※ライブ配信はございません。
09:35 ~ 09:55 | 歯周組織再生療法における歯周基本治療の重要性 【阿部 健一郎/医療法人社団 健樹会 阿部歯科医院】 |
09:55 ~ 10:15 | 患者に寄り添ったコミュニケーションと信頼関係の構築でSPTへと繋げることができた一症例 【國府 美菜/医療法人ティーアンドワイ 山手グリーン歯科医院】 |
10:15 ~ 10:35 | 信頼関係の構築により行動変容と定期的なSPTにつながった症例 【髙原 千尋/山脇歯科・矯正歯科】 |
11:45 ~ 12:45 | 一緒に学ぼう、歯周治療1 【水上哲也/医療法人 水上歯科クリニック】 【下田 裕子/医療法人 水上歯科クリニック】 |
13:45 ~ 14:45 | 一緒に学ぼう、歯周治療2 【水上 哲也/医療法人 水上歯科クリニック】 【下田 裕子/医療法人 水上歯科クリニック】 |
15:00 ~ 16:00 | 一緒に学ぼう、歯周治療3 【水上 哲也/医療法人 水上歯科クリニック】 【下田 裕子/医療法人 水上歯科クリニック】 |
10:50 ~ 11:10 | 広汎型慢性歯周炎StageⅣ GradeCに罹患した患者に対してEr:Yagレーザーを用いて歯周治療を行った1症例 【河島 紘太郎/ごこちデンタルクリニック】 |
11:10 ~ 11:30 | 綿密な連携によりビスフォスフォネート製剤開始前の患者に対して歯科治療を行なった一例 【西尾 美咲/ひらの歯科クリニック】 |
Ⅰ.報告の背景と目的
歯周組織再生療法は,重度の歯周病患者において歯周組織を再生するための重要な治療法である.しかし,歯周治療を成功するためには,歯周基本治療と患者の生活習慣の改善が必要不可欠である.喫煙は歯周病の進行に重大な影響を与える.今回,重度歯周炎患者の歯周組織再生療法の成功における歯周基本治療と禁煙支援の重要性について報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診,診査,検査所見等)
初診:2020年10月 患者:51歳 男性 主訴:検診を受けたい 既往歴:高血圧 (126/68mmHg) 喫煙歴:20年(1日10本~15本)
診査所見:4㎜以上のPPD:30%,BOP陽性率:26%,PCR:66%,PISA/PESA:844.6m㎡ /2,175.1 m㎡
エックス線所見:垂直性骨欠損 16 24 26 27 37 36 34 33 46 47
診断:広汎型慢性歯周炎 Stage Ⅲ Grade C
Ⅲ.治療計画
1)歯周基本治療 (患者教育,禁煙支援,SRP) 2)再評価 3)歯周外科治療(上顎左右側臼歯部,下顎左右側臼歯部, 下顎左側犬歯) 4)再評価 5)サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)
Ⅳ.治療経過
歯周基本治療を通じて患者との信頼関係を構築しながら禁煙支援を行った.患者が禁煙に成功したので,3ヶ月以上にわたり歯肉の状態を観察した後,15,16,17,23,24,25,26,27,33,34,35,36,37,46,47,48部にリグロスを使用した歯周組織再生療法を行った.再評価により歯周組織が安定していることが確認できたため,SPTに移行した。
Ⅴ.考察
本患者は,歯周基本治療中に禁煙を達成し,歯周組織再生療法を行うことができた.喫煙は歯周組織の血行を悪化させ,創傷治癒を阻害するため,喫煙者の歯周組織再生療法は推奨されていない.効果的な歯周組織再生療法を実現するためには,歯周基本治療中から患者にアプローチし禁煙支援を行うことが重要と考える.
Ⅵ.結論
本症例において,歯周基本治療と禁煙支援は,歯周組織再生療法の成功に不可欠であることが示唆された.
Ⅰ.報告の背景と目的
口腔内に関心がない患者だったが,信頼関係を構築することでSPTへと繋げることができた症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診,診査,検査所見等)
初診:2020年6月.患者:40歳男性.主訴:上の歯が欠けた.現病歴:食事中に上の歯が欠けた気がして来院.全身既往歴・喫煙歴:なし.歯科既往歴:20年間受診なし.口腔内所見:PCR:71.7% BOP陽性率:68.2% 4㎜以上PPD:44.3%,全顎的に歯肉の発赤・腫脹が強い.エックス線所見:水平性骨吸収は軽度で歯肉縁上・縁下に歯石沈着を認める.患者は歯科恐怖があり歯周病の自覚なし.勤務が不規則でセルフケアの習慣が定まっていない.
診断:広汎型慢性歯周炎ステージⅡグレードA #11 17 18 27 28 36 45 46カリエス
Ⅲ.治療計画
1)36,45応急処置 2)18抜歯 3)歯周基本治療(①患者教育・口腔衛生指導②SRP) 4)再評価 5)口腔機能回復治療 6)再評価 7)SPT
Ⅳ.治療経過
1)応急処置:36,45仮充填 2)18抜歯 3)歯周基本治療:①患者教育・口腔衛生指導 オープンクエスチョンを用いて指導を行った.写真や検査表などのツールを使用しながら現状を認識してもらうことで行動変容に繋がりPCRが向上した.②SRP 4)再評価:PPD4㎜以上:5.4%,BOP陽性率:13.4%になり口腔内が安定した.5)口腔機能回復治療 6)再評価 7)SPT
Ⅴ.考察
セルフケアが確立された上でSRPを行ったため,良好な結果が得られたと考える.SPTに移行して約4年経過したが,セルフケア・SPTによって良好な経過を辿っている.今後もモチベーション維持ができるように担当衛生士としてサポートしていきたい.
Ⅵ .結論
歯周治療においてオープンクエスチョンを用いたコミュニケーションは有用であり,歯科衛生士は患者と信頼関係を構築することでSPTへ導くことが可能である.
Ⅰ.報告の背景と目的
歯周治療において良好な結果を得るためには,信頼関係の構築と患者のモチベーションの向上およびプラークコントロールの確立が重要である.
まず,患者が口腔内の現状を理解し改善を希望しなければ歯周治療は成功しない.今回,患者との信頼関係の構築を常に意識して取り組んだことで,患者の心境に変化が現れた結果,行動変容が起き,定期的なSPT(Supportive Periodontal Therapy)に繋がった症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要
患者:51歳,女性
初診日:2008年5月
主訴:歯が欠けた
全身的既往歴:なし
歯科的既往歴:困窮時のみ受診,継続的な通院は避けたい.
現病歴:困窮時のみの来院を繰り返してきた.今回は,数日前に口腔内に異物を感じた歯が欠けたよう,痛みはない.
現症:口腔清掃状態は不良で,PPD4㎜以上:47.6%,BOP陽性率:95%,PISA:2,119.2㎟,PCR:73%と高値を示した.臼歯部には6㎜以上のPPDを認めた.
診断:広汎型慢性歯周炎 ステージⅢ グレードB
Ⅲ.治療計画
① 歯周基本治療(患者教育,OHI,SRP),②再評価,③口腔機能回復治療,④再評価,⑤SPTもしくはメインテナンス
Ⅳ.治療経過
歯周基本治療としてOHI,SRPを行った.再評価の結果,深い歯周ポケットの残存を認めた為,視診・触診に加えデンタルエックス線写真撮影を行い,歯石の残存(残石)の有無を確認した.また改善の不十分な16,26,45部位を歯根の解剖学的形態を意識し,低侵襲を心掛け再SRPを行った.歯周組織の改善が確認できたため,口腔機能回復治療を行い再評価の後,SPTに移行した.
Ⅴ.考察
本症例は,骨吸収が水平性であったことと,歯周基本治療においてセルフケアを確立できたことでSRP主体の歯周基本治療により良好な結果を導いたと考える.現在,SPT移行後9年が経過し,歯周ポケットの再発もなく全顎的に歯周組織が安定している.
Ⅵ.結論
歯科衛生士による患者との信頼関係の構築が,患者に行動変容をもたらしたことにより,歯周治療に対する協力的な姿勢と意識改革に繋がり,SPTへと導いたと考える.
さまざまな歯科治療の分野のなかでも歯周治療は最もチームアプローチを必要とする分野の一つと言えます。歯周病の発症予防、進行の抑制、積極的な治療介入、再発予防のためのメインテナンスに到るまでその内容は多岐にわたり、歯科医師、歯科衛生士、歯科アシスタントそのほかのパラデンタルスタッフによる総合的なアプローチが必要とされます。
歯周治療の難しさは個々の患者によりリスク因子が異なることに加えて、モチベーションの向上の難しさ、技術面での問題、そしてチームによるアプローチの難しさが挙げられます。患者の一生のライフサイクルからみると、わたしたちの治療介入の期間はわずかであり、介入のタイミング、程度、内容が問われてきます。しばしば興味を惹きつけられる歯周組織再生療法の術式やハウトゥーは歯周治療の大きな枠組みの一部であることに注意しなければなりません。歯周病患者は間違いなく非外科的な、原因除去の期間である歯周基本治療の過程を経ます。各医院によるシステムの違いはありますが、その大きな役割を担うのが歯科衛生士です。歯周基本治療の過程で、患者は歯周病に関する理解を深め、リスク因子を理解し、適切なプラークコントロールの手法を学習し、並行して歯根面の沈着物の除去が行われます。一方で歯周基本治療の期間中の患者との会話を通して生活背景や職業とそれに伴う問題点、性格などの情報を得ることができます。これらの情報のほとんどは担当する歯科衛生士によってもたらされ、その情報はチームで共有することが大切です。歯周基本治療終了後の再評価を経て最終的な治療計画が立案される際には、歯周ポケット深さなどの歯周病学的パラメーターやX線画像での病態の診断に加えて、患者の背景にある生活習慣や性格などの情報が組み合わさって個々の患者に適した治療計画が立案されます。
歯周外科治療が選択されたとき、歯科医師は術式の選択を行わなければなりません。また外科処置における知識の獲得と技術の習得に努めます。一方で担当するスタッフは術前の管理、術後のケアーを行います。これらが組み合わさって外科処置は良好な結果をもたらすことができます。
治療後のメインテナンスは治療介入と同等もしくはそれ以上に大切なプロセスです。わたしたちの治療結果は長期にわたる結果によって評価されます。適切なメインテナンスプログラムの実行と継続が必要になってきます。これらの一連の歯周治療の過程のそれぞれが言うまでもなく重要です。しかしながら実際の臨床現場では理想通りの治療が行えることもあれば、うまくゆかないこともあるのが現実です。臨床の現場は思っている以上に泥臭く、厳しい現実に直面することもしばしばです。
超高齢社会を迎え、寿命の延伸に伴い天然歯歯列の保存の重要性が叫ばれてきました。8020運動をはじめとした歯科界の取り組みは功を奏して年を追うごとに残存歯数は増加しています。しかしながら一方で歯周病罹患した歯の数はさほど減少せず、わたしたちの課題となっています。平均寿命と健康寿命の乖離の問題がしばしば取り上げられますが、健康寿命の延伸の観点からはますます歯周病の適切な治療介入、メインテナンスによる維持、再発予防が重要となっています。そこで今回の講演ではこれらの現状を踏まえ、わたしたちのリアルな臨床現場を紹介しながら歯周治療の各局面におけるチーム医療の実践を紹介したいと思います。
少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
上記に同じ
上記に同じ
Ⅰ.報告の背景と目的
患者:51歳女性 主訴:全体的に歯茎が腫れている.前歯が動いている.
歯科既往歴:最終の歯科受診は10年以上前.嘔吐反射があり,歯科治療には苦手意識がある.全身疾患:特記事項なし
Ⅱ.症例の概要(初診,診査,検査所見等)
デンタルエックス線写真および口腔内所見
カリエスリスクおよびペリオリスクはともに高い.臼歯部バーティカルストップは喪失しており,全顎的に病的歯牙移動を認めた.咬合高径は低下していることが伺われるが,顎関節症の症状は認めなかった.
デンタルエックス線写真より,全顎的に垂直性および水平性の骨吸収を認めた.また#14#27#36#37には骨縁下カリエス、#16根尖部透過像を認めた.
口腔衛生状態は不良で,PCR52%であり,歯肉には浮腫性の腫脹を認めた.
歯周組織精密検査において,4㎜以上のPPDは68%,BOP陽性率80%であった.また上下顎前歯部には2∼3度の動揺を認めた.
診断:広汎型慢性歯周炎 StageⅣ GradeC
Ⅲ.治療計画
① 歯周基本治療(患者教育・OHI・SRP)②再評価③限局的矯正歯科治療(LOT)④歯周外科治療 ⑤再評価 ⑥口腔機能回復治療 ⑦再評価 ⑧SPT
Ⅳ.治療経過
歯周基本治療の再評価では,4㎜以上のPPD17%,BOP陽性率22%であった.全顎的に4㎜を超える歯周ポケットが残存したため,浸潤麻酔下でEr:Yagレーザーを用いた歯周ポケット内のデブライドメントを行った.叢生のある上下顎前歯部にLOTを行い,再評価を行うと,#13近心に8㎜の歯周ポケットを認めたため,リグロス®を使用した歯周組織再生療法を行った.そして,臼歯部のバーティカルストップの獲得のためインプラント治療を提案したが,患者の経済的理由により,今回は部分床義歯による欠損補綴治療を行った.
Ⅴ.考察
歯周治療開始当初は,全顎に対して歯周外科治療の必要性を考慮していたが,Er:Yagレーザーを使用した歯周ポケット内のデブライドメントを行ったことにより4㎜以上の歯周ポケットの割合やBOP陽性率は著しく改善し,外科的介入を最小限に抑えることが出来たと考える.
Ⅵ.結論
本患者において,従来の歯周基本治療に加え,Er:Yagレーザーを用いて深い歯周ポケット内のデブライドメントを行うことによって良好な結果を得ることが出来た.
Ⅰ.報告の背景と目的
近年高齢化の進む日本では,骨粗鬆症患者は増加傾向にある.それに伴いビスフォスフォネート(BP)製剤を服薬中の患者も増えており,歯科でもそのような患者と関わる機会がある.今回,BP製剤内服開始前から患者に携わった一症例について報告する.
Ⅱ.症例の概要
初診;2022年7月,69歳,女性 主訴;2022年4月,腰を圧迫骨折,2年後にBP製剤内服開始予定のため, 整形外科で歯科治療を勧められた. 診査・検査初見;口腔衛生状態不良 BOP陽性率44.4%,PPD4㎜以上19%,6㎜以上10.3%,二次カリエス多発,二次性咬合性外傷,上顎前歯部にフレアーアウトを認める. 診断;広汎型慢性歯周炎,ステージⅣグレードB
Ⅲ.治療計画
①薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)発生のリスクを考え,長期的に保存不可能と診断された21⊥12の抜歯 ②歯周基本治療・口腔衛生指導 ③再評価 ④口腔機能回復治療 ⑤再評価 ⑥SPT
Ⅳ.治療経過
治療計画について患者に十分説明したが,フレアーアウトを認めた21┴12の抜歯には同意を得られなかった.MRONJ発生のリスクを説明するも患者の意志は強く変わらなかったため,歯科衛生士が歯科医師と患者の間に立ち,話し合いを繰り返した.結果的に,歯周基本治療に加えて咬合挙上と咬合調整を行い,21┴12を保存することができた.MRONJ発生のリスクを下げるため,患者のセルフコントロールを徹底した.抜歯予定であった21┴12は,歯周基本治療を中心とした非外科的歯科治療により垂直性骨欠損が改善され,歯槽硬線を認めたため,SPTへ移行した.
Ⅴ.考察
患者・歯科医師・歯科衛生士の思いが一致しないまま治療が始まったが,歯科衛生士として二者と綿密に連携し,一丸となって治療に専念できたため,結果的に患者の口腔状態の改善につながったと考える.また,患者も納得して治療に挑んだため患者のセルフコントロールの改善につながった.
Ⅵ.結論
歯科衛生士は歯科医師と患者をつなぐ架け橋になることが可能であり,結果的に患者に健口をもたらすことができると考える.
10:05 ~ 10:25 | ステージⅢの重度歯周炎患者に対して、FGF-2を用いて歯周組織再生療法を行った3症例 【倉本穣爾/医療法人双樹会 高井歯科医院】 |
10:25 ~ 10:45 | 慢性歯周炎患者の慢性片頭痛に関する一考察 【田中桃子/AICデンタルクリニック】 |
11:00 ~ 11:20 | 歯周歯内病変に罹患した慢性歯周炎患者に対して、歯周組織再生療法で対応した2症例 【岡野敬陽/岡野歯科・小児歯科クリニック】 |
11:20 ~ 11:40 | 左右臼歯部に垂直性骨吸収を有する慢性歯周炎患者に対して、EMDとFGF-2を使用し歯周組織再生療法を行った症例 【中田 穣/医療法人ゆたか歯科クリニック】 |
13:00 ~ 15:45 | ペリオの治癒の病理〜臨床の疑問に基礎が答える〜 【下野正基/東京歯科大学名誉教授】 |
Ⅰ.報告の背景と目的
FGF-2を使用した歯周組織再生療法が保険収載され,患者,歯科医師双方にとってより身近な存在となった.FGF-2製剤の基剤にはスペースメイキングの機能がないため,残存骨壁数が少ないケースでは骨補填材との併用が有効なことも多い.今回,骨縁下欠損を有するステージⅢの重度歯周炎患者に対して,FGF-2単独または骨補填材との併用療法を行い,良好な結果を得ることができたので報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診,診査,検査所見等)
症例1 56歳 女性 全身疾患なし 喫煙歴なし
診断:広汎型慢性歯周炎 ステージⅢ グレードB
歯周組織検査:BOP陽性率51.2%,4mm以上のPPD48.2%,6mm以上のPPD7.1%
X線所見:37遠心に垂直性骨吸収,36根尖部に透過像を認める
症例2 46歳 女性 全身疾患なし 喫煙歴なし
診断:広汎型慢性歯周炎 ステージⅢ グレードC
歯周組織検査:BOP陽性率25%,4mm以上のPPD31.4%,6mm以上のPPD5.1%
X線所見:26近心に垂直性骨吸収を認める
症例3 45歳 男性 全身疾患なし 喫煙歴なし
診断:限局型慢性歯周炎 ステージⅢ グレードC
歯周組織検査:BOP陽性率25%,4mm以上のPPD19%,6mm以上PPD7.1%
X線所見:47遠心に垂直性骨吸収,46根分岐部に透過像を認める
Ⅲ.治療経過
症例1の患者に対しては,3壁性骨欠損であったためFGF-2製剤単独使用で良好な結果を得ることができた.症例2,3の患者に対しては,残存骨壁数が1~2壁と少ない骨縁下欠損であったため,FGF-2製剤と骨補填材を併用することによって,歯周組織の再生が得られた.
Ⅳ.考察
症例1は,一部咬耗を認めるが歯列咬合に著しい問題はなく,持続的な細菌感染により歯周組織破壊が生じたと考える.症例2,3は,細菌感染に過度の咬合力が加わり,歯周組織が破壊されたと考え,咬合調整を早期に行い,夜間の力のコントロールのためにナイトガードを作製した.
FGF-2を使用した再生療法を成功に導くためには,感染のコントロールと力のコントロールを行っていくことが重要と考える.
Ⅴ.結論
骨縁下欠損を有するステージⅢの重度歯周炎患者に対して,骨縁下欠損の形態を考慮してFGF-2製剤を用いた歯周組織再生療法を行うことで,良好な結果を得ることができた.
Ⅰ.報告の背景と目的
歯周炎による微弱炎症と片頭痛の増悪に関する報告がある中,長期にわたり片頭痛に苦慮している慢性歯周炎患者に対して後ろ向きに調査したところ興味深い知見を得たので報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診,診査,検査所見等)
初診:2005年6月(初診時年齢54歳)女性
主訴:歯周治療の継続
現病歴:2005年以前から前医で歯周治療を受けていたが,現在のクリニックの新規開業と同時に歯周治療の継続を希望し受診.
既往歴:片頭痛
服薬:トリプタノール,トピナ,ゾーミック
喫煙歴:なし
診査所見:BOP 19.4%, 4mm以上PPD 33.3%, PISA 460.6㎟, PESA 1614.5㎟
X線所見:#11,14,15,16,17,24,25,26,27,33,37,45,47に垂直性骨吸収を認めた.
診断:広汎型慢性歯周炎(ステージⅣ グレードC)
Ⅲ.治療計画
1.歯周基本治療 2.再評価 3.歯周外科治療 4.再評価 5.口腔機能回復治療 6.再評価7.SPT
Ⅳ.治療経過
2006年から2023年にかけて,歯周基本治療,歯周組織再生療法(#11,14,15,23,24,25,27,34,35,37,45,47),遊離歯肉移植術(#16,17,35,36部)ならびに,保存不可な歯を抜歯後に口腔インプラントの埋入(#16,17,26)および口腔機能回復治療を行なった.2005年から2020年前半の片頭痛が強い時期は,PISAの数値が高かった(最高値で460,6mm2).2020年以降は,PISAの数値が低値で安定(最低値64.1mm2)し,片頭痛の発現が弱くなっていった.2023年になると,更なるPISAの減少と頭痛の軽減により鎮痛剤が不必要となった.
Ⅴ.考察
日本の一次性頭痛の片頭痛有病率は8.4%である.20~40歳代の女性に多く発症し,性別・年代別にみると,30歳代の女性の有病率は約20%に達する.歯周炎による微弱炎症が三叉神経血管系の活性化を引き起こし,片頭痛を助長している可能性が示唆されている.本患者の片頭痛の改善要因として,歯周治療によりPISAが減少したことから口腔内の炎症の程度が小さくなったことが影響していると考える.
Ⅵ.結論
歯周治療により微弱炎症を管理できれば,片頭痛が改善される可能性が示唆された.
Ⅰ.報告の背景と目的
下顎第二大臼歯は下顎水平埋伏智歯や咬合性外傷などの影響を受け,垂直性骨欠損を認めることがある.今回,歯周-歯内病変に罹患した慢性歯周炎患者に対してまず歯内療法を行い,その後,歯周組織再生療法を行った結果,良好な経過が得られたので報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診、診査、検査所見等)
【症例1】
患者:62歳,女性 主訴:右上の被せ物が外れて,右下奥歯が浮いたような感じがする. 全身的既往歴:特記事項なし 非喫煙者
口腔内所見:臼歯部に摩耗を認め,偏心運動はグループファンクションである.
エックス線所見:7┓遠心に根尖近くまで達する深い垂直性骨吸収および根尖部に透過像を認める.診断:限局型慢性歯周炎(Stage Ⅲ,Grade C)
Ⅲ.治療計画
1.歯周基本治療,歯内療法2. 再評価3. 歯周外科治療(7┓EMDを使用した歯周組織再生療法) 4. 再評価 5. 口腔機能回復治療 6. 再評価 7. サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)
【症例2】
患者:59歳,女性. 主訴:歯茎が腫れている.全身的既往歴:特記事項なし 非喫煙者 口腔内所見:右側方運動時は3┛,43┓グループファンクションである.
エックス線所見:7┓遠心に根尖近くまで達する深い垂直性骨吸収および根尖部に透過像を認める. 診断:限局型慢性歯周炎(Stage Ⅲ,Grade C)
Ⅲ.治療計画:症例1に準ずる. 歯周外科治療はFGF-2を使用した歯周組織再生療法.
Ⅳ.治療経過
2症例とも術後1年程度と経過は短いが,動揺度は生理的範囲内であり,歯周ポケットは3mm以内に改善した.
Ⅴ.考察
歯周-歯内病変において,まずは歯内療法を行い,深い歯周ポケットの残存を認めた場合,歯周外科治療を考慮する必要がある.術前にCTなどで骨欠損形態をあらかじめ把握した上で,足場として骨補填材や吸収性膜などを併用することにより,歯周組織の再生が得られると考える.
Ⅵ.結論
Endo初発の歯周-歯内病変に罹患した慢性歯周炎患者に対して,確かな診断の下歯内療法を最初に行った後に歯周組織再生療法を行うことにより,EMDとFGF-2のどちらを使用しても良好な治療効果を得ることができた.
Ⅰ.報告の背景と目的
FGF-2とEMDは各々の作用機序や特性が異なるため,再生療法においてそれらを考慮して使い分ける必要があると考える.
今回,左右臼歯部に垂直性骨吸収を有する慢性歯周炎患者に対して,術前の軟組織,硬組織の状態を精査し,EMDとFGF-2の特性について患者に十分説明し同意を得た上で,左右でシグナル分子を使い分けて歯周組織再生療法を行った症例について報告する.
Ⅱ.症例の概要
初診:42歳 女性
主訴:歯磨きのときに歯肉から出血する
診断:限局型慢性歯周炎(Stage Ⅲ Grade C) 全身疾患、喫煙歴なし
歯周組織検査: PCR:13.4%,BOP陽性率51.5%,4mm以上のPPD21.8%
X線所見:17遠心,16近心,26近遠心に垂直性骨吸収.24,25間に水平性骨吸収.27根尖部透過像を認める.
Ⅲ.治療計画
1.歯周基本治療 2.再評価 3.16,17,26 歯周外科治療(歯周組織再生療法)
4.再評価 5.口腔機能回復治療 6.再評価 7.SPT
Ⅳ.治療経過
1.歯周基本治療 2.再評価 3.16,17,26歯周組織再生療法(16,17部:EMD,骨補填材,吸収性メンブレン併用.26部:FGF-2,骨補填材併用)27抜歯
4. 再評価 5. 口腔機能回復治療 14−16ジルコニアブリッジ.25,26ジルコニアクラウン 6. 再評価 7. SPT.
Ⅴ.考察
26部では歯間乳頭の基底部が狭く壊死するリスクが高いと考え, FGF-2を用いることで良い結果が得られたと考える.一方で,16.17は根面と骨欠損部の角度が浅いため減張切開を行い骨補填材と吸収性メンブレンを使用する必要があった.FGF-2は組織の深部に作用することで大規模な腫脹など重篤な副作用の報告がされているため,EMDを用いて歯周組織再生療法を行い良好な結果を得ている.十分な術前診査を行い,シグナル分子の特性を考慮し適切に選択することで良好で安全な結果を得ることができたと考える.
Ⅵ.結論
本患者において,EMDとFGF-2各々の特性を考慮し使用することで,歯周組織に対して良好な結果を得ることができた.
1970年 東京歯科大学卒業
1974年 ミラノ大学医学部薬理学研究所客員研究員
1991年 東京歯科大学病理学講座主任教授
2011年 東京歯科大学名誉教授
2012年 日本歯科医学会会長賞受賞
ペリオの治癒の病理と題して、臨床の疑問に基礎が答えます。
①特殊な組織としての歯肉の特徴とは何か?②セラミドによる防御機能とは?③歯肉付着上皮は細胞交代するか?④付着上皮が歯の表面を移動できるのはなぜか?⑤歯肉上皮が歯と接着するしくみは?⑥プラークに対する歯周組織の反応とは?⑦歯周ポケット内では何が起こっているのか?⑧ポケット上皮における潰瘍形成と炎症性細胞浸潤は何を意味するのか?⑨2017年AAP, EFP World Workshop報告書が示唆していることは何か?(令和時代のペリオの治療はどこへ向かうのか?)⑩「臨床的に健康な歯周組織」4つのレベルとは?⑪「臨床的に健康な歯周組織」の考え方が導入された理由は?⑫「歯肉炎は可逆的な病態である」ことが意味するものは何?⑬Pocket DepthよりもBOPのほうが重要であるとする理由は?⑭再生と修復(創傷治癒)とはどこが違うのか?⑮再生に必須の3大因子とは?⑯歯周組織はどのように治癒するのか(Melcherの仮説とは)?⑰上皮性付着とは? ⑱長い付着上皮は短くなるか?⑲上皮性付着から結合織性付着への置換起こるのか?⑳この置換は歯周基本治療(プラークコントロールとSRPのみ)によって起こるか?㉑歯肉のクリーピングが起こるのはなぜか?㉒「生物学的幅径」という単語がなくなるって本当?㉓SRPはどこまでやればいいのか?㉔骨欠損部における骨の再生は欠損部周辺からブリッジ状にみられるのはなぜか?㉕リグロスによる再生療法を成功させるためのコツは何か?㉖リグロスは単身の使用が良いのか骨補填材との併用が良いのか?㉗リグロスを悪性腫瘍の患者さんに使用しても良いか?㉘リグロスは足場として働くか?㉙リグロス使用後の歯周包帯は不要か?㉚歯周基本治療はなぜ重要なのか?㉛組織再生に必要なものは?肉芽組織形成のために必要なものは?㉜止血とは?㉝血餅とは?㉞肉芽組織とは?㉟筋線維芽細胞は創傷治癒に関与するか?㊱「不良肉芽」に相当する英語はない?㊲インプラント周囲組織は天然歯の歯周組織とどこが違うのか?㊳オッセオインテグレーションとは?㊴インプラント埋入で重要なことは何か?㊵なぜ丼状の骨欠損が生じるのか?㊶生体がインプラントを排除しないのはなぜか?㊷インプラントが顎骨に生着するのは制御性T細胞(Treg細胞)が関与するためか?(仮説)㊸骨リモデリングと骨マクロファージ(最新知見)、などについても説明したいと思います。
09:05 ~ 09:25 | rh FGF-2を使用した歯周組織再生療法の結果に及ぼす要因探索の研究 【松田真司/広島大学医系科学研究科歯周病態学】 |
09:25 ~ 09:45 | 2型糖尿病を有する広汎型慢性歯周炎(ステージⅣ グレードC)患者に対する歯周治療の介入が長期的に糖尿病の改善をもたらした症例 【藪 健一郎/亀宝歯科医院】 |
09:45 ~ 10:05 | ベーチェット病を併発したプラスミノーゲン低下症に伴うLigneous歯周炎患者の臨床的考察 【平井 杏奈/岡山大学病院 歯科・歯周科部門】 |
10:20 ~ 10:40 | 垂直性骨欠損を伴う歯周炎罹患患者に歯周再生治療・矯正治療を含めた包括的治療を行った1症例 【林 宏規/医療法人祐真会 はやし歯科クリニック】 |
10:40 ~ 11:00 | 長期喫煙歴のある広汎型慢性歯周炎患者に対してリグロス®とサイトランス®グラニュールを併用した歯周組織再生療法を行った症例 【植村友美/徳島大学大学院医歯薬学研究部 歯周歯内治療学分野】 |
11:15 ~ 12:15 | 侵襲性歯周炎を再考する~わかっていることと、わかっていないこと~ 【水野 智仁/広島大学大学院医系科学研究科 歯周病態学研究室】 |
13:15 ~ 13:55 | 生涯教育のススメ~ともに学び、つながる~ 【内藤 真理子/広島大学大学院 医系科学研究科 口腔保健疫学研究室】 |
13:55 ~ 14:25 | 歯科衛生士の職業キャリア形成~プロフェッショナルアイデンティティの視点から~ 【長谷 由紀子/静岡県立大学短期大学部 歯科衛生学科】 |
14:50 ~ 15:50 | 歯周組織再生療法をミクロの視点でとらえる 【辻 光弘/医療法人 辻歯科医院】 |
Ⅰ.報告の背景と目的
rh-FGF-2(リグロス®)は歯周組織再生療法治療薬として,多くの患者に適用されているが,その効果は様々な要因の影響を受けていると考えられる.その要因が同定できれば,症例や術式の選択,また術前に必要な処置を適切に行うことが可能となり,リグロス®の効果を最大に引き出すことに繋がると考える.本研究では,その要因を探索することを目的とした.
Ⅱ.材料と方法
本研究は,広島大学倫理委員会の承認を得て実施された(E2023-0065).
対象者は,2017年1月1日以降,広島大学病院歯周診療科で歯肉剥離掻爬手術を受けた全ての患者を対象とした.歯周外科治療直前,および術後9か月~15か月の間のデンタルエックス線写真を用いて垂直性骨欠損に対する歯周組織再生量に対して評価を行った.歯周組織再生療法の効果に影響する要因は,初診時の年齢,喫煙の有無,糖尿病の有無,初診時の歯根と欠損の角度,骨欠損面積,最後方歯の可否とした.
Ⅲ.結果
対象者228名に対して,324本の歯を評価した.基準を満たさない患者は除外し,105名の患者から計129歯に対して解析した.これまでの報告をもとに,骨面積再生率(再生骨面積/初診時の骨欠損面積)×100)が30%以上で再生良好とし,上記の要因を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った.歯周組織再生の成否に有意に関連する因子は,最後方歯(p<0.001),喫煙(p<0.001),初診時骨欠損角度(p<0.05),糖尿病の有無(p<0.05)であった.
Ⅳ.考察と結論
本研究で,リグロス®を用いた歯周組織再生療法の効果は,糖尿病,喫煙により減少することが示唆された.加えて,骨欠損と歯根の角度が大きい,または手術部位が最後方歯の場合は,再生療法の効果を減少させる可能性がある.したがって,リグロス®を用いる歯周組織再生療法の骨欠損部位や形態を踏まえた症例選択を行う必要があり,術前に禁煙指導,糖尿病の治療を行うことで,再生療法の効果を増大させることが示唆された.
Ⅰ.報告の背景と目的
歯周病と糖尿病の間には双方向関連のあることが明らかにされている. 今回, 2型糖尿病を有する広汎型慢性歯周炎(ステージⅣ グレードC)患者に対して, HbA1c値をモニタリングしながら歯周治療に介入することで,長期的に糖尿病の改善を示すことができた症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要
初診:2010年2月.66歳男性. 取締役会長
主訴:初診の数ヵ月前から食事の際に咬めるところが少ないため, 胃腸の調子が良くない.
現病歴:初診来院時, 最後の歯科医院受診から20年以上が経過していた. 約5年前より 13 12 11 21 33部の補綴装置が脱離するも放置していた.
既往歴:2型糖尿病(HbA1c 7.2% 空腹時血糖 130mg/dL)BMI 19kg/m2 服薬なし 喫煙歴なし
診査所見:PCR 80%,BOP陽性率 72%, PISA 746.1㎜2 4㎜以上PPD 56%, 動揺度Ⅱ度 13 11 21 23 24 25 33 41 42 43 44 45, 動揺度Ⅲ度 12.X線所見:全顎的に歯根1/3~1/2の水平性骨吸収を認めた.
診断:広汎型慢性歯周炎(ステージⅣグレードC) 12 歯根破折
Ⅲ.治療計画
1.歯周基本治療2.再評価3.歯周外科治療4.再評価5.口腔機能回復治療6.再評価7.SPT
Ⅳ.治療経過
歯周基本治療においてOHI, SRPおよび 歯根破折が原因で12部の抜歯を行った. 再評価時, HbA1c 6.7% 空腹時血糖 110mg/dL を示し, PCR 10%,BOP陽性率12%, PISA 120.6㎜2と歯周組織はある程度改善したが,11 21 23 24 25部に深い歯周ポケットが残存した. その後, 同部位に歯周外科治療(組織付着療法)を行い, 再評価後, 13-23部ブリッジ 24部 全部鋳造冠 42-33部ブリッジ および17 16 15 14 25 26 27部 部分床義歯 47 46 35 36 37部 部分床義歯による口腔機能回復治療を行った. 再評価時, PCR 10%,BOP陽性率2%, PISA 7.4㎜2と歯周組織は安定し, またHbA1cは 6.6%まで低下したため, SPTへ移行した. SPT移行11年経過後も, PCR 20%,BOP陽性率15%, PISA 89.1㎜2と低値を維持し, HbA1c は6.2% (空腹時血糖 110mg/dL)と更に低下した.
Ⅴ.考察
本患者は食事療法, 運動療法および薬物療法を全く行っておらず, 歯周治療のみを行うことにより口腔内の炎症が軽減し, 結果として糖尿病数値の長期的な改善に繋がった. そしてSPT後もHbA1cが低下傾向を示したことから, SPTの継続は長期的な糖尿病の改善に有効であると考える.
Ⅵ.結論
2型糖尿病を有する重度歯周病患者に対する歯周治療の介入は, 長期的に糖尿病の改善をもたらすことが示唆された.
【緒言】常染色体潜性遺伝であるプラスミノーゲン低下症に伴ったLigneous歯周炎患者が,歯周病安定期治療(SPT)中にベーチェット病を発症し,歯周組織破壊が進行した症例の病態を考察する.
【患者,現病歴】再来初診時20歳,女性.2008年(9歳時)に歯肉の白色偽膜病変のため当院口腔外科を受診,プラスミノーゲン低下症によるLigneous歯周炎と診断.近医でSPTを継続していたが,2019年夏に歯周組織破壊の進行のため当院へ再紹介.
【既往歴】プラスミノーゲン低下症,Ligneous結膜炎
【検査所見】頬側歯肉の一部に結節性歯肉腫脹が存在.歯周組織検査:PCR 12%,4 mm≧PPD 33.4%,BOP陽性率 49%,PISA 1,025.9 mm2.X線検査:臼歯部に歯根長1/2の水平性骨吸収像.細菌検査:P. gingivalis DNAの検出と血清IgG抗体価の上昇.遺伝子検査:PLGのmissenseとstop-gained変異.
【診断】Ligneous歯周炎(ステージ Ⅲ,グレード C),二次性咬合性外傷
【治療計画】①医科対診,②歯周基本治療:患者教育,抗菌療法併用SRP,ナイトガード装着,③再評価, ④SPT
【治療経過】SPT開始1年後の2023年初頭にベーチェット病を発症(HLA-B51,CRP:29.8 mg/dL,PISA:981 mm2).入院下でのステロイド療法と口腔衛生管理で全身症状と歯周状態は改善(CRP 0.32 mg/dL,PISA:339 mm2).しかし,36-37部で骨吸収が進行.
【考察】歯周基本治療によってLigneous歯周炎は安定した.しかし,ベーチェット病に伴う全身的急性炎症の悪化と付随した口腔感染量の増加によって,歯周組織の破壊が急速に進行した.現在も体調の変化によって歯周炎症の再燃と消退を繰り返しており,全身状態の変化に注意しながら医科と連携してSPTを継続する必要がある.
Ⅰ.報告の背景と目的
垂直性骨欠損を伴う歯周炎患者に対し矯正治療を含む包括的な治療を行うには,
歯周再生治療,インプラント治療などの外科的治療のタイミングや,矯正による歯牙移動を骨再生に有利な方向へ導くための治療戦略が重要となる.今回,歯周再生治療やアライナー型矯正装置を用いた咬合再構成治療で良好な結果が得られた症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診,診査,検査所見等)
患者:49歳男性 現病歴:なし
主訴:右上・左下臼歯部の違和感と動揺
診断:広汎型慢性歯周炎(Stage Ⅲ, Grade B)
所見:右上・左下臼歯部の垂直性骨吸収が著明であり,歯周病細菌検査で多量のPg菌が検出された.ブラキシズムによる臼歯部の過重負担,臼歯部ガイドによる咬合性外傷も骨吸収の原因と考えた.
Ⅲ.治療計画
患者は長期にわたる安定した治療結果を望んだため,徹底した歯周基本治療後,インプラント治療,歯周再生治療,リスク軽減や咬合の安定のための矯正治療,セラミック修復処置を含む咬合再構成治療を行うこととした.
Ⅳ.治療経過
予後不良の18,17,36,37,38を抜歯し,顎位診断後,デジタルセットアップにてインプラントポジションを設定し,サージカルガイドを用い36,46部にインプラントを埋入した.顕微鏡下で33,34部と44,45部に歯周再生治療を行い,再生療法から約1ヶ月後にアライナー矯正を開始した.矯正治療終了後,再度顎位診断を行い,診断用WAX Upを作成,歯周組織に問題ないことを確認後,最終補綴装置を装着して治療を終了し,メインテナンスへ移行した.
Ⅴ.考察
重度歯周病患者に矯正治療を行うリスクとして,矯正力による歯槽骨へのダメージ,矯正装置による口腔清掃の低下などが考えられるが,アライナー型矯正装置を選択することは従来の矯正装置のデメリットを解消する可能性がある考える.今回,デジタル技術の応用により,インプラント治療およびアライナー型矯正治療に良好な結果が得られたことから,今後の歯科治療においてもデジタル技術は有用と考える.
Ⅵ.結論
垂直性骨欠損を伴う歯周炎罹患患者に対して,顕微鏡下で低侵襲な再生療法を行った後,矯正治療による歯根間距離の適正化を図ることにより歯槽骨が再生し,安定した歯周組織が獲得できた.
Ⅰ.報告の背景と目的
喫煙は歯周病の発症や進行に影響を与える最大のリスクファクターである.今回我々は,喫煙歴のある重度歯周炎患者に対して,禁煙指導後にリグロス®とサイトランス®グラニュールを併用した再生療法を行い,良好な経過が得られた2症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要
症例1 46歳男性 主訴:全顎的な歯肉からの出血 全身既往歴:高血圧,高脂血症,痛風,2型糖尿病,睡眠時無呼吸症候群 喫煙歴:20~45歳 10本/日(Brinkman Index:BI=250)
【診査・検査所見】初診時のPCR:31.3%,PPD4mm以上:60.7%,BOP陽性率:65.5%.X線写真より全顎的に歯根長1/2~2/3程度の骨吸収を認め, 14には根尖に及ぶほどの垂直性骨吸収を認めた.
症例2 53歳男性 主訴:全顎的な歯肉の腫脹 全身既往歴:特記事項なし 喫煙歴:28歳から現在まで20本/日 (BI=500)
【診査・検査所見】初診時のPCR:69%,PPD4mm以上:55.1%,BOP陽性率:59.8%.X線写真より全顎的に歯根長1/2~1/3程度の骨吸収を認め,37,45には垂直性骨吸収を認めた.
【診断】症例1,2ともに広汎型慢性歯周炎(Stage Ⅳ, Grade C)
Ⅲ.治療経過
症例1,2ともに禁煙指導を含めた歯周基本治療を行った. 再評価後,症例1では13~23, 33~43, 45~47,16,17, 26,27にリグロス🄬単独, 14,15, 24,25にリグロス🄬とサイトランス🄬グラニュール併用による再生療法を行った. 症例2では36,37にリグロス🄬単独, 17,12,21,22,45,46にリグロス🄬とサイトランス🄬グラニュール併用による再生療法を行った.いずれも良好に経過し, デンタルX線写真上で骨欠損部に不透過性の亢進を認めた.
Ⅳ.考察および結論
両症例とも,禁煙が達成できたこと,1-2壁性骨欠損部に対して血管新生作用の強いリグロス®と人工骨を併用したことによって,再生療法の効果が得られ歯周組織は安定したものと考える.
平成8年 広島大学歯学部 卒業
平成12年 広島大学大学院卒業 学位取得 博士(歯学)
平成12年 広島大学歯学部附属病院 助手(第二保存科)
平成27年 広島大学病院 講師
令和3年 広島大学大学院医系科学研究科歯周病態学研究室 教授
日本歯周病学会専門医 第835号
日本歯周病学会指導医 第244号
2017年, アメリカ歯周病学会(AAP)とヨーロッパ歯周病連盟(EFP)共催のワークショップ「World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions」において歯周病の新分類策定について議論され, この新分類は2018年にAAPとEFPから公表された. 1999年に定められた分類では, 歯周炎を侵襲性歯周炎と慢性歯周炎の2つに大きく分類していたが, 新分類においては, これらを1つの歯周炎としてとりまとめ, 新たにステージとグレードという診断のフレームワークが導入された. しかしながら, 欧米の論文において, 現在でもなお, Aggressive periodontitis(侵襲性歯周炎)という言葉が使用されているのも事実である. 日本歯周病学会においては, これまでの分類に新分類を併記して用いる暫間的な対応を継続している. 「限局型か広汎型か」次に「慢性歯周炎か侵襲性歯周炎か」を記し, その次に新しいフレームワークであるステージとグレードを記載するというものである. 具体的には, 広汎型 慢性歯周炎 ステージII グレードBあるいは, 限局型 侵襲性歯周炎 ステージIV グレードCとなる. しかしながら, 反対意見も多くあるということを十分に承知したうえで, あえて述べさせていただくとステージとグレードという新しい枠組みが新分類として公表されて5年経過した現在, 一般的に浸透しているかと言われれば疑問である.
この問題の1つに侵襲性歯周炎の病態が十分に解明されていない, よくわからない疾患であるということがあげられる. 侵襲性歯周炎は若年者に発症し, プラークの残存が比較的軽度であるにもかかわらず, 急速に著しい歯周組織破壊を惹起する歯周炎と定義されている. 侵襲性歯周炎の特徴として, 家系内に集積する症例が存在することはよく知られている. よって, 環境的要因よりも遺伝的要因がその発症に多く関与していると考えられている. 例えば側索性軸索硬化症(ALS)は100,000人に1~2人発症頻度であるが, 10を超える実に多くの原因遺伝子が同定されている. 侵襲性歯周炎の発症頻度は0.1%から0.05%つまり1000人に1人から2000人に1人とされており, 多くの(おそらく数十から100以上)の原因遺伝子がその発症に関与していると考えられる. しかしながら現在のところ, その原因遺伝子はほとんど解明されていないことが, この病気を理論的に理解するということを阻んでいる. 歯周病の臨床に携わる人はこの疾患の存在を認めており, 各個人が実に様々な疾患の理解をしているという現状がある. 侵襲性歯周炎は自己免疫疾患的な側面を持っている, 咬合が関与している, 上皮の付着が弱い, 治癒が良好だ, 嫌, 治癒不良だ, 等々. よって, 歯周病の治療にあたるものが共通に侵襲性歯周炎を論理的に理解するためには, 大変な作業になるかもしれないが, 原因遺伝子を1つ1つ明らかにしていくことが重要だと考えられる.
そこで私達は原因遺伝子を同定するために, 侵襲性歯周炎の家族症例に焦点をあてた. 家族症例であれば原因遺伝子は共通しており, その変異の場所も共通していると考えられるからである. Exome解析法は,全ゲノムのうちエキソン配列のみを網羅的に解析する方法である. エキソンのサイズは全ゲノムの約1-1.5%に過ぎないが, タンパク質に翻訳される領域であることから, 機能的に重要であり, 遺伝性疾患の多くがエキソン領域の変異によって引き起こされると推定されている. Exome解析法を用いれば,linkage解析法によって絞り込まれた関連遺伝子の含まれる染色体候補領域内に存在する遺伝子変異を効率よく検出することができる. 広島大学病院歯周診療科に通院する侵襲性歯周炎患者の家系で, 常染色体優性遺伝性の遺伝形式をとり, 同一家系内に複数の患者が3世代にわたって認められる大きな家系が存在した. 私達は家系内の侵襲性歯周炎発症者のDNAを用いて, 本家系に発症する侵襲性歯周炎の原因遺伝子候補変異として同定した. ゲノム編集を行うことによって, 本変異をもつノックイン(KI)マウスを作成し, 歯周炎を誘発すると通常のマウスに比べて極めて重度な歯周組織破壊を示すことを明らかにした. また, 患者の強い要望によって, 患者の子供世代の遺伝子診査を行った. この結果は予防治療あるいは予知治療へとつながると確信している.
本講演では侵襲性歯周炎について現在わかっていること, わかっていないことを示させていただきます. そのうえで, 私達が同定した原因遺伝子変異が, 細胞レベルで病態メカニズムに関与することを調べるために, KIマウスを作成し, 本家系侵襲性歯周炎の病態解明を目指した研究成果についても発表したいと思います.
991年 九州歯科大学卒業
1991年 産業医科大学歯科口腔外科・専修医(1993年まで)
1996年 九州歯科大学小児歯科・助手(1997年まで)
1997年 九州歯科大学小児歯科・研究生
2001年 日本小児歯科学会認定医、歯学博士(九州歯科大学)
2001年 京都大学大学院医学研究科健康情報学・研究員
2004年 名古屋大学大学院医学系研究科予防医学分野・助手
2007年 名古屋大学大学院医学系学研究科予防医学分野・講師
2010年 医学博士(名古屋大学)
2010年 名古屋大学大学院医学系研究科予防医学分野・准教授
2018年 広島大学大学院医系科学研究科口腔保健疫学・教授
2022年 日本口腔衛生学会 専門医
人生100年時代やSociety 5.0の到来, デジタルトランスフォーメーションの急速な進展,新型コロナウイルス感染症など、社会は大きく変化している. このような状況下で, 生涯教育の重要性が強調されている. 文部科学省の令和3年度白書1)は, 国民一人一人の生涯学習の支援のひとつとして, 社会人の学び直し(リカレント教育)を挙げている. 具体的には, 社会人が新たな知識や技能を継続的に学ぶこと, 女性が出産や子育てなどのライフステージに合わせて活躍できる環境の支援, 若者の活躍を促進する取り組みなどが言及されている.
広島大学歯学部は, 厚生労働省の助成を受けて, 歯科衛生士の臨床実践能力向上と復職支援, 離職防止の推進を目的に2019年7月に歯科衛生士教育研修センターを設置した2). 現在就業している歯科衛生士の離職を防ぐために, センターではスキル向上や知識修得の支援, 情報提供をおこなっている. また産前・産後休業や育児休業, 介護休暇後に復職を目指す歯科衛生士を対象に, キャリア継続支援のための相談窓口を設置し, 研修会を定期的に開催している.
2020年からはオンラインを活用した研修プログラムが導入され, 双方向性のオンラインツールが活用されている. これにより, 居住地や勤務時間の制約でアクセスが難しかった方々と場を共有することが可能となり, センターの活動促進にもつながった. また, 受講者のニーズに合わせて, 新人研修, スキルアップ研修, リフレッシュ研修などのプログラムが整備された. さらに, 海外の歯科衛生士会との国際交流活動も開始され, 研修受講者やセンター関係者のネットワーク拡大や多様な人材育成の基盤構築も進んでいる.
研修プログラムの効果については, 受講者自身による多面的な評価がおこなわれている. 評価結果から, 研修修了直後, 修了3か月後, 修了1年後において, 関連分野の知識や技術レベルが研修前と比べて有意に向上していることが明らかになった. 一方, 意欲レベルは修了直後が最も高く, 修了1年後には低下傾向が認められた. 今後, 積極的な情報発信や, 気軽につながることのできる場や機会の提供により, 研修効果をさらに向上させていきたいと考えている.
本講演では, 歯科衛生士教育研修センターの4年間の取り組みを紹介するとともに, 課題や展望にも触れたい. 歯科衛生士のリカレント教育の未来について, 皆様と一緒に考える機会にしたいと思っている.
【参考文献】
1. 令和3年度文部科学省白書. 第3章生涯学習社会の実現. https://www.mext.go.jp/content/20220719-mxt_soseisk02-000024040_203.pdf
2. 倉脇由布子ら. 広島大学歯学部歯科衛生士教育研修センターの活動内容と今後の展望. 広大歯誌 2022;54:114-121.
005年3月 広島大学教育学部 第四類人間生活系コース卒業 学士(教育学)
2007年3月 兵庫県立総合衛生学院 歯科衛生学科卒業
2013年3月 広島大学大学院医歯薬総合研究科 医歯科学専攻修士課程修了 修士(歯科学)
2016年3月 広島大学大学院医歯薬保健学研究科 口腔健康科学専攻博士課程後期修了 博士(口腔保健科学)
2023年3月 岐阜大学大学院医学系研究科 医療者教育学専攻修了 修士(医療者教育学)
2007年~2009年 歯科医院 歯科衛生士
2009年~2019年 広島大学病院 診療支援部 歯科衛生部門 歯科衛生士
2019年~ 静岡県立大学短期大学部 歯科衛生学科 准教授
日本歯周病学会認定歯科衛生士(認定番号:1003号)
歯科衛生士はあらゆるライフステージの患者に対して, 地域密着型の医療サービスを成功させるために重要な役割を担っている. しかしながら, 日本において歯科衛生士有資格者の就職率は50%以下と15万人に近い歯科衛生士が離職しており(2020年), 臨床現場では歯科衛生士不足が続いている.
先行研究によると, 医療者の仕事満足度は離職意向と直接的かつ否定的に関連しており,離職意思のある者は仕事に満足していないことが明らかとなっている. また, 歯科衛生士は, 国家資格によって「安定した雇用」や「報酬」が確保されることを歯科衛生士の仕事の魅力として認識している一方で, 雇用や報酬の有利性以上に「社会や人への貢献」・「高い専門性」といった職業的価値観が, 歯科衛生士の仕事の満足度とより密接に関連し, 仕事へのモチベーションや職業継続性に組み込まれていたという報告もある. 職業的価値観は, 日々の専門的な実践経験を通じて形成され, 医療専門職としてのアイデンティティの中核となり, 職業的アイデンティティは, 職業的継続性に関連するキャリア成熟に影響を与える.
キャリアという言葉は, 経歴、仕事など職業に直接関わる職業的発達と捉えられがちであるが, 近年の発達心理学では単なる仕事や職業だけではなく, 人が生きていく上でのさまざまな立場や役割に密接に関連し, 人生の生き方を含めた包括的な概念として考えられている.
医療者教育で重視される「職業的アイデンティティ形成」とは, それぞれの医療専門職の規範や役割, 行動などの価値観を徐々に内面化(受け入れて自分のものとする)し, 共同体での実践を通じて社会化することで形成される動的プロセスである. しかし, 既存のアイデンティティを再検討しながら, 新しい価値観を洗練させ内面化するプロセスは, 混乱や不快感を伴うことがある. このような価値観の内面化による混乱や個人の内的志向と職業的役割とのミスマッチは, 不安, フラストレーション, 不全感を生み, 時には離職につながってしまうと言われている.
私たちは心理社会的背景から鑑みたときに, 歯科衛生士の離職率が高い背景には「職業的アイデンティティ形成」に対する教育的な支援不足があるのではないかと考えた. そこで, 歯科衛生士学生が卒前教育において, どのように医療専門職としてのアイデンティティを形成していくかを調査研究した. 研究対象者は短期大学最終学年の歯科衛生士学生とし, 職業的アイデンティティとその形成に影響を与える要因について半構造化インタビューを実施した. データ分析は質的研究手法であるテーマ分析法を用いた.
その結果, 歯科衛生学生は歯科衛生士の治療や指導によって患者の口腔疾患を改善・予防し, ひいては全身疾患の予防や健康を増進することが歯科衛生士の職業的価値であり社会的役割であると認識していた. また, ロールモデルと臨床経験(臨床実習)は, 学生の職業的アイデンティティ形成に影響力のある要因であった. さらに、社会的相互作用を通じて臨床経験を積み, 仲間とのより良い関係を築くことで, 歯科衛生士の臨床実践における責任感や確固たる価値観をより強く持つようになっていた. しかしながら, 学生が歯科衛生士の職業的価値, 社会的役割に気づくこと以上に, 小さな技術や処置, 指導を行うことに学習の焦点を当てた場合, あるいは学生自身の将来のビジョンが不明確な場合, 歯科衛生士としての職業的アイデンティティを形成することは困難であると予測される.
一方で, 学生は臨床実習で起こった困難に対して, 共に学ぶ仲間と支え合うことによってその困難を乗り越えていた. このような同職種との関わりは離職を防止するとも言われている. 職業的アイデンティティの形成には, 仲間と共に学ぶコミュニティの形成が不可欠である. したがって, 歯科衛生士が社会的に交流し, 互いに学び合うことができるコミュニティを開発することは, 継続的な教育支援のための重要な戦略であると考えられる.
今回, 歯科衛生士の職業的アイデンティティ形成の視点から歯科衛生士の職業キャリア形成について, 研究結果を含めてお話させていただきます. 今回の講演をきっかけに, 歯科衛生士がやりがいと職務満足を感じ, 歯科衛生士という職業のキャリアを発達させる教育的支援のあり方について皆様と考えてみたいと思っています.
1998年 九州大学歯学部卒業
佐賀医科大学歯科口腔外科学講座入局
1999年 佐賀医科大学付属病院 救命救急部ローテーター
2000年 佐賀医科大学麻酔科 医員
2005年 佐賀医科大学大学院 博士課程修了(医学博士)
2006年 佐賀大学医学部歯科口腔外科 助教・外来医長
2008年 医療法人辻歯科医院 副院長
2021年 同 理事長
日本口腔外科学会認定 口腔外科専門医
日本歯周病学会認定 歯周病専門医
日本臨床歯周病学会 認定医・指導医
日本口腔インプラント学会 専門医
歯周組織再生療法は,バイオマテリアルや術式の進歩により,大きく発展してきた。その成功の要件として,骨欠損形態の的確な診断,適切なバイオマテリアルや術式の選択,フラップデザインや精密な縫合,歯周基本治療による徹底した起炎因子の除去,外傷性咬合のコントロール,術者のスキル,患者の協力度などが挙げられる。
近年,歯周外科手術において,高倍率のルーペやマイクロスコープが普及し,日常臨床で当たり前のように使用されるようになった。しかし残念ながら,いくら“マイクロ”とはいっても,直径1μm の細菌を見ることはできない。歯周治療を行う上で,われわれが相手にするのは歯周病原細菌であり,その約1μmの細菌レベルで歯周治療を行うためには,さまざまなエビデンスや情報をもとに考え,想像していく必要がある。今回は,筆者の経験を踏まえて,多くの成書に書かれている成功の要件とは少し異なる「ミクロの視点」から歯周組織再生療法について考えてみたい。
昨年,日本歯周病学会から出版された「歯周治療のガイドライン2022」の「歯周治療の進め方」という章は,第一に「全身性疾患への配慮」という項目からスタートしている.さらに,「歯周基本治療の概念」という項目を見てみると,「治療に際しては歯周病の病因因子とリスクファクターを明確にして,さらに,全身的問題と患者の生活習慣を含む患者背景も考慮する必要がある.そのためには,医療面接(問診)や医科との連携が大切であり,医科の検査データを十分に理解しておく必要がある・・・」というように,近年,改訂されるたびに,全身疾患や全身管理についての記載が増えてきている.例えば,HbA1cが10%の患者に完璧な歯周基本治療と歯周組織再生療法を施したとして,治療結果がどうなるかを想像すれば,その重要性は容易に理解できる.創傷を治癒させるのは,術者でもバイオマテリアルではなく生体自身である.
本年6月に臨床歯周病学会から出版された「歯周病と全身疾患」という書籍を共同執筆させて頂いたが,将来的には「歯周病は全身疾患」という考え方に変わってくるかもしれない.当院では,全身疾患を有する患者については,ほとんどすべてのケースで主治医と連携を取って歯科治療を進めている.また,すべてのケースではないが,管理栄養士とも連携を取っている.本講演では,日常臨床における医科との連携の重要性についてもお話させて頂きたい.
その他,マクロファージ,ATP, 歯髄-象牙質-歯根膜複合体,自家骨移植,栄養学などをキーワードに,「ミクロの視点」からのお話が出来ればと考える.マイクロスコープを使っても見えないこと,知識をもって想像していくしかないことにこそ,成功の秘訣が隠されているかもしれない.
10:00 ~ 16:20 | 【ハンズオン】 歯周精密検査、シャープニング、SRPを中心に 【山﨑瑞穂/日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士】 【石原彰子/日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士】 【重成佳江/日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士】 |
日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士
日本臨床歯周病学会認定医歯科衛生士
日本臨床歯周病学会認定歯科衛生士
10:05 ~ 10:20 | 歯肉退縮に対するVISTAテクニックの臨床応用 【奥村昌泰/歯科イーエムデンタルクリニック】 |
10:20 ~ 10:35 | 歯列不正を有する広汎型慢性歯周炎(ステージⅢ グレードB)患者に対し、インスツルメンテーションに配慮して歯周治療を行った一症例 【高山景子/広島すとう歯科・歯周病クリニック】 |
10:35 ~ 10:50 | 根分岐部病変を伴う広汎型慢性歯周炎(ステージⅢ、グレードB)患者に対して歯周組織再生療法及び永久固定を用いて治療を行なった一症例 【周藤 巧/広島すとう歯科・歯周病クリニック】 |
10:50 ~ 11:05 | 質疑応答 【奥村昌泰・高山景子・周藤巧/】 |
11:15 ~ 12:15 | 歯科医師・衛生士チームで取り組む包括的治療~Full mouth disinfectionを軸として~ 【清水 賢/医療法人HAKARA アルファ歯科クリニック】 |
13:15 ~ 14:15 | 歯科衛生士の視点から考える歯周-矯正治療の注意点 【土岡弘明/土岡歯科医院】 【佐藤未奈子/土岡歯科医院】 |
14:25 ~ 15:25 | 矯正学的視点からみた歯周再生療法の新たな可能性と今後の課題 【綿引淳一/東京日本橋AQUA歯科・矯正歯科 包括CLINIC】 |
15:35 ~ 16:35 | 歯周病患者における咬合を考える 【佐々木 猛/医療法人貴和会】 |
Ⅰ.報告の背景と目的
歯肉退縮の原因として,薄い歯肉,小帯の高位付着などの解剖学的要因や強いブラッシング圧,歯周炎による付着の喪失などの後天的要因が挙げられる.これらに起因した歯肉退縮に対する根面被覆術には,さまざまな術式がある.今回,Vestibular Incision Subperiosteal Tunnel Access(VISTA) Techniqueを用いて根面被覆を行った2症例について報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診、診査、検査所見等)
症例1 患者:67歳,男性,非喫煙者.初診:2019年11月.主訴:右上前歯の歯茎が痩せて歯がしみる.全身既往歴:特記事項なし.口腔内所見: 11から13 部にかけて3mm~4mmの歯肉退縮を認めた.隣接面の付着は喪失を伴うが,口腔前庭は深く,歯肉退縮は歯肉頬移行部を超えていない.Cairoの分類 RT2と診断した.
症例2 患者:39歳,女性,非喫煙者.初診:2021年9月.主訴:右上奥歯の歯茎が下がって見た目が気になる.全身既往歴:特記事項なし.口腔内所見:14 部に3mmの歯肉退縮を認めた. 隣接面の付着は存在し,口腔前庭は深く,歯肉退縮は歯肉頬移行部を超えていない. Cairoの分類 RT1と診断した.
Ⅲ. 得られた知見
2症例ともに治療部位への血液供給を阻害する可能性が低い口腔前庭部の縦方向の切開であったため,歯肉に対する侵襲が最小限であり,術後の治癒が早く経過は良好であった.
Ⅳ. 考察
VISTAテクニックは,歯肉への侵襲が少なく,歯肉の歯冠側移動が比較的容易な術式であるため,歯肉のフェノタイプの改善に有効であると考える.
Ⅴ. 結論
VISTAテクニックは,前庭切開部から骨膜下にトンネル形成し,適切なテンションで移植片の設置および固定が行えるため,確実性のある根面被覆術の一つであると考える.
抄録 Ⅰ.報告の背景と目的
歯周基本治療において歯周組織に侵襲の少ないSRPを行うためには歯の解剖学的形態を考慮するとともに,より慎重かつ繊細なインスツルメンテーションが求められる.今回,歯列不正を有する広汎型慢性歯周炎患者に対して,インスツルメンテーションに配慮した歯周治療を行うことによって,良好な結果が得られた症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診,診査,検査所見等)
初診:2013年7月,45歳女性 主訴:全顎的な歯と歯肉の痛み
現病歴:半年前より自発痛.他院にて消毒を繰り返されたが改善が認められず当院を受診.クレンチングの自覚あり.全身的既往歴:なし.喫煙歴:あり(約10年前に禁煙)
診断:広汎型慢性歯周炎ステージⅢグレードB.歯周組織所見:PCR 33%,BOP 43.5%,4㎜以上PPD 15.5%.X線所見:#11,12,21,22 #26に垂直的骨吸収を認めた.
Ⅲ.治療計画
1.歯周基本治療 2.再評価 3.#26歯周組織再生療法 4.再評価 5.口腔機能回復治療 6.ナイトガード作製 7.再評価 8.SPT
Ⅳ.治療経過
歯列不正に伴うプラークリテンションファクターの増加とくいしばりによる咬合性外傷が歯肉炎症を助長する増悪因子であることを説明し,矯正治療を提案したが患者は希望せず.そこで不良補綴物の再製を行い,咬合性外傷に関してはナイトガードで対応することとした.再評価後,#26に歯周組織再生療法EMD応用.およびトライセクションを行い,口腔機能回復治療,ナイトガードの作製を行った.再評価時にBOPは16.1%となり歯周組織の改善を認めたためSPTへ移行した.
Ⅴ.考察
特に歯列不正を有する患者にSRPを行う際には,より複雑な操作と歯の解剖学的形態を理解した上で的確なインスツルメンテーションを行うことができなければ歯肉退縮,知覚過敏を生じる可能性があると考える.
Ⅵ.結論
的確なインスツルメンテーションは,歯肉退縮や知覚過敏などの問題を低減するのみならず,その後の歯周外科治療の成否やSPTの効果に影響するため,歯周基本治療において重要であると考える.
Ⅰ.報告の背景と目的
水平性骨吸収に対する歯槽骨再生は難しく,臨床的歯冠歯根比を改善できない場合が多いため,咬合性外傷のリスクをいかに排除するかが歯周病治療の課題の1つであると考える.そこで今回,根分岐部病変を伴う広汎型慢性歯周炎患者に対して,歯周組織再生療法の前後において咬合性外傷のリスク管理として動揺歯の固定を行った結果,良好な経過が得られている症例について報告する.
Ⅱ.症例の概要
初診:2016年6月.57歳女性.
主訴:歯周病で抜歯と言われたので治療して欲しい.
現病歴:紹介元の歯科を月1回定期受診.2016年5月重度歯周炎で47抜歯.
歯の保存を強く希望し当院を受診.
既往歴,喫煙歴:なし
診断:広汎型慢性歯周炎ステージⅢグレードB 二次性咬合性外傷
歯周組織所見:主に臼歯部に歯肉腫脹を認めた.
PCR29.5%,BOP37.5%,4㎜以上PPD33.3%.16,23,26,27動揺度Ⅱ度.
X線所見:全顎的歯根1/3~1/2の水平性吸収,16,23,25,26,33,36垂直性骨吸収を認めた.
インプラント治療希望なし.
Ⅲ.治療計画
1.歯周基本治療2.再評価3.歯周外科治療4.再評価5.口腔機能回復治療6.再評価7.SPT
Ⅳ.治療経過
歯周基本治療,暫間固定(13-17,24-27,35-37),36遠心根ヘミセクション,48抜歯.再評価.13-15,17,24,34-37,44-46歯肉剥離搔爬術,16,23,25-27,33,歯周組織再生療法(EMD,ABG,DFDBA).再評価.14-17, 23-27陶材焼付鋳造連結冠,22陶材焼付鋳造冠,35-37陶材焼付鋳造冠ブリッジ,再評価,SPT.44-46ジルコニア連結冠(旧補綴物脱離のため再製).
Ⅴ.考察
上顎臼歯部はアタッチメントロスが大きく,16,26は根分岐部病変も存在し予後不良が予想された.良好なプラークコントロールの維持及び歯周外科治療前後の動揺歯の強固な固定により力のコントロールを行ったことが歯周組織安定に繋がったと考える.
Ⅵ.結論
根分岐部病変を伴う重度歯周炎患者に対して,モチベーションの向上と良好なプラークコントロールの維持,再生療法における適切な術式,材料の選択,さらに永久固定による咬合のコントロールが達成できれば,歯周組織の維持,安定が得られる可能性が示唆された.
2001年 広島大学歯学部卒業
日本臨床歯周病学会 認定医
歯周病は、Porphyromonas gingivalis などのグラム陰性嫌気性桿菌をはじめとする歯周病原細菌の感染に起因する疾患である。その予防・治療の基本がプラークコントロールであることは周知の事実である。その中でも機械的プラークコントロールが中心となるが、補助的なアプローチとして、抗菌薬などを用いた化学的プラークコントロールも日常臨床に根付いた治療法である。例えば、15員環マクロライド系抗菌薬であるアジスロマイシンを用いたFull mouth disinfection(FMD)は、歯周病患者の深い歯周ポケットから検出される菌群の中で病原性が高いred complexの減少、ひいては口腔内細菌叢の改善を目的として行われている。アジスロマイシン投薬に加えて、フルマウススケーリング・ルートプレーニングを行うことで、6mm以上の深い歯周ポケットのポケットデプス、クリニカルアタッチメントロスが優位に減少することが報告されている。FMDを成功に導くためには、歯科医師はもとより歯科衛生士の果たす役割はとても大きい。FMDによって外科治療を必要とする部位が減少し、患者負担を軽減することができるが、歯周組織再生療法などの歯周外科治療が必要となる場合もある。その後、インプラント治療、歯周―矯正治療などの口腔機能回復治療を行い、メインテナンス、サポーティブペリオドンタルセラピーへと移行する。このように、重度歯周病の治療においては、細菌感染症であるがゆえに、病因の除去を軸として歯科医師・衛生士チーム一丸となって包括的に治療に取り組むことが求められる。今回の講演では、FMDを軸とした包括的治療の実際を、症例を通じて供覧いただき、その治療法の有用性を述べたいと考える。
1997年 東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業
2005年 土岡歯科医院 開設
日本臨床歯周病学会指導医、日本歯周病学会指導医、東京医科歯科大学臨床教授
2013年 東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科卒業、土岡歯科医院 勤務
日本臨床歯周病学会 認定歯科衛生士、日本歯周病学会 認定歯科衛生士
中等度から重度歯周炎患者における治療では、歯の病的移動を生じていることが多いため、歯周治療のみならず、不正咬合や審美的な問題を解決するための包括的歯周治療の実践が必要となる場合があります。包括的歯周治療を成功させるためには、まず歯周基本治療(モチベーション、口腔清掃指導、スケーリング・ルートプレーニングなど)が大切となります。それを担う歯科衛生士の役割はとても重要であり、治療成功の鍵を握ると思われます。歯周基本治療後に残存した問題に対し、歯周外科治療を行うことは一般的ですが、不正咬合や審美的な問題を解決するために、歯周-矯正治療や咬合機能回復治療を希望する患者も増加しており、治療期間が長期に渡ります。そのため担当歯科衛生士は、歯周基本治療中に患者の既往や性格を把握し、歯周基本治療中からメインテナンスに至るまで、患者に寄り添い、歯科医師と共にモチベーションの維持を図ることも必須となります。歯科衛生士、歯科医師間のコミュニケーションを初診時の段階から密に取り、チームアプローチで治療を進めることが求められるのです。
今回、ご参加の歯科衛生士とともに、歯の病的移動について再考し、それを解決する歯周-矯正治療を行う際に注意すべき点を当医院で取り組んだ症例を交えながら、考えていきましょう。
1999年 昭和大学歯学部卒業
2004年 昭和大学歯学部歯科矯正学 大学院卒業
2006年〜 AQUA 日本橋 DENTAL CLINIC(現:東京日本橋AQUA歯科・矯正歯科 包括CLINIC) 開業
2008年〜 医療法人社団Teeth Alignment 理事長 就任
2008年〜2012年 理化学研究所脳科学総合センター 客員研究員
2009年〜2011年 ニューヨーク大学インプラント科CDE修了
2011年〜2017年 アサヒグループHD 和光堂 商品開発コンサルタント
2021年〜 包括的矯正歯科研究会を発足
昭和大学歯学部歯科矯正学教室 兼任講師
日本矯正歯科学会認定医
近年,歯周再生治療の成績は著しく向上し積極的に歯を保存する事への期待が高まって来ている. そこで, 天然歯を活かし機能的・審美的に大幅な改善が期待できる矯正治療にも大きな注目が集まっている.
一方, 矯正歯科界においてはAngle E.HとCalvin Caseによって引き起こされた“抜歯Vs非抜歯論争(1911年)以来, 歯槽骨基底部を超えた矯正治療の是非や矯正後の後戻りに大きく関与する犬歯幅径を維持すべきかどうかの議論に関しては矯正後の歯肉退縮の出現と併せては未だ解決されておらず大きな課題となっている.
また,矯正治療と歯周再生治療はそれぞれどのタイミングで行うべきか? 根管治療を行った歯はどのタイミングで矯正治療を開始すべきか? インプラント治療を行うタイミングは?つまり、それぞれの治療の特性や治癒のメカニズムを十分に理解する事が不可欠である. 無計画な包括的治療を行った場合には,逆にそれぞれの治療結果を著しく低下させてしまうリスクも現実に起こり得る.
しかし、矯正治療と歯周治療・歯内療法・補綴治療などをどのように組み合わせていくことが最適であるかに関しては,世界的にコンセンサスが得られていないばかりか学術論文すら十分に報告されていないのが現状である.
そこで,本講演では歯周矯正のエビデンスを整理するとともに演者が発表した矯正治療に最適化された歯周再生治療(O-PRO法)や近年筆者が提唱するペリオルソクリニカルガイドラインを提案するとともに歯周矯正の可能性と今後の課題にも関しても言及したい.
1995年 大阪大学歯学部卒業
同年 (医)貴和会歯科診療所入所
2008年 (医)貴和会理事 新大阪診療所院長
2019年 (医)貴和会理事長
日本臨床歯周病学会 指導医・歯周インプラント指導医
歯周治療を成功に導き、治療結果を長期に渡って安定させるために炎症と力のコントロールが不可欠であることは周知の事実である。炎症については、非外科治療や外科治療を適用して、歯周ポケットや骨欠損を改善したり、十分な付着歯肉を獲得して清掃しやすい歯周組織を構築することにより、制御することが可能であるが、力のコントロールについては、一定のプロトコールはあるものの、患者一人ひとりに調和した咬合状態を適切に付与する具体的な方法はほとんど報告されていない。2002年の日本補綴歯科学会の咬合異常の診療ガイドラインでは、安定した咬合を得るための3つの基準として、①咬頭嵌合位が顆頭安定位にあること、②咬頭嵌合位への閉口時に早期接触がなく、安定した咬合接触があること、③偏心滑走運動時に咬頭干渉がなく、適正なガイドがあることが挙げられているが、歯周病により支持組織を失った歯牙に対しては、より特別で厳密な対応が求められることが多い。また、歯周病患者において、欠損補綴のためにインプラント治療を適用する場合、動揺する残存天然歯と被圧変位量がほとんどないインプラントを共存させ、長期的に協働させることは容易ではない。天然歯の歯周治療を徹底し、炎症の改善を図った後に、残存する動揺度をコントロールするために、必要に応じて矯正治療により歯を整直させ、補綴装置を用いた連結固定を行って咀嚼機能の回復をめざす。この時、天然歯群の動揺度を生理的範囲に制御して、天然歯群とインプラントの間に被圧変位量の差がほとんど生じないように補綴設計を立案し、天然歯とインプラントが相互的に補完し合う咬合状態を確立することが重要である。インプラントを効果的に用いることにより、天然歯支台の補綴範囲を小さくし、天然歯の削合を減らす、または、避けることができるが、歯周病患者においては、インプラントよりも連結固定を兼ねたブリッジ修復の方が咬合面形態を適切に改変できることも相まって有効であることも多い。支持組織が少ない歯にとっては、側方力は大きな負担になり、動揺の増加や咬合の不安定化につながる恐れがあるため、補綴修復を行う際には、①臼歯部の固有咬合面を頬舌的に狭小化する、②咬合接触点を咬合面の中心付近に拮抗的に付与することにより、咬合力を歯軸方向に向ける、③前歯、犬歯誘導の角度を弱める、④臼歯部干渉が生じないようにスピーの湾曲を緩く、臼歯部咬頭傾斜角を小さく設定する、など、咬合面形態を改変して、側方力の軽減に努めることが重要である。本講演では、患者の顎運動を反映した咬合面形態の製作法について紹介しながら、患者一人ひとりに真に調和した咬合面形態の付与について考察したい。
10:00 ~ 10:15 | 咬合性外傷を伴う広汎型慢性歯周炎患者に対してクロスアーチスプリントを用いた長期メインテナンス症例 【白石 和美/医療法人 丸尾歯科】 |
10:15 ~ 10:30 | 前歯部に結合組織移植術と矯正治療を併用して審美障害を改善した症例 【金子 一平/医療法人 盡己会 カネコデンタルオフィス】 |
10:30 ~ 10:40 | 質疑応答 |
10:40 ~ 10:55 | 多数歯に骨縁下欠損を有する慢性歯周炎患者に対してエムドゲイン®を用いて歯周組織再生療法を行った症例 【山本 哲史/やまもと歯科】 |
10:55 ~ 11:10 | 広汎性慢性歯周炎患者に対して全顎的に歯周組織再生療法を行った症例 【原博章/医療法人 QOLファミール歯科】 |
11:10 ~ 11:20 | 質疑応答 |
11:35 ~ 12:35 | インプラント周囲疾患の新分類に基づく診断・治療およびリスクマネジメント 【岩野 義弘/岩野歯科クリニック】 |
13:20 ~ 14:20 | 歯周病患者に対するインプラント治療・その注意点について 【小野 晴彦/おの歯科医院】 |
14:35 ~ 16:25 | 歯周病患者におけるインプラント治療 【長谷川 嘉昭/長谷川歯科医院】 【川崎律子/長谷川歯科医院】 |
Ⅰ.報告の背景と目的
著しい骨吸収と咬合性外傷によるフレアーアウトを伴う広汎型慢性歯周炎患者に対して歯周治療を行い,コーヌスクローネによるクロスアーチスプリントで安定した均等咬合を獲得した後,19年間にわたり良好な経過が得られている長期メインテナンス症例について報告する.
Ⅱ.症例の概要
患者:44歳女性 非喫煙者 初診:2002年8月 主訴:上の歯がグラグラして噛みにくい. 現病歴:数年前から動揺が始まり他院にてSRPと暫間固定を行うが3日前より動揺が大きくなり咀嚼が困難になった.全身的既往歴:なし. 検査所見:PCR:67%,BOP陽性率:76.9%,PPD4mm以上:48.1%.全顎的に水平性骨吸収と咬合性外傷によるフレアーアウトを認めた.診断:広汎型慢性歯周炎(ステージⅣ グレードC) 二次性咬合性外傷
Ⅲ.治療計画
1.歯周基本治療 2.再評価3.歯周外科治療 4.再評価 5.口腔機能回復治療 6.再評価 7.メインテナンス(SPT)
Ⅳ.治療経過
歯周基本治療に対し患者の積極的な参加の結果,PCR:19.2%,BOP陽性率:19.3%,PPD4mm以上:32.7%となり,歯肉の炎症は軽減した.再評価の後,歯周外科治療(11~17,22~25,26,27,35,36,45,46)を行い,その後,12,38抜歯,27遠心根の分割抜歯を行った.初診から9ヵ月後の再評価時に,PCRは20%以下に維持していたが,フレアーアウトは改善されなかったためクロスアーチスプリントにて口腔機能回復治療を行った.2004年1月にSPTに移行後,良好な状態が続くが,1年半来院が中断したことにより歯周組織が悪化した.再度SRPを行い,現在SPTを行っている.
Ⅴ.考察
咬合性外傷を伴う慢性歯周炎患者に対してクロスアーチスプリントによる連結固定を行った後,長期的に良好な口腔内を保つためには,歯周基本治療時から歯科衛生士として患者教育と口腔衛生指導に重点を置いてPCRの向上を図ること,患者との信頼関係を確立することが重要であると考える.そして,SPT期間中も患者が来院中断することがないように,いかに患者のモチベーションを維持できるかが鍵となると考える.
Ⅵ.結論
全顎固定性ブリッジはメインテナンス中のトラブルへの対応が難しいと考えたため,コーヌスクローネによる患者可撤式クロスアーチスプリントを選択した結果,19年という長期にわたり良好な経過を得ることができたと考える.
Ⅰ.報告の背景と目的
審美領域における治療において,患者の満足を得るには歯冠修復と同様に軟組織のマネージメントが必要である.今回,前歯部に矯正治療,結合組織移植術を併用し,軟組織のマネージメントを行い,審美障害が改善した症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診, 診査, 検査所見等)
患者:35歳 女性 初診:2018年10月 主訴:前歯を綺麗にしたい
全身的既往歴:特記事項なし,非喫煙者.現病歴:前医にて口蓋側転位のあった12を抜歯してプロビジョナルレストレーションブリッジが装着されていた.前歯部の治療を希望して当院を受診した.口腔内所見:下顎前歯部に叢生を認めた.上顎に関しては歯頚線の不揃い,欠損部歯槽堤の陥凹を認めた.診断:11歯肉退縮, 12歯槽堤陥凹(Seibertの分類 Class I)
Ⅲ.治療計画
1.歯周基本治療2.再評価3.部分矯正,結合組織移植術4.再評価5.口腔機能回復治療6.再評価7.SPT
Ⅳ.治療経過
上顎においては歯頚線の不揃いおよび11の捻転の改善のために部分矯正を行った.下顎においては42の抜歯を行い叢生を改善した.また,12部位の歯槽堤が陥凹している部分はSeibertの欠損部顎堤の分類でClass Iと診断し,結合組織移植による歯槽堤増大術(パウチ法)を行った.プロビジョナルレストレーションを用いて基底面を圧接してオベイト形態を付与し,基底面形態を最終補綴装置に反映した.
Ⅴ.考察
PES (Pink Estetic Score)により軟組織を評価することは,近遠心の歯間乳頭の高さの不足や歯肉のボリューム不足が明確になり,審美障害の改善に有効であった. また, プロビジョナルレストレーションの形態を最終補綴装置に反映することにより良好な結果が得られたと考える.
Ⅵ.結論
前歯部の歯頚線を揃える部分矯正治療および12 抜歯後に生じた歯肉陥凹部に対する歯槽堤増大術を行うことにより,機能面と審美面の双方を改善することができた.
Ⅰ.報告の背景と目的
多数歯において骨縁下欠損を有する歯周炎患者に対して,炎症と力のコントロールを中心とした歯周基本治療を行った後に,歯周組織再生療法を含めた歯周外科治療を行い,良好な結果が得られた症例について報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診、診査、検査所見等)
患者:64歳女性 初診:2017年10月 主訴:下の奥歯が痛い
全身的既往歴:特記事項なし,非喫煙者 現病歴:他院にて37,47が保存不可能のため抜歯が必要との説明を受けた.歯周病の治療を希望して当院を受診した.
口腔内所見:局所に歯石の沈着,歯肉の発赤,腫脹を認め,左右側方運動時に臼歯部に咬合干渉を認めた.検査所見:BOP陽性率は46.4%,PPD4mm以上の部位は21.4%,PCR26.0%であった.エックス線所見:17,27,37,46,47に垂直性骨吸収を認めた.診断:広汎型慢性歯周炎(ステージⅢグレードC),二次性咬合性外傷
Ⅲ.治療計画
1.歯周基本治療 2.再評価 3.歯周外科治療 4.再評価 5.口腔機能回復治療(ナイトガードの作製)6.再評価 7.SPT
Ⅳ.治療経過
上記の歯周基本治療後に,17,37,47の垂直性骨吸収を伴う深い歯周ポケット残存部に対してエムドゲイン®(以下EMDと表記)と骨補填材を併用した歯周組織再生療法を行った.2020年4月の再評価において,BOP陽性率は2.3%,PPD4mm以上の部位は4.2%と改善した.再評価時のエックス線所見では,歯槽骨の不透過性の亢進を認めたため歯周組織は安定していると判断しSPTへ移行した.
Ⅴ.考察
本患者の歯周炎増悪因子として咬合性外傷が関与していたため,歯周基本治療において咬合調整や暫間被覆冠による歯の固定を行い咬合性外傷の軽減を図った.その後歯周外科へ移行した.口腔機能回復治療において,15,26,27,36,37,46,47に補綴装置による外側性固定を行ったことにより,初診から5年経過した現在も良好な経過を得ていると考える.
Ⅵ.結論
本患者に対して,二次性咬合性外傷の問題を排除した後,多数歯にわたる骨縁下欠損に対してEMDと骨補填材を併用した歯周組織再生療法を行い,良好な結果を得ることができた.今後も外傷力とセルフケアに注意しつつ,SPTを行っていく必要があると考える.
Ⅰ.緒言
重度歯周炎患者では,歯周基本治療後に垂直性骨吸収を伴う深い部位の歯周ポケットに対して,歯周外科治療が必要となることが多い.今回,歯周基本治療後に歯周組織再生療法を行い,良好な結果を得た症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要
患者:44歳,女性,非喫煙者
初診:2014年3月
主訴:下の前歯がぐらぐらしている
全身的既往歴:特記事項なし
現病歴:2006年2月に当院を受診したが,主訴部位のみの治療で終了していた.その後,下顎前歯の動揺が大きくなったため,再び当院を受診した.
診査所見:PCR:68.8%,PPD 4 mm 以上:84.5%,BOP:100%,PISA:3859.5mm2,すべての歯においてⅠ~Ⅲ度の動揺があり,エックス線写真では,21・27・41・43・46に重度,16・14・13・12・11・22・23・37・33・32・31・42・47に中等度の骨吸収を認めた.
診断:広汎型慢性歯周炎(ステージⅢ グレードC)
Ⅲ.治療計画
① 主訴の改善(32・31・41・42・43暫間固定),②歯周基本治療(患者教育,OHI,SC・SRP,21抜歯)
③再評価,④歯周外科治療,⑤再評価,⑥SPT
Ⅳ.治療経過
歯周基本治療において徹底したTBIとSC・SRPを行った.患者は今回,歯を喪失したくないという危機感を持って治療に臨んだためPCRが向上し,口腔内環境は大きく改善した.BOP:11.7%,PISA:162.3mm2と歯周組織が安定したので,患者の強い希望があり歯周外科治療は行わずにSPTに移行した. SPTを継続していたが,歯周病進行による歯の喪失を予防するためにも垂直性骨吸収を伴う深い歯周ポケットが残存している部位に,再度歯周外科治療を提案し同意を得たため,全顎的に歯周組織再生療法を行った.歯周外科治療後の再評価の結果,PPD, BOP, PCR, PISA等は低値を示したため,再度SPTへ移行した.
Ⅴ.考察およびまとめ
本症例では垂直性骨吸収を伴う深い歯周ポケットが残存している部位に対して,FGF-2を使用した歯周組織再生療法を行い歯周組織は安定している.今後は歯の長期保存のためにSPTでfollow-upすることが重要であると考える.
1999年 新潟大学歯学部卒業、日本大学歯学部歯周病学講座入局
2012年 博士(歯学)取得、岩野歯科クリニック開業
日本歯周病学会 指導医 歯周病専門医
日本口腔インプラント学会 代議員 指導医 専門医
日本臨床歯周病学会 認定医
近年インプラント治療は,材料学的進歩と臨床術式の向上により,その適応症は大きく拡大してきました.歯周炎による歯の喪失は,咬合崩壊,顎堤の吸収や角化粘膜の委縮,審美障害等,種々の問題を引き起こします.適切なインプラント治療がもたらす強固なバーティカルストップは,咬合の安定と残存歯の保護を可能にするため,顎堤や軟組織にもたらされた種々の困難を克服したうえでも,欠損補綴の重要な手段の一つとして,臨床の場で広く応用されています.
歯周病患者においてインプラント治療を選択する場合,適切な検査診断,治療計画の立案が肝要となります.無論インプラント治療の有無に限らず,治療計画立案にあたり最も重要視されるべき点は,リスクマネジメントに基づく良好な長期的予後でしょう.そして特にインプラント治療を計画する場合には,インプラント周囲疾患,なかでも未だ確実な治療法の存在しないインプラント周囲炎の発症に留意しなければなりません.
歯周病は,Porphyromonas gingivalis,Tannerella forsythia,Treponema denticolaに代表される歯周病原細菌の感染による慢性炎症性疾患であり,歯周ポケット内,舌あるいは粘膜に定着,増殖した細菌は,唾液を介してインプラント周囲にも到達します.発症の原因は未だ明らかではありませんが,歯周炎の既往や進行性の歯周炎はインプラント周囲炎発症のリスクファクターであることが,多くの疫学研究により示されています。インプラント周囲炎は最新のメタ分析の結果,患者レベルで18.5%,インプラントレベルで12.8%に発症すると報告されており,歯周病患者ではその確率が高まることも明らかとされています.そのため歯周病患者に対してインプラント治療を行う場合、将来的な感染のリスクを考慮したうえでの介入が必要となります.
2017年,シカゴで行われましたアメリカ歯周病学会・ヨーロッパ歯周病連盟共催によるワールドワークショップにおいて,歯周病の新分類について議論され,2018年,レビューおよびコンセンサスレポートとしてJournal of Periodontology ならびにJournal of Clinical Periodontology に同時掲載されましたが,そこでは併せて,インプラント周囲疾患についての定義づけが初めてなされました.特に重要なのが,健康なインプラント周囲組織が明確に定義されたこと,そして感染に伴う炎症性疾患であるインプラント周囲粘膜炎とインプラント周囲炎,それ以外の原因によって生ずるインプラント周囲硬・軟組織欠損とをそれぞれ個別に定義づけしていることです.なかでもインプラント周囲炎は,インプラント上部補綴装置装着1年後を基準として,プロービング時の出血および/または排膿を伴うインプラント周囲軟組織における視診での炎症性変化を認め,プロービングポケット深さが増加し,進行性の骨吸収が認められることと定義されており,まずはインプラント上部補綴装置装着1年後にきちんと健康なインプラント周囲組織であるとの評価を行ったうえで,メインテナンス中にもプロービングを含めた検査にて変化をとらえていく必要があります.また最近は他院で治療されたインプラントのトラブルも増えてきており,インプラント周囲炎に罹患した患者さんが自院へ来院される機会も多くなった来ています.その場合にはベースライン時のデータが存在しないため,インプラント周囲炎の定義は,エックス線的な3mm以上の骨吸収もしくはそれとともに大量の出血を伴う6mm以上のプロービングポケット深さが存在すること,となります.そしてこれらの新しい定義を基に的確に診断を行い,早期に最もふさわしい治療を行う必要があると考えます.
そこで本講演では,文献の披歴と症例の供覧を行い,インプラント周囲疾患の新分類を基に,インプラント周囲粘膜炎,インプラント周囲炎についての診断,治療の実際を紹介するとともに,リスクマネジメントについて皆様と一緒に考えてみたいと思います.
1994年 広島大学歯学部卒業
1994年 広島大学付属病院勤務 (第一口腔外科所属)医員
1997年 横山歯科医院 勤務
2000年 おの歯科医院勤務〜現在に至る
日本臨床歯周病学会 認定医
アメリカ歯周病学会
元東京医科歯科大学臨床講師、元東京歯科大学臨床講師
JIADS理事
近年, 歯を失った部位へのインプラント補綴は, 欠損補綴の有力なオプションとして益々認知されてきている. 一方、インプラント治療に伴う合併症も度々メディアに取り上げられるなど問題となっており, 中でもインプラント周囲炎は最多の合併症とされている. 歯周病への罹患がインプラント周囲炎のリスクファクターとなっていることは周知の事実であり, 歯周病患者に対するインプラント治療には注意すべきポイントがいくつかある. 今回は特に治療後インプラント周囲炎を引き起こさないという観点から, 治療計画, 埋入手術, 補綴時などそれぞれの時期において, 臨床例を提示し考察してみたい.
先ず治療計画の段階では, 残存歯の歯周炎をどのようにコントロールしていくか, 保存すべき歯, 保存が難しいと考えられる歯, 治療してみないとなんとも言えない歯を分けて, 長期的な観点で計画を立案する. その際に考慮すべき主なものとして, 患者の年齢, 性格, 歯周病の分類におけるGrade等が挙げられる. 理想的にはインプラントを埋入する時点で全ての歯のデブライドメントが終わっていることが望ましいが, 治療のタイミングは必ずしもそうはならないことも多い. 少なくとも歯周基本治療が終わり, 患者のセルフケアの向上が図られ, 軟組織の炎症がコントロールされている時点を目標とする.
埋入手術の段階では, 3次元的な埋入位置のコントロールが最も重要である. 近遠心, 頬舌的には補綴主導の位置をとり, 埋入深度は骨縁, もしくは軟組織が3mm以下の場合はその分深めの埋入位置とする. さらに周囲に最低2mmの骨幅を確保するため, 骨量の不足した部分ではG B R等で骨の増大を図る.
二次手術, 補綴処置においては, インプラント周囲に角化粘膜を確保し, 清掃性の高いエマージェンス・プロファイル, 補綴形態を目指す.
動的治療期間において, 以上のような項目を達成し, その上で定期的なメインテナンスに確実に応じてもらうよう, 患者のモチベーション維持に努める. メインテナンス期には, インプラント周囲粘膜炎の状態を見逃さず, 早めにセルフケアの徹底と非外科的治療で対応することが重要と考える.
周病の新分類の発表された2017年のワークショップにおいても, インプラント周囲炎のリスクファクターとして, 歯周病の既往, プラークコントロールの不良, メインテナンス欠如との相関が強く述べられている. このことからも患者のセルフケア向上を含めた歯周基本治療を徹底すること, 定期的なメインテナンスへの理解を得て来院していただくことが, インプラントを長期的に良い状態で維持する上でも重要であると考えている.
日本大学歯学部卒業
日本歯周病学会専門医
日本臨床歯周病学会指導医
日本臨床歯周病学会歯周インプラント指導医
東京医科歯科大学非常勤講師
長谷川歯科医院勤務
歯友会歯科技術専門学校(現 明倫短期大学)卒
日本歯周病学会認定歯科衛生士
日本臨床歯周病学会指導歯科衛生士
日本顎咬合学会指導歯科衛生士
日本口腔インプラント学会認定インプラント専門歯科衛生士
戦術中心のインプラント治療は、今や究極の域に到達している感があるが本来歯周病患者の重要な診断に関しては、議論される機会があまりにも少ない。戦略診断とは、すなわち臨床検査値から導かれるものであり、各学会が推奨するステージ・グレード診断のことではない。病因検査から病態を把握し、インプラント治療を施術する際の診断基準を導くことを意味するものである。歯周基本治療はすべての治療において優先される医療行為であるが、従来の病態検査から病因検査を追加することで、その効果を明視化できる利点を活用し、インプラント治療が必要な歯周病患者に有益な情報提供が可能となる。
具体的には炎症徴候に高感度CRP、感染情報にリアルタイムPCRやシーケンシング検査を取り入れることで、インプラント埋入時期やSPT時における口腔内環境を把握する一助になると考えている。またCBCT等のデジタルデータを活用したガイドサージェリーは、残存骨量が減少した歯周病患者には特に有効なツールにもなるであろう。
いずれにせよ、歯周病患者における歯周病原細菌叢の改善なくしてインプラント治療の成功はあり得ない。そのための臨床検査の活用を注意喚起していきたいと常々思っている。
いまだインプラント周囲炎に罹患する患者の共通項を、私の稚拙な臨床では掌握できず無念ではあるが、概ね良好な経過を辿っている症例から、本講演ではインプラント治療を行う前の自院の歯周診断からの実際の取り組みを歯科医・歯科衛生士に分けて説明し歯周インプラント治療のあり方を詳細に解説してみたい。
10:00 ~ 10:20 | rhFGF-2の小規模歯周骨内欠損に及ぼす臨床効果と評価方法 【橋本鮎美/AICデンタルクリニック】 |
10:20 ~ 10:40 | 多数の骨縁下欠損と咬合性外傷を有する歯周炎患者に対して,歯周組織再生療法を用いて良好な結果が得られた症例 【畑中乾志/こうなんファミリィ歯科】 |
10:40 ~ 11:00 | 歯周炎ステージⅢグレードCの患者に対し臨床検査を用いながらアプローチした一症例 【伊達奏美/医療法人祐真会 はやし歯科クリニック】 |
11:00 ~ 11:20 | 外国人に歯周病治療の重要性を伝える事の難しさを痛感した症例 【尾原利菜子/医療法人 きむら歯科医院】 |
11:30 ~ 13:10 | 歯周組織再建/再生療法を科学的に検証する-真のゴールを目指して- 【白方良典/鹿児島大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野】 |
14:00 ~ 14:30 | 歯周組織再生療法において、歯科衛生士が担う役割 【由良典子/大川歯科医院・関西支部】 |
14:30 ~ 15:00 | 歯周基本治療を通して、どのようなタイミングで再生療法を行うか 【斎田寛之/斉田歯科医院・関東支部】 |
15:10 ~ 15:40 | 再生療法のsurgical technique 【奈良嘉峰/茅ヶ崎駅前 奈良デンタルクリニック・関東支部】 |
15:40 ~ 16:10 | 歯周再生療法と矯正治療 【工藤 球/プリズムタワー工藤歯科・関東支部】 |
16:20 ~ 16:35 | ディスカッション 【テスト/】 |
略歴
歯周病は、歯周組織への歯周病原細菌の感染に起因する細菌感染症であり、歯周ポケット底部に位置する接合上皮は最前線 の砦として戦略的に極めて重要な部位と言えます。そこで、上皮細胞間接着メカニズムと分泌される歯肉溝滲出液、臨床的 診断に応用できるバイオマーカーを解説したいと思います。また、口腔内への病原細菌の付着や定着・バイオフィルムの形 成の抑制に有効な口腔ケア製品についても紹介したいと考えております。
インプラント治療の需要は増加傾向にあるが、一方でインプラント周囲炎などの高い罹患率を示すデータも多く示されている ものの、未だこれに対する治療コンセンサスは得られておりません。本講演ではインプラント治療の成功に必要な審美性、機 能性、長期予知性を得るためのエビデンスを実際のケースを通じて供覧、議論する時間としたいと思います。
とその使用法を通して、ウィズコロナの日常歯科診療での感染予防に役立つ情報についてもお届けしたいと思います。活 動を止める(ロックダウンする)のではなく、「持続的な活動を行うために、いかに感染を防げばいいか」を考え、明日 からの診療に少しでもお役に立つことができれば幸いです。
インプラント治療の需要は増加傾向にあるが、一方でインプラント周囲炎などの高い罹患率を示すデータも多く示されている ものの、未だこれに対する治療コンセンサスは得られておりません。本講演ではインプラント治療の成功に必要な審美性、機 能性、長期予知性を得るためのエビデンスを実際のケースを通じて供覧、議論する時間としたいと思います。
とその使用法を通して、ウィズコロナの日常歯科診療での感染予防に役立つ情報についてもお届けしたいと思います。活 動を止める(ロックダウンする)のではなく、「持続的な活動を行うために、いかに感染を防げばいいか」を考え、明日 からの診療に少しでもお役に立つことができれば幸いです。
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とその使用法を通して、ウィズコロナの日常歯科診療での感染予防に役立つ情報についてもお届けしたいと思います。活 動を止める(ロックダウンする)のではなく、「持続的な活動を行うために、いかに感染を防げばいいか」を考え、明日 からの診療に少しでもお役に立つことができれば幸いです。
とその使用法を通して、ウィズコロナの日常歯科診療での感染予防に役立つ情報についてもお届けしたいと思います。活 動を止める(ロックダウンする)のではなく、「持続的な活動を行うために、いかに感染を防げばいいか」を考え、明日 からの診療に少しでもお役に立つことができれば幸いです。
10:00 ~ 10:20 | 外国人に歯周病治療の重要性を伝える事の難しさを痛感した症例 【尾原利菜子/医療法人 きむら歯科医院】 【多田安利/大伸社】 |
Ⅰ.報告の背景と目的
近年,国内には多くの外国人就労者が在住しており,生活背景の異なる外国人が患者として来院することも珍しくない.治療を行う上で患者に現在の状態を理解してもらい,口腔内に関心を持ってもらうことは重要である.しかしながら,言葉の障壁があり患者と良好なコミュニケーションを取ることが難しい場面に遭遇することもある.今回,外国人の患者に対して,説明時に視覚的要素を取り入れながら歯周治療を行い,良好な結果を得ている症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診、診査、検査所見等)
初診:2021年5月,患者:28歳,男性:ベトナム人.主訴:ブラッシング時に出血する.診査所見:全顎的に辺縁歯肉の発赤,腫脹を,また多量の歯肉縁上・縁下歯石の沈着を認めた.初診時では4㎜以上のPPD(歯周ポケット)56.2%,BOP 95.8%,PCR 100%であった.診断:広汎型慢性歯周炎(ステージⅡグレードB)
Ⅲ.治療計画
1.簡易的細菌検査2.歯周基本治療(患者教育,OHI,歯肉縁上スケーリング,SRP)3.再評価4.矯正治療5.SPT
Ⅳ.治療経過
来院当初は歯周治療を行うにあたり十分なコミュニケーションを取ることが難しかったが,理解しやすいように視覚的媒体を用い,試行錯誤しながら患者教育を行った. 患者は歯周治療を行うことの重要性を理解した.2021年11月の再評価では4㎜以上のPPD(歯周ポケット)7.3%,BOP 25.5%,PCR 31.3%となり,歯周組織の改善を認めたためSPTへ移行した.矯正治療は下顎前歯部に叢生を認めたため提案したが患者が希望されなかったため行っていない.
Ⅴ.考察
患者は口腔内に対する関心が低く,セルフケアが不十分であったため,歯周炎に罹患したと考える.治療を行うにあたり言葉の障壁は少なくなかったが,いかに口腔内に関心を持ってもらうかが重要であると考え,歯周病の説明媒体として模型や本等を積極的に用いたことがセルフケアの改善につながったと考える.
Ⅵ.結論
口頭による説明のみならず絵や写真等の視覚的媒体を用いることで歯周治療の理解が得られた.結果,患者の口腔内環境の改善につながったと考える.今後も患者のセルフケアの確立とともにSPTにより,改善された口腔内の状態を維持できるように努めたい.
10:00 ~ 10:15 | 外国人の患者に歯周病治療の重要性を伝える事の難しさを痛感した症例 【尾原 利菜子/きむら歯科医院】 |
10:15 ~ 10:30 | rhFGF-2の小規模歯周骨内欠損に及ぼす臨床効果と評価方法 【橋本 鮎美/AICデンタルクリニック】 |
10:30 ~ 10:40 | 質疑応答 【尾原 利菜子/きむら歯科医院】 【橋本 鮎美/AICデンタルクリニック】 |
10:40 ~ 10:55 | ステージⅢグレードCの歯周炎患者に対し臨床検査を用いながらアプローチした一症例 【伊達 奏美/医療法人祐真会 はやし歯科クリニック】 |
10:55 ~ 11:10 | 多数の骨縁下欠損と咬合性外傷を有する歯周炎患者に対して歯周組織再生療法を用いて良好な結果が得られた症例 【畑中 乾志/こうなんファミリィ歯科】 |
11:10 ~ 11:20 | 質疑応答 【伊達 奏美/医療法人祐真会 はやし歯科クリニック】 【畑中 乾志/こうなんファミリィ歯科】 |
11:35 ~ 13:15 | 歯周組織再建/再生療法を科学的に検証する ~真のゴールを目指して~ 【白方 良典/鹿児島大学大学院医歯学総合研究科歯周病学分野】 |
14:05 ~ 14:35 | 歯周組織再生療法において、歯科衛生士が担う役割 【由良 典子/大川歯科医院・関西支部】 |
14:35 ~ 15:05 | 歯周基本治療からはじまる再生療法 【斎田 寛之/斉田歯科医院・関東支部】 |
15:20 ~ 15:50 | 再生療法はスペースメインテナンスが鍵! 【奈良 嘉峰/茅ヶ崎駅前 奈良デンタルクリニック・関東支部】 |
15:50 ~ 16:20 | 歯周再生療法と矯正治療 【工藤 求/プリズムタワー工藤歯科・関東支部】 |
16:20 ~ 16:35 | ディスカッション(シンポジウム) |
Ⅰ.報告の背景と目的
近年,国内には多くの外国人就労者が在住しており,生活背景の異なる外国人が患者として来院することも珍しくない.治療を行う上で患者に現在の状態を理解してもらい,口腔内に関心を持ってもらうことは重要である.しかしながら,言葉の障壁があり患者と良好なコミュニケーションを取ることが難しい場面に遭遇することもある.今回,外国人の患者に対して,説明時に視覚的要素を取り入れながら歯周治療を行い,良好な結果を得ている症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診、診査、検査所見等)
初診:2021年5月,患者:28歳,男性:ベトナム人.主訴:ブラッシング時に出血する.診査所見:全顎的に辺縁歯肉の発赤,腫脹を,また多量の歯肉縁上・縁下歯石の沈着を認めた.初診時では4㎜以上のPPD56.2%,BOP 95.8%,PCR 100%であった.診断:広汎型慢性歯周炎(ステージⅡグレードB)
Ⅲ.治療計画
1.簡易的細菌検査2.歯周基本治療(患者教育,OHI,歯肉縁上スケーリング,SRP)3.再評価4.矯正治療5.SPT
Ⅳ.治療経過
来院当初は歯周治療を行うにあたり十分なコミュニケーションを取ることが難しかったが,理解しやすいように視覚的媒体を用い,試行錯誤しながら患者教育を行った. 患者は歯周治療を行うことの重要性を理解した.2021年11月の再評価では4㎜以上のPPD7.3%,BOP 25.5%,PCR 31.3%となり,歯周組織の改善を認めたためSPTへ移行した.下顎前歯部に叢生を認めたため矯正治療を提案したが,患者が希望しなかったため行っていない.
Ⅴ.考察
患者は口腔内に対する関心が低く,セルフケアが不十分であったため,歯周炎に罹患したと考える.治療を行うにあたり言葉の障壁は少なくなかったが,いかに口腔内に関心を持ってもらうかが重要であると考え,歯周病の説明媒体として模型や本等を積極的に用いたことがセルフケアの改善につながったと考える.
Ⅵ.結論
口頭による説明のみならず絵や写真等の視覚的媒体を用いることで歯周治療の理解が得られた.結果,患者の口腔内環境の改善につながったと考える.今後も患者のセルフケアの確立とともにSPTにより,改善された口腔内の状態を維持できるように努めたい.
Ⅰ.報告の背景と目的
歯周組織再生療法の結果を適性に評価することは容易ではない.今回提示するrhFGF-2を使用した再生療法の症例を通じて,小規模歯周骨内欠損に及ぼす臨床効果とその結果の評価方法,特に規格デンタルエックス線画像の有効性について検討を行ったので報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診、診査、検査所見等)
小規模歯周骨内欠損(歯周炎のステージⅠ,Clinical Attachment Loss≦1-2mm,デンタルエックス線画像上の骨吸収が歯根長の1/3未満)に対しrhFGF-2を単独使用し,歯周組織再生療法を行った4症例を提示する.術式は,全層弁にて粘膜骨膜弁を形成し,肉芽組織の除去ならびに根面の機械的なデブライドメントに加え,24%EDTAによる化学的根面処理を2分間行い,骨内欠損にrhFGF-2を塗布し緊密に縫合した.術後18ヵ月から41ヵ月の経過を歯周組織検査ならびに規格デンタルエックス線画像により評価した.
Ⅲ.得られた知見
小規模歯周骨内欠損に対し,rhFGF-2は臨床的な効果を示した.プロービング時の深さ(PD)及びプロービング時の出血(BOP)の改善,加えてレントゲン的に不透過性の亢進を認めた.さらに,デンタルエックス線画像の規格化により,小規模歯周骨内欠損の改善を適性に評価することができた.
Ⅳ.考察
サイトカイン療法のひとつであるrhFGF-2を用いた歯周組織再生療法は,小規模歯周骨内欠損に対し有効であった.歯周組織再生療法の評価では,プロービングは誤差が生じやすいと報告されている.評価方法として規格デンタルエックス線画像を用いることで,小さな歯周組織の変化を見逃すことなく,適正に評価できた.
Ⅴ.結論
小規模歯周骨内欠損に対し,rhFGF-2は有効であり,規格デンタルエックス線画像による歯周組織再生療法の評価は,より高い信頼性と妥当性を有するものと考える.
Ⅰ.報告の背景と目的
歯周治療を成功へ導くには,患者の協力度と安定した歯列咬合の獲得が重要な鍵となる.今回,様々な検査結果や情報を提示することで患者のモチベーションを維持しながら治療を行った症例を報告する.
Ⅱ.症例の概要
患者:50才,男性,喫煙者
初診日:2019年10月 主訴:右上の奥歯が痛い 現病歴:当院にて2006年に歯周基本治療まで終了したが,メインテナンスは中断した.右上大臼歯部が夜も寝れない程痛むとのことで2019年10月に再来院した.
診断名:広汎型慢性歯周炎(ステージⅢ グレードC)
Ⅲ.治療計画
①主訴に対する治療 ②歯周基本治療(歯周組織検査,歯周病細菌検査,高感度CRP検査)③再評価 ④歯周組織再生療法 ⑤歯列矯正 ⑥再評価 ⑦口腔機能回復治療 ⑧再評価 ⑨SPT
Ⅳ.治療経過
主訴に対して18の抜歯処置を行った後,歯周基本治療を開始した.
口腔内スキャナー(IOS)とマイクロスコープを用いて,咬合状態やプラークの付着と炎症の状況を視覚的に説明した.残存歯を保存するためには禁煙は必須であること,細菌検査と高感度CRP測定の臨床検査を行うことにより,歯周炎が患者自身の体に及ぼす影響を把握することは重要であると説明した.
SRP後に高感度CRP値は低減したため,患者のモチベーションは向上し,禁煙に成功した.歯周基本治療を患者と協力して行うことができた.歯周ポケットが残存した16〜11, 24〜27には歯周組織再生療法を行い,現在は歯列矯正を行っている.今後は,再評価の後,歯周組織が安定していれば口腔機能回復治療を行い,SPTへ移行する予定である.
Ⅴ.考察
本症例では,様々な臨床検査結果を患者に詳しく説明し理解を得たこと,患者の歯を残したいという想いが強かったことにより治療が奏功したと考える.
本患者において,ブラケット矯正ではなくマウスピース矯正を行うことは,口腔内清掃状態を維持すること,歯周炎の悪化を防ぐことが期待できるため,有用であると考える.
Ⅵ.結論
患者へのアプローチとして,臨床検査を用いることでコンプライアンスが得られ,自分の歯を大切にする意義を患者と共有することが可能となり,歯周治療まで行うことができた. 本患者は現在矯正治療中であるが,今後もモチベーションを持続させながら,SPTまでサポートできるように努めたい.
Ⅰ.報告の背景と目的
咬合性外傷を伴う骨縁下欠損がある場合,歯周組織破壊が助長され歯の喪失につながる可能性がある.今回,多数の骨縁下欠損と咬合性外傷を有する歯周炎患者に対して,炎症と力のコントロールを中心とした歯周基本治療を行った後に,歯周組織再生療法を行い良好な結果が得られた症例について報告する.
Ⅱ.症例の概要(初診、診査、検査所見等)
患者:35歳 女性 初診:2018年10月 主訴:クリーニング希望
全身的既往歴:特記事項なし,非喫煙者 歯科的既往歴:夜間のブラキシズムあり
口腔内所見:プラークコントロールは比較的良好であったが,局所に歯肉の発赤および腫脹を認め,左右側方運動時に臼歯部に咬合干渉を認めた. 検査所見: BOP陽性率は33.3 %,PPD4 mm以上の部位は28 %,PCR 25.7%であったエックス線所見: 17,16,23,26,27,36,35,42,45,46に垂直性骨欠損を認め,また,46には根分岐部病変を認めた. 診断:限局型慢性歯周炎 (ステージⅢ グレードC),二次性咬合性外傷
Ⅲ.治療計画
① 1. 歯周基本治療(咬合調整,ナイトガード作製,口腔衛生指導,スケーリング・ルートプレーニング)2. 再評価 3. 歯周外科治療(歯周組織再生療法)4. 再評価 5. SPT
Ⅳ.治療経過
上記の歯周基本治療後に,垂直的性欠損部に対してEMDと骨補填材(Bio-Oss)を併用した歯周組織再生療法を行った.2020年3月の再評価において,BOP陽性率は6.8 %,PPD4 mm以上の部位は8.9 %と改善した.再評価時のエックス線所見では骨の不透過性の亢進を認めたため,歯周組織は安定していると判断し,SPTへ移行した.
Ⅴ.考察
本患者の歯周炎悪化の原因として咬合性外傷の関与が考えられた.歯周基本治療において咬合調整やナイトガード装着を行い咬合性外傷の軽減を図ったため,垂直性骨欠損部に対して行った歯周組織再生療法は良好な経過を得ていると考える.
Ⅵ.結論
二次性咬合性外傷の問題を排除することにより,多数の骨縁下欠損に対してEMDを使用した歯周組織再生療法は良好な結果を得ることができた。今後も咬合性外傷に注意してSPTを行っていく必要があると考える.
1998年 鹿児島大学歯学部卒業
2002年 東京医科歯科大学大学院修了
2003年 鹿児島大学歯学部 助手
2007年 鹿児島大学歯学部 助教
2011年 鹿児島大学成人系歯科センター 講師
2011-2012年 ベルン大学歯学部 客員研究員
2015年- 鹿児島大学歯学部 准教授
2021年- 東京医科歯科大学非常勤講師
資格
日本歯周病学会歯周病専門医/指導医/評議員
Periodontology 2000, Clinical Oral Investigations, BMC Oral Health (Editorial Board)
中等度・重度歯周炎に罹患した天然歯の保存や審美性の向上を目的とする歯周組織再建/再生療法の成功は歯周治療の長期予後の向上に寄与するだけでなく,咬合崩壊や歯列不正を伴う患者の全顎的な口腔機能の回復のため,補綴治療や矯正治療と併せて今日の包括的歯科治療においてもその意義は極めて大きいものと考えられる.
実際,この数十年の間に重度の歯周組織破壊を伴う垂直性骨欠損や根分岐部病変に対して,多種多様な骨移植材を用いた骨移植術,根面処理,バリアメンブレンを用いたGTR法, エムドゲインⓇゲルやリグロスⓇに代表される生理活性物質の単独/併用療法が広く用いられており,近年はさらに歯肉退縮に対する歯周形成外科治療にも新規生体材料や生理活性物質の応用が試みられている.
このように現在,歯周組織再建/再生療法に用いられる治療オプションは非常に多岐にわたり国内外,保険適応/非適応といった臨床現場での制限はあるものの,歯周治療学上はその選択の幅が益々広がっている.しかしそのオプションの多さから現在,最適なアプローチの選択がより困難になり臨床成績や予後にばらつきが認められるという新たな問題が生じている.またこれらのアプローチを歯周組織「再生」療法と称し行っているものの,組織学的な「真の再生」の獲得が証明されているものは限られており,必ずしも単独療法に比較して併用療法に付加的効果があるとも言えない.その一方でマイクロスコープの活用やフラップデザインの改良も進み確実なデブライドメントや血餅の保持,創面の保護,創傷治癒の安定を最大限に図ることで再生材料を用いずとも良好な治癒や臨床成果が得られるとの報告もある.さらに歯周基本治療により炎症のコントロールを始めとする原因除去を徹底することで臨床的に良好な治癒と予後を認めることもあり,術中術後の管理やcost-effectivenessの観点からも歯周組織再生療法導入の見極めは十分に吟味する必要があるかもしれない.
こうした治療結果におけるデイスクレパンシーの解消は歯周疾患が感染症であるばかりでなく多因子性疾患で,さらに治療目標が単一組織ではなく,歯根セメント質-歯根膜-歯槽骨といった硬/軟/硬組織からなる組織複合体(付着器官)の再生と長期維持である以上,難題であることに変わりはない.しかし対象患者や欠損の選択に始まる的確な診断や外科手技の習得はもちろん,各アプローチにおける生物学的バックグラウンドや客観的選択基準を理解し,さらにその臨床結果に対する科学的検証を繰り返し,エビデンスと臨床経験を融合・昇華することで光明を見いだせるかもしれない.
本講演では,基礎研究・前臨床研究データに基づく最新のエビデンスと臨床例を含めて歯周組織再建/再生療法を俯瞰すると共に,真の歯周組織再生と天然歯の保存,さらに健康寿命の延伸に少しでも近づけるよう,皆様とデスカッションさせて頂ければと思います
2002年 兵庫歯科学院専門学校 卒業
2002年 一般開業医 勤務
2012年 大川歯科医院 勤務
資格
日本歯周病学会 認定歯科衛生士
日本臨床歯周病学会 指導歯科衛生士
2016年12月にリグロス®が発売・保険収載されて以来, 歯科医療従事者と患者双方にて歯周組織再生療法の認知度が上がり, より身近に感じて頂ける処置となったように思います. 現在では「再生療法を受けたい」とご自分で歯周治療を勉強されて来院される患者さんも, しばしばいらっしゃるようになりました. また, その歯周組織再生療法も2001年にマイクロサージェリーが報告されて以降, 低侵襲への追求が進み現在では歯間乳頭部の完全な保存を実現するにまで至りました.
専門誌を華々しく飾る話題の一方で, 私個人の日常臨床においては, これまでにない新たな難題に直面することが多くなりました.
一つは, 患者さんそれぞれが来院前に抱かれる歯周治療のイメージが, 多様になってきたことです. これまでは, そもそも歯周病を理解されてない患者さんが大多数でしたが, 最近では予めインターネットなどで下調べをされる方も増えてきたため, ”手術を受けたら, ハイ!おしまい!!” といったお手軽なものから, ”全身麻酔を伴った医療ドラマさながらの大手術”まで, 様々なストーリーを作ってお越しになる方がちらほら見られます. もう一つは, 術式の変化に伴う施術やアシスタント方法の変化です. より低侵襲に, より短時間に治療を進めるために, 組織の扱いはますます繊細になり術野はますます狭くなってきています. 自身の技術の見直しはもちろんのこと, 知識の向上や担当歯科医師との打ち合わせの必要性をより強く感じています.
そのような中で, 私は”患者・歯科医師・歯科衛生士が同じ治療ゴールを目指す”ことを心がけながら, 診査診断・歯周基本治療・再生療法・SPTの各治療ステージにおいて, 診療に当たっています.
まず診査診断では, そもそもの検査の必要性を患者さん自身が理解しているかに注意しています. レントゲン写真も複数枚撮影され, 歯周組織検査ではチクチクと歯茎を刺激され, 私たちが日常的に行なっている検査は, 思っているよりも患者さんに負担をかけていると思います. 検査の目的や結果の理解が追いついていなければ, モチベーションも低下し, SPTにたどり着くことなど叶いません. 次に, 歯周基本治療では”歯周病とは何か?”, ”歯周治療は何をするのか?”, ”セルフケアの目的は?”などを小分けにしながら患者さんに伝えています. 患者さん毎に理解の速さや度合いは違い, キャパシティーオーバーしないよう注意します. また、モチベーションが高すぎるのも, オーバーブラッシングを生じ, 歯周基本治療の目的の一つである”外科処置に耐えうる歯肉”を実現できません. もちろん, 残存しているセメント質や歯根膜へ配慮しつつ, 歯肉退縮に注意したスケーリング・ルートプレーニングの実践は, 最も注意すべきポイントと考えています. 手術時では, 処置のより円滑な進行のために, 術式の打ち合わせを行い, 手順, 注意すべき項目などの確認を行います. そのためには, 日頃からの歯科医師とのコミュニケーションが大切だと実感しています. また, 術後の患者さんへの配慮も欠かせません. 術直後, 患者さんは疲労感や痛み, 創部の扱い方など多くの不安を感じます. 術後の達成感を抑えつつ, 外科処置を共に頑張った同志として, ねぎらいの言葉とともに術後の生活におけるアドバイスを行うよう気をつけています. さらに, SPTに移行する前には改めて患者さんと歯周病についての知識を確認することにしています. そこで, 再発しうるリスクや可能性, 日々のセルフケアが欠かせないこと, 責任を持って些細な変化も見逃さないようにケアさせていただくことをお伝えし, 信頼関係をより強固にして長いSPTの旅路へ出発していきます.
今回は, 私が日々の歯周治療や歯周組織再生療法の実践において注意していることを挙げさせていただきますが, これから改善していくべき点も多くあることも感じています. また, 良い治療を提供していく上ではご参加いただいている皆様からのご助言もいただきたいと考えています.
どうぞ宜しくお願い致します.
2002年 東京医科歯科大学歯学部卒業
2018年 東京医科歯科大学 臨床教授
資格
2008年 日本歯周病学会 歯周病専門医
2015年 日本歯周病学会 指導医
2016年 日本臨床歯周病学会 歯周インプラント認定医
2020年 日本臨床歯周病学会 指導医
再生療法を成功に導くためのポイントは多く存在し, 一歯単位においては骨欠損形態に応じた適切な術式選択とそれを成功させるための切開や郭清, 縫合などのテクニックがそれらを左右する. 一方で口腔単位・個人単位の要素も再生療法を行う上では結果に大きな影響を及ぼすと考えており, 年齢, 喫煙の有無, 全身疾患の有無など, そして患者のモチベーション, コンプライアンスなどから再生療法を行なうべき症例かどうかを予測し, また再評価検査までに歯周基本治療を通じて各患者の歯周組織の反応の良し悪しを判断してから, 再生療法を行うかどうかを決定するようにしている.
一方で, 歯周組織の反応が良い症例の多くは歯周基本治療で改善させることも可能で,症例によっては歯周基本治療のみで骨欠損の改善も含めた十分な改善が見られることもしばしば経験する. ただ, その改善には歯肉退縮などの変化が伴うこともある. 骨欠損形態, 歯の動揺度, 補綴設計, 清掃性, 患者の審美的要求度, プラークコントロール, 経済的要件などから再生療法を行うかどうかを判断し, 再生療法症例であれば, どこまでの改善を歯周基本治療の目標とするのか担当の歯科衛生士としっかりと連携することが重要であると考える.
再生療法を行う前の歯周基本治療で重要なことは言うまでもなくプラークコントロールを確立させることである. 術前のプラークコントロールは, 術部の歯肉の炎症を消退させ一次創傷治癒を達成するため, 術後のプラークコントロールは, 術部の再感染を予防し歯周組織を長期的に安定させるために極めて重要である. (術直後ではない)
歯周基本治療からはじまり, どのような症例に対してどのようなタイミングで再生療法を行うのか, 再生療法前後におけるプラークコントロールなどについて, 私の考えを症例を交えてお話ししたい.
2007年 日本大学歯学部 卒業
2008年 菅井歯科医院藤沢 勤務
2019年 茅ヶ崎駅前奈良デンタルクリニック 開院
資格
日本臨床歯周病学会 認定医, 歯周インプラント認定医
日本歯周病学会 歯周病専門医
歯周炎の進行によって付着は徐々に根尖側に移動し, 歯槽骨は破壊されていく. 一般的に,中等度から重度に進行した歯周炎罹患歯は,骨吸収の度合いを理由に抜歯の対象と判断されることがしばしばある. 抜歯か保存かの判断は歯周組織の状態のみならず,残存歯質の量,隣在歯の予後,補綴計画,患者の希望など様々な要素を考慮して判断する必要があるが,可能な限り歯の保存に努めることは歯周病治療に携わる歯科医師としての責務だと考えている. 歯周組織再生療法は一見ホープレスと思われるほどに骨吸収が進行した歯でも,歯周組織を回復し機能を維持させることが可能な治療法であるが,治療の結果が不確実であるという側面も持つ.
良好な歯周組織再生を得るための試みは以前より様々に取り組まれてきた. 自家骨や異種骨等を用いた骨移植術は20世紀前半から行われ,1980年代にはGTR法が開発された. 1990年代にはエナメルマトリックスデリバティブを用いた治療法が臨床応用され,その後もいくつかの生理活性物質が歯周組織再生に活用されてきた. 近年ではメンブレンのトリミングや設置の煩雑さ,術後の合併症の多さからGTR法は敬遠され,生理活性物質を応用した手術法が主流になっていると思われる. 国内では2016年にFGF-2製剤であるリグロスを応用した手術が保険収載されたため,歯周組織再生療法は以前より一層注目を集め,またより身近な治療になってきていると感じている.
骨欠損部に歯周組織が再生するための要件は様々あるが,再生のためのスペースの確保は重要な要素の一つである. メンブレンを用いて物理的にスペースを維持するGTR法に比べ,エムドゲインやリグロスなどはゲル状の製品であるため,それら単体で空間を確保する能力は低い. 3壁性骨欠損のような再生のスペースが維持されやすい,いわゆるcontaining defectの場合は問題とはならないが,non-containing defectにおいては何らかの工夫がなければ最大限の組織再生を得ることは困難と思われる.
また,再生マテリアルの変遷とともにフラップデザインも変化してきた。GTR法ではメンブレンを覆うために大きなフラップを剥離,翻転せざるを得なかったが現在ではそのような制約はなくなり,MISTやM-MISTに代表されるようなより低侵襲なフラップデザインが考案された. 歯間乳頭部の良好な治癒は歯周組織再生療法を行う歯科医師にとって常に課題であり再生スペースの維持のためにも重要であるが,低侵襲フラップは手術時間を短縮しフラップ及び創傷を安定化することにより歯間乳頭部の初期閉鎖率を向上させた. しかしその一方で術野が小さいために骨欠損部へのアクセスは制限され,フラップの可動性も限定的であるため,対応できるケースは限られてくる. フラップデザインも再生スペースをコントロールする上で非常に重要であるため,症例に応じた使い分けが必要である.
今回の講演では歯周組織再生療法において,どのように再生のスペースを維持もしくは創造するか,フラップマネジメントを中心にお話させていただく予定である.
2001年 昭和大学歯学部卒業
2001年 東京医科歯科大学歯周病科入局
2003年 医療法人社団歯周会西堀歯科勤務
2009年 プリズムタワー工藤歯科開院
2019年 東京医科歯科大学歯周病科非常勤講師
資格 日本歯周病学会歯周病専門医・指導医
日本口腔インプラント学会インプラント専門医
日本臨床歯周病学会会員 関東支部学術委員長
日本矯正歯科学会会員
日本歯科審美学会会員
歯周炎の外科治療は, 1918年発表のWidman原法あたりから始まる. 歯肉弁を剥離し,感染したと思われる歯槽骨を削り取り, 歯肉弁には縦切開を入れて根尖側へ移動しポケットを減少させようと試みた. その後はボーンファイルや, チゼルなども発達し, 歯槽骨を削るまたは, 歯肉切除も含め, 切除療法が発達した. 1970年代までの話である. これらヘミセクションやトライセクションを含む切除療法は端的に言うと悪いものを切除するので, 予知性の部分では非常に成功率が高い治療法であり, 今も臨床で応用されている部分もある.
それとは別に, 1980年代に巻き起こったGTR(歯周組織再生誘導法)から始まる歯周再生療法. これまでの歯科分野の所謂「切る」「削る」「埋める」「抜く」「入れる」などとは一線を画した「再生」という素晴らしい概念である. この歯周再生療法は40年たった2022年の今でも色々な改良を加えながら我々歯科医師, そして患者に希望と夢を与え続けている. とはいうものの, 理想的な青写真の一方で, その夢のような治療目標は, 歯科医師と患者がいつも確実に手に入れやすいものでもない. 現在もこの不確実な再生療法の成功率を少しでも上げるべくして, さまざまなアプローチの試みがされている. できる限り血流を確保すべくして歯科用顕微鏡の拡大視野下で行われたり, とても繊細なインスツルメントの開発, さまざまな成長因子の開発, 再生の足場となる骨移植材の開発, メンブレンの開発, また様々な新しい切開線や術式の開発などである.
一方, 5年前の2017年2018年に発表されたAAP (アメリカ歯周病学会)・EFP(ヨーロッパ歯周病学会)の歯周炎の分類を受けて日本歯周病学会,日本臨床歯周病学会も歯周炎の分類を2018年に発表した. この2018年分類では歯周炎の重症度をStage1〜Stage4と分けており, 中等度より重症化したStage3は歯周外科のみならず欠損補綴のオプション, さらに重症化したStage4では, Stage3の治療に加えて, 2次性咬合性外傷,病的な歯の移動を特徴とすることが多く, このような重度歯周炎患者には欠損補綴や矯正治療を含む包括的な歯周治療や咬合再構成治療が必要になると言及されている.
にもかかわらず, この2017年のワールドワークショップのコンセンサスレポートで, Catonらは矯正力が歯周組織に及ぼす影響について2008年ワシントン大学の矯正医Bollenらが発表したシステマティックレビュー・メタ分析の論文を引用し, 歯周炎患者の矯正治療後には矯正治療をしなかった場合に比べて, 0.03mmの歯肉退縮, 0.13mmの歯槽骨吸収, 0.23mmのポケットデプスの増加に関連したと結論づけている.
つまり, 議論の余地はあるものの, 2017年までのエビデンスでは歯周炎患者の矯正治療は最小限ではあるが歯周組織にとって有害な影響があるかもしれないと述べられているのである.
あれから5年, 世界中でこの2017年の結論に異論が唱えられている. これまでも歯周炎患者に矯正治療を行った論文データは症例報告も含めて非常に多くあり, Cardaropoliらは2000年から7本の論文で, 歯周炎患者の前歯部垂直性骨欠損に対して, 早期に矯正治療を行い, アタッチメントゲインを報告した. 歯周再生療法を行った部位に矯正治療を行ってその効果を報告したものもある. 現在2022年5月まで, 歯周炎患者に対する矯正治療に関しては, 多くの大学, 矯正専門医, 歯周病専門医の間で議論が起こり, 近年では質の高い論文報告もされている.
これらを踏まえた上で, 本プレゼンテーションでは, 2022年5月時点での歯周炎患者に対する矯正治療の現在のエビデンスを総括した上で, 現在私の考える歯周再生療法と矯正治療の融合治療についてお話しさせていただきたい.