※現地開催のみで、オンライン(ライブ配信、オンデマンド配信)開催はございません。
10:05 ~ 10:25 | 広汎型慢性歯周炎患者に対して、 歯周組織再生療法とインプラント治療を併用した一症例 【柴崎 竣一/慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室】 |
10:25 ~ 10:45 | 4年の未来院期間で歯周組織破壊が進行した開咬を伴う一症例 【早乙女雅美/日本歯科大学大学院生命歯学研究科歯周病学講座】 |
10:45 ~ 11:05 | 開咬を呈する慢性歯周炎患者に対し、外傷性咬合のコントロールに努めた一症例 【土谷 洋輔/東京科学大学病院歯周病科】 |
11:05 ~ 11:25 | 広汎型慢性歯周炎患者の10年経過症例 【岩井 泰伸/岩井デンタルオフィス】 |
11:40 ~ 12:00 | COVID-19 感染拡大下におけるSPT患者の来院間隔と臨床パラメーターの変化 【高井 瑞穂/日本大学松戸歯学部歯周治療学講座】 |
12:00 ~ 12:20 | 咬合力を想定した繰り返し荷重負荷が インプラント-アバットメント接合部封鎖性に与える影響 【上田 隼也/明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座歯周病学分野】 |
13:20 ~ 13:40 | 歯内-歯周病変に対するアプローチ 【渡辺 典久/日本大学歯学部保存学教室歯周病学講座 】 |
13:40 ~ 14:00 | 垂直性骨欠損に対するフラップデザイン 【小川 雄大/浜松石川歯科勤務 小川歯科医院勤務 U Dental Office 恵比寿】 |
14:00 ~ 14:20 | 上顎前歯欠損部に対する結合組織移植術の応用 【佐藤 大典/デンタルオフィス鷺沼】 |
10:00 ~ 12:20 | 文献に触れてみよう! |
15:00 ~ 16:40 | 低侵襲の歯周治療による歯の保存 【水谷幸嗣/東京科学大学病院歯周病科 講師】 |
2015年 東北大学歯学部卒業
2015年 慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室 研修医
2017年 慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室 専修医
2021年 慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室 助教
2023年 慶應義塾大学医学部歯科口腔外科学教室 特任助教
所属学会
日本歯周病学会 専門医
日本口腔外科学会 認定医
日本臨床歯周病学会会員
日本口腔インプラント学会会員
【はじめに】
歯周組織再生療法は,適応を見極め,正確な診断のもと適用することで,抜歯となり得る歯の予後を改変させることができる。今回,重度歯周炎の歯に対して歯周組織再生療法を行い,欠損部に対してはインプラント治療を併用した一症例を報告する。
【症例の概要】
患者:66歳 女性 初診:2020年2月 主訴:右下の歯が揺れる 全身既往歴:特記事項なし
喫煙歴:なし
歯科的既往歴:近医で定期的なスケーリングを行うのみで,積極的な歯周病の治療は行っていなかった。今回,47の動揺を主訴に受診となった。
【診断名】
広汎型慢性歯周炎 ステージⅣ グレードB
【治療計画】
① 歯周基本治療 ② 再評価 ③ 歯周組織再生療法(14,24,25) 抜歯(26,47)
歯槽堤増大術(15,16,26) ④ 再評価 ⑤ インプラント埋入術(15,16,26)
⑥ 口腔機能回復治療(13,14,15,16,26,27:セラミッククラウン) ⑦ SPT
【治療経過】
徹底した歯周基本治療を行った後に,歯周外科治療へと移行した。14,24,25は垂直性骨欠損を認めたため,FGF-2とサイトランス®グラニュールを使用した歯周組織再生療法を実施した。また,15,16,26にはインプラント治療を計画していたが,重度歯周炎により歯槽堤の高度な吸収を認めた。そのため,歯槽堤増大術を実施した後に,インプラント埋入術を実施した。再評価をした後に口腔機能回復治療へと移行し,現在はSPTで管理を行っている。
【考察】
本症例では,歯周基本治療で炎症をコントロールできたことが,その後の歯周組織再生療
法や歯槽堤増大術の成功にも繋がったと考える。14,24,25は骨吸収が重度で,抜歯となる可能性も大いにあったが,歯周組織再生療法を適用したことにより,「歯をできるだけ保存したい」という患者の願いにも,少しではあるが沿うことができたのではないかと考える。
また臼歯部の咬合が確立されたことにより,前方歯群の負担軽減にも繋がった。今後は現在の状態をより長く継続していくために,モチベーションを維持することが重要と考えている。
2020年 日本歯科大学生命歯学部卒業
2021年 日本歯科大学大学院生命歯学研究科歯周病学専攻 入学
【はじめに】治療中断後4年の未来院期間で歯周組織破壊が進行し、その後再治療を行った重度慢性歯周炎の症例を報告する。
【症例の概要】患者は48歳の男性で,中断していた治療の継続を希望し来院した。歯列は開咬を認めた。PPD 4mm以上の部位は31.0%,BOPは31.7%,PCR は42.9%であった。エックス線画像所見では、#41 と#36、37で4年前よりも顕著な骨吸収の進行が見られた。広汎型慢性歯周炎,ステージⅣ,グレードCと診断し,進行した3歯の抜去と暫間補綴、禁煙指導を含む歯周基本治療後,アクセスフラップおよび歯周組織再生療法(リグロス®︎)を行った。現在は口腔機能回復治療を行なっている。
【考察・結論】未来院期間に3本の歯で歯周炎が急速に進行し抜歯に至った症例である。原因としては治療中断によるプラークコントロールの悪化、外傷、喫煙の影響が考えられた。今後は、口腔機能回復および永久固定のための最終補綴後、SPTを継続していく予定である。
2014年 東北大学歯学部 卒業
2015年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野 入局
2020年 東京医科歯科大学歯学部附属病院 歯周病科 医員
2022年 東京医科歯科大学病院 歯周病科 特任助教
2024年 日本歯周病学会専門医取得
東京科学大学病院 歯周病科 特任助教
【はじめに】
咬合性外傷は歯周炎の悪化に寄与する重大な修飾因子であり、臨床的に対応に苦慮するケースは少なくない。私は咬合性外傷に着目し、咬合性外傷が歯周炎を増悪させるメカニズムについて研究を行っている。本発表では現在進行中の基礎研究に言及しつつ、開咬により咬合性外傷を呈した歯周炎症例に対し包括的治療を行なった一症例を報告する。
【症例の概要】
患者:46歳 女性 初診:2018年2月 主訴:右上が噛むと痛い 喫煙者
初診時のPPD>4mm以上の部位は53.6%であった。開咬を呈し、臼歯部のみ咬合していた。広汎型慢性歯周炎StageⅢGradeCと診断し、歯周基本治療では炎症の除去に加え、抜歯に伴う咬合調整、治療用義歯の製作を行なった。再評価後、14に歯周組織再生療法、16,17にフラップ手術を行った。顎位を確認した後口腔機能回復治療を行い、メインテナンスに移行した。
【考察・結論】
基礎研究の結果、歯周炎存在下の外傷力は骨吸収悪化と炎症関連遺伝子の発現が亢進するが、外傷力のみでは骨吸収せず、遺伝子変化は軽微であることが示唆された。本症例はメインテナンス移行後3年経過しているが、熱心なブラッシングと来院ごとの咬合管理により安定しており、研究結果と同様に推移していると考える。
2013年 日本大学松戸歯学部 卒業
2014-2018年 日本大学大学院 歯周治療学講座 修了
2014-2019年 若林歯科医院 勤務
2018年 メリーランド大学Externship
2019-2022年 オーラルケアクリニック青山 分院長
2022年 岩井デンタルオフィス 開院
患者は42歳主婦、術者が歯周治療学講座に入局し初めて担当した方で、独立した現在も継続して診させて頂き、現在10年の経過を追っている。歯周治療を学んだだけでなく患者と向き合うことの重要性を学ばさせて頂いた症例を提示させて頂きます。
大学の近隣歯科医院から重度の歯周病ということで紹介され来院した。口腔内の状況は辺縁歯肉の炎症、垂直性骨欠損および歯列不正を認めました。咬合状態の診査では左下7に早期接触を認め、前方にスライドして咬頭嵌合位に至る状態であった。検査結果を患者に伝え、特に炎症と力のコントロールの重要性を説明した。
まず歯周基本治療を通して、口腔内の状況をより理解してもらうために様々な事を説明した。また、炎症のコントロールに努めた。その後、力のコントロールとして咬合調整をおこなった。歯周基本治療後に残存した上顎の骨欠損に対して歯周外科治療を実施した。下顎も歯周外科を計画していたが患者の都合で中断せざる得ない状況になった。その後、紆余曲折を経て初診から10年経過し、良好な経過を辿っている。
外科治療を実施した上顎は、問題なく良好な経過が認められている。外科治療を実施しなかった下顎に関しても骨欠損は改善傾向を認め、安定している。
歯種、解剖学的形態、骨欠損形態によって外科治療が必要な症例も存在する。しかし、歯周炎に対して現状に至った原因を診査し、歯周基本治療で原因に一つ一つ対応し、再評価で処置が正しかったのか否かを判断することが重要と考えている。しっかりとした歯周基本治療は歯周外科治療を減らし、安定した歯周組織の回復が得られると本症例から学ばさせて頂いた。皆様と共有できれば幸いです。
2013 年 日本大学松戸歯学部卒業
2014 年 日本大学松戸歯学部臨床研修歯科医師修了
2014 年 日本大学松戸歯学部歯周治療学講座入局
2018 年 日本大学大学院松戸歯学研究科修了 博士(歯学)
2018 年 日本大学松戸歯学部歯周治療学講座 専修医
2022 年 日本大学松戸歯学部歯周治療学講座 助教
資格
日本歯周病学会認定医
日本歯科保存学会認定医
【目的】COVID-19感染拡大前後におけるSPT患者の来院間隔と臨床パラメーターの変化
を解析し,コロナ禍の影響を考察した。
【方法】日本大学松戸歯学部付属病院に1年以上継続して来院しているSPT患者を対象に,
2019 年10月~2020年3月と2020年4月以降の来院時の歯周病検査から,平均プロービン
グ深さ(PD),全顎出血スコア(FMBS),プラークスコア(FMPS),歯周炎症表面積(PISA),
歯周上皮表面積(PESA)およびPISA/PESA]を抽出した。SPT時の歯周病リスクアセス
メント(PRA)を参考に2020年4月以降の予約を延期した患者をFMBSと現在歯数(TN)
によって低・中・高リスク群に分類し,予約延期日数と歯周病検査値の変化量の相関係数を
算出した。
【結果と考察】対象患者749名中2020年4月以降の予約を延期した患者は249名で,予
約延期群の平均延期日数は109.49 ± 88.84日であった。FMBS高リスク群(≧25%)とTN
高リスク群(≦20歯)で予約延期日数と平均PD,PESAとの相関が認められ,両群に該当
する患者では PISA との相関を認めた。以上の結果から,COVID-19 感染拡大下における
SPT患者の来院間隔延長は歯周組織の安定性に影響を与えた可能性が示唆された。
2015年3月 明海大学歯学部 卒業
2017年4月 明海大学大学院 歯学研究科歯学専攻博士課程 入学
2021年3月 明海大学大学院 歯学研究科歯学専攻博士課程 修了
2021年4月 明海大学歯学部 口腔生物再生医工学講座歯周病学分野 助教
所属学会
日本歯周病学会 認定医
日本口腔インプラント学会 会員
インプラント-アバットメント接合部(IAI)封鎖性が低下することで,インプラント内部へ細菌が侵入し,インプラント周囲炎発症のリスクとなることが示唆されている.本研究では,インプラントに咬合力を想定した繰り返し荷重を負荷し,IAI封鎖性の変化を検討することとした.合金チタン製のフィクスチャーおよびアバットメントを締結し,インプラント疲労試験の国際標準規格であるISO14801に準拠する方法で繰り返し荷重を負荷した.荷重回数は,25万回,50万回,100万回に設定し,荷重負荷前後のプラットフォーム内径およびIAIのマイクロギャップを測定した.また,100万回の荷重負荷を行った試料を標準菌液に浸漬し,インプラント内部に侵入した細菌数を測定した.その結果,25万回,50万回,100万回ともに荷重負荷前後でプラットフォーム内径とIAIのマイクロギャップは増加し,その増加量は荷重回数が増えるにつれ大きくなることが示された.細菌侵入については,荷重負荷前は細菌が検出されなかったのに対し,荷重負荷後はIAI内部から細菌が検出された.
2015年 日本大学歯学部 卒業
2015年 日本大学歯学部付属歯科病院総合診療科
2016年 日本大学大学院歯学研究科歯学専攻 入学
2020年 日本大学大学院歯学研究科歯学専攻 修了
2020年 日本大学歯学部 ポスト・ドクトラル・フェロー
2021年 日本大学歯学部保存学教室歯周病学講座 専修医
所属学会
・日本歯周病学会 歯周病専門医
・日本臨床歯周病学会 会員
・歯科基礎医学会 会員
歯内-歯周病変は発症原因から①歯内病変が原因で、そして歯周病が発症した病変である歯内病変由来型(クラスⅠ)②歯周病が原因で、次いで歯内疾患が発症した病変である歯周病由来型(クラスⅡ)③歯内病変と歯周病がそれぞれ独立して発症し、その後合併して生じた病変である複合型(クラスⅢ)の3型に分類されている。
歯内-歯周病変の治療は、残存する歯根膜を最大限に利用することが重要であり、適切な根管治療を行うことで歯根膜による骨再生が期待できる。一般的に、クラスⅠの歯内病変由来型の成功率は高く、予後は良好とされている。一方、クラスⅡ・Ⅲの歯周病由来型および複合型の場合、歯周病の重症度や患者の治癒反応により予後が異なり、クラスⅠよりも予後が悪いとされている。しかし、これらの症例に対し骨移植やGTRなどの再生療法を行うことで、高い成功率が報告されており、初診時にHopelessと思われる歯においても治療価値は非常に高いと考えられる。
本発表では、歯内-歯周病変の治療において歯周外科治療を併用した結果、良好な結果が得られた症例について報告する。
略歴:
東京歯科大学 2014年卒業
浜松石川歯科勤務
小川歯科医院 勤務
U Dental Office 恵比寿 院長
慶應義塾大学 歯科口腔外科
東京歯科大学 組織・発生学講座
歯周炎に罹患し、歯周基本治療では改善が認められない重度の歯槽骨欠損に対しては、歯周組織再生療法を行うことで失われた歯周組織を回復させることが、現在の歯科治療では予知性の高い方法となってきた。歯周組織再生療法の成功において重要な要素であるフラップデザインについては、複数歯に及ぶ骨欠損がある場合、Extend flapを適用し、明視野での確実な感染源の除去を行い、丁寧に縫合を行うことで良好な結果を得ることが可能である。しかし、条件を満たせば、よりミニマムなフラップデザインを行うことで、最小限の切開、剥離を通じて、歯周組織へのダメージを抑えることで、一次創傷治癒の達成率が向上し、結果として歯周組織再生療法の成功率が上がることが示されている。
さらに近年、歯間乳頭に全く切開を加えないフラップデザインが提唱され、トンネルアプローチによって頬側からの骨欠損へのアクセスが可能となった。これは歯周組織再生療法の失敗の原因となる歯間乳頭部の裂開リスクがないため、感染源の除去が確実に行えれば非常に有効な術式である。しかし、これらの方法には適応症の限界がある。
そこで、我々はこの適応症を拡大するための新たなフラップデザインを提唱した。本発表では、単独歯の垂直性骨欠損に焦点を当て、それぞれの骨欠損に対してどのようなフラップデザインが有効であるか、自身の症例や文献を交えて発表する。さらに、歯間乳頭に切開を加えないフラップデザインを応用した歯槽骨縁上の歯周組織再建の可能性についても言及する予定である。ご参加いただく皆様にとって有意義な時間となれば幸いである。
略歴:
昭和大学歯学部 2008年卒業
昭和大学歯学部口腔外科大学院 2013年卒業
デンタルオフィス鷺沼 院長
経年的な歯肉退縮や歯の欠損に伴い、硬、軟組織の形態は大きく変わってしまう。長期的予後を考慮すると、それらの治療方法に対する、考え方、および手技が難儀することは多々ある。その中でも、審美領域において、患者の意識や要求によっては、われわれ歯科医師が、その要求に対するアプローチに結合組織移植術を用いた治療法を選択することは必須であろう。
今回、上顎前歯部単独歯欠損に対する治療を中心に発表するが、審美領域に対する歯の欠損にはブリッジ、インプラント、自家歯牙移植による機能回復が選択肢として挙げられる。この中でもインプラント治療はDr. Brånemark が臨床応用して、60年近く経つことは既知の通りであるが、自家歯牙移植術も60年近いと言われており、Dr. Andreasenが90年代に論文発表してから世界的に盛んに行われるようになった。現在では良好な長期的予後も報告されている。それぞれの治療法には利点、欠点があり、欠損部に対する治療法の選択基準は条件により左右される。
上顎前歯部に対する治療は、機能性、清掃性、そして審美性が求められる。特に審美性に関しては隣在歯、および反対同名歯の形態および周囲歯肉との調和を考慮する必要がある。その中でも欠損部への治療に対しては結合組織移植術の応用は患者の審美的要求を満たすエッセンスの一つになりうる。今回、私が日常臨床で行ってきた上顎前歯部欠損部に対する治療を皆様と供覧し、ご意見をいただきたい。
2002年 東京医科歯科大学歯学部歯学科 卒業
2006年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野 修了(歯学博士)
2007年 東京医科歯科大学歯学部附属病院 歯周病外来 医員
2010-2012年 ハーバード大学医学部 Joslin糖尿病センター リサーチフェロー
2012年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野 助教
2023年 東京医科歯科大学病院 歯周病科 講師
2024年 東京科学大学病院 歯周病科 講師
日本歯周病学会 優秀症例ポスター賞(2014年春季), 教育賞(2017年), 学術賞(2022年)
日本歯科保存学会 学術賞(2021年)
近年の歯科疾患実態調査では高齢者の残存歯が増加することで、進行した歯周炎の割合が高齢者において高くなっている現状が明らかになっています。一方、歯科受診をする高齢者では循環器疾患や糖尿病などの内科疾患に罹患していることも少なくはありません。そのため、これからの歯周治療では、全身状態に配慮をして治療による侵襲を低くし、重度の歯周炎に対しても治療効果の高いアプローチが求められています。
これまでに侵襲の低い歯周治療として、抗菌療法の併用、レーザー治療、低侵襲のフラップデザインの歯周外科治療などが挙げられています。特にマイクロサージェリーでのminimally invasive surgery(最小侵襲の外科治療)での歯周組織再生療法は、様々な術式が報告されており、従来法よりも優れた治療成績が期待できます。また、深い歯周ポケットに対するFlapless surgeryがEr:YAGレーザーの応用により新術式として確立しつつあります1。これらの低侵襲のアプローチは高齢者や糖尿病患者への歯周治療で高い有効性を示しています2。
本講演では、加齢や内科疾患などで外科的侵襲を可及的に抑えるべき患者への低侵襲で歯を守る歯周治療のあり方について、最新のエビデンスと症例に基づき概説します。
1. Mizutani et al. Lasers in minimally invasive periodontal and peri-implant therapy. Periodontol 2000, 2016
2. Mizutani et al. Periodontal regenerative therapy in patients with type 2 diabetes using minimally invasive surgical technique with enamel matrix derivative under 3-year observation: A prospective cohort study. J Periodontol, 2021
※ライブ配信はございません。
10:10 ~ 10:30 | QOLを考慮した老年期重度歯周炎症例への対応 【富樫裕一郎/】 |
10:30 ~ 10:50 | 重度歯周炎の終末にコーヌステレスコープ義歯で対応した一症例 【畔柳沙織/】 |
11:05 ~ 11:25 | インプラント治療にて患者のアンチエイジングに貢献した一症例 【松本 圭史/】 |
11:25 ~ 11:45 | 81才から90才になった中等度慢性歯周炎Eichner B-3症例の経過 【長野泰弘/】 |
10:10 ~ 10:30 | フレイルを未然に防ぐために歯科衛生士としてできる事 【関戸 由記子/】 |
10:30 ~ 10:50 | 老年・フレイル期におけるメインテナンスの重要性を感じた一症例 【田口 幸子/】 |
11:05 ~ 11:25 | 年齢と共に変化する患者と口腔 〜長期メインテナンスの一症例〜 【柳 妙子/】 |
14:10 ~ 16:25 | 長期経過の老年期患者に学ぶ歯周治療の基本 【千葉英史/】 |
2006年 新潟大学卒業
2006年〜2007年
新潟大学医歯学総合病院 勤務
2007年〜2018年
神奈川県平塚市平野歯科医院 勤務
2019年1月
とがし歯科医院 開業
Ⅰ.はじめに
重度歯周炎患者においては歯の保存が治療後の生活に大きく関与する。特に高齢者においては歯を保存し自分自身の歯で生活することが、生活の質を左右すると言っても過言ではない。今回、降圧剤を服用し歯肉の異常な腫脹を認める高齢者において、歯周基本治療、矯正治療、補綴治療をおこなった症例を報告する。
Ⅱ.症例概要
患者:78歳女性
初診:2022年4月
主訴:歯ぐきが腫れている、歯を抜きたくない
全身的既往歴:高血圧(アムロジピンOD5mg錠服用)
歯科的既往歴:他医に10年ほど通院、5年ほどむし歯の治療をし、5年ほど前から歯ぐきが腫れ、歯並びも乱れどんどん悪くなる。
Ⅲ.診断名
広汎型慢性歯周炎 Stage Ⅳ Grade B
Ⅳ.治療計画
①歯周基本治療
②再評価
③矯正治療
④再評価
⑤補綴治療
⑥SPT
Ⅴ.治療経過
保存が困難であると思われる歯も多くあると思われたが、OHIやTBIなどの歯周基本治療を徹底的におこない、保存に努めた。急性炎症がある程度沈静化した時点で、咬みたいという患者の要望もあり、支持歯槽骨の連続性と咬合の改変を矯正治療によって獲得しようと考えた。矯正治療ののちに補綴治療をおこない、口腔環境の安定を目指した。
Ⅵ.
今回高齢者の歯周炎症例の治療を行ったが、高齢者においては、治療介入程度やそのスピードなど患者の生活の質を考慮した治療が特に重要になると考えている。また高齢者は年齢とともに徐々にできないことが増えていくため、どのように支えていくかが大事であると考えている。
2007年 北海道大学歯学部卒業
2008年 北海道大学病院研修医終了
2009年~2011年 東京医科歯科大学生体補綴歯科学分野在籍
2009年~2017年 斉藤歯科医院勤務
2015年~ 斉田歯科医院勤務
はじめに:
口の機能低下を放置することは将来的な要介護リスクを高めると言われている。オーラルフレイルは早いと50代60代から少しずつ増加していき、進行すると身体的フレイルにも影響するが、口腔機能を改善することで全身状態の悪化も食い止め、健康寿命の延伸につながる可能性もある。今回、重度歯周炎に罹患した少数歯残存症例に対して、患者背景や老年期の清掃性なども考慮し、コーヌステレスコープ義歯を装着後、14年経過した症例について報告する。
患者:60歳女性
初診:2010年2月
主訴:噛めない
既往歴:歯科恐怖症 嘔吐反射
歯科的既往歴:欠損部は20年程前から歯周炎にて抜歯になり、上顎には連結されたブリッジが装着されていたが、装着後も動揺が増し、6年前に前医により23以外は抜歯となり、現在の義歯が装着されたが、下顎臼歯部の動揺が強く、装着後もなかなか食事ができない状態が長く続いていた。
診断名:上顎義歯不適合および広汎型重度慢性歯周炎による咀嚼障害、審美障害
治療計画:
①抜歯即時義歯の装着
②歯周基本治療
③再評価検査
④口腔機能回復治療
⑤再評価検査
⑥SPT
治療経過:
歯周基本治療を進めながら、保存不可と判断した歯牙の抜歯を行い、即時義歯を装着した。咬合位の確保を行った後に、歯周治療、根管治療と合わせて、歯牙移動した31,32に対して部分矯正治療を行い、歯軸方向の改善に努めた。その後、治療用義歯を作製し、咬合関係や義歯形態などを確認し、上下顎補綴治療後にSPTへと移行した。
考察およびまとめ:
若年期や中年期に適切な治療が受けられず、永年放置された口腔内を抱える患者に対しても、患者背景に寄り添いながら、歯の保存に努め、長期間の咀嚼困難や審美不良を改善したことで、身体的精神的状況にも変化を認めた。経験不足な点は多いが、今後も患者の想いに寄り添いながら、ライフステージを考慮した治療を行い、健康寿命の延伸に寄与できるよう努めていきたい。
2005年 日本大学歯学部卒業
日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅲ講座 入局
2009年 日本大学歯学部大学院卒業
2015年 日本大学歯学部歯科補綴学教室Ⅲ講座 退職
2016年 松本デンタルオフィス開業
所属
日本補綴歯科学会
日本口腔インプラント学会
OJ正会員
5-D japan
Key word:インプラント、骨造成、ガイデッドサージェリー
I.はじめに
インプラント治療は欠損補綴の第1選択となりつつある。しかし、適切な診断のもと治療を行わないと確実な予後は得られないことは言うまでもない。またインプラント周囲炎のリスクも上がるということが文献でも報告されている。今回、インプラント周囲炎に罹患した患者に対しインプラントの再埋入を行いアンチエイジングに貢献した症例を報告する。
II.症例の概要
患者: 74歳、男性
初診: 2021年3月
主訴: インプラントの歯がぐらぐらして、出血する。
全身既往歴: 全身状態は良好
歯科的既往歴: 5年前に全顎的にインプラント治療、補綴治療をおこなった。
臨床所見: 上顎は、テンポラリークラウンのまま放置している状態であり、下顎は大きな骨隆起を認め、インプラント辺縁歯肉には発赤・腫脹を認めた。左側第一小臼歯は自然脱落している。レントゲンエックス線写真から小臼歯部、大臼歯部を中心に水平性・垂直性骨吸収が認められた。
III.診断名
全顎的インプラント周囲炎
IV.治療計画
1.歯周基本治療
2.再評価
3.骨造成治療
4.口腔機能回復治療(インプラント治療、補綴治療)
5.再評価
6.メインテナンス
V.治療経過
口腔衛生指導後、動揺している、また埋入位置が不適切であったインプラントの撤去を行うと同時に骨造成を行った。十分な治癒期間後、ガイドを用いてインプラント埋入を行いプロビジョナルレストレーションを装着した。その後、補綴装置に異常が認められなかったので、最終補綴装置を装着しメンテナンスへ移行した。
VI.考察およびまとめ
インプラント周囲炎の原因因子の1つとして、不適切な埋入位置が挙げられる。これに対して、全体的な診断を行い適切な位置にインプラントを再埋入することによって、良好な口腔内環境を獲得することができた。高齢者におけるインプラント治療は、再治療の少なく、またセルフケアを行いやすい環境を構築するのが重要であると考える。今後も咬合状態の確認を行い、注意深くメンテナンスを行う必要があると考える。
2000年東京歯科大学卒業
2000年~2005年
東京歯科大学歯科補綴学第三講座
2006年ながのデンタルオフィス開業
Key word:加齢変化 高齢者の補綴 オーバーデンチャー
患者:81才 女性 主婦
初診:2015年2月
その他:真面目 高血圧 面倒見の良い家族
主訴:口内がネバネバする→この主訴解決後は、歯と義歯が動いて噛みにくいという主訴が出てきました.
歯式:76 4321 123
432 2345
80才を超えている方でしたので当初は保険義歯で対応しようと思っておりました。しかし、調整を進める中で積極的な治療を希望するようになったため、金属床のクラスプ義歯作製を進めておりました。ところが、思わぬ患者の身体的な変化があり設計変更するに至りました。患者家族の意向も影響した症例です。高齢者の治療は身体的・心理的・社会状況的条件が個々で大きく違うために、最適解が見出せないと考えます。何が正しいのか分からない中で治療方針を決断していった本症例の現在までを供覧していただき、高齢者の歯周治療・補綴治療を行う際の一助にしていただければと思います。
1991年3月 長野県公衆衛生専門学校卒業
1991年4月 平林歯科医院 勤務
2003年3月 平林歯科医院 退職
2003年4月 さつき歯科医院 勤務
2013年3月 さつき歯科医院 退職
2013年4月 医療法人一梅会 池田歯科医院 勤務
現在に至る
2020年 3月 日本口腔インプラント学会専門衛生士
2021年10月 日本歯周病学会 認定衛生士
超高齢社会において、口腔内の健康は全身の健康に繋がることが重要視されている。 実際、仕事を辞めた人たちが後悔することの上位に“歯科医院にもっと真面目に通えばよかった”と答えるアンケートもある。 なぜ、口に対して関心が寄せられるかというと、口は見た目、会話などのコミュニケーション、消化の第一段階である、唾液分泌や咀嚼など生きていく上で必要な機能が揃っている部位だからだと考えられる。口腔内が崩壊すると必要な栄養が摂取できなくなり身体的なフレイルが、また、他人とのコミュニケーションが円滑に行えなくなることによる孤立から社会的・心理的フレイルが連鎖的に起こる。 このフレイルの連鎖から逃れるには、フレイルの前段階であるプレフレイル状態時あるいは、より早期から介入を行い、欠損歯列の終末パターンに入らないように歯科治療を行う必要がある。 今回さまざまな症例を通して、歯科治療を行なったことにより、欠損歯列の終末パターンひいてはフレイルの回避を行えた症例を経験したので、ここに報告する。
1984年 大宮歯科衛生士学院 卒業
1984年 中村歯科医院勤務
1999年 江原歯科医院勤務
2006年 医療法人歯門会
神山歯科医院勤務
2023年9月総務省の人口推計によると80歳以上の人は1259万人、総人口に占める割合が初めて10%を超え、10人に1人が80歳以上となりました。健口という言葉の通り私達歯科医療従事者は大きな役割を担っていると思います。
患者は初診時63歳、女性です。上顎は総義歯、下顎は前歯6本残存する部分床義歯を装着していました。下顎は修理を繰り返しており、上顎総義歯は不安定な状態でした。患者は、今回はしっかり咬めるような義歯を作りたいと強く希望されておりました。上顎チタン床義歯、下顎両側大臼歯部にインプラントを埋入し前歯部ジルコニア内冠を有するインプラントオーバーデンチャーを装着しました。来るべき老年期での再治療の際に最小限の治療介入で済むように配慮した治療設計です。初診から19年経過しましたが、大掛かりな治療介入をする事なく、現在も患者さんは何でも咬めると大変喜んでいらっしゃいます。ただ、来院されない期間があったり入院されたり、しっかりとメインテナンスが出来ない期間にトラブルはありました。改めて定期的メインテナンスの重要性を痛感しました。年齢が上がるにつれモチベーションの維持に苦戦する事もありますが、メインテナンスを通して患者さんがこれからも健やかに過ごしていけるよう
歯科衛生士としての関わり方、重要性を考察していきたいと思います。
1996年3月 埼玉歯科衛生專門学校卒業
1996年5月 田中歯科クリニック勤務
本症例は、初診時63歳から27年間通い続け、現在91歳の患者についてのものである。当時、歯周基本治療後メインテナンスに移行し、現在までの間、長期に渡り歯周組織検査、口腔内写真、デンタルX線写真などのデータを蓄積することができた。
初診時からメインテナンス期間の間、喪失歯はなく、ホームケアや口腔に対する健康意欲を失わずにメインテナンスに継続来院している。また、私自身、当クリニックに新卒から勤務しており、初診時から長期に渡り患者の担当をする事ができた。1人の患者を長く診る中では、患者がライフイベントなどで心身共に不安定な時期に担当歯科衛生士が立ち会うこともある。メインテナンスでは口腔の記録と共に、患者の生活背景にも耳を傾け記録として残してきた。年齢を重ね、高齢になるとセルフケアが困難になり、年齢や体の変化がリンクするように、口腔への影響や変化も現れてくるが、長年継続してきたメインテナンスが、いかに患者の口腔の健康や、口腔の健康に対する意識を支える為に大切であるかを再認識した。本症例は、年齢を重ね変化する口腔と患者の様子、また長期メインテナンスの経過として報告したい。
1982年3月 東京医科歯科大学歯学部卒業
1982年11月 東京都西東京市 押見歯科診療室勤務
1987年5月 千葉県我孫子市にて開業
2004年11月 同市内で移転
現在に至る
千葉歯科医院
スタディーグループ火曜会会員
臨床歯科を語る会会員
はじめに
65歳以上を老年期とする場合もあるようですが、高齢期と区別するために本講演では80歳以上としました。歯周治療と長期のメインテナンスをしてきて80歳を超えた患者さんたちから学んできたことをお話しします。
長期経過の老年期患者から学んでいること
5年ほど前までは、高齢者の歯周炎は、罹患度が高い場合であっても一般に進行性は低く、長年の生活習慣の改善に難しさはあっても、根気よくサポートすることで良好な経過が得られると考えていました。
しかし、ある症例での経験からその考えを改めるようになっています。62歳から28年は無難に経過してきた患者で、90歳になってから多くの部位で急性炎症を起こし、わずかな期間に7歯を失いました。悩んだ末に施した対応で、劇的に改善され、その後の3年間は落ち着いています。この症例を経験したことで、臨床を見直すことができ、歯周治療の基本を再認識しています。
長期経過例のデータから考えること
2013年に初診から20年以上診療した患者が305名となったため、自身の診療を見直すべく、歯の保存の傾向等を調べました。初診時に歯周炎傾向にあった119名において、術後の歯周炎による歯の喪失は111歯(平均経過年数23.1年)で一人平均1歯以内であるなど、ある程度歯を守ることができていると評価できました。
次に、老年期まで歯を守ることで患者がむしろ不幸になっていないか、同じ305名の中で来院しなくなった患者の行方を、2019年に調べました。初診時50歳以上103名のうち48名は来院しなくなっており、死亡18名、転居・転院17名、不明12名などでした。フレイル予防は心がけてきたものの大したことはしていませんが、フレイルゆえに通院できなくなった患者はいませんでした。また、死亡18名のうち、死亡時期不明1名、長期施設入所1名を除いた16名の最終来院から死亡までの期間は平均8.3カ月で、晩年に歯で困らせることはほとんどありませんでした (不明12名は不明) 。少なくとも寿命と口腔の健康寿命にはほとんど差がない状況で、訪問診療を積極的に行っていないこともあるとは思いますが、歯の保存をためらう理由はないと考えました。
今回はこうしたデータを改めて見直すとともに、そこから考えたことをお話しします。
まとめ:私の考える「ライフステージを考慮した歯周治療」
本講演が4回シリーズの最後となるため、これまでの3つのステージを含めて考察してほしいとの依頼をいただいています。それぞれのステージの歯周炎患者にどのように対応しているかを簡潔にお話ししてまとめとします。
※現地開催のみで、オンライン(ライブ配信、オンデマンド配信)開催はございません。
10:10 ~ 10:30 | II型糖尿病を有する広汎型慢性歯周炎患者に対して歯周組織再生療法をおこなった一症例 【武田浩平/東京医科歯科大学歯周病学分野非常勤講師】 |
10:30 ~ 10:50 | 可撤性補綴物を選択した重度歯周炎症例 【高野遼平/高野歯科医院】 |
11:05 ~ 11:25 | 外傷性咬合の強い関与が疑われた ステージⅣグレードC患者へ歯周治療を行った一例 【鈴木浩之/ソアビル歯科医院】 |
11:25 ~ 11:45 | 矯正とインプラントを用いてPTMを改善させた重度歯周病症例 【丹野努/医)ゆたか会 丹野歯科医院】 |
10:10 ~ 10:30 | 歯周基本治療に抗菌療法を用いた一症例 【佐藤 ゆかり/医療法人社団 ひろた歯科】 |
10:30 ~ 10:50 | 高齢期患者の 現在・過去・未来 【高宮 由衣/医療法人社団歯門会神山歯科医院】 |
11:05 ~ 11:25 | Ⅱ度の根分岐部病変を有する患者に 口腔衛生指導を行いモチベーション維持努めた一症例 【平間 南美/康翔会 清水歯科クリニック】 |
11:25 ~ 11:45 | 歯科衛生士としてQOL向上に努め高齢期患者の包括治療を支えた一症例 【服部 めぐみ/井原歯科クリニック】 |
11:45 ~ 12:05 | 糖尿病の合併症により視力が低下した患者に対して歯周治療を行い 口腔内の状態改善を図った一症例 【沖田 美羽/医療法人惠仁会関根歯科医院】 |
09:50 ~ 13:45 | 学生プログラム 【木村文彦/】 |
13:15 ~ 13:55 | 文献委員会発表 |
14:25 ~ 16:25 | 「ライフステージを考慮した歯周治療」長期経過症例から考える高齢期における、または高齢期に向けた歯周治療の役割 【石川 知弘/医療法人社団 石川歯科】 |
2014年 東京医科歯科大学卒業
2015年 東京医科歯科大学歯周病学分野
2022年 東京医科歯科大学歯周病学分野非常勤講師
Key word:糖尿病、歯周組織再生療法
I.はじめに
糖尿病は歯周炎のリスクファクターであり、歯肉辺縁に微小血管障害がおこり、歯周治療の創傷治癒が遅延することが知られている。今回、高齢期のII型糖尿病を有する歯周炎患者に対して歯周基本治療・歯周組織再生療法をおこなった症例を報告する。
II.症例の概要
患者: 66歳、男性
初診: 2015年6月
主訴: 歯が全体的にぐらぐらして咬めない、歯肉から出血する。
全身既往歴: 50歳より糖尿病に罹患している(初診時 HbA1c 6.2%)
歯科的既往歴: 6年前に上顎左側および下顎右側にインプラント治療、5ヶ月前に上顎右側の補綴治療をおこなった。
臨床所見: 辺縁歯肉部の発赤・腫脹、33-43部に叢生を認めた。4mm以上のPPDの割合48.4%、BOP陽性率77.2%、PCR 48.9%、レントゲンエックス線写真から前歯部・小臼歯部を中心に水平性骨吸収・垂直性骨吸収が認められた。
III.診断名
広汎型慢性歯周炎 ステージIV グレードC
IV.治療計画
1.歯周基本治療
2.再評価
3.歯周外科治療(歯周組織再生療法、遊離歯肉移植術)
4.口腔機能回復治療(限局矯正治療、補綴治療、インプラント治療)
5.再評価
6.SPT・メインテナンス
V.治療経過
口腔衛生指導後、スケーリング・ルートプレーニングをおこなった。再評価後、14、33、43に歯周組織再生療法、角化歯肉の不足が認められた46部インプラントに対して遊離歯肉移植術をおこなった。その後、下顎前歯部の叢生の改善のために限局矯正治療をおこない、インプラント治療・補綴治療後、SPTへと移行した。
VI.考察およびまとめ
高齢期の糖尿病のリスクファクターを持つ歯周炎患者に対して、歯周基本治療・歯周組織再生療法をおこなったことで、歯周組織の改善が得られた。さらに限局矯正治療・補綴治療・インプラント治療を併用することで良好な口腔内環境を獲得することができた。しかし全身疾患のリスクによる歯肉辺縁の血管のダメージから軟組織や硬組織の治癒は遅延したと考える。治療期間やメインテナンス中に全身状態の変化を注意深く問診していきながら歯周組織の反応を確認することが高齢期の歯周治療として重要な要素であると考える。
2008年 新潟大学歯学部卒業
2013年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 生体歯科補綴学分野 博士課程 修了
新潟大学大学院医歯学総合研究科 生体歯科補綴学分野 助教
2014年 高野歯科医院(新潟県)勤務
新潟大学医歯学総合病院冠ブリッジ診療科 非常勤にて勤務
2019年 高野歯科医院 院長就任
Key word:重度歯周炎 動揺歯 失活歯 可撤性補綴物
Ⅰ. はじめに
多数の重度歯周炎罹患歯の保存に努めた症例では口腔機能回復治療にて補綴設計に悩むことは少なくない。動揺歯の二次性咬合性外傷を回避するために広範囲の連結固定を検討することがあるが、失活歯が多い場合には術後トラブルのリスクは高まり、固定性補綴物の予知性は低下する。今回の発表では動揺を伴う失活歯に対する術後対応と固定効果を考慮し、上下顎に可撤性補綴物を選択した重度歯周炎症例の術後7年経過について報告する。
Ⅱ. 症例の概要
患者:64歳 女性
初診:2012年2月
主訴:歯がグラグラする、金属の成分を調べて欲しい、
全身的既往歴:高血圧、金属アレルギー(クロム、白金)
性格:怖がり、温厚、神経質
喫煙習慣:有 歯周治療の既往:無
歯科的既往歴:大学病院皮膚科よりアレルギー陽性金属および歯性病巣感染の精査依頼にて同病院歯科を受診された。歯科治療に対する強い恐怖心を抱いており、10年ぶりの歯科受診であった。
Ⅲ. 診断名
広汎型慢性歯周炎 ステージⅣ グレードC
Ⅳ. 治療計画
①歯周基本治療
②再評価
③歯周外科処置
④再評価
⑤口腔機能回復治療
⑥SPT
Ⅴ. 治療経過
まずは口腔清掃指導を中心とした歯周基本治療を行った。初診より約1年後に初期の大腸癌と胃癌が見つかったこともあり、禁煙に成功した。歯科治療に恐怖心を抱いていたが、歯周炎罹患歯の保存に注力することを通じて、恐怖心は和らぎ、良好な信頼関係を構築できた。歯周治療への反応が良かったことにも助けられ、下顎残存歯は歯周基本治療のみで問題は解決した。再評価時に歯周ポケットが残存した上顎臼歯部と縁下カリエスを認めた部位には歯周外科処置を適応した。機能時の動揺をコントロールするために全ての上顎残存歯を連結固定する必要性があったが、全てが失活歯であることが口腔機能回復治療を行う上での懸念事項であった。動揺歯に対する固定効果と術後対応を考慮し、下顎にはテレスコープ義歯、上顎には二重冠を用いた術者可撤性ブリッジを装着し、SPTに移行した。
Ⅵ. 考察およびまとめ
初診から12年、術後7年が経過したが、現在も2ヶ月毎のSPTを継続し、現状維持に努めている。残存歯の歯列内配置が良好で、咬合力が弱く、禁煙に成功したことが、重度歯周炎罹患歯の保存と安定した咬頭嵌合位の維持に寄与したと考察した。術後経過にて下顎残存歯の歯周組織に大きな変化は認めないが、上顎大臼歯部は付着の喪失の進行を認めた。今後も注意深い経過観察を行い、術後対応が必要な局面では可撤性補綴物の利点を活かしていきたい。
2001年 明海大学歯学部卒業
2004年 足立区ソアビル歯科開業
Key word : 外傷性咬合 インプラント 慢性歯周炎
I.はじめに
重度慢性歯周炎患者における歯周治療は、細菌性因子を取り除き、炎症の消退を図ることが重要であることは言うまでもない。しかし、外傷性咬合を有する患者に対しては長期予後を獲得するためには力のコントロールと適切なメインテナンスが必要である。今回、歯周炎の進行に加え、強い外傷性因子が関与した患者に対し、包括的に治療を行なった一症例を報告させていただく。
II.症例の概要
患者:57歳、女性、喫煙者
初診:2014年4月
主訴:左下の歯がとれた
全身既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:20年ほど前に前歯部補綴を行い、10年くらい前から噛みにくさを自覚していた。5年程前に33抜歯し人工歯にて暫間固定。
III.診断名
広汎型慢性歯周炎 ステージⅣ グレードC
IV.治療計画
1歯周基本治療(OHI,SRP,抜歯,根管治療)
2再評価
3歯周外科治療
4再評価
5、口腔機能回復治療(インプラント・補綴治療)
6メインテナンス
V.治療経過 初診より10ヶ月に渡り歯周基本治療にて炎症の除去を行い、暫間義歯により咬合の回復を図った。再評価後に12,22,23,32,34,35,45に歯周外科処置を行った。また、骨内欠損が存在した32,45には歯周組織再生療法を行なった。補綴装置は当初1次固定を選択し、プロビジョナルレストレーションにて咬合の回復を図ったが、破損を繰り返すことから補綴設計を修正し、上下臼歯部においてインプラントによる咬合支持を図り、上顎は5〜5クロスアーチにて補綴、左下3の欠損部にもインプラントによるアンテリアガイダンスと犬歯ガイドの獲得を図った。また術後には、46歯根破折により抜歯後、インプラント埋入を行った。現在は初診時より10年が経過しメインテナンスを継続中である。
VI.考察およびまとめ
今回、ライフステージにおける患者の背景を考慮しつつ、歯の保存を念頭に置いた徹底した歯周治療に加え、プロビジョナルレストレーションによる咬合関係の改善を図ったことが、外傷性因子の強い患者に対する口腔機能の回復と共に患者との信頼関係の構築ができたと考えられる。個体差を考慮した一連の歯周治療による炎症のコントロール、インプラントによる力の分散が、現在も口腔機能の維持を図れていると考える。
1999年 北海道大学歯学部卒業
2006年 丹野歯科医院 継承
2007年 医)ゆたか会 丹野歯科医院 設立
実績・所属 資格
・5-D Japan ペリオ・インプラントコース インストラクター
・5-D FST 副会長
・ICOI Master ,Diplomate
・日本成人矯正歯科学会 理事(2017~2020)
・OJ(Osseointegration Study Club of Japan) 正会員
・AO(Academy of Osseointegration)アクティブメンバー
・AO2018 Best Clinical Innovations Presentation Award
・OJ2021 正会員コンテスト Best Presentation Award
Key word : PTM 矯正治療 インプラント
Ⅰ.はじめに
今回は、歯周病による支持組織の低下、臼歯部の喪失によるバーティカルサポートの欠如により、歯の病的移動(Pathological Tooth Movement)をおこした患者に対して、インプラント治療、矯正治療、歯周組織再生療法をもちいて、包括的に治療を行った一症例を報告させていただく。
Ⅱ.症例の概要
患者;男性 喫煙者(1日6~7本)
初診:2010年1月25日
主訴:奥歯で咬めるようにしたい。見た目を良くしたい。
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:5~6年程前に、16,17,26,34,45,46が歯周病により抜歯に至ったとのこと。その後、欠損部には何もせずに、積極的な治療はしなかった。
Ⅲ.診断名
広汎型慢性歯周炎 ステージⅣ グレードC
Ⅳ.治療計画
① 歯周基本治療(OHI、SRP、抜歯)
② 再評価
③ 矯正前インプラント治療
④ 矯正治療
⑤ 矯正後インプラント治療
⑥ 歯周組織再生療法
⑦ 補綴治療
⑧ SPT
Ⅴ.治療経過
歯周基本治療後、矯正治療を含めたSet-upを作製した。バーティカルサポートを得るために15,16,17,26,27,45,46,47にインプラントを埋入した。プロビジョナルレストレーションによりバーティカルサポートを確立後、矯正治療を行った。矯正治療終了後、14,24にインプラントを埋入し、42,43間に歯周組織再生療法を行った。13-23,33-43は、矯正治療後の後戻り防止、付着の低下に対する1次固定、アンテリアカップリングの最適化および審美的改善のために、補綴治療による連結固定を行った。
Ⅵ.考察およびまとめ
今回、歯周病により臼歯部の咬合が崩壊し、前歯部の挺出およびフレアアウトを来した症例に対し、インプラントによるバーティカルサポートの獲得、矯正治療による前歯部フレアアウトの改善、骨欠損部への歯周組織再生療法、前歯部補綴治療を行うことにより、審美性、清掃性、機能性を向上させることができた。矯正治療、インプラント治療、歯周組織再生療法を併用することにより、低侵襲かつ予知性が高い口腔内環境を確立できることが示唆された。
1998年3月 東邦歯科医療専門学校卒業
小池歯科医院
医療法人社団清葉会 木村歯科医院
2012年 医療法人社団 ひろた歯科入社
2006年 日本歯周病学会認定歯科衛生士取得
2019年 日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士取得
はじめに
歯周基本治療によりプラークや歯石を機械的に除去することによって炎症のコントロールはできても歯周病原細菌のコントロールができているとは限らない.その結果歯周病は再発しやすいと言われている.
本症例では歯周基本治療後、SPTに移行したが8カ月で再発したため抗菌療法を併用し再治療を行った結果について報告する.
症例の概要
患者:62歳女性 非喫煙者
初診:2016年7月
主訴:左上が腫れ、揺れる
既往歴:う蝕で#15#26#46を抜歯
診査所見:PCR65.2%,PPD4㎜以上17.2%,BOP65.4%,#28はPPD10㎜,動揺度Ⅲ,X線所見にて垂直性骨吸収が認められた.
診断名:広汎型慢性歯周炎 ステージⅢグレードB
治療経過:急性発作を認めた#28は治療困難と判断し抜歯、#38は無接触となるため抜歯した.歯肉縁上プラークコントロール後、SRPへ移行した.再評価後、PPD4㎜以上0%、BOP14.0%になったところでSPTへ移行.
SPT8カ月目で再発の疑いから歯周病原細菌検査を行った.レッドコンプレックス3菌種が許容値以上だったためFMDにて再治療を行った.
FMD後はレッドコンプレックス3菌種は許容値以下、P.g菌、T.d菌は検出限界値以下となった.#45#46#47の補綴装置が脱離したため再製しSPTへ移行した.
考察およびまとめ:歯周基本治療後、8カ月で再発したことに対して炎症のコントロールはできていたが細菌のコントロールができていなかったため再発したと考える.その結果レッドコンプレックスが許容値以上だったため抗菌薬を併用したFMDに治療を変更した.FMDから5年経過した現在でも歯周病原細菌5菌種は検出限界値以下であり歯周病の進行、再発の兆候は認められていない.抗菌薬を併用したFMDでの再治療は患者さんにとって良好な結果となった.
2021年3月 学校法人葵学園 葵メディカルアカデミー 卒業
2021年4月 神山歯科医院 入局
当院では治療計画立案の際、「現在」の口腔内を精査し、その原因である「過去」そして治療介入が行われなかった場合の「未来」を考察しながら患者さんにご説明しています。
今回は、当院に約20年通院されている高齢期患者の引き継ぎ症例を発表します。
初診時は45歳の男性です。ライフステージは中年期にあたります。
生活の中で歯科治療の優先順位が低いため、これまで定期的に歯科医院を受診することはありませんでした。歯周治療を受けたことがなく、全顎的に歯周病が進行しておりました。
このような患者さんには、まずは自分の口腔内の状態を理解してもらうことから始めます。そしてTBIにより炎症のコントロールを行い、患者さんのモチベーションを上げるよう努めます。
この方は、他院で「奥歯を抜いて入れ歯」と言われ、それを受け入れることができず当院に来院されております。
当院では初診時にホープレスな一歯を抜歯しましたが、その後は抜歯も歯周外科処置も行わず現在も義歯でなくご自身の歯でしっかり食事をされています。
長い期間、患者さんが良好な口腔内環境を維持しながら通院を継続しているのは、患者さんの「過去」の問題点や指導内容、「現在」の状況をしっかりと歯科衛生士の間で正確に引き継いできたからだと思います。
20年間で患者さんの身体状況や食生活、口腔内の状態やセルフケアの仕方がどのように変化したのか、そして人生100年時代に老年期患者として健康な生活を送るための「未来」に私たちがどのように関わるべきか。考察も交えて発表したいと思います。
2019.3月 アポロ歯科衛生士専門学校 卒業
2019.4月 康翔会 清水歯科クリニック 入局
歯周基本治療や歯周外科治療にあたる際、術後の状態を限りなく良好な状態で維持していくためには、患者のセルフケアによる歯肉縁上のプラークコントロールと、歯科衛生士による歯肉縁下のプラークコントロールが重要である。
歯肉縁上のプラークコントロールでは、歯ブラシ・補助用具を正しく活用したセルフケアが必要となり、また習得したセルフケアを継続していくためには、患者のセルフケアへのモチベーションの維持が必要不可欠となってくる。
歯肉縁下のプラークコントロールでは、術後の歯周組織に適した器具の選択はもちろんのこと、患者が定期的に受診をしなければならない。
今回は、設定した目標を患者とどのように向き合いモチベーション維持・向上させたか、また歯周外科治療後の状態の変化にどう対応していったかを症例を交えながら発表したい。
2011年3月 取手歯科衛生専門学校 卒業
2011年4月 わかまつ歯科
2014年3月 医療法人幕内会山王台病院
2017年2月 東京国際クリニック歯科
2017年12月 井原歯科クリニック
キーワード
高齢期、行動変容、口腔衛生指導
歯周治療を行ううえで、ライフステージにより要求は異なります。
その中でも特に高齢期の治療では、再治療のない治療、今後治療介入の少ない治療が求められます。
治療の各段階で患者の口腔管理が必要ですが、健康観が変化する世代でありながらも、ブラッシングや口腔内への意識改革・行動変容、モチベーションの維持は難しく、歯科衛生士としてどう向き合うかが日々の課題です。
患者の要求と術者の考えの共通点と相違点をすり合わせ、現実とのギャップを埋めるために歯科衛生士としてできることはなにか。
患者自信が自ら考え行動し、自立するためにはどうサポートする必要があるか。
そのためには口腔だけでなく全身の管理が必要で、その重要性を伝えることが歯科衛生士の役割だと考えます。
日常会話の中から患者の背景を想像し、自己効力感を高められるような指導を行い、行動変容に導くことが重要となります。
今回の症例では、患者が自分にも実践できると自信を持ち、継続できる口腔衛生指導に努めたことで口腔への意識に変化がみられ、歯周病が改善し、天然歯の保存・機能回復まで行うことができました。
歯科衛生士として、高齢期患者のQOLの維持・向上に寄与することができた一症例について発表させていただきます。
2020年3月 アポロ歯科衛生士専門学校 卒業
2020年4月 医療法人惠仁会関根歯科医院 入局
歯科衛生士として仕事に従事して4年が経ち、担当させていただく患者数も増えてきた。その中でも多くの患者が罹患している全身疾患の一つに糖尿病がある。糖尿病は歯周炎との関係が示唆されていることもあり、既往歴として問診票に記載があった際は徹底的に問診を行うように心がけている。だがこれまでは、どの患者も糖尿病治療により状態の安定が図られていることが多く合併症の併発は認めなかったため特別な配慮が必要となることはなかった。
本症例では、重度の糖尿病のため網膜症を併発しており、視力の低下した患者に対して歯周基本治療をどのように行えば良いかについて初めて考えることとなった。患者へのOHIや歯周炎などの病状の説明を行う際、欠かせないのが視覚情報であり、実際に日々の診療の中でも視覚的な情報を用いてモチベーションの向上や技術の修正を行うことが多い。今回はその視覚情報がない中で、より患者のイメージしやすい言葉選びや伝わりやすい説明を行うため、患者の性格や生活背景を理解する必要性を感じた。様々な患者情報から伝わりやすいOHIや情報提供を行い、その上で歯科衛生士としての治療介入を考えることで、口腔の健康はもとより全身の健康促進に繋げられるように取り組んだ症例としてご供覧頂き、ご指導賜りたい。
1988年 広島大学歯学部卒業
広島大学歯学部口腔外科第一講座
1990年 浜松市内勤務
1996年 静岡県浜松市にて石川歯科開業
2008年5-D Japan 北島一、船登彰芳、福西一浩、南昌宏 と共に設立
現在
5-D Japanファウンダー
日本臨床歯周病学会指導医
日本歯周病学会会員
日本口腔インプラント学会専門医
日本補綴歯科学会会員
アメリカ歯周病学会会員
AO(Academy of osseointegration)会員
EAED(European Academy of Esthetic Dentistry) affiliate member
静岡県口腔インプラント研究会 顧問
OJ相談役
日本は世界で最も高齢化が進んでいる高齢者の人口比率は29.1%で1950年以降、現在も増加し続けている。2060年代には人口減少に伴い高齢化率は40%近い水準になると予測されている。しかし、日本の高齢者の就業率は主要国の中で高い水準で25.2%に達している日本老年医学会においても1960年代と比較し20年以上平均余命が伸びたことから高齢者の定義を65才以上から75才以上に、74才までを準高齢者とすることが提言されている。歯科においては、2023年の時点で8020達成者は約半数に達し、残存歯数の増加に伴い高齢における慢性歯周病の罹患者は増加している。歯が残存することによって、義歯の必要性は減少しそうだが、実際は高齢者の増加によって、その症例数は増加し、個々の症例においては高齢化する傾向が見られる。
歯科診療所における患者数に変化はないが、高齢者の割合が増加傾向にあり当院でも開業当初から継続的に通院して来られる方は多くが高齢者になっている
高齢者において、欠損補綴を放置すると残存歯数が19歯以下では転倒のリスクは2.5倍になり、義歯装着者は1.36倍でリスクは半減し、また認知症の発症に関しても65歳以上の4425人を調査し4年後の認知症を発症するリスクが20歯あるものと比較し未満のものは1.85倍高いことが示されている。つまり、高齢者といえども、むしろ高齢者こそ積極的に欠損補綴を行う必要があると考えられる
吉江らは著書の中で高齢者の最大の特徴は多様性であるため、病態のステージを健康型、フレイル型、介護型と分類した。明確な区分をすることは困難であり、フレイル型の中でも、歯科医院に通院可能か不可能かを分け、健康型からプレフレイル、フレイルへの移行期を見極めることが重要であるとしている。基本的に我々は健康型の高齢者に対しては、それを可及的に維持できるよう、歯周病をコントロールすることによって関連する全身疾患の進行を抑制するサポートと、再生療法など外科処置を応用して歯を保存すること、積極的に欠損補綴を行い、咀嚼機能を回復、維持することが目標となるであろう。つまり必要な外科処置はこの時期に行うべきだが、遠くない将来、再度の外科処置が困難になること、さらには、セルフプラークコントロールができなくなり、通院じたいが不可能になる時期がくることを念頭に置かなければならない。特に欠損補綴にインプラントを選択する場合、すれ違い咬合に代表される義歯では解決が困難な症例において咬合支持の回復、またはオーバーロードに晒されている残存歯の負担軽減には絶大な効果を発揮する。しかし、訪問診療におけるインプラントに関するトラブルは主として清掃困難47%とインプラント周囲炎が39%であり、患者の半分はセルフプラークコントロールが困難であったことからも、たとえ専門家でなくてもいかにプラークコントロールできるかが主なポイントとなるであろう。また、残存歯が失われても、インプラント同士で咬合が確保できるような配置が求められる。
歯科治療の中で、特に歯周治療とインプラント治療は継続的なSPTが必須であり、患者、術者の関係はどちらかが継続不可能となるまで続くことが前提となる。患者とともに術者も経験を重ね多くを学ぶことになる。本講演では長期経過症例を通して高齢期における、または高齢期に向けた歯周治療の役割について検討したい。
19:00 ~ 21:00 | 17日 各講師による講義(概論) |
09:00 ~ 16:00 | 18日 講義 ワークショップ ケースディスカッション |
10:00 ~ 16:00 | Workshop |
歯科衛生士の教育現場では「歯科衛生過程」というカテゴリーを10年ほど前から学ぶようになってきています。これからは、患者さんを受け持つ際にはこの歯科衛生過程を元に、臨床を行っていくことが主流になります。この仕組みを理解し使うことにより、自身の頭の中の整理や、医院内での連携にも役にたつことは間違いありません。これを機会に、知っている人はもちろん、知らなかった人も一緒に学んでみませんか?また、検査結果や臨床症状、将来の予測を行えるよう、症例の見方も一緒に学んでいきましょう!
10:05 ~ 10:30 | 重度垂直性骨欠損へのFGF-2製剤単独応用による歯周組織再生の有効性 【齋藤夏実/東京医科歯科大学 歯周病学分野】 |
10:30 ~ 10:55 | 広汎型重度侵襲性歯周炎患者にrhFGF-2製剤と炭酸アパタイト製骨補填材を併用し再生療法を行った一症例 【北村友里恵/東京歯科大学歯周病学講座】 |
10:55 ~ 11:20 | 非アルコール性脂肪性肝疾患に対する歯周病細菌減少療法とブラッシング治療の多施設共同無作為化対照試験 【佐藤五月/神奈川歯科大学歯周病学】 |
11:35 ~ 12:00 | 糖尿病を伴った重度歯周炎患者に対して行った歯周治療の1症例 【松島 友二/鶴見大学歯学部歯周病学講座】 |
12:00 ~ 12:25 | 塩基性線維芽細胞増殖因子を用いた歯周組織再生療法後の10年経過 【菅野 真莉加/昭和大学歯学部歯科保存学講座歯周病学部門】 |
13:25 ~ 13:50 | 骨欠損形態に応じて異なる歯周組織再生療法を行った一症例 【刈屋友彰/医療法人社団博三会 エスポワール歯科】 |
13:50 ~ 14:15 | 歯列不正と欠損補綴を含む複雑なケースの根面被覆術 【後藤 弘明/府中エンライトデンタルクリニック】 |
14:15 ~ 14:40 | 歯周組織再生療法により咬合支持歯の保存に努めた症例 【大村 星太/斉田歯科医院】 |
15:10 ~ 16:40 | 再現性の高い歯周再生療法のための診断と外科基本手技 【井原雄一郎/井原歯科クリニック】 |
2017年 東京医科歯科大学歯学科 卒業
2018年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野 入局
2021年 日本歯周病学会 歯周病認定医
2022年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野 博士課程(歯学)修了
東京医科歯科大学病院 歯系診療部門 口腔維持系診療領域 歯周病科 医員
FGF-2製剤を用いた歯周組織再生療法が広く臨床応用されている。その長期予後について当院での3年間の観察研究から、垂直性骨欠損における骨欠損深さの改善に寄与する統計学的有意な因子は術前のエックス線写真上での骨欠損深さであり、骨欠損角度、欠損部骨壁数、根分岐部病変の有無、年齢との関連は有意ではないことが示された1。この結果から、FGF-2製剤を用いた再生療法の予後は骨欠損形態に関わらず、術前のエックス線写真上の骨欠損深さから予測できる可能性が示唆されている。
本発表では、(1) 深い三壁性骨欠損を有する下顎小臼歯、(2)頬舌径が大きい三壁性骨欠損を有する下顎大臼歯、(3)囲繞性の広い骨欠損を有する上顎大臼歯に対し、可及的に低侵襲なフラップデザインでFGF-2製剤を単独で用いた症例を提示する。いずれもエックス線写真上の骨吸収像は術前の骨欠損深さに応じて改善を認め、クリニカルアタッチメントレベルは9-10mmから3-5mmに改善し術後2年以上維持している。これらの症例から、生物製剤の単独使用が第一選択とならないと思われる広範囲もしくは深い重度の垂直性骨欠損に対しても、低侵襲な歯周組織再生療法によって良好な経過を得られる可能性が示唆された。
2015年 3月 東京歯科大学 卒業
2016年 4月 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯周病学専攻)入学
2018年 10月 日本歯周病学会認定医取得
2020年 3月 東京歯科大学大学院歯学研究科(歯周病学専攻)修了
2020年 4月 東京歯科大学歯周病学講座 レジデント(水道橋病院)
2022年 10月 東京歯科大学歯周病学講座 助教
【はじめに】今回,侵襲性歯周炎患者にrhFGF-2製剤と炭酸アパタイト製骨補填材を併用した再生療法を行った症例を報告する。
【症例の概要】患者は34歳の女性で,ブラッシング時の歯肉の出血を主訴に当科受診した。PD >4 mmの部位は38.3%,BOPは19.1%,O’LearyのPCR は62%であった。エックス線画像所見では#14, 33, 46 に垂直性骨吸収を認めた。広汎型重度慢性歯周炎(ステージⅢ,グレードC)と診断し,歯周基本治療後,ポケット残存部位に歯周外科治療を実施した。#14, 33 にはrhFGF-2製剤(リグロス®︎)+炭酸アパタイト(サイトランス®︎グラニュール),#46にはrhFGF-2を応用した。再評価後,SPTへと移行した。
【考察・結論】rhFGF-2単独,または炭酸アパタイトを併用した再生療法により,歯槽骨の平坦化を認め,良好な状態を維持している。SPT1年と短い経過であり,今後も慎重な経過観察を行う予定である。
2010年 三井物産株式会社退職
2015年 岡山大学歯学部卒業
2016年 神奈川歯科大学附属横浜クリニック研修医修了
2017年 神奈川歯科大学附属横浜クリニック 医員
2020年 神奈川歯科大学総合歯科学講座 助手
2021年 神奈川歯科大学臨床科学系歯科インプラント学講座高度先進インプラント歯周病学 診療科助手
2022年 神奈川歯科大学 歯学博士
2023年 神奈川歯科大学歯周病学 助教
日本歯周病学会認定医
我々は、Porphyromonas gingivalis(P.g)感染が引き起こす歯周病と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)との関連性を探索するため、両疾患を有する患者164名を対象に、血液検査、歯周病検査、唾液採取を行い、歯周病細菌減少療法の有効性を検討した。その結果、NAFLD患者では唾液中のP.g陽性と肝硬度は相関していた。また、SRP群ではブラッシング群と比較して肝酵素値および抗体価の有意な低下が認められた。NAFLD患者は健常者よりもエンドトキシンに対して感受性が高く、微量のエンドトキシンでも肝障害を引き起こすことが報告されている。PPDの改善は口腔内の治療としては軽度であっても、口腔内のP.gによるエンドトキシンを減少させることで肝障害を改善した可能性がある。歯周病治療により、肝酵素値および抗体価が有意に低下したことは、歯周病治療が肝疾患の改善に寄与する可能性を示しており、これらの有効性と安全性を明確にするために、さらなる研究が必要である。
2005年 鶴見大学歯学部歯学科卒業
2010年 鶴見大学歯学部歯学研究科卒業
2013年 鶴見大学歯学部(歯周病学講座 助教)
2019年 鶴見大学歯学部(歯周病学講座 学内講師)
2021年 鶴見大学歯学部(歯周病学講座 講師)
糖尿病を伴った重度慢性歯周炎患者に対し、アジスロマイシン(AZM)服用下FM-SRP (full mouse SRP) を行った後に、必要部に対し歯周外科を行った症例について報告する。
患者は62歳の男性。2年前より糖尿病(空腹時血糖164mg/ml, HbA1c7.9%)と診断され加療中であった。初診時の平均歯周ポケット(PPD)は3.8mm, 4mm以上のPPDの割合は57%。プロービング時の出血の割合(BOP陽性率) は77%, 口腔清掃状態はO`learyのプラークコントロールレコードで90.5%であった。全顎的に歯肉は発赤腫脹し、エックス線写真の所見として全顎的な垂直性および水平的骨欠損を認めた。内科医による糖尿病治療と平行して行ったAZM併用FM-SRP等の歯周基本治療により初診時57%あった4mm以上のPPDの割合は28%に減少した。また、初診時の細菌検査で認められた歯周病原細菌も検出限界以下となり、HbA1cも6.3%まで減少した。細菌叢が安定した後、残存した4mm以上のポケットに対して歯周組織再生療法を行った。
本症例では、AZM併用FM-SRPを内科医の糖尿病治療と平行して行うことで良好な血糖コントロールの状態を得ることができ、その後の歯周外科処置もスムーズにおこなえた。今後も血糖のコントロールに注意しながらメインテナンス予定である。
2008年 神奈川歯科大学歯学部歯学科 卒業
2009年 昭和大学歯学部歯学研究科歯周病学分野 入学
2013年 昭和大学歯学部歯学研究科歯周病学分野 卒業
2015年 昭和大学歯学部歯周病学講座 助教
2023年 昭和大学歯学部歯科保存学講座歯周病学部門 助教
塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)を用いた歯周組織再生療法が保険収載されてから約7年が経過した。その手軽さと適応症の広さ、良好な治癒機転が得られるという臨床実感から、昭和大学歯科病院歯周病科でも再生療法の多くにFGF-2を用いているが、従来から行われてきた骨移植術やエナメルマトリックスタンパク質、GTR法と比べると、長期予後のデータは十分とは言えない。
当院は2009年から2013年までに実施されたKCB-1D(FGF-2の治験薬コード)を用いた第Ⅲ相臨床治験に参加した。その際の治験対象歯はすでに10年以上の長期経過を経ていることになる。そこで今回は、治験に参加した複数症例について、術後10年の推移を報告してみたい。
2017年 日本大学歯学部 卒業
2018年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野 入局
2021年 日本歯周病学会 認定医
2022年 医療法人社団 博三会 エスポワール歯科 院長
【所属学会】
•日本歯周病学会 認定医
•日本臨床歯周病学会 会員
•日本口腔インプラント学会 会員
•日本歯科保存学会 会員
【はじめに】
歯周組織再生療法を行う上で、骨欠損形態を考慮した術式とマテリアルの選択が重要である。本発表では、様々な形態の垂直性骨欠損に対して、異なる術式とマテリアルを使用した歯周組織再生療法を行い、良好な結果が得られた一症例を報告する。
【症例の概要】
患者:56歳 女性
初診:2020年2月
主訴:右下の奥歯が痛む
全身既往歴:特記事項なし
喫煙歴:なし
歯科的既往歴:5年ほど前に齲蝕治療のために歯科に通院していたが、その後、通院は途絶えていた。今まで歯周病を指摘されたことも歯周治療を受けた経験も無かったが、歯肉が腫れたことで不安になり来院した。
【診断名】
広汎型慢性歯周炎 ステージⅢ グレードC
【治療計画】
① 歯周基本治療
② 再評価
③ 歯周組織再生療法(26,27,44,46)
④ 再評価
⑤ 抜歯(18,28,38,48)
⑥ 口腔機能回復治療(17,16,25,37,46,47;セラミッククラウン)
⑦ SPT
【治療経過】
今まで歯周病を指摘されたことがなく、まず歯周病の原因を説明することから始めた。検査結果を説明した後は、患者自身が歯周病の状態について理解したようで、治療に対して積極的な姿勢を見せた。歯周基本治療後の再評価を行い、26,27,44,46に対して歯周組織再生療法を行った。再評価時に歯周組織の安定を確認し、口腔機能回復治療を行い、SPTへ移行した。
【考察】
本症例では、歯周基本治療中にセルフケアが確立できたことにより、歯周組織再生療法の効果を高めることができたと考える。また、骨欠損形態に応じて、フラップデザインと再生マテリアルの選択について考察し、適切な術式で歯周組織再生療法を行ったことも、良好な結果につながったと考えられる。リグロスによる歯周組織再生療法を行った44、46に関しては、歯冠乳頭の再生も認められ、軟組織に対しての効果が得られたと思われる。
2008年 東京歯科大学卒業
2008年 東京歯科大学千葉病院 研修医
2009年 東京歯科大学歯周病学講座
2014年 東京歯科大学千葉病院 助教
2016年 東京歯科大学臨床講師
2019年 府中エンライトデンタルクリニック開業
【所属及び所属学会等】
日本歯周病学会 専門医 日本臨床歯周病学会
歯槽堤の欠損などの粘膜歯肉の変形や特に歯肉退縮は多くの患者に認められる非細菌性の歯周
組織疾患である。そのうち歯肉退縮は薄く角化歯肉幅の少ない患者に起こりやすい傾向があり、
白人に比較して薄い歯肉フェノタイプを持つ傾向がある我々アジア人に多く発生する。部位とし
ては、歯肉の薄い傾向のある下顎前歯をはじめとする前歯部領域が対象となりやすい。歯肉退縮
で問題とされるのは一番は審美的な要素であることが多く、また平均寿命の延長に伴い露出した
根面の損傷の機会も増加しており、その改善には審美と安定の両立が求められる。本発表では前
歯部における歯肉退縮に対して治療を行なった症例について提示させていただく。
症例:26歳 女性
診断:#12,21 歯肉退縮 ( Miller Class3, Cairo RT2 )
#31,41 歯肉退縮 ( Miller Class1, Cairo RT1 )
上顎前歯の仏痛と上下前歯の見た目の改善を主訴に来院。仏痛の原因歯は外部吸収により保存
不可であったため抜歯とした。仏痛が改善して、歯肉退縮による審美障害が残ったほか、前歯の
突出感や失活歯の変色や抜歯部歯槽堤の欠損が存在した。非常に薄いフェノタイプを持つ患者に
対し歯列矯正治療と補綴治療に先駆けて、粘膜歯肉の問題に歯周形成外科にて対応した。上顎前
歯には軟組織による歯槽堤増大術と根面被覆術、下顎前歯には根面被覆術を歯間乳頭を切開しな
い術式にて行なった。現在歯列矯正治療中で歯周形成外科術後1年以上経過した時点の評価で露出
根面の被覆とフェノタイプの改善がなされており良好な経過を示している。
根面被覆術は歯肉退縮の改善ととともにCTGを併用することで非常に薄いフェノタイプの歯肉
の改変も行うことができる。近年、血流や審美的に有利な歯間乳頭を切開しない術式が多く報告
されており、テクニックとしてもインスツルメントの進化やCTGの採取法が簡便になり、行いや
すい術式になってきている。
キーワード
根面被覆術 フェノタイプ 結合組織移植
2019年 東京医科歯科大学卒業
2019年 臨床研修医(東京医科歯科大学、斉田歯科医院)
2020年 斉田歯科医院勤務 2022年 日本歯周病学会認定医取得
はじめに
近年、歯周組織再生療法の分野でも多くの研究が行われ、臨床の現場でも恩恵を受けている、一見、保存が困難に思われる歯においても、歯周組織再生療法をおこなうことで歯周組織を改善し患者のQOL低下を避けることができる。さらに、Key toothと考える歯への歯周組織再生療法による保存の試みは単にその歯の保存に寄与するだけでなく、今後の欠損拡大の防止など口腔全体を見た上でも、口腔機能を維持・安定させる上で非常に有効な一手だと考える。今回はKey toothと考えた咬合支持歯に歯周組織再生療法を行い、支台歯への負担を考慮して設計した部分床義歯で口腔機能の回復を行った症例を報告させて頂く。
症例の概要
患者:62歳、女性、非喫煙者
初診:2020年4月
主訴:左下の歯が欠けた。入れ歯がすり減っている
全身既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:下顎臼歯部は10〜20年ほど前にカリエスの進行により抜歯に至ったとのこと。初診時に使用していた義歯は10年ほど前に作製。
診断名
限局型慢性歯周炎 Stage Ⅲ Grade C
治療計画
①歯周基本治療、治療用義歯作製
②再評価
③#37歯周外科処置(歯周組織再生療法)
④再評価
⑤口腔機能回復治療
⑥SPT
治療経過
全顎にわたり歯周基本治療をおこなうとともに、治療用義歯を作成し、乱れた咬合平面の是正を図った。再評価にて、動揺と頬側から遠心にかけて深い垂直性骨欠損が残存した#37には歯周組織再生療法を行った。歯周組織再生療法後7ヶ月間固定を行い、ポケットと動揺の改善が見られたため補綴処置へと移行した。歯の欠損部には部分床義歯を用いて口腔機能回復治療を行った。
考察およびまとめ
今回、Key toothと考えた#37を歯周組織再生療法により保存ができたことは単に大臼歯咬合支持を保存できただけでなく、患者の咀嚼効率の維持とQOL低下の抑制に繋がったと考える。部分床義歯は大きな外科的侵襲を伴うことなく機能回復できる有効な手段であるが、支台歯にはより負担を強いることになる。本症例では、より支台歯にかかる負担を減らせるよう設計にも考慮した#37周囲の歯周組織の状態だけでなく義歯床の適合や人工歯の磨耗など、口腔全体の小さな変化も見逃さないよう、今後も注意深く経過を追っていきたい。
2009年 東京歯科大学 卒業
2009年 慶應義塾大学 医学部 歯科・口腔外科学教室 研修医
2011年 独立行政機構 霞ヶ浦医療センター 医員
2012年 慶應義塾大学 医学部 歯科・口腔外科学教室 助教
2017年 井原歯科クリニック 開業
【所属学会】
日本歯周病学会 専門医
日本臨床歯周病学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専門医
American Academy of Periodontology member
歯周治療を専門にしている我々にとって歯周再生療法はなくてはならない治療オプションの一つである.なぜなら,重度に骨吸収を伴う歯において歯周再生療法を応用することで歯の予後を変えられる可能性があるからである.しかしながら,歯周再生療法を応用したが芳しくない結果を招いてしまった,あるいは歯周ポケット・骨欠損が残存してしまった,ひいては経過観察のうちに抜歯となってしまったなど,歯周再生療法の経験の浅い先生や数年経験してきた先生からもこのような声を耳にする.
歯周再生療法は繊細な技術を必要とする治療であり,外科治療に伴うストレス,アシスタントワーク,術後の管理,長期的にみたときの予後などを考えると他の治療法で対応することにメリットがあると考える先生もいるのではないだろうか.しかしながら,来院する多くの患者は歯をできるだけ保存したいという希望をもっている.これらの歯周病患者の希望や期待に応えることと,歯周再生療法がさらに普及することで,より多くの患者が救われ,歯を保存し機能させることができれば良いと考えている. そのためには,情報過多のこの時代に正しい知識を得て,技術を磨くことが何よりも大切である.なぜなら術者の知識によって診断が変わってしまう可能性があること,そして術者の技術によって治療結果が変わってしまう可能性があるからである.様々な外科テクニックや材料は変化してきているが,切開・剥離・デブライドメント・減張切開・縫合という外科の基本手技は変わらないと考えている.これらの外科基本手技を確実に身につけること,そしてこれらをシームレスに行うことが,歯周再生療法のような繊細な外科治療には欠かせない.
本講演では,私が歯周再生療法を行ううえで大切にしている診断と考慮すべきポイントを解説したい.また,歯周再生療法は外科治療であり結果にばらつきがあってはならず,再現性の高い治療であるべきだと考えている.『再現性の高い歯周再生療法』は高い目標ではあるが,これらを考慮した症例を供覧し皆さまと意見交換ができれば幸甚である.
10:10 ~ 10:30 | 中年期の侵襲性歯周炎患者に対し歯周治療を通じて患者意識の向上を感じた一症例 【平井 亮/あいゆう歯科船橋診療所】 |
10:30 ~ 10:50 | 支持組織の減少した上顎臼歯部への歯周補綴症例 【竹中 宏隆/たけなか歯科クリニック】 |
11:05 ~ 11:25 | 患者のライフステージを考慮し、共に歩んだ歯周治療 【浅賀 庸平/浅賀歯科医院】 |
11:25 ~ 11:45 | 重度関節リウマチ患者の重度歯周病症例 【楠 公孝/くすのき歯科】 |
10:10 ~ 10:30 | 歯周基本治療で対応した広汎型慢性歯周炎ステージⅢグレードBの一症例 【西田 幸恵/荻窪わかまつ歯科】 |
10:30 ~ 10:50 | 歯周基本治療を再考した一症例 【疋田 莉恵/医療法人社団歯幸会 吉野歯科医院】 |
11:05 ~ 11:25 | 禁煙や治療中断をのりこえ、包括的に歯周病治療を 行った一症例 【師岡 祐子/斉田歯科医院】 |
11:25 ~ 11:45 | 歯科恐怖症の広汎型中等度慢性歯周炎患者への対応 【野谷 繭子/中野駅南歯科クリニック】 |
10:30 ~ 12:00 | 歯周病ワークショップ For Dental Students 【木村文彦/医療法人社団Zion ワンラブデンタルクリニック, オールスマイルデンタルクリニック 理事長】 【前川祥吾/東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究所 歯周病学分野 助教】 |
14:10 ~ 16:25 | 高齢期・老年期の『健口』ライフを支える中年期の歯周治療 【水上哲也/九州支部 医療法人水上歯科クリニック】 【下田裕子/九州支部 医療法人水上歯科クリニック】 |
2014年 日本大学歯学部 卒業
2014年 日本大学付属歯科病院 勤務
2015年〜2019年 東京医科歯科大学大学院 歯周病学分野 入局
2016年〜現在 神山歯科医院 非常勤
2019年〜2020年 東京医科歯科大学歯学部付属病院 勤務
2020年〜2023年 東京医科歯科大学歯学部非常勤講師として勤務
2021年7月 あいゆう歯科船橋診療所 院長就任
key word 広汎型侵襲性歯周炎 歯周基本治療 S P T
Ⅰ.はじめに
侵襲性歯周炎の発症は20代から30代と言われている。しかし、若年期は仕事などが忙しく歯科医院に通う習慣がないため、放置してしまいやすい。本症例は、中年期まで適切な歯科治療介入がなされなかった侵襲性歯周炎患者の治療を行った一症例で、基本治療をメインに行なった。治療を始めて7年、終了して5年程、患者のセルフコントロールに助けられながらSPTを継続している。
Ⅱ.症例の概要
患者:45歳 男性
初診:2016年6月
主訴:歯がぐらぐらしていて全部抜けそう。
性格:陽気 職業:居酒屋店員
全身的既往歴:特になし
歯科的既往歴:歯医者に通う習慣がなく、20年ぶりの歯医者。昔から歯の動揺と歯肉の腫脹があることは気がついていたが、仕事が忙しく放置してしまった。
Ⅲ.診断名
広汎型侵襲性歯周炎 ステージⅣ グレードC
Ⅳ.治療計画
診査診断、歯周基本治療、再評価、歯周組織再生療法、再評価、SPT
Ⅴ.治療経過
歯周基本治療を行い、再評価後、歯周ポケット残存部位に歯周組織再生療法とオープンフラップデブライドメント行なった。6ヶ月の治癒を待ったのち再評価を行ない、十分な炎症のコントロールが確立したためSPTに移行した。現在は3ヶ月毎のSPTを行っている。
Ⅵ.考察及びまとめ
卒後2年が経過した頃、「歯がぐらぐらしていて全部抜けそう」とういう主訴で来院された、45歳の患者さんを担当することとなった。患者さんの職業は居酒屋店員であり夜遅くまでの営業をしているため、歯磨きができないこともあり、夜中までお酒を飲んだ次の日はしばしば歯肉が腫脹していたとのこと。口腔内を確認すると、全顎的にMiller classⅠorⅡでプラークコントロールが悪く、歯肉炎か歯石が歯肉縁上まで認めることができるほどの状態だった。
当時歯周病科入局二年目である私の武器は多くなく、歯周病治療を歯周病ガイドラインの流れ通りに行い、医局で学んだ「炎症のコントロールと力のコントロール」を達成することを目指した。まずは徹底的にT B Iを行い、セルフコントロールの確立を行なった。T B Iをどのように行なったほうが良いのか、答えが見出せていない私だったが、スライドを準備して指導を行なった。結果として、この時から患者さんの意識が変わり、今では歯ブラシと筋トレが趣味になったとのこと。
現在歯周外科が終わり、S P Tになってから5年経過した現在も、3ヶ月に1度のS P Tを欠かさず来院されている。歯周治療の経過として7年というのはまだまだ長期安定ではなく、安心できる状態ではないが、若年期から放置してしまった侵襲性歯周炎を中年期の今、患者本人の努力によって安定している症例を供覧していただきたい。
歯周病の主な原因はプラークであり、プラークコントロールの徹底により、歯周病が安定する一症例を実感た。これからも患者のモチベーションを保ちつつ、定期的なSPTを継続していきたい。
2011年 日本大学歯学部卒業
2012年 日本大学大学院歯学研究科卒業
2021年 2011年 日本大学歯学部卒業
2012年 日本大学大学院歯学研究科卒業
2021年 たけなか歯科クリニック開業
開業
key word 歯周基本治療、ルートリセクション、二重冠
Ⅰ.はじめに
歯周基本治療後の歯周外科の術式の選択や、その後の保存した歯に対する補綴設計について考える事は、歯科治療の醍醐味の一つと言える。今回、根分岐部病変を伴う上顎臼歯部に対し、歯の保存に努め、温存できた支持組織量を考慮した上で、補綴治療を行った症例について報告する。
Ⅱ.症例の概要
患者:46歳 男性
初診:2017年2月
主訴:前歯が抜けた
全身既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:30代前半から歯の動揺。2年前に右上5を喪失し、その後右上1が自然脱落
診査初見:PCR:97.1% PPD:4️〜6mm:48.7% 7mm以上:9.61% BOP:92.9 右上4、左上5、左上6に動揺2度を認めた。
Ⅲ.診断名
広汎型慢性歯周炎ステージⅢ グレードC
Ⅳ.治療計画
① 歯周基本治療
② 再評価
③ 歯周外科治療
④ 再評価
⑤ 補綴処置
⑥ SPT
Ⅴ.治療経過
主訴部位である自然脱落した右上1については、人工歯を臨在歯に接着させることで対応した。全顎的な歯周炎に罹患していた患者に対し、まずはブラッシング指導を行う事でプラークコントロール改善を図り、縁上および縁下の歯石を除去し炎症反応は減衰した。また同時に、根管治療やプロビジョナルレストレーションによる固定を行う事で歯周組織の回復を認めた。しかし、骨吸収が顕著であった上顎臼歯部では歯周基本治療により回復傾向にはあるものの、深い歯周ポケットや根分岐部病変が残存した。そこで、歯周ポケットおよび、3度の根分岐部病変の改善を図ることを目的に、抜根を伴うオープンフラップキュレッタージを行った。その後、温存できた支持組織量を考慮のうえ連結範囲を決定し、術者可撤式の二重冠による補綴処置を行った。
Ⅵ.考察およびまとめ
本症例の患者の特性として、重度の歯周疾患に罹患しているが、若年齢でかつ非喫煙者で全身疾患もない事から、プラークコントロールが良好になれば十分に歯を保存することは可能と考え、基本治療を行った。基本治療中、初診時に接着させた右上1の人工歯が1度も脱離しない事や、細菌性の因子を排除することで歯周組織は回復傾向を示した事から、力の影響は少ないと判断した。この事から上顎臼歯部における根分岐部病変への対応として、ルートリセクションを選択しても十分に機能させる事ができると考えた。術後の補綴処置では、破折の防止、う蝕の予防、術後管理のしやすさなどの理由から術者可綴式のコバルトクロムによる二重冠を選択し、補綴装置装着3年経過したが良好な結果を得ることが出来ている。
2002 日本大学歯学部卒業
2003 日本大学大学院 歯学研究科保存修復学 専攻
2007 日本大学大学院 歯学研究科保存修復学 博士課程修了
2009 浅賀歯科医院 勤務
2017 浅賀歯科医院 継承
key word 中等度慢性歯周炎,垂直性骨欠損,OFD
Ⅰ. はじめに
人生100年時代を迎えた現在。そのライフステージの中でも中年期においては、それまでの口腔環境や生活習慣によって様々な病態が現れるステージであり、それは歯周環境においても同様である。歯周治療においては、2次予防(疾病発症後の予防)を必要とする患者も多く見受けられるが、今後迎える高齢期・老齢期において3次予防(機能不全後の予防)に移行しないための積極的な対応が望ましい時期である。しかしながら生活背景は、仕事・子育てなどストレスの大きくなる時期でもあり、術者の思う治療計画通りに成り行かないこともある。今回、患者の年齢・歯列不正・歯周病の進行度などを考慮し、改善を図るための治療計画を提示したものの、患者の希望により最小限の治療計画となりSPTへと移行した症例の10年経過について報告する。
Ⅱ. 症例の概要
初診:2012年10月.40歳,女性.非喫煙者.主訴:右上の前歯から膿が出る.全身疾患:なし.歯科的既往歴:他院にて継続した歯周治療を受けていたが、主訴に対する処置が長期間放置されたことによる不信感から友人の紹介により当院を受診.診査所見:PCR 28%,PPD 4mm以上79%,BOP(+) 80%,動揺度2度 11,14,22,24,25,34,12-15反対咬合,早期接触:12,42.
Ⅲ.診断名
中等度広汎型慢性歯周炎(ステージⅢ グレードC)
Ⅳ.治療計画
① 歯周基本治療 ② 再評価 ③ 歯周外科処置( OFD ) ④ 再評価 ⑤ スプリント装着
⑥ SPT
Ⅴ.治療経過
2012年11月から歯周基本治療を含む初期治療を6ヶ月ほど行った。主訴である11は改善が認められず、抜歯を行い固定性ブリッジによる修復治療を行うため、プロビジョナルレストレーションを装着して経過観察を行った。再評価後、垂直性骨欠損が残存した14・15・16・17および46・47に対してOFDを行った。その他の部位については、患者の希望により再SRPを行い、SPTに移行した。
Ⅵ.まとめおよび考察
本症例では、年齢を考慮し最大限の治療介入が必要であると考え、治療計画を立案した。
しかし臨床では術者の杓子定規では測れない、実際に即した柔軟な対応が必要なことも多くある。条件が悪い中、術後10年が経過し病状の安定が図れている理由としては、患者自身の回復力が高かったこと・「自分の口は自分で守る」というセルフケアの徹底と、それに寄り添い続けた歯科衛生士の想いがあったからこそだと考えている。17に深いポケットが残存しており、今後も注意深い経過観察が必要と考えている。
2001年 明海大学歯学部歯学科卒業
2001年 信州大学附属病院歯科口腔外科入局
2004年 小諸厚生総合病院歯科口腔外科入局
2006年 長野市民病院歯科口腔外科入局
2008年 くすのき歯科開業
key word 関節リウマチ 慢性歯周炎 セルフケア 矯正治療、歯周組織再生療法
Ⅰ.はじめに
関節リウマチは、女性により多く発症し、30~40代に多い。口腔領域への影響の1つに関節の破壊による顎関節の機能障害が挙げられる。また、手指関節の機能障害による不良なセルフケアにより歯周炎のコントロールが困難となる。今回は、30代で重度の関節リウマチに罹患し、歯周炎が重度に進行した患者に対し、歯周基本治療、歯周再生療法、矯正治療などの包括的治療を施し、歯周炎の改善・安定、また、同時に全身の関節の症状の緩和を来した症例を報告する。
Ⅱ.症例の概要
患者:46歳 女性
初診:2014年11月
主訴:右の奥歯が痛い
全身的既往歴:関節リウマチ(14年前に発症)
歯科的既往歴:2ヶ月前まで他院で治療を受けていた。その際に47を抜歯したが、その後痛みが持続するため当院を受診した。
Ⅲ.診断名:広汎型慢性歯周炎 ステージⅢ グレードC
Ⅳ.治療計画
①歯周基本治療(プラークコントロール指導、歯内療法、抜歯)/②再評価/③歯周外科処置/④再評価/⑤口腔機能回復治療/⑥SPT
Ⅴ.治療経過
歯周基本治療中に26、37の抜歯を行った。再評価後に歯周外科に移行したが、内服薬が多く免疫不良状態であったため、再生療法は見合わせた。歯周外科治療中に17を抜歯した。再評価後、治療計画にはなかったが、経過良好につきSPTに移行するとともに矯正治療を開始した。その後、口腔機能回復治療に移行するが、咬合再構築にあたり破壊された顎関節頭への負担を考慮し、下顎にプロビジョナルレストレーションを作製し、約1年半経過を追った。初診から約5年後に上下の口腔機能回復治療が終了した。その後、関節リウマチの改善とともに内服薬の減薬もできたため、14、24に対して再生療法を行った。2年程前に東京に引っ越してしまったが、現在も2~3ヵ月に1回のペースでSPTを行っている。
Ⅵ.考察およびまとめ
当初、多くの歯を失うことになると予測していた。動かせない手でのセルフケアは極めて困難で、開口障害は治療を困難にさせた。包括的治療を経て、初診から約9年経った現在、6㎜の歯周ポケットが残存するが、初診から現在までに失った歯は3本である。また、関節リウマチは、全身の関節痛の痛みの緩和、内服薬を減薬するほどまでに改善し、顎関節症症状も消失した。関節リウマチと歯周病の双方向性、そして、歯を残したいという執念とセルフケアの重要性を改めて痛感した症例である。
2008年 岩手医科大学歯科技工専門学校 卒業
2008年 和田精密歯研株式会社(歯科技工士) 勤務
2018年 大宮歯科衛生士専門学校 卒業
2018年 荻窪わかまつ歯科 勤務
key word 歯周基本治療 咬合性外傷
Ⅰはじめに
咬合性外傷を伴った慢性歯周炎の治療は、炎症に対する治療とともに、歯周組織破壊を急速に進行させてしまう外傷力への対応が必要となる。本症例は中年期を迎え、歯の動揺や喪失を経験し、歯周病に対する不安を持った患者に、歯周基本治療を行い、炎症と力へのアプローチと患者の主体的な協力により、歯周組織の改善がみられた一症例を報告する。
Ⅱ症例の概要
患者:57歳 女性 主訴:歯が揺れる 歯周病を治したい
歯科的既往歴:40代半ばから前院へ通い始め、50歳頃より歯の動揺のため16,27,37を抜歯
診査所見:BOP 57.3% PPD4㎜以上 31.3% PPD6㎜以上 9ヶ所 X線所見において垂直性骨欠損と歯根膜腔の拡大、根分岐部病変を認めた。
Ⅲ診断名
広汎型慢性歯周炎ステージⅢグレードB
Ⅳ治療計画
➀歯周基本治療➁再評価➂口腔機能回復処置④SPT
Ⅴ治療経過
適切な治療を受けたことのない知識不足な患者に、口腔内写真にて視覚的にアプローチし、口腔内への関心と理解を深めてもらえるよう努めた。6㎜以上の深い歯周ポケットも存在したが、歯周基本治療により、歯周組織の改善があり、病状安定と判断されSPTへ移行した。動揺度も減少し、上顎前歯部のフレアアウトも改善傾向ではあるが、今後の咬合性外傷を懸念しスプリントを装着した。
Ⅵ考察およびまとめ
口腔内の情報を共有することで、患者の関心や理解が深まり徹底されたセルフケアの協力が得られたと考える。炎症と力のコントロールに留意した歯周基本治療により、歯周組織に改善がみられた。非外科的治療で行えたことは患者の負担を軽減できたと考える。今後も口腔内の変化に注意し、SPT継続に努めたい。
2011年(平成23年)2月
医療法人社団歯幸会 吉野歯科医院入社
歯科助手として勤務
2015年4月
同医院に歯科衛生士として勤務
key word BOP ライフスタイル OHI
歯科衛生士として、歯周組織の炎症のコントロールは日々の課題です。
患者と術者で同じ課題に向かって進む必要がありますが、
試行錯誤する中で見えない部分の鍵穴が合うまでは成果が出にくく、難しいと感じます。
さらにライフスタイルによっては価値観や健康観も多種多様で、
きっかけを掴むための患者ニーズを探るには、医療面接だけではなくふとした会話や、来院
の時間帯、
服装などにもヒントが隠れていたりします。
2020 年から今年までは、様々な問題で仕事が不規則になり、通院が途絶える患者もおり、
経過を追えなくなることもありました。
多くの患者さんは、歯自体の健康意識は理解しやすいですが、歯周組織の状態は検査をして
からでないと気がつくことができません。
現実的に継続可能なセルフケアの提案を、歯周組織検査後の説明の際に的確に行うことは
大切です。
今回の症例も、仕事が不規則になりつつも、歯周治療の大前提である、炎症のコントロール
を行った結果、改善した症例です。
患者の個体差に応じては、BOP20%以下という一般的な指標はあるものの、もう少し高い
目標で取り組んでもいいと感じております。
経過は 3 年と短い期間ではありますが、良好な結果が得られた症例を発表します
1998 年 埼玉県立衛生短期大学歯科衛生学科卒業
上藤沢歯科 勤務
中央歯科クリニック 勤務
2016 年 斉田歯科医院 在籍中
2022 年 臨床歯科麻酔認定歯科衛生士取得
はじめに
喫煙は歯周病の大きなリスクファクターである。初診時、重度歯周炎に罹患した本症例の患
者は、症状が多岐に渡たり包括的な歯周治療が必要であったが、喫煙者であったため歯周治
療に対する歯周組織の反応が低いと思われた。しかし、患者は歯周基本治療中に禁煙し、奥
様を亡くし治療を中断した時期をのりこえ、歯周組織には改善が認められた。その一症例を
報告する。
症例の概要
患者:57 歳男性 喫煙者(12 本/日)
初診:2018 年 1 月
主訴:前歯が抜けかかっている。歯周病が酷いのでしっかり治療したい。
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:16 自然脱落(2017 年 10 月)
診査所見:PCR59%、PPD4mm 以上 69%、BOP66%、13・15 に排膿、13・21・41・44
は動揺度Ⅱ~Ⅲ度、16 に根分岐部病変を認めた。X 線所見:13 歯周‐歯内病変、37 垂直性
骨吸収、44 歯根周囲の亢進したX線透過像、17・12・21・31・41 歯槽骨吸収度 33%以
上を認めた。
診断名:広汎型慢性歯周炎 ステージⅣグレード C
治療経過
プラークコントロールや禁煙指導をしながら SRP を行った。37・44 には咬合性外傷が認
められたため咬合調整を行い、26 に部分床義歯を装着した。主訴であった上顎前歯部は 21
が抜歯となり 13・12・22 を支台歯に BrTEK を装着した。歯周‐歯内病変が認められた 13
は根管治療と再植術を行った。再評価検査後、歯周外科治療と口腔機能回復治療が行われ
(42MTM、37MTM・歯周組織再生療法)、37 及び上・下顎前歯部は補綴処置へと進む予定
であったが、治療中断を余儀なくされた。8 か月後治療を再開され、最終補綴処置を行った。
再評価後、患者のプラークコントロールが確立されていないことや歯石の再沈着が認めら
れたため、再度 TBI、SRP を行い SPT へ移行した。
まとめ
歯科衛生士は重度歯周炎患者に起こる様々な病態を理解し、患者の生活背景を考慮しなが
ら歯周基本治療を進めていく必要がある。今後は歯周組織の維持と安定に向け、患者と共に
プラークコントロールの徹底に努めていく。
2001.4 医療法人仁友会 日之出歯科真駒内診療所勤務
2010.4~2016.3 札幌市内総合病院、老人保健施設にて管理栄養士として勤務
2016.9 医療法人one&only 麻生歯科クリニック勤務
2021.6 中野駅南歯科クリニック勤務
患者は初診時57歳男性。右上の歯の痛みを主訴に来院した。歯科は45年ぶりの受診だった。緊張やストレスを感じやすい性格で精神科への通院歴があり、初診当時は無職であった。また、歯ぎしりや食いしばり等悪習癖の自覚や、1日20本程度の喫煙習慣もあった。初診時の臨床所見は全顎的に歯肉の発赤と多量の歯石沈着を認め、エックス線所見では17と27に垂直性骨吸収と歯槽硬線の消失が認められた。
主訴への対応として17の咬合調整の必要性を説明したが、歯を削ることへの恐怖心から患者の同意は得られず、出来る限り侵襲の低い処置から基本治療を開始することとした。基本治療を行う中で特に重視したのは患者のペースに合わせながら処置や指導を行い、治療に対する許容範囲を広げることや行動変容を促すことだった。
現在は初診から1年半経過し、月一度の来院でフォローアップを行っている。歯周基本治療の中で患者にみられた変化は、口腔内のセルフケアの向上だけでなく、禁煙や社会復帰(就職)をするなど多岐にわたった。歯科恐怖症のある重度歯周病患者に対し、非外科的に対応するためには患者の来院を途絶えさせないことが重要であると考えた。そのためには、患者の性格や背景を考慮しつつ対話を重ね、一回の治療の内容から時間配分まで同意を得ながら決めていくことが必要だと感じた。現在も必要な処置を受け入れられている状態ではないので、今後も対話を続けながらフォローアップを継続していく。
歯の喪失原因1位である歯周病。学生の時はどのようにしたら治せるのか授業だけ聞いてもピンと来なかったかもしれません。同じ年齢でも病態に差がある歯周病。包括的に治療を行うには、従来の歯周基本治療や歯周外科、歯周組織再生療法をどのように選択しゴールを目指したら良いのでしょうか。座学と臨床の架け橋となる学びを楽しく得られるよう、日本臨床歯周病学会が歯科学生に向けて送る初の参加型ワークショップ形式セッション。
【略歴】
1985年 九州大学歯学部卒業
1987年 九州大学第1補綴学教室文部教官助手
1989年 西原デンタルクリニック勤務
1992年 福岡県福津市(旧宗像郡)にて開業
2007年 九州大学歯学部臨床教授
2011年 鹿児島大学歯学部非常勤講師
【所属及び所属学会等】
日本臨床歯周病学会 認定医・歯周インプラント認定医
日本歯周病学会 指導医・専門医
日本顎咬合学会 指導医
日本口腔インプラント学会
近未来オステオインプラント学会 指導医
1996年 福岡医科歯科技術専門学校(現 博多メディカル専門学校)歯科衛生士科卒業
同年 医療法人水上歯科クリニック勤務
現在に至る
日本歯周病学会認定歯科衛生士
日本臨床歯周病学会指導歯科衛生士
ライフステージの分類については、諸説があり明確な年齢は定まっていない。厚生労働省によると、壮年期を25歳から44歳、中年期を45歳から64歳と区分けされている。したがって今回の講演ではこの年代をターゲットとしたお話とさせていただきたい。中年期は歯周病の発症と進行において非常に重要な期間である。Kassebamらによると重度歯周病の発症率のピークはおよそ38歳であると報告されている。このことは私たちが再生療法、補綴治療、インプラント治療などの全顎的な治療介入を行う進行した老齢期の歯周病患者では長い期間を経て歯周病が進行した結果を診ていることを意味する。このことから崩壊するに至る前の時点で、すなわち40歳代以降の中年期において発症予防、重症化予防、そして治療介入とその後の再発予防を行うことが老齢期における健康寿命の延伸につながるものと理解される。
中年期特有の問題は大きく職場環境に関わる問題、家庭環境に関する問題、身体的変化、そして心理的要因に分けられる。中年期は人生のうちで最も忙しく働く時期であり、また職場内での地位の向上などにより自身の健康に対するケアがおろそかになりがちな時期でもある。また一方で親の介護の問題、子供の巣立ちなど家庭環境の要因はしばしば通院の妨げとなる。さらに『中年太り』に代表されるように大きな身体的変化が訪れる時期である。また高血圧や糖尿病などの全身疾患が発症する時期でもある。さらに仕事上や家庭内、そして自身の身体的変化に伴うストレスは歯周病を増量増悪させる要因の1つとなり得る。このような中年期独特の身体的、心理的、社会的背景を踏まえた上で私たちは積極的な治療介入の是非を検討しなければならない。
一方で、治療介入の観点から見ると中年期は個体差はあるものの積極的な治療介入が行いやすく、かつ功を奏しやすい時期であると思われる。そして、治療介入においては積極的な外科治療、頻繁の非外科治療、抗菌剤を併用した歯周基本治療など選択肢は幅広い。そしてその治療現場では、治療を成功に導くための技術的な向上に加えて、個々の患者に対する治療選択、治療に導くコニュニケーション 能力の向上が鍵となる。
以上を踏まえ今回の講演ではこの健康寿命の延伸に大切な中年期の治療について歯科医師と歯科衛生士の連携を軸として、現場でのリアルなシチュエーションを交えながら診断から治療選択、適応、そしてメインテナンスに至るまでの治療の実際についてお話したい。
10:05 ~ 10:15 | 新支部長就任のご挨拶 【神山剛史/JACP関東支部・支部長】 |
10:15 ~ 10:35 | 患者のライフステージや生活背景を考慮した限局型歯周炎の一症例 【橋本奈美/歯科衛生士/メイ・ロイヤル歯科医院】 |
10:35 ~ 10:55 | 再生療法後に矯正歯科治療を行った一症例 【楠 侑香子/東京医科歯科大学歯科総合診療科】 |
11:05 ~ 11:30 | 患者の生活背景からアプローチした広汎型侵襲性歯周炎の一例 【髙野 真/高野歯科クリニック】 【奥平美香/歯科衛生士】 |
11:30 ~ 11:55 | 臼歯部咬合崩壊症例に対して、患者年齢と個体差を考慮し対応した一症例 【安藤正明/安藤デンタルクリニック】 【渡邉真由美/歯科衛生士】 |
11:55 ~ 12:20 | 総合ディスカッション |
13:30 ~ 14:10 | 若年層のライフステージにおける歯周治療の文献レビュー 【工藤 求/JACP関東支部・文献委員会委員長】 |
14:30 ~ 16:50 | ライフステージを考慮した歯周治療〜若年期~ 【宮本泰和先生 (Dr. Yasukazu Miyamoto) /JACP関西支部・元JACP理事長】 |
2020年1月に始まった日本での新型コロナウイルス感染拡大。
誰が今の生活を想像できたでしょうか。さまざまなイベントは中止、もしくは延期となり、密を避けた行動は人と人との距離感を変えました。
そのような中、日本臨床歯周病学会関東支部では、いち早くWeb講演会を開催し多くの革新的な取り組みを行いました。前支部長の清水宏康先生におかれましては、コロナ禍の難しい状況の中での舵取り、本当にお疲れ様でした。
新執行部では「現地の熱量を感じ取れるリアル開催」と、「歯科医師、歯科衛生士が共に学べる医院丸ごと参加」にこだわりたいと思います。
昨今、「人生100年時代」という言葉をあらゆる分野で耳にします。
そんな超高齢社会において、患者のQOL向上に貢献することが我々歯科医療従事者の使命ではないでしょうか。
そこで今期の関東支部教育研修会の大テーマを「ライフステージを考慮した歯周治療」と称して、
2年間①若年期②中年期③高齢期④老年期・フレイル期
という順にシリーズ化して各年代へのアプローチを掘り下げていきたいと考えております。
さまざまな垣根を越えた、患者ありきの熱いディスカッションを大切にし、会場を熱気で包み込みます。ぜひご参加いただき、体感していただければ幸いです。
2年間、ご理解ご協力の程よろしくお願いいたします。
平成19年横浜歯科医療専門学校卒業
平成27年医療法人メイ・ロイヤル在籍中
令和2年日本歯周病学会認定歯科衛生士取得
代生会
JIPI
ASC
日本歯周病学会
日本臨床歯周病学会
女性のライフステージには、結婚や妊娠、出産、育児と、様々な状況を過ごす期間がある。その期間には患者自身での口腔内の健康を維持するのが困難であり、時にはその後の口腔内の状況を悪くしたり、残すべき歯を失ったりする症例もしばしば見られる。私も自身の出産、育児を経験した母親として、その時期の患者に寄り添い話を聞き、歯科衛生士という立場から口腔内を健康に保つ為のサポートをしている。今回はそのような患者のライフステージを考慮し患者に寄り添い、歯周病治療を行い、SPTへ移行するまでの記録を発表する。
2007年鶴見大学歯学部卒業
2010年東京医科歯科大学大学院歯周病学分野大学院研究生
2019年東京医科歯科大学歯学部附属病院歯科総合診療部医員
2019年日本歯周病学会認定専門医
2023年東京医科歯科大学病院歯科総合診療科非常勤講師
兵庫県楠歯科医院勤務医
はじめに
若年期は生活環境に大きな変化が起こりやすいライフステージである。そのような時期に広汎型侵襲性歯周炎(ステージⅣグレードC)に罹患した20歳の大学生の治療には、何十年後の人生も見据え、寄り添った治療が必要である。回復力が高い時期でもあるため、積極的な介入(歯周組織再生療法及び矯正治療)を行なった。病状安定期に移行して短期間であるが、経過が安定しているためここに報告する。
症例概要
患者:20歳女性初診:2017年3月
主訴:前歯が動いて歯並びが悪くなってきた
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:3ヶ月前から歯の動揺を自覚し、近医でスーパーボンドによる暫間固定を行うも脱離を繰り返した。歯肉の腫脹が強くなり近医より大学病院での歯周病の専門的な治療を勧められた
家族歴:母親が45歳で部分床義歯を使用している。17歳の妹はブラッシング時に出血が度々ある。
診断名広汎型侵襲性歯周炎ステージⅣグレードC
治療計画
①歯周基本治療(プラークコントロール、う蝕治療、SRP)
②再評価検査
③歯周外科治療
④再評価検査
⑤口腔機能回復治療(矯正治療、補綴治療)
⑥再評価検査
⑦SPT
治療経過
就職活動中で通院頻度に制約があったため、歯周基本治療後、FMD(Full-mouthdisinfection)を行なった。歯周ポケット及び垂直性欠損が残存した12に関してはリグロスを使用した歯周組織再生療法を行った。再評価検査後、矯正治療を行なった。矯正治療終了後に26の最終補綴治療を行い、SPTへ移行した。考察及びまとめ初診時のエックス線上で12は予後不良と思われたが、原因を見極め忠実に基本治療を行うことで保存への道筋が得られた。また患者の真面目な性格や高い回復力に助けられ、再生療法が奏功し、保存可能となったと考える。再生療法後の歯列矯正が完了して経過が短いため、安定した状態を長期に渡り維持できるように努めたいと思う。
キーワード:FMD 再生療法矯正治療
高野歯科クリニック院長
1987年昭和大学歯学部卒業
1991年高野歯科クリニック開業
2000年歯学博士(昭和大学)
2004年日本顎咬合学会認定医
2020年東京西の森歯科衛生士専門学校卒業
2020年高野歯科クリニック勤務
Ⅰ.はじめに
若年期での歯周炎の進行は将来的な欠損を招くだけでなく、残存歯の動揺は食生活をはじめとしたQOLの低下を来たす。通常の歯周治療に加えて、長い経過を考慮しての継続的な関わりは不可欠であり、また短期間で歯周炎の進行を許した経緯から生活背景を含めた対応が求められる。今回、多くのhopeless teethを有する広汎型侵襲性歯周炎に罹患した患者に対して、行動変容により生活や意識を改善するとともに、抗菌療法、歯周基本治療により口腔内の改善に努めた一症例を報告する。
Ⅱ.症例の概要
患者:28歳、男性、非喫煙者
初診:2018年11月
主訴:上の前歯が動揺して気になる
全身既往歴:喘息
歯科的既往歴:小児期のむし歯治療以来の歯科受診
Ⅲ.診断名
広汎型侵襲性歯周炎ステージⅣグレードC
Ⅳ.治療計画
①歯周基本治療(プラークコントロール,SRP)・抗菌療法・食事(生活)指導
②再評価
③SPT
Ⅴ.治療経過
プラークコントロール指導と併用して抗菌療法、SRP・咬合調整・12-22固定・食事(生活)指導を行い、再評価後SPTに移行した。Ⅵ.考察およびまとめ小児期から28歳まで歯科と一切関わりを持たなかった重度の広汎型侵襲性歯周炎の患者に対して、当初は多くの戸惑いもあり、通り一遍の治療だけでは病態の改善は難しいと考えた。どうしてこのような状態になったのかを患者と一緒に考えながら治療を進めていくうちに、少しずつ歯周組織の改善が認められた。それでも永年に渡る生活習慣を改善することは並大抵のことではなく、新たな問題も散見される。今後は、本人はもとよりメインテナンスを含め、術者側の根気強く患者に寄り添う姿勢がとても大切になると考えている
キーワード:生活背景・歯周基本治療・抗菌療法
安藤デンタルクリニック院長
2003年日本大学松戸歯学部卒業
2013年安藤デンタルクリック開院
日本歯周病学会専門医
日本臨床歯周病学会認定医
日本包括歯科臨床学会認定医
安藤デンタルクリニック歯科衛生士
2006年東京医学技術専門学校
2020年安藤デンタルクリニック勤務
Ⅰ.はじめに
重度歯周炎患者の治療においては,支持組織の低下を認めるため,炎症と力のコントロールを図ることが重要と考えている.また,治療目標においては,患者のライフステージへの配慮と予後を見据えるうえで個体差を考慮することを大切にしている.今回,歯周炎の進行や歯の欠損,歯の病的移動,下顎位の偏位,顎関節症など,様々な問題を抱えている若年者の臼歯部咬合崩壊症例に対して,患者年齢と個体差を考慮し, 咬合再構成を図った症例を報告する.
Ⅱ.症例概要
患者:38歳男性初診:2016年3月
主訴:歯の動揺で噛めない.歯肉からの出血が気になる.
全身的既往歴:特記事項なし.
歯科的既往歴:他院にて37,47を5年前,24を8ヶ月前に歯周病のため抜歯となった.
Ⅲ. 診断名
限局型慢性歯周炎ステージⅢグレードC
右側顎関節関節円板前方転位の疑い
Ⅳ.治療計画
①,歯周基本治療②,再評価③,歯周外科④,再評価⑤,咬頭嵌合位の安定後,下顎位の模索⑥,矯正治療⑦,プロビジョナルレストレーション⑧,再評価⑨,補綴処置⑩,SPT
Ⅴ. 治療経過
炎症のコントロールと咬合支持の強化により咬頭嵌合位の安定を図った後に,下顎位の評価を行い,矯正治療にて咬合の安定を図った.その後,プロビジョナルレストレーションを指標に補綴処置へと移行した.現在,SPT移行から2年経過し,現在のところ病態は安定傾向にある. Ⅵ. 考察およびまとめ若年者の重度歯周炎を伴う臼歯部咬合崩壊症例に対して,患者年齢と個体差を考慮し,咬合再構成を図ったことは,患者のQOLの向上に有効であったと考える.また,炎症と力のコントロールを図ることで,若年者持つ高い治癒能力を引き出せた結果、歯周組織の改善に繋がったと考える.今後もSPTにて注意深く観察していきたい.
キーワード:臼歯部咬合崩壊, 患者年齢,個体差,炎症と力のコントロール
歯周炎はギネスにも乗るほど世界で最も多い感染症と言われているが、中でも20代、30代の若いライフステージで重症化する患者がある一定数いる。これらの病名は歴史の中で、色々と病名が変更されてきた。
1923年のGotliebのDiffuse Alveolar Atrophy(広汎型歯槽骨萎縮症)と名付けられた時代から、かつてはExtream Downhill(極端に悪くなる患者)、後に、若年性歯周炎、急速進行性歯周炎、早期発症型歯周炎、侵襲性歯周炎、そして現在のGradeCなどと色々と呼び名が変わってきた歴史がある。呼び名は変われど、これらのような患者は一定数いることは変わっていない。
さて、これまでの歯周治療の歴史の中で、これらの患者の治療は色々行われてきたが、未だ決定打はない。それぐらいこの手の侵襲性歯周炎Stage3,4GradeCの治療は一筋縄ではいかないことが多い。今回の関東支部例会ではこの若いライフステージの歯周治療に焦点を当てている。
また、それに伴い我々関東支部では日本臨床歯周病学会としては初めて文献委員という組織を立ち上げた。
第一回文献委員の文献レビューは「若年層のライフステージにおける歯周治療」について行う。すなわち
①侵襲性歯周炎(グレードC)の特徴と概論
②侵襲性歯周炎(グレードC)に対する抗菌療法
③侵襲性歯周炎(グレードC)の再生療法
④侵襲性歯周炎(グレードC)のインプラント治療
⑤侵襲性歯周炎(グレードC)に対する歯周矯正
上記テーマに分けて、臨床例を提示しながら文献レビューを行いたいと思う。
会員の皆さんの前に、明日来るかもしれない侵襲性歯周炎(グレードC)の患者さんの治療の一助になれば幸いである。
委員長 工藤求
委員 星嵩 前川祥吾 長嶋秀和 後藤弘明 渡辺典久 井畑匡人 小柳達郎 吉野宏幸
[略歴]
1983年 岐阜歯科大学卒業(現・朝日大学歯学部)
1986年 宮本歯科医院開業
2000年 四条烏丸ペリオ・インプラントセンター移転開業
(2022年に医療法人泰歯会四条烏丸歯科クリニックに改名)
2007年~ 朝日大学歯学部客員教授
2008~2012年 JIADS理事長
2011~2012年 日本臨床歯周病学会理事長
2022年〜 IPRT (歯周再生療法マスターコース)主宰
[所属]
・日本臨床歯周病学会会員
・日本歯周病学会会員、歯周病専門医
・米国歯周病学会会員
出版図書:
・コンセプトをもった予知性の高い歯周外科処置(共著)
・再生歯科のテクニックとサイエンス(編著)
・歯周再生療法を成功させるテクニックとストラテジー(宮本泰和 / 尾野誠 著)
その他、多数。
歯科疾患実態調査(平成28年)によれば、成人の約7割に歯肉に歯周病の所見が見られると報告されています。さらに、4mm以上の歯周ポケットを有する患者数は、若年層でも30〜40%で、中・高年層にかけてその数値は徐々に高くなり、約50〜60%に至っています。また、若年層における抜歯原因は「う蝕」が第1位であり、歯周病は比較的少ないのですが、35〜39歳の段階では約12%となり、それ以降、徐々にその割合が増加して高齢層では約50%が歯周病で抜歯に至るというのが現状です。ゆえに、若年層においては如何に徹底した予防を行うか、そして進行した歯に対しては如何に適切な治療を行うかが、将来の歯の喪失に歯止めをかけることに繋がると考えられます。
若年層の歯周治療に関しては歯周基本治療を行うことは必須ですが、進行した骨吸収を伴う患者に対しては、歯周再生療法が第一選択と考えています。その理由として、若年者の組織再生能力は、中高年者に比べて旺盛であり、良好な結果が得られることが多いと考えています。若年層の段階で骨吸収の進行を阻止できれば、その後の歯列の崩壊を阻止できるので、歯周補綴などの大掛かりな治療を避けることも可能になると思われます。さらに、個人的な印象ですが、歯周再生療法を行い、良好な結果が出ている患者はリコール率が高くなっているように思われます。定期検診の継続は、若年者の将来の歯列崩壊を防ぐためにも効果的であることが想像できます。
今回の講演では、関東支部の掲げた「ライフステージを考慮した歯周治療」というメインテーマの中で、若年者に対して歯周再生療法を行なった症例を中心に提示させて頂き、その治療法の有効性や意義について考察を加えてみたい。
09:30 ~ 16:30 | ハンズオン 【小林明子 児玉加代子 内藤和美 塩浦有紀/講師は当学会の「指導歯科衛生士」です。】 |
10:00 ~ 10:10 | 開会挨拶 【清水宏康/関東支部支部長】 |
10:00 ~ 10:10 | 主管挨拶 【申 基喆/明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座歯周病学分野教授・実行委員長】 |
10:10 ~ 10:30 | 炭酸アパタイトを用いた歯周組織再生療法の有効性について:イヌ1壁性骨欠損モデルにおける組織学的評価とヒトでの前向き観察研究を通して 【岡田 宗大/東京医科歯科大学歯周病学分野】 |
10:30 ~ 10:50 | 歯冠長延長術を整理する 【小沼 寛明/慶應義塾大学病院医学部歯科口腔外科学教室】 |
10:50 ~ 11:10 | 歯周基本治療が唾液中のエクソソーム内の成分に及ぼす影響 Effect of initial periodontal therapy on components in saliva exosomes 【山口 亜利彩/日本大学松戸歯学部歯周治療学講座】 |
11:30 ~ 11:50 | 歯冠長延長術と歯牙移植により咬合再構成を行った一症例 【林 直也/関東支部】 |
11:50 ~ 12:10 | 歯周基本治療と生理的骨形態の獲得 【野田 昌宏/関東支部】 |
13:20 ~ 13:40 | 低出力超音波 (LIPUS) を応用した新規歯周治療へのアプローチ 【間中 総一郎/日本大学歯学部保存学教室歯周病学講座】 |
13:40 ~ 14:00 | 広範型慢性歯周炎患者に対し、歯周組織再生療法を行い、再生が認められなかった部位に対し骨整形を追加した1症例 【大塚 源/日本歯科大学附属病院総合診療科】 |
14:00 ~ 14:20 | 歯周病患者におけるインプラント周囲のプロービング時の出血に関する臨床研究 【小玉 治樹/明海大学 歯学部 口腔生物再生医工学講座 歯周病学分野】 |
15:00 ~ 16:40 | ソフトティッシュマネジメントの低侵襲化を考える 【林 丈一朗/明海大学 歯学部 口腔生物再生医工学講座 歯周病学分野】 |
16:40 ~ 16:45 | 閉会挨拶 |
生体骨の主要構成成分はリン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイトであるが、その水酸基が一部、炭酸基に置換した炭酸アパタイトも存在し、生体内において破骨細胞による吸収が認められ、骨に置換されることが知られている。私達の研究グループでは、イヌの一壁性骨欠損モデルを用いた前臨床研究や、垂直性骨欠損、根分岐部病変Ⅱ度、Ⅲ度の骨欠損を有する歯周炎患者に対する前向き観察研究を実施し、炭酸アパタイトの歯周組織再生療法への有効性の評価を行ってきた。イヌを用いた前臨床研究での組織学的解析では、歯槽骨高さおよび新生骨面積に関して炭酸アパタイト群は、コントロール群と比較し、で良好な結果を示した。またヒトでの前向き観察研究では、術後9ヶ月の垂直性骨欠損において、平均ポケット深さの減少量は、4.3mm、クリニカルアタッチメントゲインは4.0mmであった。以上の所見より、炭酸アパタイトを用いた歯周組織再生療法は有効であることが示唆された。
略歴
2015年 東京歯科大学卒業
2015年 慶應義塾大学病院医学部歯科口腔外科学教室 入局
2016年 同教室 歯科医師臨床研修プログラム 修了
2019年 同教室 助教
日常臨床において、歯肉縁下齲蝕や歯肉縁下に及ぶ破折、もしくは十分な支台歯高径が確保できない等、補綴・修復治療行うことが困難なケースは非常に多い。条件の悪さに目を瞑り妥協的な治療を行なったことや、安易に抜歯を提案しインプラント治療を選択した経験のある歯科医師も多いだろう。上記のようなケースで適切な治療を行うための手段として、歯冠長延長術が挙げられる。歯冠長延長術により歯肉縁上の歯質の量を確保することで、確実な齲蝕の除去、形成、圧排、印象、防湿、接着操作を行うことが可能となる。
そしてもう一つ、ガミースマイルに代表される、臨床的歯冠長が短い事による審美障害に対してもこの術式は選択される場合がある。ガミースマイルの原因は多岐にわたるため適応症例の選択が必要だが、スマイル時の歯肉の露出量をコントロールする事で審美的な結果を得ることができる。
歯冠長延長術は、手技的には簡便な外科処置ではあるが、解剖学的な制限や臨在歯との関係、角化歯肉の幅や歯槽骨頂の位置など、処置を行う際の注意事項は多岐にわたる。
予知性の高い良好な結果を得るため本術式において考慮すべき点を、拙いいくつかの症例を供覧しながら整理したい。
2018年 日本大学松戸歯学部卒業
2019年 日本大学松戸歯学部附属病院臨床研修歯科医師修了
2019年 日本大学大学院松戸歯学研究科入学
【目的】現在の歯周組織検査は,プロービング深さ(PD),クリニカルアタッチメントレベル(CAL),Bleeding on probing(BOP)およびエックス線での歯槽骨の吸収状態で歯周組織の破壊の程度を評価しているが,歯周炎の活動性や予後を正確に評価するのには限界がある。本研究は,中等度~重度歯周炎患者(ステージⅢ~Ⅳ)を対象に,歯周基本治療前後に唾液を採取し,歯周病臨床パラメーターの変化と唾液中のエクソソーム内の成分を比較し,歯周病バイオマーカーとしての有用性を解析した。
【材料と方法】初診時歯周炎患者から唾液を採取し,基本治療修了後に再度唾液を採取し,エクソソームを精製した。エクソソームから総タンパク質,全RNAを抽出後,C6,CD81,TSG101およびHSP70の発現量の変化をWestern Blotで,miRNAの発現量をリアルタイムPCRで解析した。
【結果と考察】エクソソーム中のC6のタンパク質量の変化は,患者によって結果が異なり,基本治療後にC6の発現量が増加した患者群は,C6の発現量が減少した患者群と比較し,基本治療前後のPISAが有意に高値であった。唾液中のエクソソーム内のmir-142,mir-143およびmir-223の発現量は,基本治療前と比較して治療後に有意に減少した。今後は唾液中のエクソソーム内の成分の変化のメカニズムについて解析を進める予定である。
2005年 日本大学歯学部卒業
2005年 神奈川県横浜市勤務
2013年 神奈川県鎌倉市勤務
2017年 東京都世田谷区 はやし歯科・矯正歯科開院
臼歯部咬合支持の減少により残存歯への負担が強まると、残存歯の歯周疾患や二次カリエスの進行を助長することがある。
このような症例に対して臼歯部咬合支持の再建を行うことで、残存歯への負担を減少させることができるのではないかと考える。
義歯やインプラントによる臼歯部咬合の獲得が行われることが多いが、歯牙移植もその一方法として有効であり、患者の口腔内状況を把握し、患者それぞれに適した方法を検討し、治療に臨むことが大切だと考える。
今回、臼歯部咬合支持の弱体化した患者に対して歯牙移植を行い、臼歯部咬合支持の再建を行った結果、残存歯への負荷を減少することが出来た症例を報告する。
現在移植から約9年が経過し、移植歯の頬側にもCT上で骨が確認され、現在も咬合支持歯として機能している。また、咬合支持獲得により、治療開始時に歯根膜腔の拡大の見られた残存歯への負荷が減少していることが確認された。
今後、術後の経過観察を行うことで自分の行なった治療の妥当性を検討し、また、今後起こりうるトラブルに対応していきたい。
2010年 奥羽大学歯学部卒業
2011年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野入局
2016年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯周病学分野 卒業
2017年 東京医科歯科大学歯学部附属病院 歯周病外来 医員
2018年 つだぬまオリーブ歯科クリニック、九段デンタルクリニック 勤務
2020年 両国デンタルクリニック 開院
歯周炎の原因は様々な要因が絡み合い、歯肉の炎症と歯槽骨の吸収という形で現れることは周知の事実であるが、最も重要な予防策は、プラークコントロールとプラークの堆積しづらい口腔内環境を達成することであり、これによって歯周炎進行のリスクを下げることができる。
歯周治療を行う際には、患者のモチベーションとプラークコントロールを向上させることから始まり、歯周基本治療で徹底した炎症の除去とプラークリテンションファクターをなくすことが非常に重要であり、その成否が後の歯周病外科治療の確実性や成功率にも繋がってくる。歯肉や歯周組織の炎症を除去するだけでなく、歯肉や歯槽骨を生理的な形態に整え、プラークコントロールしやすい口腔内環境の確立が可能となり、より良好な結果を長期的に期待できるようになった。
今回、これらの治療によって治療後のメインテナンスが簡略化され、歯周炎の再発リスクを減らすことできたことを実感した症例を報告させていただきたい。
2010年 日本大学歯学部 卒業
2011年 日本大学大学院歯学研究科歯学専攻 入学
2015年 日本大学大学院歯学研究科歯学専攻 修了
2015年 日本大学歯学部保存学教室歯周病学講座 専修医
2019年 日本大学歯学部保存学教室歯周病学講座 助教
日本歯周病学会 (認定医)
日本歯科保存学会 (認定医)
日本口腔インプラント学会
歯周病は細菌感染による炎症性疾患である。歯周病による骨吸収は自然回復する事がなく、歯周組織再生療法を行う事が多い。しかし、適応症は限定的であり、かつ完全に回復する事は難しく、特に硬組織再生には時間がかかり治療期間も長くなる。また、歯周組織再生療法を成功に導く条件として口腔環境を良好に維持する事が重要であるが、細菌による炎症のコントロールはセルフケアに依存する。
低出力超音波 (LIPUS)は非侵襲的に骨形成を促進し、整形外科では骨折治療で保険適応かつ臨床応用され、矯正では歯の移動を促進させる事を期待し、臨床応用が始まっている。また、in vitroでは、LIPUSが骨芽細胞におけるPGE2産生を抑制し、Porphyromonas gingivalis LPSによる炎症性サイトカインの発現を阻害させる事も示唆している。
そこで、LIPUSが骨形成や炎症に及ぼす影響についてこれまでの知見を纏め、歯周組織再生療法が必要な歯周病患者をターゲットとしたLIPUSの可能性および展望について考えていきたい。
2011年 日本歯科大学生命歯学部卒業
2012年 日本歯科大学附属病院臨床研修医修了
2012年 日本歯科大学附属病院総合診療科
2017年 日本歯科大学附属病院総合診療科 助教
日本歯周病学会 専門医
日本歯科保存学会 専門医
【はじめに】垂直性骨欠損を有する,広範型重度慢性歯周炎の患者に対し,歯周組織再生療法を含む全顎的な歯周治療を行い良好に経過している一症例について報告する。
【症例の概要】74歳女性。初診日:2019年8月22日。主訴:歯周病の治療をしてほしい。既往歴:特記事項なし。
口腔内所見:下顎前歯部叢生,34~36ブリッジのマージン部不適,36近心傾斜。検査所見:平均PPD3.3mm,1-3mmが68.5%,4-6mmが29.2%,6mm以上が2.3%。BOP(+)29.2%,PCR38.8%。X線所見:17遠心,36近心に垂直性の骨吸収。
【診断】広範型 慢性歯周炎 ステージⅢ グレードB
【治療方針】1) 歯周基本治療 2) 再評価 3) 歯周外科治療 4) 再評価 5) 口腔機能回復治療 6) SPT
【治療経過・治療成績】1) 歯周基本治療:口腔衛生指導,スケーリング,ルートプレーニング 2) 再評価検査 3) 歯周外科治療: 15~17,34~37,45~47歯肉剥離搔爬術,36近心にリグロスを用いた歯周組織再生療法 4) 再評価検査 5) 歯周外科治療:34~36歯肉剥離掻爬術,骨整形 6) 再評価検査 7)口腔機能回復治療:34~36間にメタルブリッジを装着 8) SPT
【考察・結論】本症例では歯周組織再生療法を施術した後に,長期予後を確定的にすることを目的として再度骨整形を含む歯周外科を行い,良好な結果を得ることが出来た。歯周組織再生療法には適応症があり症例によっては骨の回復には限界がある。骨縁下欠損の幅が歯冠側で大きく広がっている症例に対しては本症例のような段階的な治療が効果的であると考えられる。今後も慎重なSPTを継続していく予定となっている。
2014年3月 明海大学歯学部卒業
2015年4月 明海大学大学院 歯学研究科歯学専攻博士課程入学
2019年3月 明海大学大学院 歯学研究科歯学専攻博士課程修了
2019年4月 厚生労働省(医薬生活衛生局食品基準審査課)入省
2021年3月 厚生労働省(医薬生活衛生局食品基準審査課)退省
2021年4月 明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座歯周病学分野 助教
2021年10月 日本歯周病学会認定医取得
【目的】
本研究の目的は,インプラント周囲疾患の診断において,重要な臨床的指標であるプロービング時の出血(BOP)に影響を及ぼす因子,およびBOPとインプラント周囲の各種臨床パラメータとの関連性を明らかにすることである。
【材料および方法】
明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科で歯周治療を行った後に,インプラント治療を行った患者124人(インプラント501本、観察期間6.5±4.1年)を対象とし,統計学的に分析を行った。
【結果および考察】
BOPに影響を及ぼす因子は,プラークコントロールが不良であること,インプラント周囲粘膜に可動性があること,およびプロービングデプス(PD)が大きいことがBOPのリスク因子であることが示唆され,また,PDが大きい部位では,角化粘膜が存在しないことによりインプラント周囲疾患発症のリスクが増大することが示唆された。
1990年 九州大学歯学部 卒業
1994年 日本学術振興会特別研究員
1995年 東京医科歯科大学大学院歯学研究科 修了
1999年 米国スクリプス研究所 日本学術振興会海外特別研究員
2001年 明海大学歯学部 講師
2006年 明海大学歯学部 助教授
2007年 明海大学歯学部 准教授
2022年 明海大学歯学部 教授
低侵襲治療は医療全体における大きな流れのひとつとなっている.患者においては,低侵襲化により,治療による肉体的・精神的な苦痛が軽減されるだけではなく,高齢者や合併症を有する者においても治療を受けることができるようになるという利点がある.医療提供者においても,低侵襲化によって併発症のリスクを回避できるという利点がある.
歯科におけるソフトティッシュマネジメントは,“天然歯およびインプラント周囲組織の審美性の回復,歯周疾患およびインプラント周囲疾患の再発予防のために軟組織に対して行う処置”と定義されている.具体的には,結合組織移植術や遊離歯肉移植術などの侵襲が大きい治療が行われることが多い.このソフトティッシュマネジメントにおいても,低侵襲化することにより,上述した利点に加えて,歯周組織再生療法にみられるように,術式の低侵襲化により,治療成績が向上ことするも期待される.
ソフトティッシュマネジメントにおける低侵襲化は,様々なレベルで検討することができる.まず大きな観点で考えれば,インプラント治療のように侵襲性が高い治療を安易に選択するのではなく,天然歯の保存に努めることは,低侵襲化に大きく寄与する.また,修復治療や矯正治療を応用したソフトティッシュマネジメントを行うことで,外科手術を行う必要がなくなれば,それも低侵襲化といえるであろう.
外科治療を回避できない場合には,例えばインプラント埋入手術時に,臨在歯の歯周組織再生療法を同時に行えば,外科処置の回数を減らすことができる.また,臼歯部のインプラント治療では,二次手術時に角化粘膜の増大が必要なケースが多いが,インプラント周囲に必要な粘膜の条件を明確にすることにより,より低侵襲な術式を選択することができる.
審美領域において歯冠長を延長するためには,通常,骨切除術を伴う歯肉弁根尖側移動術が行われるが,歯肉弁を剥離すると,歯肉形態をコントロールすることは困難になり,歯肉形態が安定するまでの期間も長期化する.これらの問題は,フラップレスで歯冠長を延長する術式を用いることにより解決することができる.
本講演では,様々なレベルにおけるソフトティッシュマネジメントの低侵襲化について,エビデンスと症例を交えながら考えたい.
09:30 ~ 09:40 | 開会・支部長挨拶 【清水宏康/関東支部支部長】 |
09:40 ~ 10:25 | 「歯周基本治療で行動変容につながった一症例」 【木村優花/ワンラブデンタルクリニック】 |
09:40 ~ 10:25 | 「包括的な歯科治療を通じて歯科衛生士として関わり、 SPT10年が経過した広汎型慢性歯周炎患者の一症例」 【大澤愛/藤沢歯科ペリオ・インプラントセンター】 |
10:20 ~ 12:40 | メインテナンス患者にこそ行うべきオーラルフレイルの予防 ~歯科医院で取り組む口腔機能低下症の導入から管理まで~ 【塚本佳子/医療法人社団ファミリア 松島歯科医院】 |
12:40 ~ 13:20 | 優秀ポスター賞: 2大リスクファクターを抱えた広汎型重度慢性歯周炎患者に対し 非外科的歯周治療により改善した一症例 【宮地彩花/吉武歯科医院】 |
12:40 ~ 13:20 | 最優秀ポスター賞 【佐藤未奈子/土岡歯科医院】 |
13:20 ~ 13:25 | 閉会挨拶 【雨宮啓/関東支部副支部長】 |
2018年3月 湘南歯科衛生士専門学校卒
2018年4月 医療法人Zion ワンラブデンタルクリニック勤務
2006年 昭和医療技術専門学校卒業
2006~2009年 貴和会歯科診療所勤務
2009年~現在 藤沢歯科ペリオ・インプラントセンター勤務
略歴
1988年 歯友会歯科技術専門学校(現 明倫短期大学)卒業
1990年 黒田歯科勤務
2012年 医療法人社団ファミリア 松島歯科医院勤務
所属
臨床歯周病学会
歯周病認定歯科衛生士
スタディーグループ
キューシーハニー(救歯会ハイジニストクラブ)所属
⻭科医院での⻭科衛⽣⼠の⼤きな役割である、⼝腔衛⽣管理を患者さんと関わり⻑く⾒続
けていると、特に⾼齢者において、安定した状態を維持することが難しいと感じる事はない
でしょうか?
それは患者さんの⽼化による様々な変化が⼝腔や全⾝に兆候として現れてくるからです。
フレイルの前段階のプレフレイルは⼝腔から始まると⾔われています。普段患者さんと深
く関わりをもつ⻭科衛⽣⼠が、先に⼩さな変化に気がつく事が出来れば、健⼝が維持され健
康寿命が保てる事にも繋がるかも知れません。
当院では、普通にメインテナンスを継続されている⾼齢者に対して、早い段階での⼝腔機能
低下症を取り組んでいます。個々に適した導⼊から検査、トレーニング、管理までをどのよ
うに⾏い、患者さんと共にわかってきたこと、衛⽣⼠としてもっと患者さんに関わり、出来
るのではないかと感じている事をご紹介します。
2018年 宮崎歯科技術専門学校
2018年 吉武歯科医院勤務
キーワード:歯周基本治療,II型糖尿病,喫煙,SPT,非外科的歯周治療
I.はじめに 本症例は2大リスクファクターである喫煙,II型糖尿病を抱えた患者に対し歯周治療を行った結果,病状の改善がみられた為報告する。
II.症例の概要 患者:69歳,男性,喫煙者 初診:2019年12月 主訴:46番咬合痛 全身既往歴:II型糖尿病,高脂血症,高血圧 喫煙歴:30年以上 平均6本/日 服薬:メトグルコ錠,アマリール錠,コレバイン錠,アダラート錠等 歯科的既往歴:以前は当院で3カ月に1度のメインテナンスを行っていたが8年前に途絶えた。 診査所見:全顎的に歯肉腫脹,発赤を認める。 PCR77.0%,BOP100%,4~5㎜のPPD45.8%,6㎜以上のPPD15%,46動揺I度,PISA2065.6㎡ X線にて中等度の水平性骨吸収,根尖病変を認めた。 I
II.診断名 広汎型重度慢性歯周炎(限局型ステージIIIグレードC)
IV.治療計画 ①歯周基本治療(プラークコントロール指導,SRP,歯内療法,抜歯38,う蝕処置)/②再評価 /③補綴処置 /④SPT
V.治療経過 初診時,患者は歯周病に罹患している自覚がなくセルフケアも不十分であった為,口腔内写真と正常像を比べ現状を把握させることで意識付けを行った。口腔内だけでなく,患者の性格,生活環境,全身疾患等の背景を踏まえた患者教育をするよう努めた。プラークコントロール指導,SRPを行うことで歯肉からの出血が減少していったことが本人のモチベーションの向上につながり,プラークコントロールは徐々に改善していった。今後しばらくは月1回の間隔でSPTを継続していく予定である。
VI.考察およびまとめ 本症例では,歯周外科治療なしで歯周組織の改善をすることができた。 治療期間が長くなってしまったにも関わらず,改善することができたのはプラークコントロール指導やSRPだけではなく,一定のモチベーションをコントロールし維持できたこと,歯科医師と密に連携をとり治療を進めることができたことも大きな要因と考えられる。 今後も,プラークレベルとモチベーションの維持に努め,SPTにて継続管理していく必要があると考える。
2013年 東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科卒業
2013年 土岡歯科医院勤務
2017年 日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士取得
2021年 日本歯周病学会認定歯科衛生士取得
キーワード:広汎型慢性歯周炎,歯周基本治療,モチベーション
Ⅰ.はじめに
歯周治療を行う際,治療へのモチベーションの維持,また良好な口腔清掃状態の維持・管理が必要である.そのためには歯科衛生士として患者と良好なコミュニケーションをとり信頼関係を構築することが不可欠である.治療の各段階において患者の声に耳を傾けることで長期に及ぶ治療を乗り越えサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)移行後も良好に経過している症例を報告する.
Ⅲ.診断名
広汎型慢性歯周炎 ステージⅢ グレードB
Ⅳ.治療計画
①歯周基本治療(口腔清掃指導,スケーリング・ルートプレーニング,18・38・48抜歯)/②再評価/③歯周外科治療(フラップ手術)/④再評価/⑤14・24・34・44抜歯,口腔機能回復治療(歯周-矯正治療)/⑥再評価/⑦SPT
Ⅴ.治療経過
初診より9か月の間,歯周基本治療として口腔清掃指導,スケーリング・ルートプレーニング,18・38・48の抜歯を行った.再評価後,4㎜以上,BOP(+)の歯周ポケットが残存したため,歯周外科治療として12~17・22~27・34~37・44~47にフラップ手術を行った.外科後再評価を行い歯周組織の安定を確認後,口腔機能回復治療として歯周-矯正治療を行った.歯周-矯正治療後,咬合状態は改善し,歯周組織の安定も維持されていた.埋伏智歯があった37・47遠心には4㎜の歯周ポケットが残存しているがBOPは認められないため病状安定としSPTに移行した.
Ⅵ.考察およびまとめ
本症例を通じて患者の治療に対するモチベーションを維持することの難しさを再認識した.特に来院状況や口腔清掃状態は生活背景に左右されやすく,PCRやBOP陽性率にも影響を与えると考えられる.長期に渡る治療に患者のモチベーションが低下する事もあったが,各場面で寄り添った対応を心掛けることでSPTまで辿り着くことができた.今後も患者の変化に配慮し注意深くSPTを継続していく予定である.
09:10 ~ 09:40 | インプラント治療における基本原則とエビデンス 【井原 雄一郎/関東支部・井原歯科クリニック】 |
09:40 ~ 10:10 | 大規模GBRを回避するためのリッジプリザベーション −強化フレーム付きTiハニカムメンブレンを用いた オープンバリアメンブレンテクニックの可能性− 【小田 師巳/岡山大学大学院医歯薬学総合研究科インプラント再生補綴学分野非常勤講師】 |
10:10 ~ 10:35 | GBRー骨造成における科学的知見と臨床応用 【緒方 由実/タフツ大学歯学部歯周科准教授】 |
10:35 ~ 11:10 | Modern Flap Designs for Successful Vertical GBR 垂直的な骨造成の成功のためのフラップデザイン 【Yong Hur/タフツ大学歯学部歯周科准教授】 |
11:10 ~ 11:40 | 最新の文献と細菌叢解析に基づくインプラント周囲炎への対応 【芝 多佳彦/関東支部・ハーバード大学歯学部口腔内科・感染・免疫学分野歯周病学講座】 |
12:00 ~ 12:15 | 咬合崩壊を起こした慢性歯周炎の患者に対し包括治療を行なった1症例 【大橋 智行/関東支部・ちはら台マイクロモール歯科】 |
12:15 ~ 12:30 | デジタルフェイスボウトランスファー行い, All-on-4conceptにて咬合再構成を行なった1症例 【浅賀 勝寛/関東支部・浅賀歯科医院】 |
12:30 ~ 12:45 | インプラント治療と歯の移植 〜上顎洞挙上を伴う欠損歯列への対応の選択肢として〜 【中山 伊知郎/関西支部・ピースデンタルクリニック】 |
12:45 ~ 13:00 | 前歯部インプラント治療における結合組織移植の可能性 【奥田 浩規/関西支部・奥田歯科医院】 |
13:10 ~ 13:30 | 質疑応答 |
09:00 ~ 09:10 | 開会挨拶・支部長挨拶・趣意説明 |
13:30 ~ 13:35 | 閉会挨拶 |
2009年 東京歯科大学卒業
2009年 慶應義塾大学 医学部 歯科・口腔外科学教室 入局
2017年 井原歯科クリニック 開業
日本歯周病学会 専門医
日本臨床歯周病学会 認定医
日本口腔インプラント学会 専門医
インプラント治療は今日に至るまで多くの患者に恩恵をもたらし、高い予知性に裏付けられた治療法であり、私たちの臨床において欠かすことのできない治療オプションである。特に歯周病患者に対してはインプラント治療を応用できることで治療の選択肢が増え、残存歯の保存に大きく寄与すると考えている。
インプラント治療は欠損状態から始まることもあるが、多くは歯根破折あるいは重度歯周炎に罹患し保存が困難と診断し抜歯を行うことより始まる。その後、インプラント埋入、2次手術、上部構造装着、そしてメインテナンスの流れでフェーズは進んでいくが、抜歯を例にとっても保存すべきか否かで意見が分かれる。インプラントの埋入時期も様々であり、角化粘膜の必要性についても同様に意見が分かれる。個々の状態は千差万別であり一つの選択肢に当てはめることはできないが、それぞれの歯科医師が置かれた環境、診療システムによって術式や治療が選択されることもあるように思える。当然、歯科医師の知識、技術、経験により術式や選択肢が変わり、患者のニーズや背景によって治療方法は変わるが、臨床を行う上での意思決定には根拠が必要である。
医療は日進月歩であり、ガイドラインやプロトコールも変化するが、インプラント治療を行う際の基本的な考え方とエビデンスをもとに抜歯の判断基準、インプラント埋入時期、荷重時期、2次手術、角化粘膜の有無、上部構造装着と多岐にわたるがそれぞれのフェーズを検討したい。
2001年 岡山大学歯学部卒業
2005年 おだデンタルクリニック開業
2012年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科卒業 博士(歯学)取得
2018年 岡山大学病院 診療講師
2021年 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科インプラント再生補綴学分野 非常勤講師
抜歯後の変化としての歯槽骨吸収は経験的にもよく知られており、インプラント埋入時に我々臨床医をしばしば悩ませる。特に唇(頬)側骨の厚みが薄い部位における抜歯後の歯槽骨吸収は、時に深刻な状況を生み出し、ブロック骨移植や強化フレーム付き非吸収性メンブレンなどを用いた大規模なGBRを行う必要が生じることが多い。そのため、そのような状況になることを回避するために、近年、抜歯後の歯槽骨の吸収を抑制するリッジプリザベーションが注目されており、様々な骨補填材やメンブレンを用いた術式が報告されている。そのような中、リッジプリザベーションの目的も従来の「歯槽骨吸収の拡大抑制」から、「骨吸収を有する抜歯窩外側に抜歯と同時にGBRを行う」という概念まで、その適応が広がってきている。その一方で、使用されている骨補填材やメンブレンの種類が多く、どのような状況でどの材料をどのように用いるべきなのかがクリアではないと感じている。そのため、本日は、それぞれの材料にどのような特徴があるのかについて、また、現在用いられている各種術式について、現在報告されているエビデンスからわかりやすくまとめてみたいと思う。そのうえで、「抜歯と同時に歯槽骨を造成(GBR)する」ことを目的として我々が用いている、「強化フレーム付きTiハニカムメンブレンを用いたオープンバリアメンブレンテクニックの可能性」についても言及したいと思う。
語句補足説明
リッジプリザベーションとは、「抜歯後の変化として生じる歯槽堤の硬・軟組織の吸収に伴う体積の減少を抑制する処置」のことを指す。一方で、骨補填材を抜歯窩に填入する処置を指すソケットグラフト(socket graft)や、吸収した抜歯窩壁の造成術(ridge augmentation of extraction sockets )などのより細分化された語句があるが、本講演においてはこれらを抜歯時に行う一連の処置としてまとめてリッジプリザベーションという語句に含めてお話する。
2006 年 鹿児島大学歯学部卒業
2006年 - 2007年 熊本大学歯科口腔外科研修医
2007年 - 2008年 熊本市にてムサシ歯科クリニック勤務
2008年 - 2011年 タフツ大学歯学部歯周病学大学院修了
2011年 - 2013年 タフツ大学歯学部歯周科 助手
2012年~ 米国歯周病学会 歯周病・インプラント外科認定医(Diplomate)
2013年 - 2020年 タフツ大学歯学部歯周科 助教
2020年~ タフツ大学歯学部歯周科 准教授
2020年~ 東京歯科大学歯周病学講座 客員講師
米国では、歯科領域での専門医制度が確立されており、専門医を育成するための体系的な教育が歯科大で行われている。米国では、歯周病専門医の診療領域は、歯周病のみならず、インプラント外科との二本柱で成り立っている。本講演では、米国歯周病専門医・認定医であり、タフツ大学歯学部歯周科に勤務する演者が、歯科大におけるインプラント教育を簡単に紹介し、近年での教育現場での変化について述べたい。
インプラントの高い生存率が報告されて以来、インプラント治療では機能性と審美性の獲得と、その長期的な維持に重点が置かれるようになった。審美・非審美領域に関わらず、インプラント周囲組織の清掃性の確保は、インプラント治療の長期的な予後を左右する。従って、清掃性の良い適切な、補綴物の豊隆(カントゥアー)形態、エマージェンス・プロファイル、歯冠・インプラント比の付与が可能か、術前のプランニングの時点で考慮する必要がある。しかしながら、補綴学的に理想的な埋入位置を三次元でシミュレーションすると、垂直的・水平的な骨量不足が見られることが多い。そこで、骨造成の適応は、インプラント埋入自体が困難な場合や、前歯部での審美的修復のみならず、インプラント周囲組織の清掃性の向上と長期的な維持を目指すものへと拡大してきた。GBR法は、最も汎用性のある骨造成の手法として、現在では日常的なインプラント処置の一環となっている。
しかしながら、補綴後のインプラント周囲骨の吸収に伴う、歯肉の退縮、メタルマージンの露出、アバットメントやインプラント体の露出は、術後の深刻な合併症となりうる。これらの合併症を最小限に抑え、インプラントの機能・審美性を長期的に維持するためには、GBR法で造成した骨組織の量的な安定性が重視される。しかしながら、GBRの術前、術直後、治癒期間、その後の長期的なインプラント周囲骨の量的な変化を経時的に報告した臨床研究は稀である。また、骨造成なしの場合と比較した、GBR法を用いた場合のインプラントの長期予後に関する前向きコホート研究によるエビデンスは限られている。本講演では、臨床研究から得られたデータを交えつつ、臨床例を通して、GBRの臨床応用について議論したい。
2006 年 Wonkwang 大学歯学部卒業(韓国)
2001年 - 2004年 Uisung Public Health Center 勤務
2004年 - 2005年 Yein Dental Clinic 勤務
2005年 - 2008年 タフツ大学歯学部歯周病学大学院修了
2008年 - 2010年 タフツ大学歯学部歯周科 助手
2009年~ 米国歯周病学会 歯周病・インプラント外科認定医(Diplomate)
2010年 - 2022年 タフツ大学歯学部歯周科 助教
2022年~ タフツ大学歯学部歯周科 准教授
補綴主導型のインプラント治療がスタンダードになって久しいが、補綴的に理想的な三次元的位置にインプラント埋入するためには、水平的・垂直的な骨造成が必要となることが多い。
水平的骨造成は、予知性の高い治療とされている一方で、垂直的骨造成は、術式が煩雑で技術的な難易度が高いものとされている。垂直的に骨造成を行う場合、チタンフレーム付き非吸収性メンブレンもしくはチタンメッシュを用いるGBR法が頻繁に採用されている。しかしながら、創の裂開による早期のメンブレンの露出は、不十分な新生骨形成、炎症、創の感染などの合併症を引き起こし、インプラント治療の妨げとなりうる。
合併症を最小限にするためには、全くテンションのないフラップによる一次閉鎖が不可欠であり、フラップデザインの選択とそのマネージメントは、垂直的骨造成の成否に大きく関わる。従来、一次創閉鎖を達成するために、粘膜骨膜弁の減張切開が用いられてきたが、近年ではより良好な治癒を得るために、優れたフラップデザインが考案されてきた。しかしながら、現在の文献では、GBRのためのフラップデザインを比較した臨床研究によるエビデンスはかなり限られている。
本講演では、演者の考案した、オトガイ孔周辺の下顎臼歯部の垂直的な骨造成のためのフラップデザインであるDouble-flap Incision (DFI) と Modified Periosteal Releasing Incision (MPRI)を紹介し、臨床研究データを解説しながら、私見を述べたい。また、臨床例を交えつつ、フラップマネージメントの重要なポイントと解剖学的な注意点についても解説したい。
2009年3月 昭和大学歯学部卒業
2009年4月 日本歯科大学附属病院臨床研修歯科医
2017年3月 東京医科歯科大学大学院博士課程修了
2017年4月 東京医科歯科大学歯学部附属病院歯周病外来医員
2018年4月 東京医科歯科大学歯学部附属病院歯周病外来特任助教
2019年9月 International Team for Implantology (ITI) Scholar (Peking University School and
Hospital of Stomatology)
2020年10月 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野助教
2021年4月 Visiting Assistant Professor (Harvard School of Dental Medicine Department of Oral Medicine, Infection, and Immunity)
資格
2018年 日本歯周病学会 専門医
2021年 日本歯科保存学会 認定医
インプラント治療は機能的にも審美的にも優れ、歯の喪失に対する治療法のひとつとして非常に有効な手段となっている。しかしながらインプラント治療には合併症も存在し、長期的な予後の妨げとなる場合がある。なかでもプラーク由来の合併症はインプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎に分類され、それぞれ歯肉炎と歯周炎に臨床症状が類似している。また両者の罹患率は我が国においても高いと報告されている。高齢化社会をむかえインプラント治療の必要性が高まる一方で合併症への対応は喫緊の課題であるといえる。
現在インプラント周囲炎の様々なリスクインディケーターが確認されているが、なかでも口腔清掃不良と歯周病の既往に関するエビデンスレベルは高いとされている。しかしながら、歯周病患者においても適切な歯周治療後にインプラント治療を行った場合には、非歯周病患者と同等にインプラント周囲炎の発症率を抑えることができると報告されている。とはいえ、一旦インプラント周囲炎に罹患すると当該部位の骨破壊を伴う感染の進行は早く、歯周治療に準じて治療を行ったとしても必ずしも良好な反応が得られないことが多い。
このように歯周炎とインプラント周囲炎はその原因や一部症状が類似しているにも関わらず相違点も存在する。これらの違いを生じさせている理由には解剖学的な違いや細菌学的な違いが示唆されている。我々は細菌学的な違いに着目し、次世代シーケンサーを用いた研究を行った。その結果、インプラント周囲炎と歯周炎では細菌間のネットワーク構造などに違いがあることがわかった。そのため、インプラント周囲炎では歯周炎と比較してより積極的な除染と外科治療の必要性があると考えている。
以上に即して、今回は最新の文献と細菌叢解析に基づいたインプラント周囲炎への対応を発表させていただきます。
2003年 東京歯科大学卒業
2003年 医療法人社団千歯会勤務
2022年 ちはら台モールマイクロ歯科開業
Ⅰ.はじめに
中等度以上に進行した歯周疾患に対して歯周組織再生療法は有効な治療法であり、適応症の診断や適切な術式選択を行うことで良好な治療結果を得ることは可能である。今回歯周炎の進行に加え、咬合、審美等の問題を抱えた患者に対し、包括的に治療を行なった一症例を報告させていただく。
Ⅱ.症例の概要
患者:51歳、女性、喫煙者
初診:2018年12月
主訴:上の前歯が動く
全身既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:20年程前に36,46を抜歯。その後長期経過。10数年前に45が抜歯に至り47、48の近心傾斜、上顎臼歯部の挺出がみられるがそのままBrを作製。上顎前歯部のブリッジもその頃作製。歯科は3年ぶりになる。
Ⅲ.診断名
重度広汎型型慢性歯周炎
Ⅳ.治療計画
①歯周基本治療(プラークコントロール指導、SRP,抜歯、禁煙)
②再評価
③歯周外科治療(再生療法)インプラント
④再評価
⑤補綴処置
⑥メインテナンス
Ⅴ.治療経過
初診より6ヶ月の間基本治療とて保存不可である21番を抜歯。歯内療法、37番の整直を行い、全顎的に暫間被覆冠による咬合の安定を図った。再評価後47番、48番は抜歯を行いインプラント、歯周組織再生療法、切除療法を行い上部構造はモノリシックジルコニアにて補綴を行なった。
Ⅵ.考察およびまとめ
骨欠損形態を正確に診断し、それに対する適切な治療を選択することにより生理的な骨形態を獲得し、清掃しやすい環境を整える事が出来た。その結果、患者の口腔内の永続性に寄与することが出来たのではないかと考える。
2013年 日本大学歯学部卒業
2014年 医療法人寛友会 浅賀歯科医院 勤務
資格・役職
2020年 公益社団法人日本インプラント学会 専門医
2020年 一般社団法人ジャパンオーラルヘルスケア学会 予防歯科認定医
2022年 日本歯周病学会 認定医
Ⅰ.はじめに
現在, ボーンアンカードブリッジタイプのインプラント上部構造を持つインプラントの長期安定のために審美性,清掃性,機能性は天然歯同様に重要な要素である.
今回,All-on-4conceptのインプラント上部構造に対し,セカンドプロビジョナルレストレーション(以下,SPVR) にて審美性,清掃性,機能性の確認を行った. その後,ファイナルレストレーション(以下,FR)に精密にトランスファーし良好な結果を得ることができたので報告する.
Ⅱ.症例の概要
患者:66歳,男性.
初診:2015年10月
主訴:歯がぐらぐらして食事が出来ない.
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:歯科医院にいくのは10年ぶりとのこと,歯の動揺には気づいてきたが痛みもなく不便していなかったが,最近動揺がひどくなり来院.
診査初見:PCR:100%,PPD:4~6mm:37.6%,7mm~:48.8%,BOP:71.0%,全顎的に歯の動揺,排膿が見られた.
Ⅲ.診断名
広汎型・慢性歯周炎・ステージⅢ・グレードC
Ⅳ.治療計画
○1歯周基本治療(プラークコントロール指導,SRP,)/②再評価/③歯周外科処置(歯周組織再生療法)/
④再評価/⑤口腔機能回復治療(インプラント治療,矯正治療)/⑥SPT
Ⅴ.治療経過
歯周基本治療にて炎症の除去を行った後,術前にフェイシャルパターン,リップサポート,リップライン,スマイルライン,骨吸収量,咬合高径を確認した.2016年6月静脈内鎮静法下にて抜歯即時埋入,即時荷重をAll-on-4conceptに準じて行った.SPVRにてインサイザルエッジポジションを基準に審美性の確認,粘膜面をシャローオベイトにすることで清掃性の確認,下顎残存歯のレベリングを行い,アンテリアガイダンス,アンテリアカップリングを調整し,SPVRの咬合様式が顎関節機能に異常をきたさないことを確認した.その後,KaVoプロターevo7に歯牙誘導(中間(CE),左右FTI),左右顎関節(HCN(CE),Benetton,ISS,シフト角)をアルクスディグマにてデジタルフェイスボウトランスファーし,チタンフレームにジルコニアを合着した上部構造を2017年2月スクリューリテインにて装着した.Ⅵ.考察およびまとめ
今回,All-on-4conceptを行うにあたりSPVRにて審美性,清掃性,機能性を確認した.また下顎の残存歯をレベリングすることで,理想に近い状態の咬合様式を与えた.SPVRの状態をKaVoプロター evo7にトランスファーをすることでFRの長期安定が期待でき,高い患者満足度を得ることができた.広汎型・慢性歯周炎・ステージIII・グレードCの患者に対して All-on-4conceptを行い,SPVRを適確に調整,トランスファーすることで患者満足度を含め良好な結果が得られることが示唆された.
2006年 東北大学歯学部卒業
2016年 PiEACE DENTAL CLINIC開院
資格・役職
2016年 日本口腔インプラント学会専修医
2015年 日本顎咬合学会認定医
2019年 International Team for Implantology(ITI) Co Director(北陸SC)
Ⅰ.はじめに
上顎臼歯部を喪失すると,上顎洞底の形態や歯牙の喪失原因にもよるが,歯槽骨頂部から上顎洞底までの距離が短くなることが多い.一般的に欠損部位の治療法として義歯,ブリッジ,インプラント,歯の移植が考えられる.義歯では鉤歯への負担,ブリッジでは支台歯の切削,インプラントでは歯周組織の状態によって骨造成や軟組織の移植,歯の移植ではドナー歯の有無やドナー歯の歯根形態など,それぞれ考慮する点が多い.
今回,治療法としてインプラント治療と歯の移植を選択し,上顎洞底挙上が必要な症例において上顎洞底骨の治癒の形の違いについて5症例を提示しながら考察していきたいと思う.
Ⅱ.症例の概要
① 32歳女性,全身疾患なし.非喫煙.主訴は右上が痛い.
② 53歳女性,高血圧.非喫煙.主訴は右上の詰め物が取れた,咬みにくい.
③ 28歳女性,全身疾患なし.非喫煙.主訴は検診希望.審美的に気になる.
④ 33歳女性,全身疾患なし.非喫煙.主訴は右下と左上を抜歯と言われ,歯を残してほしい.
⑤ 18歳女性,全身疾患なし.非喫煙.主訴は左上の歯が抜歯と言われ,精査してほしい.
Ⅲ.診断名
① 広汎型・慢性歯周炎・ステージⅠ・グレードA ,17根尖性歯周炎,16欠損
② 限局型・慢性歯周炎・ステージⅣ・グレードC,16欠損
③ 広汎型・慢性歯周炎・ステージⅠ・グレードA,17根尖性歯周炎
④ 広汎型・慢性歯周炎・ステージⅠ・グレードA,27う蝕,46根尖性歯周炎
⑤ 歯肉炎,27歯根破折
Ⅳ.治療計画と治療経過
全症例において歯周基本治療を行い,再評価後,SPTに移行した.その後欠損部位に対して①は歯の移植と骨造成を伴うインプラント治療,②は骨造成を伴わないインプラント治療,③④⑤は歯の移植を行なった.
Ⅴ.考察およびまとめ
今回は全症例上顎洞挙上術を併用した.その中で上顎洞底骨の治癒の形に注目すると,骨造成を伴うインプラント症例では造成骨の種類や填入の仕方で治癒の形が依存し,骨造成を伴わないインプラント症例では、新生骨は認めるがテントの支柱上に治癒する.一方、歯の移植での治癒の形は総じて歯根周囲に一層の骨を認め、歯周組織も安定している.欠損歯列の対応として,インプラント治療と歯の移植共に有効な治療法である.今回短期的な報告であったが,移植歯の生存・インプラント周囲骨の状態,上顎洞底骨の治癒の形に関して長期的にどうなるか,今後も経過観察していきたい.
2006年 愛知学院大学歯学部卒業
2012年 奥田歯科医院 開業
Ⅰ.はじめに
近年,1歯における抜歯後即時埋入は良好な結果が得られることが立証されており,条件を満たせば有益な術式であると考えている.Bach.Leらは上顎前歯インプラント部の唇側の硬軟組織について『十分な硬組織は軟組織を維持し,十分な軟組織は硬組織を維持すると述べ,硬組織と軟組織の維持安定には相互作用がある』としている.よって抜歯後即時インプラント埋入の結合組織移植による軟組織増大は長期的なインプラント周囲組織の維持安定に大きな恩恵をもたらす.本症例ではそれらに関する文献的考察を加え2歯連続の並列した抜歯後即時インプラント埋入に結合組織移植を併用した症例を提示し,インプラント周囲組織のバリアとなる十分な硬組織,軟組織の獲得,審美的問題における乳頭の保存をどのように行ったかを供覧したいと思う.
Ⅱ.症例の概要
患者:57歳,女性.非喫煙者
初診:2019年1月
主訴:上顎前歯部インプラント相談.セカンドオピニオン
全身的既往歴:特記事項なし
歯科的既往歴:16歳の時に転倒し,上顎両中切歯が失活歯となり,根管治療後,補綴修復に至った.来院される半年前に再度転倒して前歯部を強打し,前医院にて既存の補綴装置からテンポラリークラウンに置き換えたとのことであった.
診査初見:PCR:20%,PPD:4mm以上:21.4% BOP:14.2%,11,21に歯根破折を認めた.
Ⅲ.診断名
広汎型・慢性歯周炎・ステージⅡ・グレードA
Ⅳ.治療計画
○1歯周基本治療/②再評価/③確定外科処置(抜歯後即時インプラント埋入,結合組織移植)/④再評価/⑤補綴処置 (11,21PFZ冠)/⑥SPT
Ⅴ.治療経過
歯周基本治療後,診断用wax-upからトップダウンにて適正なインプラントポジションを設計後,デジタルドリルガイドを作製.1回の手術にて,抜歯,軟組織造成を行う.2歯連続抜歯後インプラント埋入を行うため,乳頭の保存を考え,頰側には口蓋から,乳頭直下には上顎結節からの結合組織を移植した.その後ポンティックにて創部を封鎖し,約6ヶ月の治癒を待ち,プロビジョナルレストレーションを作製し,エマージェンスプロファイルを調整後,歯肉の安定を待ち,ファイナルレストレーションに移行する.
Ⅵ.考察およびまとめ
歯間中央の乳頭尖端が両隣在歯の乳頭位置より歯冠側にあり,乳頭の温存は達成できたのではないだろうか.側面から見た歯肉のボリュームも十分であり,軟組織を支える硬組織も約3mmに造成することができた. インプラントが並列する症例では,歯間乳頭の再建,温存が難しいとされているが,上顎結節,口蓋からの結合組織に加えて,抜歯即時埋入を併用しその乳頭を支えるポンティックサポートにより良好な結果に至ったのではないかと考える.