニック開業
2000年歯学博士(昭和大学)
2004年日本顎咬合学会認定医
2020年東京西の森歯科衛生士専門学校卒業
2020年高野歯科クリニック勤務
Ⅰ.はじめに
若年期での歯周炎の進行は将来的な欠損を招くだけでなく、残存歯の動揺は食生活をはじめとしたQOLの低下を来たす。通常の歯周治療に加えて、長い経過を考慮しての継続的な関わりは不可欠であり、また短期間で歯周炎の進行を許した経緯から生活背景を含めた対応が求められる。今回、多くのhopeless teethを有する広汎型侵襲性歯周炎に罹患した患者に対して、行動変容により生活や意識を改善するとともに、抗菌療法、歯周基本治療により口腔内の改善に努めた一症例を報告する。
Ⅱ.症例の概要
患者:28歳、男性、非喫煙者
初診:2018年11月
主訴:上の前歯が動揺して気になる
全身既往歴:喘息
歯科的既往歴:小児期のむし歯治療以来の歯科受診
Ⅲ.診断名
広汎型侵襲性歯周炎ステージⅣグレードC
Ⅳ.治療計画
①歯周基本治療(プラークコントロール,SRP)・抗菌療法・食事(生活)指導
②再評価
③SPT
Ⅴ.治療経過
プラークコントロール指導と併用して抗菌療法、SRP・咬合調整・12-22固定・食事(生活)指導を行い、再評価後SPTに移行した。Ⅵ.考察およびまとめ小児期から28歳まで歯科と一切関わりを持たなかった重度の広汎型侵襲性歯周炎の患者に対して、当初は多くの戸惑いもあり、通り一遍の治療だけでは病態の改善は難しいと考えた。どうしてこのような状態になったのかを患者と一緒に考えながら治療を進めていくうちに、少しずつ歯周組織の改善が認められた。それでも永年に渡る生活習慣を改善することは並大抵のことではなく、新たな問題も散見される。今後は、本人はもとよりメインテナンスを含め、術者側の根気強く患者に寄り添う姿勢がとても大切になると考えている
キーワード:生活背景・歯周基本治療・抗菌療法
安藤デンタルクリニック院長
2003年日本大学松戸歯学部卒業
2013年安藤デンタルクリック開院
日本歯周病学会専門医
日本臨床歯周病学会認定医
日本包括歯科臨床学会認定医
安藤デンタルクリニック歯科衛生士
2006年東京医学技術専門学校
2020年安藤デンタルクリニック勤務
Ⅰ.はじめに
重度歯周炎患者の治療においては,支持組織の低下を認めるため,炎症と力のコントロールを図ることが重要と考えている.また,治療目標においては,患者のライフステージへの配慮と予後を見据えるうえで個体差を考慮することを大切にしている.今回,歯周炎の進行や歯の欠損,歯の病的移動,下顎位の偏位,顎関節症など,様々な問題を抱えている若年者の臼歯部咬合崩壊症例に対して,患者年齢と個体差を考慮し, 咬合再構成を図った症例を報告する.
Ⅱ.症例概要
患者:38歳男性初診:2016年3月
主訴:歯の動揺で噛めない.歯肉からの出血が気になる.
全身的既往歴:特記事項なし.
歯科的既往歴:他院にて37,47を5年前,24を8ヶ月前に歯周病のため抜歯となった.
Ⅲ. 診断名
限局型慢性歯周炎ステージⅢグレードC
右側顎関節関節円板前方転位の疑い
Ⅳ.治療計画
①,歯周基本治療②,再評価③,歯周外科④,再評価⑤,咬頭嵌合位の安定後,下顎位の模索⑥,矯正治療⑦,プロビジョナルレストレーション⑧,再評価⑨,補綴処置⑩,SPT
Ⅴ. 治療経過
炎症のコントロールと咬合支持の強化により咬頭嵌合位の安定を図った後に,下顎位の評価を行い,矯正治療にて咬合の安定を図った.その後,プロビジョナルレストレーションを指標に補綴処置へと移行した.現在,SPT移行から2年経過し,現在のところ病態は安定傾向にある. Ⅵ. 考察およびまとめ若年者の重度歯周炎を伴う臼歯部咬合崩壊症例に対して,患者年齢と個体差を考慮し,咬合再構成を図ったことは,患者のQOLの向上に有効であったと考える.また,炎症と力のコントロールを図ることで,若年者持つ高い治癒能力を引き出せた結果、歯周組織の改善に繋がったと考える.今後もSPTにて注意深く観察していきたい.
キーワード:臼歯部咬合崩壊, 患者年齢,個体差,炎症と力のコントロール
歯周炎はギネスにも乗るほど世界で最も多い感染症と言われているが、中でも20代、30代の若いライフステージで重症化する患者がある一定数いる。これらの病名は歴史の中で、色々と病名が変更されてきた。
1923年のGotliebのDiffuse Alveolar Atrophy(広汎型歯槽骨萎縮症)と名付けられた時代から、かつてはExtream Downhill(極端に悪くなる患者)、後に、若年性歯周炎、急速進行性歯周炎、早期発症型歯周炎、侵襲性歯周炎、そして現在のGradeCなどと色々と呼び名が変わってきた歴史がある。呼び名は変われど、これらのような患者は一定数いることは変わっていない。
さて、これまでの歯周治療の歴史の中で、これらの患者の治療は色々行われてきたが、未だ決定打はない。それぐらいこの手の侵襲性歯周炎Stage3,4GradeCの治療は一筋縄ではいかないことが多い。今回の関東支部例会ではこの若いライフステージの歯周治療に焦点を当てている。
また、それに伴い我々関東支部では日本臨床歯周病学会としては初めて文献委員という組織を立ち上げた。
第一回文献委員の文献レビューは「若年層のライフステージにおける歯周治療」について行う。すなわち
①侵襲性歯周炎(グレードC)の特徴と概論
②侵襲性歯周炎(グレードC)に対する抗菌療法
③侵襲性歯周炎(グレードC)の再生療法
④侵襲性歯周炎(グレードC)のインプラント治療
⑤侵襲性歯周炎(グレードC)に対する歯周矯正
上記テーマに分けて、臨床例を提示しながら文献レビューを行いたいと思う。
会員の皆さんの前に、明日来るかもしれない侵襲性歯周炎(グレードC)の患者さんの治療の一助になれば幸いである。
委員長 工藤求
委員 星嵩 前川祥吾 長嶋秀和 後藤弘明 渡辺典久 井畑匡人 小柳達郎 吉野宏幸
[略歴]
1983年 岐阜歯科大学卒業(現・朝日大学歯学部)
1986年 宮本歯科医院開業
2000年 四条烏丸ペリオ・インプラントセンター移転開業
(2022年に医療法人泰歯会四条烏丸歯科クリニックに改名)
2007年~ 朝日大学歯学部客員教授
2008~2012年 JIADS理事長
2011~2012年 日本臨床歯周病学会理事長
2022年〜 IPRT (歯周再生療法マスターコース)主宰
[所属]
・日本臨床歯周病学会会員
・日本歯周病学会会員、歯周病専門医
・米国歯周病学会会員
出版図書:
・コンセプトをもった予知性の高い歯周外科処置(共著)
・再生歯科のテクニックとサイエンス(編著)
・歯周再生療法を成功させるテクニックとストラテジー(宮本泰和 / 尾野誠 著)
その他、多数。
歯科疾患実態調査(平成28年)によれば、成人の約7割に歯肉に歯周病の所見が見られると報告されています。さらに、4mm以上の歯周ポケットを有する患者数は、若年層でも30〜40%で、中・高年層にかけてその数値は徐々に高くなり、約50〜60%に至っています。また、若年層における抜歯原因は「う蝕」が第1位であり、歯周病は比較的少ないのですが、35〜39歳の段階では約12%となり、それ以降、徐々にその割合が増加して高齢層では約50%が歯周病で抜歯に至るというのが現状です。ゆえに、若年層においては如何に徹底した予防を行うか、そして進行した歯に対しては如何に適切な治療を行うかが、将来の歯の喪失に歯止めをかけることに繋がると考えられます。
若年層の歯周治療に関しては歯周基本治療を行うことは必須ですが、進行した骨吸収を伴う患者に対しては、歯周再生療法が第一選択と考えています。その理由として、若年者の組織再生能力は、中高年者に比べて旺盛であり、良好な結果が得られることが多いと考えています。若年層の段階で骨吸収の進行を阻止できれば、その後の歯列の崩壊を阻止できるので、歯周補綴などの大掛かりな治療を避けることも可能になると思われます。さらに、個人的な印象ですが、歯周再生療法を行い、良好な結果が出ている患者はリコール率が高くなっているように思われます。定期検診の継続は、若年者の将来の歯列崩壊を防ぐためにも効果的であることが想像できます。
今回の講演では、関東支部の掲げた「ライフステージを考慮した歯周治療」というメインテーマの中で、若年者に対して歯周再生療法を行なった症例を中心に提示させて頂き、その治療法の有効性や意義について考察を加えてみたい。
09:30 ~ 16:30 | ハンズオン 【小林明子 児玉加代子 内藤和美 塩浦有紀/講師は当学会の「指導歯科衛生士」です。】 |
10:00 ~ 10:10 | 開会挨拶 【清水宏康/関東支部支部長】 |
10:00 ~ 10:10 | 主管挨拶 【申 基喆/明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座歯周病学分野教授・実行委員長】 |
10:10 ~ 10:30 | 炭酸アパタイトを用いた歯周組織再生療法の有効性について:イヌ1壁性骨欠損モデルにおける組織学的評価とヒトでの前向き観察研究を通して 【岡田 宗大/東京医科歯科大学歯周病学分野】 |
10:30 ~ 10:50 | 歯冠長延長術を整理する 【小沼 寛明/慶應義塾大学病院医学部歯科口腔外科学教室】 |
10:50 ~ 11:10 | 歯周基本治療が唾液中のエクソソーム内の成分に及ぼす影響 Effect of initial periodontal therapy on components in saliva exosomes 【山口 亜利彩/日本大学松戸歯学部歯周治療学講座】 |
11:30 ~ 11:50 | 歯冠長延長術と歯牙移植により咬合再構成を行った一症例 【林 直也/関東支部】 |
11:50 ~ 12:10 | 歯周基本治療と生理的骨形態の獲得 【野田 昌宏/関東支部】 |
13:20 ~ 13:40 | 低出力超音波 (LIPUS) を応用した新規歯周治療へのアプローチ 【間中 総一郎/日本大学歯学部保存学教室歯周病学講座】 |
13:40 ~ 14:00 | 広範型慢性歯周炎患者に対し、歯周組織再生療法を行い、再生が認められなかった部位に対し骨整形を追加した1症例 【大塚 源/日本歯科大学附属病院総合診療科】 |
14:00 ~ 14:20 | 歯周病患者におけるインプラント周囲のプロービング時の出血に関する臨床研究 【小玉 治樹/明海大学 歯学部 口腔生物再生医工学講座 歯周病学分野】 |
15:00 ~ 16:40 | ソフトティッシュマネジメントの低侵襲化を考える 【林 丈一朗/明海大学 歯学部 口腔生物再生医工学講座 歯周病学分野】 |
16:40 ~ 16:45 | 閉会挨拶 |
生体骨の主要構成成分はリン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイトであるが、その水酸基が一部、炭酸基に置換した炭酸アパタイトも存在し、生体内において破骨細胞による吸収が認められ、骨に置換されることが知られている。私達の研究グループでは、イヌの一壁性骨欠損モデルを用いた前臨床研究や、垂直性骨欠損、根分岐部病変Ⅱ度、Ⅲ度の骨欠損を有する歯周炎患者に対する前向き観察研究を実施し、炭酸アパタイトの歯周組織再生療法への有効性の評価を行ってきた。イヌを用いた前臨床研究での組織学的解析では、歯槽骨高さおよび新生骨面積に関して炭酸アパタイト群は、コントロール群と比較し、で良好な結果を示した。またヒトでの前向き観察研究では、術後9ヶ月の垂直性骨欠損において、平均ポケット深さの減少量は、4.3mm、クリニカルアタッチメントゲインは4.0mmであった。以上の所見より、炭酸アパタイトを用いた歯周組織再生療法は有効であることが示唆された。
略歴
2015年 東京歯科大学卒業
2015年 慶應義塾大学病院医学部歯科口腔外科学教室 入局
2016年 同教室 歯科医師臨床研修プログラム 修了
2019年 同教室 助教
日常臨床において、歯肉縁下齲蝕や歯肉縁下に及ぶ破折、もしくは十分な支台歯高径が確保できない等、補綴・修復治療行うことが困難なケースは非常に多い。条件の悪さに目を瞑り妥協的な治療を行なったことや、安易に抜歯を提案しインプラント治療を選択した経験のある歯科医師も多いだろう。上記のようなケースで適切な治療を行うための手段として、歯冠長延長術が挙げられる。歯冠長延長術により歯肉縁上の歯質の量を確保することで、確実な齲蝕の除去、形成、圧排、印象、防湿、接着操作を行うことが可能となる。
そしてもう一つ、ガミースマイルに代表される、臨床的歯冠長が短い事による審美障害に対してもこの術式は選択される場合がある。ガミースマイルの原因は多岐にわたるため適応症例の選択が必要だが、スマイル時の歯肉の露出量をコントロールする事で審美的な結果を得ることができる。
歯冠長延長術は、手技的には簡便な外科処置ではあるが、解剖学的な制限や臨在歯との関係、角化歯肉の幅や歯槽骨頂の位置など、処置を行う際の注意事項は多岐にわたる。
予知性の高い良好な結果を得るため本術式において考慮すべき点を、拙いいくつかの症例を供覧しながら整理したい。
2018年 日本大学松戸歯学部卒業
2019年 日本大学松戸歯学部附属病院臨床研修歯科医師修了
2019年 日本大学大学院松戸歯学研究科入学
【目的】現在の歯周組織検査は,プロービング深さ(PD),クリニカルアタッチメントレベル(CAL),Bleeding on probing(BOP)およびエックス線での歯槽骨の吸収状態で歯周組織の破壊の程度を評価しているが,歯周炎の活動性や予後を正確に評価するのには限界がある。本研究は,中等度~重度歯周炎患者(ステージⅢ~Ⅳ)を対象に,歯周基本治療前後に唾液を採取し,歯周病臨床パラメーターの変化と唾液中のエクソソーム内の成分を比較し,歯周病バイオマーカーとしての有用性を解析した。
【材料と方法】初診時歯周炎患者から唾液を採取し,基本治療修了後に再度唾液を採取し,エクソソームを精製した。エクソソームから総タンパク質,全RNAを抽出後,C6,CD81,TSG101およびHSP70の発現量の変化をWestern Blotで,miRNAの発現量をリアルタイムPCRで解析した。
【結果と考察】エクソソーム中のC6のタンパク質量の変化は,患者によって結果が異なり,基本治療後にC6の発現量が増加した患者群は,C6の発現量が減少した患者群と比較し,基本治療前後のPISAが有意に高値であった。唾液中のエクソソーム内のmir-142,mir-143およびmir-223の発現量は,基本治療前と比較して治療後に有意に減少した。今後は唾液中のエクソソーム内の成分の変化のメカニズムについて解析を進める予定である。
2005年 日本大学歯学部卒業
2005年 神奈川県横浜市勤務
2013年 神奈川県鎌倉市勤務
2017年 東京都世田谷区 はやし歯科・矯正歯科開院
臼歯部咬合支持の減少により残存歯への負担が強まると、残存歯の歯周疾患や二次カリエスの進行を助長することがある。
このような症例に対して臼歯部咬合支持の再建を行うことで、残存歯への負担を減少させることができるのではないかと考える。
義歯やインプラントによる臼歯部咬合の獲得が行われることが多いが、歯牙移植もその一方法として有効であり、患者の口腔内状況を把握し、患者それぞれに適した方法を検討し、治療に臨むことが大切だと考える。
今回、臼歯部咬合支持の弱体化した患者に対して歯牙移植を行い、臼歯部咬合支持の再建を行った結果、残存歯への負荷を減少することが出来た症例を報告する。
現在移植から約9年が経過し、移植歯の頬側にもCT上で骨が確認され、現在も咬合支持歯として機能している。また、咬合支持獲得により、治療開始時に歯根膜腔の拡大の見られた残存歯への負荷が減少していることが確認された。
今後、術後の経過観察を行うことで自分の行なった治療の妥当性を検討し、また、今後起こりうるトラブルに対応していきたい。
2010年 奥羽大学歯学部卒業
2011年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野入局
2016年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野 卒業
2017年 東京医科歯科大学歯学部附属病院 歯周病外来 医員
2018年 つだぬまオリーブ歯科クリニック、九段デンタルクリニック 勤務
2020年 両国デンタルクリニック 開院
歯周炎の原因は様々な要因が絡み合い、歯肉の炎症と歯槽骨の吸収という形で現れることは周知の事実であるが、最も重要な予防策は、プラークコントロールとプラークの堆積しづらい口腔内環境を達成することであり、これによって歯周炎進行のリスクを下げることができる。
歯周治療を行う際には、患者のモチベーションとプラークコントロールを向上させることから始まり、歯周基本治療で徹底した炎症の除去とプラークリテンションファクターをなくすことが非常に重要であり、その成否が後の歯周病外科治療の確実性や成功率にも繋がってくる。歯肉や歯周組織の炎症を除去するだけでなく、歯肉や歯槽骨を生理的な形態に整え、プラークコントロールしやすい口腔内環境の確立が可能となり、より良好な結果を長期的に期待できるようになった。
今回、これらの治療によって治療後のメインテナンスが簡略化され、歯周炎の再発リスクを減らすことできたことを実感した症例を報告させていただきたい。
2010年 日本大学歯学部 卒業
2011年 日本大学大学院歯学研究科歯学専攻 入学
2015年 日本大学大学院歯学研究科歯学専攻 修了
2015年 日本大学歯学部保存学教室歯周病学講座 専修医
2019年 日本大学歯学部保存学教室歯周病学講座 助教
日本歯周病学会 (認定医)
日本歯科保存学会 (認定医)
日本口腔インプラント学会
歯周病は細菌感染による炎症性疾患である。歯周病による骨吸収は自然回復する事がなく、歯周組織再生療法を行う事が多い。しかし、適応症は限定的であり、かつ完全に回復する事は難しく、特に硬組織再生には時間がかかり治療期間も長くなる。また、歯周組織再生療法を成功に導く条件として口腔環境を良好に維持する事が重要であるが、細菌による炎症のコントロールはセルフケアに依存する。
低出力超音波 (LIPUS)は非侵襲的に骨形成を促進し、整形外科では骨折治療で保険適応かつ臨床応用され、矯正では歯の移動を促進させる事を期待し、臨床応用が始まっている。また、in vitroでは、LIPUSが骨芽細胞におけるPGE2産生を抑制し、Porphyromonas gingivalis LPSによる炎症性サイトカインの発現を阻害させる事も示唆している。
そこで、LIPUSが骨形成や炎症に及ぼす影響についてこれまでの知見を纏め、歯周組織再生療法が必要な歯周病患者をターゲットとしたLIPUSの可能性および展望について考えていきたい。
2011年 日本歯科大学生命歯学部卒業
2012年 日本歯科大学附属病院臨床研修医修了
2012年 日本歯科大学附属病院総合診療科
2017年 日本歯科大学附属病院総合診療科 助教
日本歯周病学会 専門医
日本歯科保存学会 専門医
【はじめに】垂直性骨欠損を有する,広範型重度慢性歯周炎の患者に対し,歯周組織再生療法を含む全顎的な歯周治療を行い良好に経過している一症例について報告する。
【症例の概要】74歳女性。初診日:2019年8月22日。主訴:歯周病の治療をしてほしい。既往歴:特記事項なし。
口腔内所見:下顎前歯部叢生,34~36ブリッジのマージン部不適,36近心傾斜。検査所見:平均PPD3.3mm,1-3mmが68.5%,4-6mmが29.2%,6mm以上が2.3%。BOP(+)29.2%,PCR38.8%。X線所見:17遠心,36近心に垂直性の骨吸収。
【診断】広範型 慢性歯周炎 ステージⅢ グレードB
【治療方針】1) 歯周基本治療 2) 再評価 3) 歯周外科治療 4) 再評価 5) 口腔機能回復治療 6) SPT
【治療経過・治療成績】1) 歯周基本治療:口腔衛生指導,スケーリング,ルートプレーニング 2) 再評価検査 3) 歯周外科治療: 15~17,34~37,45~47歯肉剥離搔爬術,36近心にリグロスを用いた歯周組織再生療法 4) 再評価検査 5) 歯周外科治療:34~36歯肉剥離掻爬術,骨整形 6) 再評価検査 7)口腔機能回復治療:34~36間にメタルブリッジを装着 8) SPT
【考察・結論】本症例では歯周組織再生療法を施術した後に,長期予後を確定的にすることを目的として再度骨整形を含む歯周外科を行い,良好な結果を得ることが出来た。歯周組織再生療法には適応症があり症例によっては骨の回復には限界がある。骨縁下欠損の幅が歯冠側で大きく広がっている症例に対しては本症例のような段階的な治療が効果的であると考えられる。今後も慎重なSPTを継続していく予定となっている。
2014年3月 明海大学歯学部卒業
2015年4月 明海大学大学院 歯学研究科歯学専攻博士課程入学
2019年3月 明海大学大学院 歯学研究科歯学専攻博士課程修了
2019年4月 厚生労働省(医薬生活衛生局食品基準審査課)入省
2021年3月 厚生労働省(医薬生活衛生局食品基準審査課)退省
2021年4月 明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座歯周病学分野 助教
2021年10月 日本歯周病学会認定医取得
【目的】
本研究の目的は,インプラント周囲疾患の診断において,重要な臨床的指標であるプロービング時の出血(BOP)に影響を及ぼす因子,およびBOPとインプラント周囲の各種臨床パラメータとの関連性を明らかにすることである。
【材料および方法】
明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科で歯周治療を行った後に,インプラント治療を行った患者124人(インプラント501本、観察期間6.5±4.1年)を対象とし,統計学的に分析を行った。
【結果および考察】
BOPに影響を及ぼす因子は,プラークコントロールが不良であること,インプラント周囲粘膜に可動性があること,およびプロービングデプス(PD)が大きいことがBOPのリスク因子であることが示唆され,また,PDが大きい部位では,角化粘膜が存在しないことによりインプラント周囲疾患発症のリスクが増大することが示唆された。
1990年 九州大学歯学部 卒業
1994年 日本学術振興会特別研究員
1995年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科 修了
1999年 米国スクリプス研究所 日本学術振興会海外特別研究員
2001年 明海大学歯学部 講師
2006年 明海大学歯学部 助教授
2007年 明海大学歯学部 准教授
2022年 明海大学歯学部 教授
低侵襲治療は医療全体における大きな流れのひとつとなっている.患者においては,低侵襲化により,治療による肉体的・精神的な苦痛が軽減されるだけではなく,高齢者や合併症を有する者においても治療を受けることができるようになるという利点がある.医療提供者においても,低侵襲化によって併発症のリスクを回避できるという利点がある.
歯科におけるソフトティッシュマネジメントは,“天然歯およびインプラント周囲組織の審美性の回復,歯周疾患およびインプラント周囲疾患の再発予防のために軟組織に対して行う処置”と定義されている.具体的には,結合組織移植術や遊離歯肉移植術などの侵襲が大きい治療が行われることが多い.このソフトティッシュマネジメントにおいても,低侵襲化することにより,上述した利点に加えて,歯周組織再生療法にみられるように,術式の低侵襲化により,治療成績が向上ことするも期待される.
ソフトティッシュマネジメントにおける低侵襲化は,様々なレベルで検討することができる.まず大きな観点で考えれば,インプラント治療のように侵襲性が高い治療を安易に選択するのではなく,天然歯の保存に努めることは,低侵襲化に大きく寄与する.また,修復治療や矯正治療を応用したソフトティッシュマネジメントを行うことで,外科手術を行う必要がなくなれば,それも低侵襲化といえるであろう.
外科治療を回避できない場合には,例えばインプラント埋入手術時に,臨在歯の歯周組織再生療法を同時に行えば,外科処置の回数を減らすことができる.また,臼歯部のインプラント治療では,二次手術時に角化粘膜の増大が必要なケースが多いが,インプラント周囲に必要な粘膜の条件を明確にすることにより,より低侵襲な術式を選択することができる.
審美領域において歯冠長を延長するためには,通常,骨切除術を伴う歯肉弁根尖側移動術が行われるが,歯肉弁を剥離すると,歯肉形態をコントロールすることは困難になり,歯肉形態が安定するまでの期間も長期化する.これらの問題は,フラップレスで歯冠長を延長する術式を用いることにより解決することができる.
本講演では,様々なレベルにおけるソフトティッシュマネジメントの低侵襲化について,エビデンスと症例を交えながら考えたい.
09:30 ~ 09:40 | 開会・支部長挨拶 【清水宏康/関東支部支部長】 |
09:40 ~ 10:25 | 「歯周基本治療で行動変容につながった一症例」 【木村優花/ワンラブデンタルクリニック】 |
09:40 ~ 10:25 | 「包括的な歯科治療を通じて歯科衛生士として関わり、 SPT10年が経過した広汎型慢性歯周炎患者の一症例」 【大澤愛/藤沢歯科ペリオ・インプラントセンター】 |
10:20 ~ 12:40 | メインテナンス患者にこそ行うべきオーラルフレイルの予防 ~歯科医院で取り組む口腔機能低下症の導入から管理まで~ 【塚本佳子/医療法人社団ファミリア 松島歯科医院】 |
12:40 ~ 13:20 | 優秀ポスター賞: 2大リスクファクターを抱えた広汎型重度慢性歯周炎患者に対し 非外科的歯周治療により改善した一症例 【宮地彩花/吉武歯科医院】 |
12:40 ~ 13:20 | 最優秀ポスター賞 【佐藤未奈子/土岡歯科医院】 |
13:20 ~ 13:25 | 閉会挨拶 【雨宮啓/関東支部副支部長】 |
2018年3月 湘南歯科衛生士専門学校卒
2018年4月 医療法人Zion ワンラブデンタルクリニック勤務
2006年 昭和医療技術専門学校卒業
2006~2009年 貴和会歯科診療所勤務
2009年~現在 藤沢歯科ペリオ・インプラントセンター勤務
略歴
1988年 歯友会歯科技術専門学校(現 明倫短期大学)卒業
1990年 黒田歯科勤務
2012年 医療法人社団ファミリア 松島歯科医院勤務
所属
臨床歯周病学会
歯周病認定歯科衛生士
スタディーグループ
キューシーハニー(救歯会ハイジニストクラブ)所属
⻭科医院での⻭科衛⽣⼠の⼤きな役割である、⼝腔衛⽣管理を患者さんと関わり⻑く⾒続
けていると、特に⾼齢者において、安定した状態を維持することが難しいと感じる事はない
でしょうか?
それは患者さんの⽼化による様々な変化が⼝腔や全⾝に兆候として現れてくるからです。
フレイルの前段階のプレフレイルは⼝腔から始まると⾔われています。普段患者さんと深
く関わりをもつ⻭科衛⽣⼠が、先に⼩さな変化に気がつく事が出来れば、健⼝が維持され健
康寿命が保てる事にも繋がるかも知れません。
当院では、普通にメインテナンスを継続されている⾼齢者に対して、早い段階での⼝腔機能
低下症を取り組んでいます。個々に適した導⼊から検査、トレーニング、管理までをどのよ
うに⾏い、患者さんと共にわかってきたこと、衛⽣⼠としてもっと患者さんに関わり、出来
るのではないかと感じている事をご紹介します。
2018年 宮崎歯科技術専門学校
2018年 吉武歯科医院勤務
キーワード:歯周基本治療,II型糖尿病,喫煙,SPT,非外科的歯周治療
I.はじめに 本症例は2大リスクファクターである喫煙,II型糖尿病を抱えた患者に対し歯周治療を行った結果,病状の改善がみられた為報告する。
II.症例の概要 患者:69歳,男性,喫煙者 初診:2019年12月 主訴:46番咬合痛 全身既往歴:II型糖尿病,高脂血症,高血圧 喫煙歴:30年以上 平均6本/日 服薬:メトグルコ錠,アマリール錠,コレバイン錠,アダラート錠等 歯科的既往歴:以前は当院で3カ月に1度のメインテナンスを行っていたが8年前に途絶えた。 診査所見:全顎的に歯肉腫脹,発赤を認める。 PCR77.0%,BOP100%,4~5㎜のPPD45.8%,6㎜以上のPPD15%,46動揺I度,PISA2065.6㎡ X線にて中等度の水平性骨吸収,根尖病変を認めた。 I
II.診断名 広汎型重度慢性歯周炎(限局型ステージIIIグレードC)
IV.治療計画 ①歯周基本治療(プラークコントロール指導,SRP,歯内療法,抜歯38,う蝕処置)/②再評価 /③補綴処置 /④SPT
V.治療経過 初診時,患者は歯周病に罹患している自覚がなくセルフケアも不十分であった為,口腔内写真と正常像を比べ現状を把握させることで意識付けを行った。口腔内だけでなく,患者の性格,生活環境,全身疾患等の背景を踏まえた患者教育をするよう努めた。プラークコントロール指導,SRPを行うことで歯肉からの出血が減少していったことが本人のモチベーションの向上につながり,プラークコントロールは徐々に改善していった。今後しばらくは月1回の間隔でSPTを継続していく予定である。
VI.考察およびまとめ 本症例では,歯周外科治療なしで歯周組織の改善をすることができた。 治療期間が長くなってしまったにも関わらず,改善することができたのはプラークコントロール指導やSRPだけではなく,一定のモチベーションをコントロールし維持できたこと,歯科医師と密に連携をとり治療を進めることができたことも大きな要因と考えられる。 今後も,プラークレベルとモチベーションの維持に努め,SPTにて継続管理していく必要があると考える。
2013年 東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科卒業
2013年 土岡歯科医院勤務
2017年 日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士取得
2021年 日本歯周病学会認定歯科衛生士取得
キーワード:広汎型慢性歯周炎,歯周基本治療,モチベーション
Ⅰ.はじめに
歯周治療を行う際,治療へのモチベーションの維持,また良好な口腔清掃状態の維持・管理が必要である.そのためには歯科衛生士として患者と良好なコミュニケーションをとり信頼関係を構築することが不可欠である.治療の各段階において患者の声に耳を傾けることで長期に及ぶ治療を乗り越えサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)移行後も良好に経過している症例を報告する.
Ⅲ.診断名
広汎型慢性歯周炎 ステージⅢ グレードB
Ⅳ.治療計画
①歯周基本治療(口腔清掃指導,スケーリング・ルートプレーニング,18・38・48抜歯)/②再評価/③歯周外科治療(フラップ手術)/④再評価/⑤14・24・34・44抜歯,口腔機能回復治療(歯周-矯正治療)/⑥再評価/⑦SPT
Ⅴ.治療経過
初診より9か月の間,歯周基本治療として口腔清掃指導,スケーリング・ルートプレーニング,18・38・48の抜歯を行った.再評価後,4㎜以上,BOP(+)の歯周ポケットが残存したため,歯周外科治療として12~17・22~27・34~37・44~47にフラップ手術を行った.外科後再評価を行い歯周組織の安定を確認後,口腔機能回復治療として歯周-矯正治療を行った.歯周-矯正治療後,咬合状態は改善し,歯周組織の安定も維持されていた.埋伏智歯があった37・47遠心には4㎜の歯周ポケットが残存しているがBOPは認められないため病状安定としSPTに移行した.
Ⅵ.考察およびまとめ
本症例を通じて患者の治療に対するモチベーションを維持することの難しさを再認識した.特に来院状況や口腔清掃状態は生活背景に左右されやすく,PCRやBOP陽性率にも影響を与えると考えられる.長期に渡る治療に患者のモチベーションが低下する事もあったが,各場面で寄り添った対応を心掛けることでSPTまで辿り着くことができた.今後も患者の変化に配慮し注意深くSPTを継続していく予定である.
09:10 ~ 09:40 | インプラント治療における基本原則とエビデンス 【井原 雄一郎/関東支部・井原歯科クリニック】 |
09:40 ~ 10:10 | 大規模GBRを回避するためのリッジプリザベーション −強化フレーム付きTiハニカムメンブレンを用いた オープンバリアメンブレンテクニックの可能性− 【小田 師巳/岡山大学大学院医歯薬学総合研究科インプラント再生補綴学分野非常勤講師】 |
10:10 ~ 10:35 | GBRー骨造成における科学的知見と臨床応用 【緒方 由実/タフツ大学歯学部歯周科准教授】 |
10:35 ~ 11:10 | Modern Flap Designs for Successful Vertical GBR 垂直的な骨造成の成功のためのフラップデザイン 【Yong Hur/タフツ大学歯学部歯周科准教授】 |
11:10 ~ 11:40 | 最新の文献と細菌叢解析に基づくインプラント周囲炎への対応 【芝 多佳彦/関東支部・ハーバード大学歯学部口腔内科・感染・免疫学分野歯周病学講座】 |
12:00 ~ 12:15 | 咬合崩壊を起こした慢性歯周炎の患者に対し包括治療を行なった1症例 【大橋 智行/関東支部・ちはら台マイクロモール歯科】 |
12:15 ~ 12:30 | デジタルフェイスボウトランスファー行い, All-on-4conceptにて咬合再構成を行なった1症例 【浅賀 勝寛/関東支部・浅賀歯科医院】 |
12:30 ~ 12:45 | インプラント治療と歯の移植 〜上顎洞挙上を伴う欠損歯列への対応の選択肢として〜 【中山 伊知郎/関西支部・ピースデンタルクリニック】 |
12:45 ~ 13:00 | 前歯部インプラント治療における結合組織移植の可能性 【奥田 浩規/関西支部・奥田歯科医院】 |
13:10 ~ 13:30 | 質疑応答 |
09:00 ~ 09:10 | 開会挨拶・支部長挨拶・趣意説明 |
13:30 ~ 13:35 | 閉会挨拶 |
2009年 東京歯科大学卒業
2009年 慶應義塾大学 医学部 歯科・口腔外科学教室 入局
2017年 井原歯科クリニック 開業
日本歯周病学会 専門医
日本臨床歯周病学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専門医
インプラント治療は今日に至るまで多くの患者に恩恵をもたらし、高い予知性に裏付けられた治療法であり、私たちの臨床において欠かすことのできない治療オプションである。特に歯周病患者に対してはインプラント治療を応用できることで治療の選択肢が増え、残存歯の保存に大きく寄与すると考えている。
インプラント治療は欠損状態から始まることもあるが、多くは歯根破折あるいは重度歯周炎に罹患し保存が困難と診断し抜歯を行うことより始まる。その後、インプラント埋入、2次手術、上部構造装着、そしてメインテナンスの流れでフェーズは進んでいくが、抜歯を例にとっても保存すべきか否かで意見が分かれる。インプラントの埋入時期も様々であり、角化粘膜の必要性についても同様に意見が分かれる。個々の状態は千差万別であり一つの選択肢に当てはめることはできないが、それぞれの歯科医師が置かれた環境、診療システムによって術式や治療が選択されることもあるように思える。当然、歯科医師の知識、技術、経験により術式や選択肢が変わり、患者のニーズや背景によって治療方法は変わるが、臨床を行う上での意思決定には根拠が必要である。
医療は日進月歩であり、ガイドラインやプロトコールも変化するが、インプラント治療を行う際の基本的な考え方とエビデンスをもとに抜歯の判断基準、インプラント埋入時期、荷重時期、2次手術、角化粘膜の有無、上部構造装着と多岐にわたるがそれぞれのフェーズを検討したい。
2001年 岡山大学歯学部卒業
2005年 おだデンタルクリニック開業
2012年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒業 博士(歯学)取得
2018年 岡山大学病院 診療講師
2021年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科インプラント再生補綴学分野 非常勤講師
抜歯後の変化としての歯槽骨吸収は経験的にもよく知られており、インプラント埋入時に我々臨床医をしばしば悩ませる。特に唇(頬)側骨の厚みが薄い部位における抜歯後の歯槽骨吸収は、時に深刻な状況を生み出し、ブロック骨移植や強化フレーム付き非吸収性メンブレンなどを用いた大規模なGBRを行う必要が生じることが多い。そのため、そのような状況になることを回避するために、近年、抜歯後の歯槽骨の吸収を抑制するリッジプリザベーションが注目されており、様々な骨補填材やメンブレンを用いた術式が報告されている。そのような中、リッジプリザベーションの目的も従来の「歯槽骨吸収の拡大抑制」から、「骨吸収を有する抜歯窩外側に抜歯と同時にGBRを行う」という概念まで、その適応が広がってきている。その一方で、使用されている骨補填材やメンブレンの種類が多く、どのような状況でどの材料をどのように用いるべきなのかがクリアではないと感じている。そのため、本日は、それぞれの材料にどのような特徴があるのかについて、また、現在用いられている各種術式について、現在報告されているエビデンスからわかりやすくまとめてみたいと思う。そのうえで、「抜歯と同時に歯槽骨を造成(GBR)する」ことを目的として我々が用いている、「強化フレーム付きTiハニカムメンブレンを用いたオープンバリアメンブレンテクニックの可能性」についても言及したいと思う。
語句補足説明
リッジプリザベーションとは、「抜歯後の変化として生じる歯槽堤の硬・軟組織の吸収に伴う体積の減少を抑制する処置」のことを指す。一方で、骨補填材を抜歯窩に填入する処置を指すソケットグラフト(socket graft)や、吸収した抜歯窩壁の造成術(ridge augmentation of extraction sockets )などのより細分化された語句があるが、本講演においてはこれらを抜歯時に行う一連の処置としてまとめてリッジプリザベーションという語句に含めてお話する。
2006 年 鹿児島大学歯学部卒業
2006年 - 2007年 熊本大学歯科口腔外科研修医
2007年 - 2008年 熊本市にてムサシ歯科クリニック勤務
2008年 - 2011年 タフツ大学歯学部歯周病学大学院修了
2011年 - 2013年 タフツ大学歯学部歯周科 助手
2012年~ 米国歯周病学会 歯周病・インプラント外科認定医(Diplomate)
2013年 - 2020年 タフツ大学歯学部歯周科 助教
2020年~ タフツ大学歯学部歯周科 准教授
2020年~ 東京歯科大学歯周病学講座 客員講師
米国では、歯科領域での専門医制度が確立されており、専門医を育成するための体系的な教育が歯科大で行われている。米国では、歯周病専門医の診療領域は、歯周病のみならず、インプラント外科との二本柱で成り立っている。本講演では、米国歯周病専門医・認定医であり、タフツ大学歯学部歯周科に勤務する演者が、歯科大におけるインプラント教育を簡単に紹介し、近年での教育現場での変化について述べたい。
インプラントの高い生存率が報告されて以来、インプラント治療では機能性と審美性の獲得と、その長期的な維持に重点が置かれるようになった。審美・非審美領域に関わらず、インプラント周囲組織の清掃性の確保は、インプラント治療の長期的な予後を左右する。従って、清掃性の良い適切な、補綴物の豊隆(カントゥアー)形態、エマージェンス・プロファイル、歯冠・インプラント比の付与が可能か、術前のプランニングの時点で考慮する必要がある。しかしながら、補綴学的に理想的な埋入位置を三次元でシミュレーションすると、垂直的・水平的な骨量不足が見られることが多い。そこで、骨造成の適応は、インプラント埋入自体が困難な場合や、前歯部での審美的修復のみならず、インプラント周囲組織の清掃性の向上と長期的な維持を目指すものへと拡大してきた。GBR法は、最も汎用性のある骨造成の手法として、現在では日常的なインプラント処置の一環となっている。
しかしながら、補綴後のインプラント周囲骨の吸収に伴う、歯肉の退縮、メタルマージンの露出、アバットメントやインプラント体の露出は、術後の深刻な合併症となりうる。これらの合併症を最小限に抑え、インプラントの機能・審美性を長期的に維持するためには、GBR法で造成した骨組織の量的な安定性が重視される。しかしながら、GBRの術前、術直後、治癒期間、その後の長期的なインプラント周囲骨の量的な変化を経時的に報告した臨床研究は稀である。また、骨造成なしの場合と比較した、GBR法を用いた場合のインプラントの長期予後に関する前向きコホート研究によるエビデンスは限られている。本講演では、臨床研究から得られたデータを交えつつ、臨床例を通して、GBRの臨床応用について議論したい。
2006 年 Wonkwang 大学歯学部卒業(韓国)
2001年 - 2004年 Uisung Public Health Center 勤務
2004年 - 2005年 Yein Dental Clinic 勤務
2005年 - 2008年 タフツ大学歯学部歯周病学大学院修了
2008年 - 2010年 タフツ大学歯学部歯周科 助手
2009年~ 米国歯周病学会 歯周病・インプラント外科認定医(Diplomate)
2010年 - 2022年 タフツ大学歯学部歯周科 助教
2022年~ タフツ大学歯学部歯周科 准教授
補綴主導型のインプラント治療がスタンダードになって久しいが、補綴的に理想的な三次元的位置にインプラント埋入するためには、水平的・垂直的な骨造成が必要となることが多い。
水平的骨造成は、予知性の高い治療とされている一方で、垂直的骨造成は、術式が煩雑で技術的な難易度が高いものとされている。垂直的に骨造成を行う場合、チタンフレーム付き非吸収性メンブレンもしくはチタンメッシュを用いるGBR法が頻繁に採用されている。しかしながら、創の裂開による早期のメンブレンの露出は、不十分な新生骨形成、炎症、創の感染などの合併症を引き起こし、インプラント治療の妨げとなりうる。
合併症を最小限にするためには、全くテンションのないフラップによる一次閉鎖が不可欠であり、フラップデザインの選択とそのマネージメントは、垂直的骨造成の成否に大きく関わる。従来、一次創閉鎖を達成するために、粘膜骨膜弁の減張切開が用いられてきたが、近年ではより良好な治癒を得るために、優れたフラップデザインが考案されてきた。しかしながら、現在の文献では、GBRのためのフラップデザインを比較した臨床研究によるエビデンスはかなり限られている。
本講演では、演者の考案した、オトガイ孔周辺の下顎臼歯部の垂直的な骨造成のためのフラップデザインであるDouble-flap Incision (DFI) と Modified Periosteal Releasing Incision (MPRI)を紹介し、臨床研究データを解説しながら、私見を述べたい。また、臨床例を交えつつ、フラップマネージメントの重要なポイントと解剖学的な注意点についても解説したい。
2009年3月 昭和大学歯学部卒業
2009年4月 日本歯科大学附属病院臨床研修歯科医
2017年3月 東京医科歯科大学大学院博士課程修了
2017年4月 東京医科歯科大学歯学部附属病院歯周病外来医員
2018年4月 東京医科歯科大学歯学部附属病院歯周病外来特任助教
2019年9月 International Team for Implantology (ITI) Scholar (Peking University School and
Hospital of Stomatology)
2020年10月 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野助教
2021年4月 Visiting Assistant Professor (Harvard School of Dental Medicine Department of Oral Medicine, Infection, and Immunity)
資格
2018年 日本歯周病学会 専門医
2021年 日本歯科保存学会 認定医
インプラント治療は機能的にも審美的にも優れ、歯の喪失に対する治療法のひとつとして非常に有効な手段となっている。しかしながらインプラント治療には合併症も存在し、長期的な予後の妨げとなる場合がある。なかでもプラーク由来の合併症はインプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎に分類され、それぞれ歯肉炎と歯周炎に臨床症状が類似している。また両者の罹患率は我が国においても高いと報告されている。高齢化社会をむかえインプラント治療の必要性が高まる一方で合併症への対応は喫緊の課題であるといえる。
現在インプラント周囲炎の様々なリスクインディケーターが確認されているが、なかでも口腔清掃不良と歯周病の既往に関するエビデンスレベルは高いとされている。しかしながら、歯周病患者においても適切な歯周治療後にインプラント治療を行った場合には、非歯周病患者と同等にインプラント周囲炎の発症率を抑えることができると報告されている。とはいえ、一旦インプラント周囲炎に罹患すると当該部位の骨破壊を伴う感染の進行は早く、歯周治療に準じて治療を行ったとしても必ずしも良好な反応が得られないことが多い。
このように歯周炎とインプラント周囲炎はその原因や一部症状が類似しているにも関わらず相違点も存在する。これらの違いを生じさせている理由には解剖学的な違いや細菌学的な違いが示唆されている。我々は細菌学的な違いに着目し、次世代シーケンサーを用いた研究を行った。その結果、インプラント周囲炎と歯周炎では細菌間のネットワーク構造などに違いがあることがわかった。そのため、インプラント周囲炎では歯周炎と比較してより積極的な除染と外科治療の必要性があると考えている。
以上に即して、今回は最新の文献と細菌叢解析に基づいたインプラント周囲炎への対応を発表させていただきます。
2003年 東京歯科大学卒業
2003年 医療法人社団千歯会勤務
2022年 ちはら台モールマイクロ歯科開業
Ⅰ.はじめに
中等度以上に進行した歯周疾患に対して歯周組織再生療法は有効な治療法であり、適応症の診断や適切な術式選択を行うことで良好な治療結果を得ることは可能である。今回歯周炎の進行に加え、咬合、審美等の問題を抱えた患者に対し、包括的に治療を行なった一症例を報告させていただく。
Ⅱ.症例の概要
患者:51歳、女性、喫煙者
初診:2018年12月
主訴:上の前歯が動く
全身既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:20年程前に36,46を抜歯。その後長期経過。10数年前に45が抜歯に至り47、48の近心傾斜、上顎臼歯部の挺出がみられるがそのままBrを作製。上顎前歯部のブリッジもその頃作製。歯科は3年ぶりになる。
Ⅲ.診断名
重度広汎型型慢性歯周炎
Ⅳ.治療計画
①歯周基本治療(プラークコントロール指導、SRP,抜歯、禁煙)
②再評価
③歯周外科治療(再生療法)インプラント
④再評価
⑤補綴処置
⑥メインテナンス
Ⅴ.治療経過
初診より6ヶ月の間基本治療とて保存不可である21番を抜歯。歯内療法、37番の整直を行い、全顎的に暫間被覆冠による咬合の安定を図った。再評価後47番、48番は抜歯を行いインプラント、歯周組織再生療法、切除療法を行い上部構造はモノリシックジルコニアにて補綴を行なった。
Ⅵ.考察およびまとめ
骨欠損形態を正確に診断し、それに対する適切な治療を選択することにより生理的な骨形態を獲得し、清掃しやすい環境を整える事が出来た。その結果、患者の口腔内の永続性に寄与することが出来たのではないかと考える。
2013年 日本大学歯学部卒業
2014年 医療法人寛友会 浅賀歯科医院 勤務
資格・役職
2020年 公益社団法人日本インプラント学会 専門医
2020年 一般社団法人ジャパンオーラルヘルスケア学会 予防歯科認定医
2022年 日本歯周病学会 認定医
Ⅰ.はじめに
現在, ボーンアンカードブリッジタイプのインプラント上部構造を持つインプラントの長期安定のために審美性,清掃性,機能性は天然歯同様に重要な要素である.
今回,All-on-4conceptのインプラント上部構造に対し,セカンドプロビジョナルレストレーション(以下,SPVR) にて審美性,清掃性,機能性の確認を行った. その後,ファイナルレストレーション(以下,FR)に精密にトランスファーし良好な結果を得ることができたので報告する.
Ⅱ.症例の概要
患者:66歳,男性.
初診:2015年10月
主訴:歯がぐらぐらして食事が出来ない.
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:歯科医院にいくのは10年ぶりとのこと,歯の動揺には気づいてきたが痛みもなく不便していなかったが,最近動揺がひどくなり来院.
診査初見:PCR:100%,PPD:4~6mm:37.6%,7mm~:48.8%,BOP:71.0%,全顎的に歯の動揺,排膿が見られた.
Ⅲ.診断名
広汎型・慢性歯周炎・ステージⅢ・グレードC
Ⅳ.治療計画
○1歯周基本治療(プラークコントロール指導,SRP,)/②再評価/③歯周外科処置(歯周組織再生療法)/
④再評価/⑤口腔機能回復治療(インプラント治療,矯正治療)/⑥SPT
Ⅴ.治療経過
歯周基本治療にて炎症の除去を行った後,術前にフェイシャルパターン,リップサポート,リップライン,スマイルライン,骨吸収量,咬合高径を確認した.2016年6月静脈内鎮静法下にて抜歯即時埋入,即時荷重をAll-on-4conceptに準じて行った.SPVRにてインサイザルエッジポジションを基準に審美性の確認,粘膜面をシャローオベイトにすることで清掃性の確認,下顎残存歯のレベリングを行い,アンテリアガイダンス,アンテリアカップリングを調整し,SPVRの咬合様式が顎関節機能に異常をきたさないことを確認した.その後,KaVoプロターevo7に歯牙誘導(中間(CE),左右FTI),左右顎関節(HCN(CE),Benetton,ISS,シフト角)をアルクスディグマにてデジタルフェイスボウトランスファーし,チタンフレームにジルコニアを合着した上部構造を2017年2月スクリューリテインにて装着した.Ⅵ.考察およびまとめ
今回,All-on-4conceptを行うにあたりSPVRにて審美性,清掃性,機能性を確認した.また下顎の残存歯をレベリングすることで,理想に近い状態の咬合様式を与えた.SPVRの状態をKaVoプロター evo7にトランスファーをすることでFRの長期安定が期待でき,高い患者満足度を得ることができた.広汎型・慢性歯周炎・ステージIII・グレードCの患者に対して All-on-4conceptを行い,SPVRを適確に調整,トランスファーすることで患者満足度を含め良好な結果が得られることが示唆された.
2006年 東北大学歯学部卒業
2016年 PiEACE DENTAL CLINIC開院
資格・役職
2016年 日本口腔インプラント学会専修医
2015年 日本顎咬合学会認定医
2019年 International Team for Implantology(ITI) Co Director(北陸SC)
Ⅰ.はじめに
上顎臼歯部を喪失すると,上顎洞底の形態や歯牙の喪失原因にもよるが,歯槽骨頂部から上顎洞底までの距離が短くなることが多い.一般的に欠損部位の治療法として義歯,ブリッジ,インプラント,歯の移植が考えられる.義歯では鉤歯への負担,ブリッジでは支台歯の切削,インプラントでは歯周組織の状態によって骨造成や軟組織の移植,歯の移植ではドナー歯の有無やドナー歯の歯根形態など,それぞれ考慮する点が多い.
今回,治療法としてインプラント治療と歯の移植を選択し,上顎洞底挙上が必要な症例において上顎洞底骨の治癒の形の違いについて5症例を提示しながら考察していきたいと思う.
Ⅱ.症例の概要
① 32歳女性,全身疾患なし.非喫煙.主訴は右上が痛い.
② 53歳女性,高血圧.非喫煙.主訴は右上の詰め物が取れた,咬みにくい.
③ 28歳女性,全身疾患なし.非喫煙.主訴は検診希望.審美的に気になる.
④ 33歳女性,全身疾患なし.非喫煙.主訴は右下と左上を抜歯と言われ,歯を残してほしい.
⑤ 18歳女性,全身疾患なし.非喫煙.主訴は左上の歯が抜歯と言われ,精査してほしい.
Ⅲ.診断名
① 広汎型・慢性歯周炎・ステージⅠ・グレードA ,17根尖性歯周炎,16欠損
② 限局型・慢性歯周炎・ステージⅣ・グレードC,16欠損
③ 広汎型・慢性歯周炎・ステージⅠ・グレードA,17根尖性歯周炎
④ 広汎型・慢性歯周炎・ステージⅠ・グレードA,27う蝕,46根尖性歯周炎
⑤ 歯肉炎,27歯根破折
Ⅳ.治療計画と治療経過
全症例において歯周基本治療を行い,再評価後,SPTに移行した.その後欠損部位に対して①は歯の移植と骨造成を伴うインプラント治療,②は骨造成を伴わないインプラント治療,③④⑤は歯の移植を行なった.
Ⅴ.考察およびまとめ
今回は全症例上顎洞挙上術を併用した.その中で上顎洞底骨の治癒の形に注目すると,骨造成を伴うインプラント症例では造成骨の種類や填入の仕方で治癒の形が依存し,骨造成を伴わないインプラント症例では、新生骨は認めるがテントの支柱上に治癒する.一方、歯の移植での治癒の形は総じて歯根周囲に一層の骨を認め、歯周組織も安定している.欠損歯列の対応として,インプラント治療と歯の移植共に有効な治療法である.今回短期的な報告であったが,移植歯の生存・インプラント周囲骨の状態,上顎洞底骨の治癒の形に関して長期的にどうなるか,今後も経過観察していきたい.
2006年 愛知学院大学歯学部卒業
2012年 奥田歯科医院 開業
Ⅰ.はじめに
近年,1歯における抜歯後即時埋入は良好な結果が得られることが立証されており,条件を満たせば有益な術式であると考えている.Bach.Leらは上顎前歯インプラント部の唇側の硬軟組織について『十分な硬組織は軟組織を維持し,十分な軟組織は硬組織を維持すると述べ,硬組織と軟組織の維持安定には相互作用がある』としている.よって抜歯後即時インプラント埋入の結合組織移植による軟組織増大は長期的なインプラント周囲組織の維持安定に大きな恩恵をもたらす.本症例ではそれらに関する文献的考察を加え2歯連続の並列した抜歯後即時インプラント埋入に結合組織移植を併用した症例を提示し,インプラント周囲組織のバリアとなる十分な硬組織,軟組織の獲得,審美的問題における乳頭の保存をどのように行ったかを供覧したいと思う.
Ⅱ.症例の概要
患者:57歳,女性.非喫煙者
初診:2019年1月
主訴:上顎前歯部インプラント相談.セカンドオピニオン
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:16歳の時に転倒し,上顎両中切歯が失活歯となり,根管治療後,補綴修復に至った.来院される半年前に再度転倒して前歯部を強打し,前医院にて既存の補綴装置からテンポラリークラウンに置き換えたとのことであった.
診査初見:PCR:20%,PPD:4mm以上:21.4% BOP:14.2%,11,21に歯根破折を認めた.
Ⅲ.診断名
広汎型・慢性歯周炎・ステージⅡ・グレードA
Ⅳ.治療計画
○1歯周基本治療/②再評価/③確定外科処置(抜歯後即時インプラント埋入,結合組織移植)/④再評価/⑤補綴処置 (11,21PFZ冠)/⑥SPT
Ⅴ.治療経過
歯周基本治療後,診断用wax-upからトップダウンにて適正なインプラントポジションを設計後,デジタルドリルガイドを作製.1回の手術にて,抜歯,軟組織造成を行う.2歯連続抜歯後インプラント埋入を行うため,乳頭の保存を考え,頰側には口蓋から,乳頭直下には上顎結節からの結合組織を移植した.その後ポンティックにて創部を封鎖し,約6ヶ月の治癒を待ち,プロビジョナルレストレーションを作製し,エマージェンスプロファイルを調整後,歯肉の安定を待ち,ファイナルレストレーションに移行する.
Ⅵ.考察およびまとめ
歯間中央の乳頭尖端が両隣在歯の乳頭位置より歯冠側にあり,乳頭の温存は達成できたのではないだろうか.側面から見た歯肉のボリュームも十分であり,軟組織を支える硬組織も約3mmに造成することができた. インプラントが並列する症例では,歯間乳頭の再建,温存が難しいとされているが,上顎結節,口蓋からの結合組織に加えて,抜歯即時埋入を併用しその乳頭を支えるポンティックサポートにより良好な結果に至ったのではないかと考える.